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リアクション
間奏曲 〜Intermezzo〜
――2017年。
少女の手には一丁の拳銃。
「姉さん」が愛用していたそれを、彼女は握り締めている。
――ごめんなさい、兄さん、姉さん。
目の前にいる敵は、ここで倒さなくてはならない。死者を意のままに操る、あの禍々しい「敵」は。
F.R.A.G.のみんなを殺したあの人だけは!
物陰に隠れている少女の姿は、まだ敵には見つかっていない。敵はちょうど、F.R.A.G.の生き残りであるエヴァンとアンリエッタ、グエナとイレールの二組の契約者と対峙している。
チャンスは今しかない。
少女は震えを抑え、引鉄を引こうとした。
――え?
ポン、と肩に誰かの手が乗ったのを感じる。
「大丈夫よ、ヴェロニカ。あなたがその手を汚す必要なんてないわ」
「姉さん……!?」
少女に向けて、「姉さん」は優しく微笑んだ。
口元からは赤いものが滴り落ちている。おそらく立っているのもやっとだろう。そんな状態で、少女から銃を取り上げた。
「あなたを……いえ、もうこれ以上私の『家族』を誰も傷付けさせはしない」
弾倉に装填されているのは銀の弾丸。最後の一発。
刹那、銃声が響き渡った。
「じゃあ、あとは……頼むわね」
姉さんの撃った弾は、死霊術師へ直撃した。死者を操っていた敵もまた、既に生命なき者であったがために、通常の武器では倒せなかったのだ。
呻き苦しむ敵に、二組の契約者が止めを刺す。倒れた敵の身体は浄化されたのか、少しずつ崩れ始めた。
仮にF.R.A.G.がもっと魔法に対して多くを知っていたならば、ここまで追い詰められることはなかっただろう。「お守り」代わりに買っておいた銀の弾丸が効くということすら、この日まで誰も知らなかったほどだ。
……そう、知るのが遅すぎた。
「姉さん!」
力を失い、彼女の身体が地面に横たわる。
「ごめんね、ヴェロニカ。もう、あなたの顔もよく見えないの」
「……行かないで。お願いだから」
ヴェロニカの両の瞳から涙が零れ落ちた。
「大丈夫。私はずっとあなたと一緒にいるわ。だって、私は――」
何かを言い掛けたところで、姉さん――ヴァレリアがヴェロニカを庇うように、彼女に覆い重なる。
直後、瓦礫が崩れ落ちてきた。
* * *
「まだ動けるのか……!」
右半身を失っているにも関わらず、敵は完全に沈黙したわけではなかった。弱ってはいるものの、浄化の効果は切れたらしく、残った身体はいくら攻撃しても再生される。
敵は自分に銀の弾を撃ち込んだ者を葬るべく、魔術を行使した。
「やめろぉぉおおお!!!!!」
一直線に敵へ向かって駆け出すも、間に合わなかった。敵の攻撃はヴェロニカが隠れている廃墟を破壊した。
「エヴァン!」
グエナの叫びも、もう彼の耳には聞こえない。ただ怒りのまま、執拗に斬り刻む。それが効かないことも忘れて。何度も、何度も。
「くそ、何で死なねーんだよ!」
今度はエヴァンが敵の餌食になろうとしていた。他の三人の援護も虚しく、エヴァン一人に狙いを定めた死霊術師は残った左腕で彼を締め上げた。
そのとき、突然敵の身体が崩れ始める。
銃声。連続して放たれた銀の弾丸が死霊術師を「浄化」していく。敵はそのまま完全に消滅した。
銃撃の主は、男女の二人組だった。
「私達は敵ではない」
男は多くのことを語らない。ただ、少し前にパラミタから地上に降りてきた契約者であるとは告げた。
敵から解放されるとすぐに、エヴァンは瓦礫へと駆ける。ヴェロニカの安否を確かめるために。
「ヴァレリア……お前が、守ってくれたのか?」
少女を抱きかかえ、瓦礫を受け止めたまま力尽きたヴァレリアの姿がそこにあった。奇跡的に、ヴェロニカは一命を取り留めている。
とはいえ、このままでは危険な状態に変わりはなかった。
「この子を助けたいか?」
自分達ならば彼女を助けることが出来ると、エヴァン達を助けた男が問う。
「……当たり前だ」
「ならば、一緒に来てもらおう」
エヴァンは五年前のことを思い出した。あのときと一緒だ。
彼らを助けた人物の名前は、カミロ・ベックマン。後に鏖殺寺院の幹部、イコン部隊の総司令官、さらには十人評議会の第八席となる男であった――。
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