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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


第十曲 〜To The Next〜


「ふむ、そろそろこちらも始まる頃か」
 和泉 猛(いずみ・たける)はシミュレーターの管理室にいた。
 彼がいるのは対F.R.A.G.を想定した訓練を受けている方ではなく、通常の訓練プログラムを受ける生徒用の方だ。
 今回はレイヴンやブルースロートの試運転を重視する生徒がこちらには多い。パイロットの適性を見定めるためのデータ収集を行うため、ここにいるというわけだ。
「準備は出来たか?」
「……はい」
 パートナーのルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)がイコンシミュレーターに乗り込んでいる。
 彼女もまた、訓練に参加する生徒だ。
 シミュレーターに入った生徒のデータを確認。ここからが仕事だ。
「それでは、始めるのだよ」


(・通常訓練)


「データとの差異も間違いもなしっと。いけるよ、シオン」
 嵩代 紫苑(たかしろ・しおん)は、サブパイロットの柊 さくら(ひいらぎ・さくら)からの声を聞いた。
 シミュレーターに読み込まれたパイロットデータの確認が完了する。
「さすがに、気がつくのが遅れて流れ弾が直撃なんて二度とごめんだもん。少しでも技量を上げられるよう、頑張らないとね」
 二人は決して転入組のように、イコンに乗り始めてまだ日が浅いというわけではない。
 しかし、出撃のあった前日に事故に巻き込まれて入院することになったり、戦闘開始直後にいきなり流れ弾で偶然撃墜され入院したりと、不運に見舞われ続けたため、実戦で戦う機会に恵まれなかったのである。
 そのため、同時期から訓練を受け始めた同級生には正規パイロットになっている者もいるが、彼らはまだテストパイロットのままである。
『データ読み込み、各員完了しているか?』
 教官からの通信が入る。
『担当教官の野川だ。これより訓練を開始する』
 野川 恭輔教官からその旨が告げられる。
「と、無駄口を叩ける時間は終わりだな。それじゃあ行くとするか」
 気を引き締める紫苑。
 普段はどうにも気だるそうにしている彼であるが、いざ訓練となると真剣な表情になる。
『まずは射撃からだ。イーグリットは近接型だが、そもそも敵機に近づけないとその特性を生かすことが出来ない。また、白兵戦闘は銃撃戦に比べて難易度が高い。生身でも、剣で銃を持った相手に立ち向かうのは難しいだろ? 同じことだ。イコンは単機での戦闘よりも、小隊戦になることが多い。小隊での連携を行うためにも、遠距離兵装の扱いを身に付けるのは必須だ』
 その際、味方を誤射することがないように命中精度は高めておく必要がある。
(いけるか、さくら?)
(照準、距離ともにオッケーよ)
 さくらがビームライフルのトリガーを引く。
 彼女が射撃しやすい位置に機体を移動させるのが、機体制御を行う紫苑の役割だ。
『よし。さすがに止まった状態からならば外しはしないか。次は機体移動を行いながらだ。ここからは、ある程度の「予測」も必要になってくる』
 実戦では、移動しながら射撃を行うのは牽制するときくらいだ。無理に当てる必要はない。だが、「それでも当てられる」ように訓練は行うものである。
『どうした、高島? 動きが不安定だぞ?』
 紫苑達と同じ野川教官の下にいる高島 真理(たかしま・まり)に叱咤の声が飛ぶ。
 実際に、彼から見てもどこかぎこちないものがある。
『あ、いえ。なんでもありません。集中します』
 訓練の回線はオープンになっている。そのため、教官からの指示は全員がちゃんと聞き取ることが出来る。

「真理よ、やはり気になるでござるか?」
 源 明日葉(みなもと・あすは)が真理に問う。
「ちょっとね」
 彼女が気にかけているのはヴェロニカのことである。シャンバラでの戦いで、ヴェロニカは突如出現した青いイコンのパイロットを知っているかのようだった。
 直接聞いたわけではない。ただ、あれ以降彼女は何か考え込んでいるような素振りをたまに見せるようになっている。
「気持ちは分かるが、今は訓練に集中するでござる」
 教官からも注意されたこともあり、意識を訓練に向ける。
(このままじゃいけない。ボク達だって頑張らないと)
 パイロット科で話に聞いた程度だが、F.R.A.G.のクルキアータのスペックは恐るべきものだという。
 単に機体が優れているだけではなく、パイロットの力量も相当なものがあったらしい。
 こちらが小隊がかりで挑んでやっと一機倒せるかどうか。「弱く見積もって」そのくらいともなると、背筋が寒くなる。
 標的に向かって照準を合わせる。
 今は止まっている的だから、射線を合わせ、それをなぞるようにして飛べば移動しながらでも十分に狙うことが可能だ。
 問題は平行移動の際だが、これはある種流鏑馬の要領で行えばいい。タイミングをいかに合わせるか、そこだ。
『こっからは実際に戦闘を行う。俺達の機体にダメージを与えられればクリアだ』
 野川教官の機体も、同じイーグリットだ。
『始め!』
 通信が入るや否や、教官機は加速を始めた。その進路予測を行い、牽制射撃を行いながら接近する。
(ボク達が戦うかもしれない相手は、きっとうちの教官と同じくらいか、それ以上。このくらいはクリアしなきゃ!)
 教官からのライフル攻撃の軌道を読む。銃口の向きが一つのポイントだ。相手もこちらの機体の機動くらい読んでいるだろう。
 と、そこで真理達より早く、紫苑の機体が攻勢へと移った。
 まだ小隊単位での模擬戦ではないため、二対一で戦っている。真理達へ注意が向けられた隙に、紫苑機が覚醒を行い、推力を上げて一気に詰め寄る。
『覚醒か……だが、それを使うのは早計だ』
 覚醒によって機体の出力が高まる。それによって、驚異的な瞬発力を発揮する。傍からは、残像が見えるほどだ。
『それと、覚醒を過信すると痛い目に遭う。こういう風にだ』
 野川教官機のビームサーベルが、紫苑機のビームシールドと激突する。
 その瞬間、もう片方の手で構えたビームライフルを連射した。
 覚醒状態の機体なら、十分回避可能だ。だが、野川教官の機体は避けている間のわずかな隙をついて、距離を取る。
 その動きに合わせて、真理が照準を野川教官機に合わせる。
『狙いが甘いな』
 高機動のイーグリットを狙うのはやはり難しい。ならば、その移動範囲を狭めることが先決だ。
 紫苑機が教官の動きを阻むようにライフルを撃ち込む。
 的は機体ではなく、空間。狙いはつけやすい。
 一瞬は動きを止めざるを得ない。
(今!)
 その瞬間を逃さず、真理はトリガーを引いた。止まるであろう位置を予測して、撃ち込んだのである。
『二対一で、一発掠めるまでに五分か。一応はクリアだが、あと一歩ってところだな』

* * *


 一方、同じイーグリットでも、近接戦の訓練を重点的に行っている者がいる。
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)だ。
「イーグリット乗っても、銃ばっかりだったし、剣の方も慣れておかないとね」
 ビームライフルの二挺拳銃が出来る者はいるが、二刀流を行える者は少ない。この機会にと、ビームサーベルと実体剣の二刀流に挑戦する。
(とりあえず、銃弾を払える程度にはしとかないと)
 教官の機体から放たれる攻撃を、二つの剣を使って弾いていく。止まった状態でも、全部を捌くのは簡単なことではない。
(せめて、このくらいは出来るようじゃないと……)
 対ビームコーティングがなされている実体剣で、大型ビームキャノンの砲撃を斬り裂いたパイロットが敵にはいた。
 さすがにそれをすぐに出来るようにするのは無理があるが、目指すべきはそこだ。
 あるいは、実弾だったらそれを跳ね返すことで、敵から放たれる次弾を無効化する。生身の人間でも出来ることなのだから、不可能ではないはずだ。
 慣れてきたところでブースターを噴かせ、機体を移動させながら銃撃を防いでいく。
(く……っ!)
 さすがにこれまで遠距離武装で戦ってきただけあって、なかなか思うようにはいかない。
『ここからは、実戦と同じようにいくぞ』
 それでもある程度こなしたところで、実戦形式に移る。
 機動力を生かし避けれる分は避け、どうしてもかわせないものを斬る、ということを意識して剣を振るう。
(一対一ならなんとかなるか……問題は、小隊単位での戦いになってからだね)
 ならばせめて、教官の攻撃を全て見切るくらいにならないと。
 自分の課題を明確にし、彼女達はシミュレーターでの訓練を続けた。