リアクション
ラボ 「敵の数が多くなってきたようやな。巣が近いと言うことやろか?」 全身をノーマルのパワードスーツに固めた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、隣で一緒に戦っている讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)に訊ねた。 「そうかもしれぬな。それにしても、火器が役にたたないのは面倒であるな」 サイコキネシスで一瞬動きを止めさせたサテライトセルをパワードアームのパンチで粉砕しながら、讃岐院顕仁が答えた。 メイン武器であるパワードレーザーや、光条兵器などはエネルギーが減衰して充分な破壊力が得られない。 「それでも、まったく効果がないというわけじゃないじゃない。こんな結界なんか何よ」 一緒に進むこととなっていた宇都宮祥子が、ヴァルザドーンからのレーザーでサテライトセルを薙ぎ払いながら言った。爆発と共に、通路内に細かい光が走る。 メイちゃんたちの情報がないため、傭兵部隊は遺跡のエネルギー吸収効果を、防御結界の一種だと思い込んでいる者がほとんどであった。 「だが、効率が悪いやんか」 「確かにそうですわね」 射落としたサテライトセルが霧散した後に残ったケプラーの矢を拾いながら、イオテス・サイフォードが大久保泰輔に同意した。矢は影響を受けないが、無限というわけでもなかった。 「へへへへへ、こんな奴ら楽勝だぜ。ほらほらほら、ちっぱいが心地いいぜ」 よく分からないのでとにかく突っ走ることにしたゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が、素早い動きでサテライトセルを後ろからだきあげた。とはいえ、ちっぱいどころかサテライトセルの胸は真っ平らなのであるが、そのへんは胸が揉めればなんでもいいようだ。 「おらよ、気持ちいいだろうがあ!」 そう叫びながら、ゲブー・オブインが0距離でサンダークラップを放った。さすがに、接触してでは、吸収される暇もありはしない。閃光と共にサテライトセルが霧散した。 「さすがです、ピンクモヒカン兄貴。光ってます、輝いてます、しびれるー!! どこまでもついていきやすぜ」 相変わらず太鼓持ちのバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が、思いっきりゲブー・オブインを持ちあげた。 「ちっ、欠片も残さねえのかよ」 つまらなそうに言い捨てると、次の獲物を求めてゲブー・オブインが走りだす。 「あれ、撃っちゃっていいですか?」 「よしなさい。ただでさえ貴重な矢がもったいないわ」 なんだかうずうずしているイオテス・サイフォードを、宇都宮祥子が抑えた。 「追いますねん。あいつを暴走させたら、やわになってしまいそうやさかい」 宇都宮祥子たちをうながすと、大久保泰輔はゲブー・オブインたちを追って移動していった。 ★ ★ ★ 「おいでなすったか。こっちの通路で、敵中枢は正解だったようだな」 「それはまだ不明。とりあえず敵がいるのは確か」 血気に逸る樹月 刀真(きづき・とうま)に、マッピングを担当していた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が答えた。現在の位置は遺跡中央というわけではないので、コントロールルームなどに近づいていると決めつけるのは早計だ。 「とにかく、敵を排除する。月夜、黒の剣だ!」 言うのも早く、樹月刀真がまだマップをのぞき込んでいた漆髪月夜に手をのばした。当然、彼女の腹部に手が届くわけもなく、小振りな胸をいつものようにむんずとつかむ。 「なぜ、いつもいつもわざと間違える!!」 間髪入れずに、漆髪月夜がアッパーカットで樹月刀真を吹っ飛ばした。 「光条兵器は、こうして……使う……」 振り返り様に、漆髪月夜が太腿のホルスターからラスターハンドガンを抜き放った。 光弾が発射される。 だが、小型機晶姫に命中する前に弾道が変わり、壁に光弾が吸い込まれて消えてしまった。 「えっ!?」 漆髪月夜が唖然とするところへ、ランスを構えた小型機晶姫が迫る。 「月夜、ぼうっとするな」 叱咤しつつ、樹月刀真が下から黒曜石の覇剣を左手で切り上げた。反動で後ろへ向いた右手で漆髪月夜の腹部から黒の剣を取り出して横薙ぎに小型機晶姫を上下に真っ二つにしようとする。だが、その攻撃が小型機晶姫のランスで受けとめられた。 「馬鹿な、光条兵器を受けとめただと!?」 間髪を入れずに黒曜石の覇剣を使って小型機晶姫を退ける。 見れば、黒の剣は光条を纏っておらず、光条兵器としての威力はなくなっていた。 「ここでは、魔法はあまり役にたたないようであるな。結界か何かか?」 キラキラと光り輝く壁を指しながら、玉藻 前(たまもの・まえ)が言った。ファイアストームで敵を一掃しようとしたのだが全滅には至らず、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の毒虫の群れでかろうじて殲滅できたと言うところである。 「あっ、魔法は吸収されるから使うなと情報が来ている……。光条兵器も、だめ……らしい」 もの凄く残念そうに漆髪月夜が言った。なんだか、光条兵器がためだと言われると、自分の存在意義を否定されたかのようだ。 「それに、自分から樹月刀真が光条兵器を取り出そうとして胸を揉んでくれなかったら少し淋し……!?」 つぶやいてしまってから、漆髪月夜が顔を赤らめた。 「大丈夫だぞ。月夜の代わりなら我がしてやろう。とりあえず、今助けてやった礼として、我が胸を揉むがよい。ほれ、ほれっ」 そう言って、玉藻前が自分の豊かな胸を樹月刀真の方へと突き出していった。 「いや、ちょっと待て、意味が分からな……」 「ほれほれほれ……」 玉藻前ににじり寄られて、樹月刀真がじりじりと後退する。 「私がしてもすぐに逃げるのに、どうして月夜さんや玉藻さんだと逃げないんですかあ! 白虎、パクッとやっちゃいなさい!!」 「うわっ……うぐっ、ごふっ……」 錯乱した封印の巫女白花の命令で、白虎がぱくんと樹月刀真の頭にかじりついた。一応、甘噛みではあるが……。 「きゃあ、刀真が死んじゃう。やめ、やめ、やめー」 あわてて、漆髪月夜が白虎を引き剥がしにかかった。 ★ ★ ★ 「あれは、何をやっているんだ?」 通路の一角で、壁のハッチらしき物を開いて何やら溶接のようなことをしている小型機晶姫を見つけて、緋山政敏がカモフラージュで身を隠しながらじっと観察をしていた。 「どうやら、修理をしているみたいだけれど。排除する?」 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が、高周波ブレードを用意して訊ねた。 「あれは、さっき遺跡の上で見た物なのか? どうやら修理用の機晶姫に見えるが……」 綺雲菜織が、小型機晶姫の姿を確認して言った。 「外からの情報では、遺跡のガーディアンだという話だぜ。霧で作られた紛い物という話もある。とにかく、すでに戦闘を交わした奴らもいるようだから、安心はできないな」 「じゃあ、とりあえず、動かなくさせようではないか」 綺雲菜織が、パイロキネシスで小型機晶姫を焼いた。ガタンと、小型機晶姫が床に落ちて動かなくなる。 「どういうことだ、実体じゃないか」 聞いていたのとは話が違うと、緋山政敏が床の小型機晶姫を調べた。 「そういう物も混じっていると言うことであろう。これを調べれば……」 「早くここからお逃げなさい」 突然背後から声をかけられて、三人があわてて振り返った。遺跡内の各所に現れているという少女だ。 「ここに入ってはいけません」 「よかった。君を探していたんだ。話を聞かせてくれないか」 素早く近づくと、緋山政敏が少女の手を取った。とたんに、少女の残留思念が流れ込んでくる。 ――止めなくちゃ。永遠に。この私の時間と共に。このイコンの眠り姫として……。 「ここに入ってはいけません」 再びそう口にすると、少女がスッと後ろに下がった。 「どうします、この壁からアクセスできないか調べてみますか?」 カチェア・ニムロッドが、小型機晶姫のいじっていた壁を指して訊ねた。 「無理だろう。これには端子のようなものがない……なんだと!?」 否定しようとした綺雲菜織の足許で、倒したと思った小型機晶姫が動きだした。逃げるようにして、通路の奧へと飛んでいく。同時に、少女が宙をすべるようにして反対側へと移動していった。 「俺たちは、あの子を追う!」 「任せたのだ。私は、あの機晶姫に興味がある」 素早く二手に分かれると、彼らは答えを求めて進んで行った。 |
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