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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


(・虚構の姫)


(めっありーちゃーん。俺、俺、あっそびーましょー)
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は飛行機の中からメアリー・フリージアにテレパシーを送った。
 学院を休み、自腹を切ってリンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)と共にフランスへ向かっている。
(あら、デートのお誘いですの?)
(ま、そんなところー。今度はこっちがフランスに遊びに行くから。前言ってた美味しいお茶よろしくなー、そろそろそっちに着くからよろしくー)
(では空港でお待ちしておりますわ)
 

* * *


 パリのシャルル・ド・ゴール国際空港に到着した景勝とニーバーは、メアリーの姿を探した。
(メアリーちゃん、どこー?)
(こちらですわ)
 メアリーからテレパシーを発信出来ないため、最初は景勝から切り出さなければならない。
 彼女の姿はすぐに見つかった。
 とはいえ、顔が見えないように帽子を目深に被っている。
「さあ、行きましょう」
 彼女と一緒に、パリの街へと繰り出す。
 春だからか、メアリーは清楚なワンピース姿。景勝の方も、前に買った彼女が手掛ける『MARY SANGLANT』の姉妹ブランドの服、ニーバーは『MARY SANGLANT』のものだ。
 オシャレな雰囲気のカフェに入り、そこで話すことになる。
「いらっしゃい。おや、メアリーちゃん、久しぶりだねぇ」
「お久しぶりですわ、おば様」
 フランス語だろうが、多分そんな感じの内容だろう。
「わたくしが小さい頃からの行きつけの店ですわ。ここのハーブティーは本当に美味しいんですのよ」
「じゃあ、メアリーちゃんと同じものを」
 紅茶がテーブルに置かれ、それをすすりながら話すことに。
「前に言っていた『悪の組織の一員として、立ちはだかったらどうする』って話あったじゃんよ、あれってF.R.A.G.のことだったんだな」
「はい。わたくしもその一員として加わることが、あの時点で決まっていましたから」
 シャンバラから見れば、F.R.A.G.は対立勢力だ。だからああいう言い方を彼女はしたのだろう。
「聖戦宣言、私達も見ました。あれって難しいこと言ってますけど、自分達の神様以外認めないってことですよね。聖戦って聞こえはいいですけど、正直……怖いです」
「やむを得ませんわ。マヌエル枢機卿にとっては、主こそが唯一の神。けれどそれは、パラミタと地球が共存するために必要な線引きですわ。否定ではなく、互いに認め合うために必要な線引き。と、わたくしは考えております」
 お互いの違いを最初に意識することが理解に繋がる、ということらしい。
「なるほどー。じゃあ、メアリーさんも目指している世界とか、目標ってあるんですか?」
「『救いのある世界』ですわね。こうやってわたくし達が話している間にも、世界のどこかで苦しんでいる人がいる。そういう人がこの世界を恨まないで済むようにしていきたいですわ」
 そういう怨嗟が、反発や争いを生む。貧しくとも心が平穏なら、それで満足だっていう人もいる。
 彼女は物質的な豊かさだけで物事を推し量ってはいない。
「メアリーちゃんは景勝ちゃんから見たら全てを持ってるわけよ。名声と収入。そして美貌。そういう理想があるからって、別に危険な道に行かなくてもいいわけだよなぁ。戦う理由を聞いてみたいと思ってな」
「戦う理由、ですか?」
「メアリーちゃんは地位や名誉も持ってるんだし、相当な理由、信念がないなら、俺は友人としてやめとけって反対するぜ」
 少し真面目に、メアリーに告げる。
「そうですわね……『この世界』を知りたい、からでしょうか」
 なぜ知ることが、戦うことになるのだろうか。
「わたくしは幼い頃から舞台に上がって様々な役を演じてきましたわ。どんな役もこなしました。スタントは一切使わずにアクションもやりましたし、楽器の演奏や歌が必要だったらそれを極めたり……。そのせいなのか、生まれつきなのか、わたくしは分かりませんの」
「何が分からないってんだ?」
「わたくしが今いるこの世界が本当に現実と呼べるものなのか。気分を害されるかもしれませんが、わたくしは何もかも上手くいった人間ですわ。だからこう思ってしまいますの。わたくしはずっと夢の中にいて、そこで『理想の自分』を演じているだけかもしれないと。ずっと、現実感というものを感じたことがないのですわ」
 世界が本物であるかと同時に、自分自身も本物かどうか分からない。それが今の自分なのだと。
「社交界で知り合った彼は『この世界を変えたいと思わないか?』と、わたくしを誘ってきました。それが今のわたくしになるきっかけですわ」
 どこか遠くを見つめるメアリーは、寂しそうだった。
「そうやって悩めるってことは、メアリーちゃんは、ちゃんと『ここにいる』ってことじゃないのか?」
 うまく言葉に出来ないが、彼女の言う通りなら、自分だって偽者だ。そんなことは認めたくない。
「この世界が嘘か本当か、そんなもの、この世界を創った誰かさん以外は分かりっこないんだからよ。あんまり難しく考えない方がいいぜ」
「……そう、ですわね」
「またそうやって何かで悩むことがあったら、何でも相談していいんだぜ? あっ携帯の番号教えてくれよぉ。こっちからはテレパシーでどうとでもなるけど、メアリーちゃんからはこのままじゃ連絡出来ないし」
「まったく、景勝さんは。
 私も相談に乗りますよ、私もお友達ですよね?」
「ええ、もちろんですわ」
 二人に微笑みを向けるメアリー。
 だが、景勝達は知らない。メアリーが悩むようになった原因が、二人との出会いだったことに。
「メアリーちゃんと話してる限り、本質はいい子だと思ってるぜ。敵になったとしてもそれは分かってるよ」
 例えこの世界が偽者でも、「救いのある世界」にしたいと言った。その言葉に嘘はないように思える。
「そういや、クルキアータって相当強いって聞いたんだが、専用機持ちってことはメアリーちゃん、もしかしてイコン操縦も相当出来る子?」
「いえ、わたくしの場合は『特務』といって、単独行動が許されていますの。他の部隊の人と違うと分かるように、専用機に乗っているだけですわ。あと、『メアリー・フリージア』がパイロットをやっているとなると騒ぎになってしまいますから、正体はF.R.A.G.の中でも伏せてますわ。このことは、絶対に内緒ですわよ」
「美人で、仕事も出来て、女優も出来て、イコンにも乗れるすーぱーうーまんなんですか? いろいろずるいっ」
 それでいて人当たりもいい。パートナー契約時期が定かではないため、それが天性のものか、契約によって開花したものかは分からないが、たしかにこれだけ何でも出来たら現実感もなくなってしまうのかもしれない。
「そうだ。メアリーちゃんがこの世界を本物だって感じてもらえる方法が分かった」
「なんですの?」
「メアリーちゃんをあっと驚かせればいい。これまで何でも上手くいったってことは、想定外のことが何も起きてないってことだろ?」
「ええ。わたくしの予想範囲外の出来事は一切起こってませんわ」
 ということは、ベトナムの基地でもきっと誰かが助けてくれるだろうとは思っていたのだろうか。あるいは助けがなくとも、あそこからは無事に出ることが出来た、ということだろうか。
「だったら、メアリーちゃんの発想の斜め上をいってやるぜ! あ、もちろん何をするかは教えないからな。ここで言ったら意味ないだろ」
 思いついていないだけでもあるが。
「ふふ、そのときが来るのを楽しみにしておきますわ」
「まぁお互い、後悔しないように頑張ろうや」
 微笑みを浮かべるメアリー。
 と、そのとき、景勝がティースプーンを落としてしまう。
 それを拾う際、スカートの中をちらっと見ようとするが、
(見えないか……)
 さすがに女王の加護を持ってしても、中身は見えない。代わりに、すらっとした美脚が目に映った。
(ってあんまり見てると怒られるな。戻ろう)
 さすがにメアリーに変態扱いされたくないので、すぐに席に戻る。

「景勝さんなんて放っておいてお洋服買いに行きましょうよ! いいお店紹介してくださいねっ」
「では、『MARY SANGLANT』の本店へご案内致しますわ」
 しばらくして景勝がトイレに行くと、ニーバーとメアリーは先に店を出て買い物に行ってしまった。
「あれ?」
 景勝が戻ると、もう誰もいない。
「え、もう店を出た?」
 カフェの女性マスターが教えてくれた。片言だが、日本語だ。メアリーとは日本語で話していたので、日本人だと分かったのだろう。
「ダイキン、コレ」
 三人で30ユーロだ。
(ヤバい……まだ換金してなかった)
 なんとかボディランゲージでそのことを伝えようとするが上手くいかない。
 結局、買い物を終えたニーバー達が戻るのを店で待つ羽目になった。