リアクション
遺跡の探査 「よし、大丈夫だ」 先行したフェイミィ・オルトリンデが、リネン・エルフトとオルトリンデ少女遊撃隊のメンバーを手招きした。 慎重に遺跡内を進んでいるために、今のところ敵とは遭遇していない。 「マップデータのリターンが来たわ。今のところ、この先は未踏破のようね。まだゴチメイたちが見つかったという報告はないそうだから、いるとすれば未踏破の区画よ」 「そうだな。どうも、この遺跡はやばいらしいから、急ごうぜ」 進行方向の指示をリネン・エルフトに任せると、フェイミィ・オルトリンデは先頭を切って進んで行った。 「ちっちゃいのきたーっ!!」 突然、前方から叫び声が聞こえてくる。小鳥遊美羽たちが小型機晶姫と遭遇して戦っているらしい。とはいえ、コハク・ソーロッドとローゼンクライネが持った巨大扇風機で、小型機晶姫の霧を吹き飛ばして消してしまおうとしているのでどうにも遊んでいるようにしか見えない。元は霧だとは言え、何かの姿をとっている状態では、普通の人間と何ら変わりがない。風を送っても、涼しいだけであった。だが、さすがに身体が小さいので、強い風にあおられて、まともな攻撃はしにくいようだ。 「何をしている!」 フェイミィ・オルトリンデが駆けつけて、光輝のバルディッシュで小型機晶姫を貫こうとする。だが、直前で、光刃が突然消えてしまった。同時に、壁に細い幾条もの光が走って去っていった。 「何!?」 一瞬あわてるフェイミィ・オルトリンデの眼前で、小型機晶姫がリネン・エルフトの真空波で真っ二つになった。直後に、形が崩れる。 「やっと、役にたった!」 コハク・ソーロッドの大型扇風機が、崩れかけて半分霧に戻った小型機晶姫を吹き飛ばして拡散した。 「エネルギー兵器や魔法は吸収されるって、外の人たちから注意が来ているわよ」 リネン・エルフトが注意をうながした。 「やっぱり、物理的に叩くのが一番なのね」 方針を変更した小鳥遊美羽が、ハリセンで小型機晶姫をペチッと叩き落としていく。 ほどなくして、小型機晶姫は一掃された。 「まさか、武器のエネルギーまで吸収されるとは……」 少し唖然として、フェイミィ・オルトリンデが光を失った光輝のバルディッシュを見つめた。 「遺跡の力が強くなっているんじゃないのかな」 「だったら、早くリンちゃんたちを見つけないと」 コハク・ソーロッドの言葉に、小鳥遊美羽が叫んだ。 ★ ★ ★ 「電波は、妨害されることもなく無事に届くようですね」 ハンドヘルドコンピュータに送られてきたマップデータを確認しながら、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が言った。 一応、通信網が確立できないときのために中継基地の設置も考えていたのだが、とりあえずは大丈夫のようだ。 「いや、そう簡単にはいかないようだぜ」 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が、通路の先から近づいてくる小さな影を指していった。小型機晶姫だ。 「待て、一応対話を試みてみよう。何かあったら頼む」 トマス・ファーニナルが、二人に待機するように言った前に出た。 「そこの君。教えてほしいことがあるんだ。僕たちは敵じゃない。いったい君たちは、この遺跡にある何を守ろうとしているんだ?」 トマス・ファーニナルに問いかけに、ランスをかかえた小型機晶姫は小首をかしげるような仕種をして何かを考えているようにも見えた。だが、次の瞬間、無言のままランスを構えてトマス・ファーニナルに突っ込んできた。 「危ねえ! おりゃー、くまぱーんち!!」 とっさに超感覚を駆使して飛び出したテノーリオ・メイベアが、軽いステップで一歩横に飛び、側面から強力なパンチで小型機晶姫を叩き伏せた。吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた小型機晶姫がぐしゃりと潰れる。 「油断はするなよな」 「君たちがいるんだ。心配はないさ。それよりも、あれの部品か何かから……」 そう言って小型機晶姫の残骸を調べようとしたトマス・ファーニナルだったが、のばした手の先でそれは霧になってしまった。だが、その霧の固まりが、霧散せずにスーッと通路の奧へと逃げて行く。 「追いましょう」 通路に手早くマーカーで矢印を書くと、魯粛子敬がトマス・ファーニナルたちをうながした。 ★ ★ ★ 「どうだ、何か分かりそうか?」 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、身をかがめてエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に訊ねた。その拍子に、ジェットドラゴンを収納したバレットペンダントトップが胸元から零れてゆらゆらとゆれる。 「いいえ、今の戦闘が上書きされてしまったようで、それしか見えませんね。だいたい、敵は雲を霞と消えてしまったのですから、床を調べても埒があきません」 倒したばかりの小型機晶姫が消えた場所をサイコメトリしていたエルデネスト・ヴァッサゴーが答えた。 「さすがに、敵に悪意は感じられないからな。いつ襲ってくるか分からないから注意しろよ」 あまり己たちの技を過信しないようにとゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が、釘を刺した。 「それと、エルデネストへの報酬も安易に約束するものではない。もう少し、モラルを身につけるべきであろう」 「おやおや、こんな所でお説教ですか? それとも、お節介と言うべきですかね」 よけいなお世話だと、エルデネスト・ヴァッサゴーが揶揄する。 「いずれにしても、この遺跡は異常ですね。魔力を容赦なく吸い取ろうとする。それはもう、甘美なほどに。ですが、この私から吸い取ろうだなんて無粋もいいところです。グラキエス様も、無駄に魔力を吸い取られるようなまねはしませぬように。私に報酬を支払う段で、生気も残っていないのではお話になりませんから。まあ、なすがままというのも、それはそれで一興ですが」 エルデネスト・ヴァッサゴーが、薄く笑いを浮かべる。 「戯れ言は、場所を考えて言うのだな」 ゴルガイス・アラバンディットが叫んだ。前後から、新たな小型機晶姫が迫って来る。 「もちろん。この程度、戯れ言を言いながらで充分ですから」 エルデネスト・ヴァッサゴーが、背後にのばしておいた絆の糸をサイコキネシスで跳ね上げた。接近してきていた小型機晶姫が、輪切りにされて霧散する。 前方から迫ってきていた小型機晶姫は、ゴルガイス・アラバンディットがドラゴンアーツで蹴散らした。 「やれやれ、これじゃ記録係としてしかやることがないな」 ちょっとつまらなそうに、グラキエス・エンドロアが言う。 「もちろん。グラキエス様は、私の華麗な姿を目に焼きつけるだけでよろしいのですよ」 それ以外に何が必要かと、エルデネスト・ヴァッサゴーが微笑んだ。 ★ ★ ★ 「すでに、みんな奥の方へと入っていったようですね」 「どうする? 移動して合流するか? それとも、ここでこのまま待機しておくか?」 遺跡の入り口付近で待機している笹野 朔夜(ささの・さくや)(笹野 桜(ささの・さくら))に、笹野 冬月(ささの・ふゆつき)が訊ねた。 『遺跡に入るのはいいですが、奥に入りすぎて自分たちが怪我をするようでは本末転倒ですよ』 笹野朔夜の意識が、身体を乗っ取っている笹野桜にささやいた。 「先走っても仕方ないでしょう。ここはしばらく門番を決め込みましょう。何かあれば、シルバーウルフたちが気づいてくれるのでしょう?」 「ああ。血の臭いなどを感じたら、すぐに知らせるようには躾けてある」 笹野朔夜(笹野桜)に訊ねられて、笹野冬月が答えた。 「でしたら、周囲の草などに治療に使えるものがないか見て待つとしましょう」 希龍千里が取り除いた扉周辺の草の山を指して、笹野朔夜(笹野桜)が言った。 「いあいあいあ、おどきくださーい。我らだごーん様秘密教団慈愛救護班が、これから遺跡内の負傷者を救護に参りまーす!」 どやどやと複数の団員と共に団子になって走りながら、いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が大声をあげた。 「これは避けるべきね」 『同感だ』 道を譲ると言うよりは、はっきり避けると言った動作で笹野朔夜(笹野桜)が横に移動する。 「さあ、みなさま、だーんごになって深部を目指しましょう。秘密遺跡はぜーんぶ、だごーん様秘密教団のものでなければいけないのです。レッツ、お宝ゲット。皆様、張り切って参りましょう!」 ところどころ、いや、もろに本音を織り交ぜながら、いんすますぽに夫とだごーん様秘密教団員がドドドッと土埃を蹴たてながら遺跡の中になだれ込んでいった。ところが、狭い扉に一気に突進していくものだから、端にいた教団員が壁に激突してもんどり打ってひっくり返る。 「ばうばう」 災害救助訓練されたシルバーウルフが出血を感知して吠えて知らせた。ぺろっと傷をなめてあげて、直後にげえーっと言う顔になる。 「怪我人だ」 「仕方ないですね」 笹野冬月に言われて見捨てるわけにもいかず、笹野朔夜(笹野桜)が団員をヒールする。 「いあいあ、だごーんさまの祝福を」 お礼らしい言葉を述べてから、団員がいんすますぽに夫たちの後を必死に追いかけていく。だが、その祝福はちょっと嫌だ。 先行したかに見えたいんすますぽに夫たちであったが、無茶苦茶に身を寄せ合って走っていたので、案の定、全員もつれるようにして転んで大惨事となっていた。 「あいたたたたたたたた……」 団員たちに半ば押し潰されかかりながら、いんすますぽに夫が救いを求めるように手をのばした。その手が何かをつかむ。 「こ、これは、メロンパン……。これぞ、だごーん様のお恵みに違いありません。ありがたくいただかせてもらいます。あーん、ぱくっ」 拾い食いはいけないと思うのだが……。 「よし、皆様、これを辿っていきましょう」 そう団員たちに言うと、いんすますぽに夫たちは落ちているメロンパンを拾って食べながら進んでいった。 |
||