リアクション
* * * 「涼司君、お願いがあるの」 「……なんだ?」 カノンは操られているような感じではない。自分の意思で涼司をここまで連れてきたようだ。 「あたしと契約して」 「前にも言ったはずだ。それは……出来ない」 それを聞いたカノンが、ナタを握り締めた。 「言われたの。涼司君とパートナー契約すれば、海京のクーデターは中止にするって。要求も取り止めるって。だけど……」 言葉を続ける。 「断るなら、涼司君を殺せって。それでもクーデターは中止にしてやるって。でも、あたし……涼司君を傷つけたくない」 「じゃあ、どうしてだ!?」 「誰かの言いなりになりたくない。だけど、涼司と離れたくない。だったら、涼司君を殺してあたしも死ぬ!」 涼司の顔に苦悩の色が浮かんだ。 「あ……涼司君、本気にしてないんだ。いいよ、あたしが本気だって、教えてあげる」 「おい、やめろ!」 カノンがナタを自分の手首にあて、切り裂いた。傷口から血が滴り落ちる。 「ほら。ちゃんと自分を傷つけることだって出来る。大丈夫、涼司君の後、ちゃんと追えるから」 「やめろ!!」 咄嗟に涼司がカノンの腕を掴む。 「放して! それなら契約してよ! なんであたしは駄目なの!?」 泣き叫ぶカノン。 「あの人は死んでも生き返らせたのに、ずっと生きてるあたしには会いに来てくれなかった! ねえ、何が駄目なの!? あたしがもう人間じゃないから!? 強化人間は人じゃないの!? ねえ、どうして!? 答えてよ、答えてよ涼司君!!」 * * * 「不味い、止めるぞ!」 このままでは危険だ。 月夜がスナイプで涼司の頭を狙う。とはいえ、撃ち込むのはゴム弾だ。彼がカノンを抑えるのに必死だったこともあり、命中する。 涼司が脳震盪を起こした隙に、刀真は先制攻撃で間合いを詰める。 だが、 「あたしと涼司君の――邪魔をするなぁああッッッ!!!」 強力な念動力があたり一面に吹き荒れる。カタクリズムだ。 「なんて威力だ……ッ!」 とても接近出来たものではない。二人の間に割って入ったことで、カノンの逆鱗に触れてしまったらしい。 しかも、その能力はもはや暴走してしまっている。カノン自身が有り余る力を、感情の昂りによって制御出来なくなってしまったようだ。 ある程度近付かなければ、強化型Pキャンセラーもその効力を発揮しない。 既に、この地区の管区長を止めるために来た顔ぶれは、全員揃っている。 「これは厳しい……ですね」 冴璃が魔鎧の内側に隠していた銃を抜き、カノンに向けてシャープシューターで狙いを定めた上で、サイドワインダーによる同時撃ちを行う。 だが、彼女の力の前に銃弾は届かない。総合戦闘能力学院第一位は伊達ではなかった。銃弾は空中で制止し、そのまま弾き返される。 あまりにも強力過ぎて、空間が歪まされているかのようだ。だが、ほとんど暴走に近い以上、どこかで隙は生まれるはずだ。それまでは耐えて待つしかない。 「どんなに強くたって、ずっと続くものじゃないよね」 ルアークがエンデュアでじっと耐え凌ぐ。また、歴戦の防御術で身を守れるように構える。 「止まった。よし、今なら」 カタクリズムの奔流が収まったところで、和葉が威嚇射撃を行う。この間に他の者が動けるように、ということだ。 だが、今度はサンダークラップだ。念力から電撃に変わっただけとはいえ、辺り一面が攻撃範囲に含まれているのは厄介である。 なんとしてでも近づけたくないらしい。だが、それだけの攻撃をすれば、倒れている涼 司だって無事では済まないはず。 かと思えば、涼司を庇うようにして立ち、フォースフィールドを展開している。しかし、一番の問題はカノンを強化型Pキャンセラーで無力化すると、涼司もその影響を受けるということである。 身体能力で彼女を止めることが出来るのであれば、効果範囲の狭い通常のPキャンセラーで彼女の超能力だけ封じればいい。それによって精神感応ネットワークから彼女が離れさえすれば、天沼矛地区の強化人間は命令を受けることが出来ず、停止する。 だが、この場に通常のPキャンセラーを持っている者はいない。 しかし、方法がない訳ではなかった。 『カノンは俺がなんとかします。隙が見えたら、援護をお願いします』 刀真は無線で他の者達に伝えた。 チャンスは、発動する能力を変えるか、こちらの攻撃を防ごうとする瞬間。そこに賭ける。 行動予測で次の手を読む。出遅れれば遅れるほど厳しくなるからだ。 「今だ!」 進む際、月夜に銃撃を行ってもらい、そちらに気を逸らさせようとする。彼女も行動予測を行っている。 パイロキネシスの炎が広がる前に、刀真はカノンに肉薄し、神子の波動で彼女の能力を封じ、さらにブラックコートを彼女の前に投げつける。 そしてカノンの背後に回り込み、素手によるブラインドナイブスを延髄に食らわせる。それによってカノンが気を失う。 二分ばかりが経過した。 「久しぶりだね、山葉校長」 目を覚ました涼司に、和葉は言った。 「ん、ここは……? そうだ、カノンは!?」 「大丈夫だよ。今は気を失ってる」 と思ったら、ちょうどカノンも目を覚ましたところだった。なお、彼女からの信号が途切れたことで、中央地区の強化人間達も動きを止めていた。 「涼司君……あれ、あたしは?」 そこで、はっとなる。 「なんで、あんなことを……」 覚えているということは、気絶する前までは本気だったということらしい。 「だってあたしが殺したいのはあたしと同じ顔の」 どうやらその辺の対人感情をかき回されていたようだ。今は元通りである。 「多分、今の二人で話したいことがあるかもしれないけど、まだ全部終わったばかりじゃないからね」 とりあえず、和葉は二人には安全な場所に移動するように促す。 「さ、カノンちゃん、立って」 そのときだった。 一発の銃弾がカノンの身体を貫いた。 「あ……」 胸から血が流れていく。 近くに敵の気配はなかった。どこからか、それも気配を感じさせにくい場所から狙撃したのだろう。 ここはイコンハンガーだ。イコンの上に乗り、頭の後ろに隠れるなりすれば、十分狙撃出来る。しかも数があるため、位置が特定しにくい。 「まったく、せっかく強化人間から『神』が誕生するところだったのに――使えない子だ」 |
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