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リアクション
★ ★ ★
「などということがあったので、少し情報を整理したいと思う。情報がある奴はこの指とまれ!」
服部保長の名前は出さず、火災を起こして何かを企んでいる集団がおり、内定を進めている者もいるとだけ言って、武神牙竜がダイリュウオーの腕を突きあげて人を呼んだ。
「こら、換装途中のイコンを動かす馬鹿がどこにいる。そういうことは下に降りて自分の身体でやらぬか」
武神 雅(たけがみ・みやび)が、ダイリュウオーの追加装備を前にして叫んだ。
「まったくです。いくら急いでいたからと言って、ほとんど装備を持たないで飛び出す馬鹿がどこにいますか」
非効率にエネルギーやら弾薬を使うだけでも頭が痛いのに、木を叩き折って無意味な傷を装甲につけまくるとはと龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)も頭をかかえる。
「いいだろうが、この方が目だって情報収集しやすいって言うのに。酔っ払いは黙って……」
「誰が酔っ払いだ。そういうことを言う口は、この愚弟の口か。うりゃうりゃうりゃ」
ハンディリフトで降りてきた武神牙竜の口を、有無をも言わせず武神雅が左右に引っぱった。
「はいはいはい。どいてどいて」
武神牙竜を突き飛ばしてリフトのトライアングルに足をかけると、龍ヶ崎灯が入れ替わるようにしてコックピットへ登っていった。
「まったく。メンテナンス一つも楽じゃないわ。さて、FCSに射撃プログラムを……」
『やだ』
ダイリュウオーに新たな戦闘パターンをインストールしようとした龍ヶ崎灯であったが、メインコンピュータに拒否されてしまった。それにしても、このエラーメッセージは……。いったい、誰がプログラミングしたのだろうか。
「おお、やっぱり、複数のイコンが遺跡内部に侵入した形跡があるのか」
オベリスクにむかった瓜生コウからの情報を聞いて、武神牙竜が服部保長の示唆した部隊の存在を確信した。それも、大規模なイコンの部隊のようだ。それであれば、何かの攻撃の余波でこれだけの火災を起こしたと考えても不思議ではないだろう。
「とりあえず、情報をならべてパズルを組み合わせてみようじゃないか」
そう言って情報をならべてはみたものの、それは簡単には結びつかない物が多かった。どうも、一つの出来事が動いているのではないようだ。あるいは、一つの目的のために、いくつもの出来事が並行して起こっているのかもしれない。
「ほう、謎の傭兵部隊とな。それは面白いのう」
横で話を聞きながら、織田 信長(おだ・のぶなが)が何か考え込む仕種をした。
彼女と一緒にやってきた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)は少し離れた場所で六天魔王の整備をしている。
「ノア、イコンの整備お疲れ様。コーヒーを入れたから少し一休みしないか?」
「あら、忍にしては気が利くじゃない」
あらかた整備の終わった六天魔王を前にして、桜葉忍がノア・アーク・アダムズに珈琲の入った紙コップを手渡した。
「何やら、イコンがらみのきな臭い話が出ているようだが、最近はプラヴァーやジェファルコンのような第二世代が出てきたから、この六天魔王もどこまで戦えるのか心配だな……」
「あたしの整備したイコンを甘く見ないでくれる。この機体なら、そこら辺の第二世代のイコンなんかに負けない程の性能なんだからね! でもね、どんなに性能の高いイコンでもパイロットが駄目なら宝の持ち腐れなのよ、そのへんはよく分かっているわよね」
「そのへんは任せておいてくれ」
桜葉忍は約束すると、ひとまずノア・アーク・アダムズを安心させようとした。
★ ★ ★
「これが、そのときの記録データなんだけど。変な物が映っているでしょう?」
有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が、不知火で録画した画像データを公開した。
遺跡の上部を、ドーム状の外壁を沿うようにして、小さな人影のようなものが飛行している。拡大してみると、それは二頭身の少女人形であった。画像上では、突然どこからか現れて、また姿を消しているようにも見える。
「これは、ここに何か陰があるわね。穴? あるいはハッチみたいなものじゃないのかしら」
画像を凝視していた武神雅が、粗い画像の一点をさして言った。
「画像解析してもっとクリアにできるといいんだけれど」
「どれどれ、私にも見せてくださ……、やや、これはあのときのテルテルボウズじゃないですか」
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、横合いから画像をのぞき込んで声をあげた。
以前、イルミンスールの森で霧騒ぎがあったときに、湖で戦った小型機晶姫にそっくりだ。
「きっと、ここがあいつらの巣に違いありません。巨大マナ様と雪だるま王国兵の半分はここに待機。残りは、この雪だるま王国騎士団長、生ける伝説クロセル・ラインツァートと共に出撃です!」
言いながら、クロセル・ラインツァートは遺跡にむかってかけだしていった。
残されたのは、巨大マナ様と雪だるま王国騎士団員の半数、およそ一名であった。
「あわただしいわね。でも、これで、このちっちゃいのが、攻撃してくる存在だということは分かったわ。中に入る人は注意と言うことね」
少々呆れつつも、小型機晶姫の脅威を確認して皆に伝える武神雅であった。
「それであれば、他にも注意しなければならぬ存在があるだろう」
ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)が、湖で見つけた破片から知ったイメージをみんなに伝えた。
「遺跡を起動させると言っていたわけね。だとすれば、霧の事件のときに湖に現れたカエル型のイコンが黒幕と言うことになるわね。チャルチーにアトラウア……、まだ他にもいるかもしれないって訳ね」
「うむ、伏兵には十分に注意すべきだろう」
考え込む武神雅に、ガイアス・ミスファーンがうなずいた。
「我は、もう少し周囲を調べてみるとしよう」
その場を離れると、ガイアス・ミスファーンは待たせておいたユイリ・ウインドリィ(ゆいり・ういんどりぃ)と合流した。
「ジーナたちはもう中に入りましたよ」
「そうか」
淡々としたやりとりで、二人はおのおののはっきりとしない思いに心をはせていた。
生きていた樹木が大量に焼けるという場面を初めて目の当たりにしたユイリ・ウインドリィとしては、それに心を痛めていたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)に何かを感じた、あるいは感じたいのだろうかと自問したが、答えは自分で探すしかなかった。ならば、その最初を見つけるべきだろう。
「火の跡を辿っていけば、出火元が分かるかもです」
「そうであるな」
うなずくと、ガイアス・ミスファーンは、ユイリ・ウインドリィと共に歩き出した。ジーナ・ユキノシタは、彼女自身、あるいはその隣を歩く者にまかせるべきなのだろう。心配は心配だが、それこそ心配してもしょうがない。
「子離れができぬとは、こういった気持ちなのであろうかな」
ふと、ガイアス・ミスファーンは自嘲気味につぶやいた。そんな自分自身の変化にはまだ気づかずに。
★ ★ ★
「ほんっと、情報がバラバラだわね。うまく纏まるかしら」
待機しているイコン各機とネットワーク網を構築しながら、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は忙しくコンソールにデータを打ち込んでいた。各情報にランクタグを付加してメモリーツリーを構成していく。
データリンクしたマインドシーカーの内部で、久我 浩一(くが・こういち)もデータ処理におわれていた。到着が遅れたとは言え、イコンがあるとないとでは効率が違いすぎる。
『入り口付近に、特別な端末などは発見できませんでした。特別な損傷もなしです』
希龍 千里(きりゅう・ちさと)から報告が入る。遺跡の入り口付近を整備し、燃えた草や土などを排除して入りやすくしていたところだ。同時に、他の入り口のヒントとなりそうなコンソールなどを探していたのだが、それは発見できなかったらしい。
スイッチがどこにもないと言うことは、この扉は内部からしか制御できないと言うことだ。おそらく、あの扉は誰かが外から開いたのではなく、中から開いてもらったものなのだろう。だとすれば、なぜ開いたのか。これが罠でないという保証はどこにもないではないか。
「了解しました。可能でしたら、遺跡外壁の材質を調べてください」
続いての指示を出す。
『無理。専門の検査器でもない限り、金属ということ以外は調べようがありません』
まさか、嘗めて調べろというわけでもないだろうと、希龍千里が肩をすくめた。金属抵抗値や比重や放射性同位元素の含有量などを調べられればとっかかりぐらいはつかめるかもしれないが、しょせんは材質しか分からない。
「そうですか。遺跡の年代が測定できればと思ったのですが。引き続き調査を頼みます」
年代測定を諦めると、久我浩一は有栖川美幸に連絡を入れた。
「すみません。そちらの魔道レーダーでエネルギーの流れを調べられませんでしょうか」
『やってみます』
有栖川美幸が、不知火の魔道レーダーを使って、遺跡の魔法エネルギーの流れを解析する。
「すみません。そちらの様子はどうでしょうか?」
同時に、有栖川美幸が遺跡内部に入っている綺雲 菜織(あやくも・なおり)に連絡を入れた。
『順調なのだよ。こちらも、それぞれが探索を続けている。とりあえず、政敏たちからもデータをもらっているので、そちらに送るのだよ』
綺雲菜織から、緋山 政敏(ひやま・まさとし)などから集めた遺跡内のマップデータが送られてくる。
ほかにも、内部のデータは次々と送られてきていた。
「了解しました。データは、他のみなさんと共有します。現在こちらで把握しているデータもそちらへフィードバックしておきますので、みなさんで役立ててください。晩御飯を作る時間には遅れないように戻ってきてくださいね、皆さん。でないと、私の作った晩御飯になりますよ? ……約束です、無事に戻ってきてください」
遺跡内部に入ったトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)たちから逐一送られてくるマップデータを纏めながら、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が言った。情報は揃いつつあるように思えるが、まだその意味までは分かってはいない。
「相互データリンク、お願いします」
ミカエラ・ウォーレンシュタットは、情報を纏めている武神雅に言った。
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