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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第1章 追跡【1】


 冥界時間0時00分。
 ほろびの森の女王【カーリー・ユーガ】はわずかな供回りを連れ一路寺院を目指してた。
 寺院とは奈落の軍勢の補給拠点として使われているもの。
 先の戦いで衣装を失った彼女は毛布を外套のごとくはおり、ゴーストライダーの駆るゾンビ馬に揺られている。
「一体どうなってますのっ!」
 ひどく苛ついた様子でカーリーはゴーストライダーを怒鳴りつけた。
「領地で迷子になるなんてお笑いぐさですわ! どうして誰も寺院までの道を覚えてませんの!」
 にわかには信じがたい話だが、彼女達は道に迷っていた。
 森は広大である。そして寺院は彼女の持つ数百の拠点のうちのひとつ、道順を覚えてないのも無理もない。
 ただ道に迷った理由はそれだけではない。
「あれはどういうことですの!?」
 カーリーは手にした槍の切っ先を木に括りつけられた案内板に向けた。
 そこにはこう書いてある、寺院この先左300m。その隣りには寺院この先右500mと書かれた案内版もある。いやそれだけではなく、立ち並ぶ樹々のそこらかしこにそれぞれ違うことを吹聴する案内板が下がってるのだ。
「わたくし、こういうイタズラは好きません」
 危険な視線にさらされたゴーストライダー達は真っ青な鎧をさらに青くして無実を訴えた。
「弁解は無用! あなた達以外に誰がこんなことをするといいますの!」
 俺なんだがな……。
 ポツリ呟き、ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)は木陰から様子を窺う。
 身長3mの巨体にわさわさと草葉をまとった彼は異形の森に擬態している。
「しかし、カーリー達が抜け道を知らないのは本当らしい。俺たちが先回りしてるとは微塵も思ってないようだ」
 時計を確認する。
「約2時間ってところか……」
 彼の機転により稼いだ時間である。
 距離的にそろそろ電波塔が視界に入る頃合いだ。これ以上はもう騙しきれないだろう。
「油を売ってる暇はないのですわ! 態勢を整え、現世のむしどもを踏みつぶし、しかるべきのちツナギの殿方と……」
 桃のように頬を染めると、カーリーはもじもじしながら槍の『石突き』で大地を突き、地響きを引き起こした。
「積極的なアプローチに困惑してるようですな美しいお嬢さん」
 ふと怪しげな声。
「誰ですの!」
 すると、微笑をたたえた弥涼 総司(いすず・そうじ)が森から姿をあらわした。
 立ちはだかるライダー達に肩をすくめる。
「ある時はのぞき部部長、ある時は暗黒卿ドスケベイダー……、そして今回はあなたの愛のキューピット」
 名乗ると手帳を取り出し、すらすらと何やら読みあげはじめた。
「迷える子羊に恋のLESSON1だ、ジョニィ」
「誰がジョニィです!」
「まずは相手のことを知らなくちゃならない。あなたの意中の相手……ヤツの名前は国頭武尊。身長179cm、体重68kg、10月23日生まれの18歳、パンツに異常性癖を見せる以外はいたってまともなパラ実生さ」
 あるいは異常性癖も含めてごく一般的なパラ実生のような気もする。
「な、なぜあの殿方の個人情報を……?」
「あなたが本気で彼を望むなら力を貸しますよ。なんせ彼とあなたはパンパン(※)した仲ですからね」
 ※パンティーを剥がされ新たにパンティーをプレゼントされた仲。
 愛は世界を救うと言う、ならばこの現状を打破するには二人をくっ付けてしまうのがてっとり早い。
「きっと彼もあなたを愛するあまりあの様な行動に出たんでしょう」
「あの様な……って、あなた見てましたの!?」
「おっとコレは失言だったな……」
 そう言うと、総司は自分とよく似た臭いを感じ森の奥に目をやった。
「どーやら早速駆けつけてくれたみたいですよ。それじゃ邪魔者は消えるとしましょう」
「え?」
 彼は答えず、フラワシ『ナインライブス』を発現させる。
 刹那、切り刻まれた頭上の枝葉がはらはらと舞い、木の葉に溶けるように総司は消えた。
「オレの携帯番号は090ー○○○○ー××××、助けが必要な時は連絡してくれ」
 入れ替わりに茂みから国頭 武尊(くにがみ・たける)猫井 又吉(ねこい・またきち)が飛び出した。
 カーリーの魔人の眼光にキラッ☆と乙女チックな星が散る。
「た、武尊さま!?」
「……見つけたぜ!」
 パラ実の誇るパンツ番長はグラサンの奥の目を細めた。
 クソ、思った通りまだ着替えてなかったか……。ドンパチが始まる前で良かったが、毛布一枚じゃ危険なことにかわりはねぇ。こいつはヤバイぜ、ヤバすぎる。もし追撃に出たヤツの攻撃ではだけるようなことになっちまったら……。
 ゴクリと喉を鳴らす。
イベカで再現不能の事態になってしまう!
 などと意味不明な一言をもらす彼を、又吉はいつものことと思いながら怪訝な顔で見ていた。
 まぁ、大体なに考えてるかは想像付くが……ったく今はこんな女に関わってる場合じゃねぇってのによ。こんな女よりも寺院をナントカしたほうが凸に恩が売れるっつーのに……、ほんとしょうがねぇ相棒だぜ。
 とは言え……。
 又吉はカーリーを見る。目をキラッキラさせて、冥界の闘将も恋する乙女である。
 上手くこいつらがくっ付けば手っ取り早くおさまるかもしれねぇな。
「カーリー……」
 右手にフリューネのパンツ、左手にアイシャのパンツを握りしめ、武尊はグラサンを投げ捨てる。
「オレには分かる。君がオレ「ファックション!」(の持っているパンツ)を必要としている事を!!」
「え……?」
「何故なら、オレも君「ファックション!」(にパンツを履かせる事)を必要としているからだ。互いが互いを必要としてるんだから話は早いだろ……。カーリー!! オレの所に「ファックション!」(パンツを履きに)来い!!」
 魔人の胸はトクンと高鳴り、少女漫画ばりの点描が舞った。
「……ってうるせぇな、又吉!」
「わりぃわりぃ、余計なことは向こうに聞こえないほうが……いやさちょっとナラカの風邪にやられちまって……」
「せっかくのオレの名台詞にかぶせてきやがって……」
「まぁでも言いたいことは伝わったんじゃねぇかな、ほら」
 浜辺を駆ける少女のように、カーリーは「武尊様〜」とこちらにやってくる。
「な、なんかオレの意図とは違う伝わりしているような……」
「気のせいだろ、たぶん」
 ところが、彼女は突如槍を構えると心臓目がけて突いてきた。
 間一髪、回避する武尊。
「なぜお逃げになるのですか、武尊様!」
「いや逃げるだろ、普通!」
「なぜです! あなたはわたくしの夫となる覚悟を決めたのではないのですか!」
「お、夫!?」
「わたくしの夫となるということは、イコールこちら側の住人となること。つまり死んで頂かないと
「死……? え? 死!?」
「さあ最初の共同作業です。奇麗に心臓をえぐりだして差し上げますわ。得意ですのよ、わたくし
「そ、そんな嫁イヤだ! 鬼か!」
 流石、ナラカで数千年も独身を貫いているだけあって、地雷女ぶりも尋常じゃないレベルである。
 こ、殺される……!
 青ざめた顔で武尊と又吉は顔を見合わせ、明日に向かって一目散に逃げだした。
「お待ちになって武尊様……とペットの猫! ラブ・アンド・ダーイですわ!!