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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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第十八章 〜外道〜


「あんたが天住か」
 クーデター勃発直後、仮面の男――トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は天住に会うために、天沼矛へやってきた。
 そこにいると分かったのは、ローゼンクロイツから「海京でミスター・テンジュがクーデターを起こしたようです。行ってみますか?」と尋ねられたからである。
「それにしても、あの男はなぜ知っていたんだか」
 顔を合わせた天住は訝しそうな顔をしていた。
「それにしても、新たな人類とは大きく出たじゃないか。選民思想ってのは、今時流行らないとおもうがね」
「選民? ただ老害と旧態依然とした体制を変えたいだけだよ、僕はね。二十一世紀、パラミタと地球が繋がるこの時代に生きる若い者達を新たな人類と称してみただけなんだけどね」
「標的を御神楽環菜に絞った理由は?」
「理由?」
 天住が聞き返してきた。
「あんたの言った理由は私情が混じり過ぎてる。クーデターまで起こして通す主張とは思えねぇ。そこに裏を感じちまうのは人情だろう?それとも、そこまで御神楽環菜を恐れる理由があるのか?」
「そんなことか。なに、どうせ呑まないだろう要求なら、あのくらいにした方がいいだろ?」
「……どういうことだ?」
「このクーデターは、成功・失敗どちらに転ぼうが僕にとって意味のあるもの、ということだよ。言わば、『実験の総仕上げ』だ」
「まるで自分は失敗しても、自分は絶対に死なないみたいな言い方じゃねぇか」
 口元を緩める、天住。
「さて、ヴィクター・ウェスト博士から話は聞いてるよ。というか、電話で話したことあったよね?」
 そして彼は東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)の方に視線を向けた。
「やはりあなたが、『ミスター・テンジュ』ですか?」
「そうだよ。しかし、天住の音読みでテンジュ、テン=十でテンジュウ、転じてテンジュで第十席でまた十、とか考えていくとなんか面白いと思わないかい?」
 特に同意するものはいない。
「では、天住様。今回は同志である彼にも来てもらいました」
「……ロイ・グラードだ」
 ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が天住に名を告げる。
「そこで天住様、提案があります。囮になってみませんか?」
「この海京に攻め入る人がいたら、考えてもいいかな」
 それと、と付け加える。
「この件に評議会は一切関与していない。あくまで僕が勝手にやってることだから、組織のことを詮索しても無駄だよ」


・天住 樫真


「……頭が回る男だ」
 ロイはイコンハンガーの狙撃場所から、天住達の様子を機晶スナイパーライフルのスコープ越しに見つめていた。
『にしても、あんな性根腐った野郎見んのは久しぶりだぜェ』
 纏っている魔鎧、常闇の 外套(とこやみの・がいとう)の声が聞こえてくる。
 天住から受けた指令というのは、「イコンベースにあるイコンの上で気配を絶ち、蒼空学園の山葉校長をおびき出してくる手筈になっている設楽 カノンを見張ること」だった。
 仮に彼女を無力化しようと契約者がやってきても、待機し続けろとも言われた。天住はある程度襲撃を予期していたのだろう。
 もしカノンが無力化されるようなことがあれば、「処分」する。出来る限り、山葉校長が見ている前で。
 この場所を選んでることからも、天住はこの状況を望んでいたかのようにさえ思える。そして、ここからは天住の護衛となる。

* * *


「カノンちゃん!?」
「カノン!」
 撃たれた傷に対し、和葉が応急処置を施そうとする。血の流れから、幸い急所は外れたようだ。
「どんな気持ちだい? 大切な人が『二度も』目の前で傷付くのは――山葉 涼司君」
「てめぇ……!」
 天住は両脇にバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)を護衛に携えている。
「いいのかい? 下手に動くと、また誰かが傷付くよ。それと」
 微笑を浮かべたまま、告げた。
「この中では通信機器が一切使えないよ。ここに来るまでの間に、ジャミング装置を起動しといたから。海京のシステムが奪われたときは焦ったけど、君達がこの中の状態を完全に把握出来なければ、問題ないからね。なんなら、強化型Pキャンセラーで僕達全員を封じてみるかい? だけど狙撃手がいるように、他にも何らかの仕掛けがあるかもしれないよ?」
 下手に抵抗することが出来ない。
「お前が黒幕か」
 鋭い眼光で、刀真が天住を睨みつける。
「まあそうなるかな。だけど、クーデターごっこはもう終わりだよ。ほら」
 天住がハンガーの中にあるモニターを操作する。
「まだ天沼矛内なら辛うじてシステムにアクセス出来るからね。時間の問題だけど。見ての通り、全地区の管区長を君達が倒した。それに、パワードスーツ『ストウ』もせっかく引き取って、一つ強化人間用に作ってもらったけど壊されたしね」
 うち、生存者は西地区のルージュ・ベルモント、そして中央地区の設楽 カノンだ。二人とも重症ではあるが。
「だから、彼女は返すよ」
 天住達が出てきた場所から、今度は仮面の男が捕縛されたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)を連れてくる。
「勇敢にも御神楽環菜のフリをしてきてね。本物をおびき出すために使おうとしたけど、思ったよりも早くみんなやられちゃったからさ。もう要らないし、返すよ」
 そのまま彼女を解放した。
 そのとき、モニターの画面が切り替わる。
『これより、海京で起こっている実際の出来事と、三年前の真実を伝える』
 それは、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が記録に収めたサイオドロップとエキスパートの戦いの様子だった。
「やっぱり彼か。三年前の生徒会長」
 サイオドロップの面々の多くは天御柱学院の教師、OB・OG、現役生徒で構成されていた。都市伝説にあるようなドロップアウト組はごく少数のようである。
 そこでは、「役員殺し」以外の活動内容が報告された。
『三年前、天住 樫真は確かに死んだ。風間 天樹が意図的に強化人間を暴走させたせいで。私はその日のことを覚えている。風間が一人の強化人間に薬品を投与した。いつもは厳重な管理の元で行われるものにも関わらず、ただ風間とその生徒一人しかいないところでそれは行われていた。顔は見えなかったが、その数十分後にあの事件が起こったんだ』
 そして、それから風間が何を行ったかを伝える。
『クーデターを起こした天住は偽者だ。我々は協力してくれている契約者と共にこのクーデターを制圧し、偽者の正体を暴こうと思う』
 そこで映像が終わる。どうやら、制圧完了前に撮ったものが今流されたようである。
「参ったな、偽者言われちゃったよ」
「今の話、本当なんですか?」
「本当だよ。消えてもらう前に、風間から全部話してもらった。彼はあるルートを通じて能力活性薬なるものを手に入れた。簡単に言ってしまえば、強化人間を一段階進化させるものだよ。薬を服用したものの性質に応じた能力も発現する。けれど、高い適性がなければ暴走、最悪は死に至る。管区長達は全員これを投与されているけど、能力が発現したのはたった一人だった。そして、意図的に多くの人を巻き込んで暴走させられたのは――そこにいる設楽 カノンだ」
 倒れているカノンに視線を送る。
「もちろん、暴走しない可能性もあった。だから風間は念を入れて暴走薬も用意していた。けれど、思惑通りやってくれた。カノンにしたのは、他の強化人間では事件が公になるため。当時、今以上に御神楽 環菜の影響が強かった日本は、彼女の幼馴染がこのような事故を起こしたと知られるとシャンバラへの発言権が弱まると考え、事件を隠蔽した。無論、そのまま公表されればそれはそれで弱みとなる。でも、強化人間が暴走する存在だということで、彼女以外の強化人間を学院は処分しようとした。そこで、オーダー13と記憶消去・人格矯正を導入し、今の管理体制の基礎を築いて強化人間技術を独占したのさ。偏見やレッテル貼りを受け入れるのと同時にね」
 それが三年前の事件、そして天御柱学院製強化人間にまつわる真実だ。
「だけど、このオーダー13の構想は非常に興味深い。そこで、『クーデター』という体を利用して、データを取ろうと考えた。そのためにはある程度状況を整える必要があるから、色々大変だったよ。自分の身を偽装することも必要だったしね。まあ、派手な戦闘がなかったけど、ちょうどシャンバラ国軍と戦ったデータがあるから結果オーライかな。それと、司令塔に必要な要素も分かったし」
「そんなことのためだけに、お前は、環菜を……!」
 刀真が怒りで震えていた。
「本当はもっと派手にシャンバラが実力行使してくることを期待したんだけどね。政府はどうせ何言ったって呑む気なんてないんだからあのくらいは言っといたっていいだろ?」
 この男は、人間をただの実験道具程度にしか思っていない。
「さて、じゃあこの辺で失礼するよ」
 天住が勝ち誇ってイコンハンガーを出ようとした。

 そのときである。

「みんな、強化型Pキャンセラーを使って! 大丈夫、そいつら、他にはスナイパー一人しかいないから!!」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が叫ぶ。
 そして、天貴 彩華(あまむち・あやか)が対強化型Pキャンセラー用の仮面を被ったままアクセルギアとロケットシューズで一気に突っ込む。
 天沼矛制圧組はそれに従い、発動させる。
「早く、カノンを!」
 それと同時に、和葉とルアークが設楽 カノンをイコンハンガーから運び出す。
 護衛二人は動けない。そして、唯一動ける天住は一般人だ。
 彩華がデッキの壁側に天住を叩きつける。そのまま押さえつければ身動きなど取れない。
「形勢逆転ね」
 彩羽は話の一部始終を聞いていた。その上で、突入のタイミングを図っていたのである。
「あなたの真意は分かったわ。本当に吐き気がする。今すぐぶち殺したいわ。だけど」
 天住の前に出て、告げる。
「正体を現しなさい」
 すると、天住だった男の姿が変わっていく。おそらく黒川だろう。何らかの仕掛けが施されていたらしい。
 そこにいたのは、風間だ。
「何か言い残したいことはある? 風間」
 しかし、そこへ一人の影が現れる。
「風間……課長? これは、一体……」
 強化人間エキスパート部隊統轄、夕条 媛花である。