リアクション
* * * 「あれ、ヴェロニカさんじゃない?」 「ほんとだ。ヴェロニカ!」 和泉 直哉(いずみ・なおや)と和泉 結奈(いずみ・ゆいな)はヴェロニカの姿を見つけ、声を掛けた。 「どうしたんだ、ぼーっとして」 「え? ああ、なんでもないよ!」 ぎこちなく笑顔を作ろうとするヴェロニカ。やっぱり、どこかおかしい。 「そうそう、この前はありがとね。【ナイチンゲール】でみんなを守ってくれて」 あれからなかなか面と向かって言う機会がなかったため、結奈が改めてそう伝えた。 「そういえば、『女神の祝福』は凄かったけど……使用するのに制限とかリスクとかあるのかな?」 「私が知ってる限り、一度使うとしばらく使えなくなるみたい。だから、本当に必要なときだけしか使わないって」 ニュクスは野暮用でちょっと離れているらしい。もうすぐ戻って来るとのこと。 「そうなんだ。じゃあ、あれは【ナイチンゲール】専用の『覚醒』みたいなものかな? あ、もちろん、私も兄さんも頼り切るつもりはないからね!」 と、馴染んだところで本題に入る。 「なあ、ヴェロニカ。この前の戦いで青いイコンが出てきたとき、一瞬機体が不安定になって、エネルギーシールドも切らしたよな。何かあったのか?」 別に直哉は彼女を責めようとしているわけではない。 ただ、もしまた同じようなことが起これば、ヴェロニカはもちろん、味方までもが大きな危険に晒されることになる。 放っておくわけにはいかないのだ。 「…………」 わずかに俯くヴェロニカ。やはり、関係があるらしい。 「あー、まあそのなんだ。つまり、悩んでることがあるなら、仲間に相談したらどうだってことだ。学院にはヴェロニカの味方になってくれる奴等だっているし、一人で悩んでるよりいい解決策が見つかると思うぜ?」 と、そこへ早速学院の生徒がやってきた。 「おーい、ヴェロニカくん!」 リオとフェルクレールトの二人だ。 「ほら、来たぜ」 他にもヴェロニカを気に掛けている人はいるだろうとは思っていたが、同じタイミングだとは。 「ええっと、あー……味方機・敵機の位置情報等の連携が出来るソフトがあるんだけどどうだい? 只今、次世代機にも搭載検討中で絶賛評価試運転中のレプンカムイってのなんだけど」 「ど、どうって言われても、うーん……」 どうやらあまりよく分かっていないらしい。「?」が頭の上に浮かんでいるような感じだ。 「いや、どっちかというと用があるのは、フェルの方なんだけどね」 「もしかして、この間戦ったっていう、青いイコンのことで悩んでる?」 まさにその話をしようとしていたところだった。 「ワタシは……友達だと思ってる、ヴェロニカのこと……だから、もしワタシに出来ることなら協力する」 「ほらな。ま、無理にとは言わないけど、こうやってみんな心配してくれてんだ」 直哉はそう声に出した。 「まあ、こういうところじゃ話しにくいかもだし、内緒話するなら実機かシミュレーターの通信回線を秘匿モードで使うってのもあるけど?」 リオがイコンハンガーの方を指差す。 「あら、モテモテじゃない、ヴェロニカ?」 そこへニュクスがやってくる。 「みんな気になってるみたいだし、話してあげたら? この子達なら大丈夫だと思うわよ」 しばらく考え込んだあと、ヴェロニカが意を決したように顔を上げた。 「……うん。話すよ。私のことを」 そして彼女は語り始める。 「前に、すごく強い敵がいたって。グエナとエヴァン。私はその二人を、よく知ってる。初めて会ったとき、家族を追ってきたって言ったよね。その二人が――私の家族」 「あのグエナとエヴァンが、ヴェロニカの……」 「だから信じられなかったの。世界を変えるためにずっと戦ってきたエヴァン兄さん達が、『鏖殺寺院』って呼ばれてることを。グエナさんとエヴァン兄さんが死んだってことも。それなら私は、その鏖殺寺院の関係者。復讐しに来たんだろとか、寺院のスパイだとか、そんなことを言われても文句は言えないよね」 私はみんなの敵ってことになるもの、と。 「だけど、兄さんは生きてた。あの青いイコンに乗っていた。一瞬だけ、声が聞こえたの」 「そうか、エヴァンは生きてたのか」 そう声を漏らしたリオは、どこか安堵しているように見えた。 「エヴァンに限らないけど、基本的に戦う理由がないなら、戦わないで済むならそれが一番だ」 それに、と彼女が加える。 「僕らじゃ、まだまだ足下にも及ばないから、訓練は欠かせないしね。だけど、仲間になったら頼りにはなりそうだね。軽薄そうだけど」 「グエナさんが真面目で熱くなりやすい人だったから。兄さん、普段は軽い感じだけど、やるときはちゃんとやる人だよ?」 「あ、気を悪くしたならごめん」 むしろ、昔のことを思い出したのか、ヴェロニカが軽く微笑みを浮かべた。 「あのグエナが熱くなりやすかったってのは意外だな」 実際に言葉も交わした直哉だからこそ、そう思えたのである。 「姉さんに『グエナ、また熱くなってるんじゃない?』って言われると、『俺のどこが熱くなってるというのだ?』ってムキになって返したり、便乗してからかった兄さんがグエナさんに叩かれたり……懐かしいなぁ」 話が少しそれたが、青いイコンのことに戻る。 「青いイコンに兄さんと乗ってた女の人。あの人は私が知ってるエヴァン兄さんのパートナー、アンリエッタさんじゃなかった。声が違うし、兄さんもアンリエッタさんも、あんなに破壊を楽しむ人じゃない」 エヴァンは好戦的で学生にやたらと挑発的であったが、ヴェロニカのことを考えるとその理由はなんとなく分かる。「妹」と同じ年頃の子達を、戦いから遠ざけたかったのだろう。むしろ逆効果になってしまっていたが。 「それでヴェロニカはどうしたいんだ?」 「兄さんを助けたい。だけど……」 彼女を悩ませていたのは、エヴァンが学院の敵だったいう事実だ。エヴァンとの関係を明かせば、責められるだろうと考えていたのだ。 「どうしてあんなことになっているのか、分からない。それに、みんながまた危険な目に遭う」 エヴァンがおかれている状況を知る者はいない。さらに、あの規格外の強さだ。 「確かに、現状じゃ助け出すのは難しいな。けど、それがどうしたってんだい? 難しいから諦めるのかい? 出来るかどうかじゃなく、やるかやらないかってことだろ? つまり、ヴェロニカくん……君の想い次第って訳だ」 「私は……兄さんを助けたい。最後に残った、私のたった一人の『家族』だから」 その意志は揺るがない。 「エヴァンを倒したことで恨まれるなら、戦場に出た以上覚悟してる。でもヴェロニカを助けたいのは償いとかじゃなくて、友達と友達のお兄さんが困ってるから……だから助けたい」 「フェルがもう手伝う気満々だしね。僕も手を貸すさ」 リオとフェルクレールトの二人が、彼女に協力すると宣言する。 「今のヴェロニカの話からすれば、女の方をどうにか出来ればエヴァンを取り戻せるかもしれない。エヴァンを助け出すことが、あの『暴君』を止めることにも繋がるかもしれない。それはきっと、ヴェロニカにしか出来ないことで、ヴェロニカだけでも出来ないことだぜ!」 「うん、私も協力するよ! ヴェロニカさんの『兄さん』を取り戻せるように!」 「みんな……」 ヴェロニカが声を震わせる。 「なぁに、ここでエヴァンに貸しを作っとくのも後々楽しそうだしね」 と、リオが口元を緩める。 「ね、だから言ったでしょう? 大丈夫だって」 そっと彼女に温かい視線を送るニュクス。 きっと、ヴェロニカもこうなるとは思っていなかったのだろう。 「無理な注文を何とかするのが技術屋の腕の見せ所ってもんさ。青イコンの情報分析と対応策、それにこっちのレベル上げ……忙しくなるよ」 「足りない部分はたくさんある……だから少しでも埋めるように頑張ろう」 それからすぐに、直哉の元に、緋山 政敏と綺雲 菜織らによる青いイコンの解析情報が届けられることになる。 |
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