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リアクション
★ ★ ★
「まったく、この遺跡はどういう造りをしているのだよ」
てくてくと遺跡内を物色しつつ歩きながら、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)がぼやいた。
お宝目指して物色しているというのに、これといっためぼしい物がない。こういう場所としては、生活感がまるでないし、かといって、宝物庫によくあるような倉庫という性質も見受けられない。
「お帰りなさい。ここを目覚めさせてはいけません」
「よしでた。捕まえて、キリキリとここの秘密を吐かせるのだよ」
ふわりと現れた少女を指さして、リリ・スノーウォーカーが叫んだ。
「そういうことを言うから逃げられるんだよ、待ってくれ、マドモアゼル。私は悪人じゃない」
「なぜ、私なのだ、私たちであろうが」
なんだか自分だけ悪人にされたようで、ちょっとむくれてリリ・スノーウォーカーがララ・サーズデイ(らら・さーずでい)に言った。
「でも、善人でもないよね」
「よけいなことは言わなくていいのだ。さっさと追うのだよ」
突っ込むユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)の背を押して、リリ・スノーウォーカーが言った。
「我らの目的は破壊ではない。その、また見たこともない魔道書とかが手に入ればいいのだ」
「別に岩をも砕く宝剣でも我慢する」
「二人共、欲張りすぎ。きゃっ!」
ずけずけと説得どころか自分たちの欲望丸出しにするリリ・スノーウォーカーとララ・サーズデイに、軽く振り返ってユノ・フェティダが言った。だが、よそ見をしたので、あっけなく転んでつんのめってしまう。
「いたあい」
びったーんと床に叩きつけられたユノ・フェティダの下で、愛用の黄薔薇のロザリオの鎖が衝撃でバラバラになってしまった。連なっていた小さな丸いローズストーンがコロコロと床を転がっていく。
「ぎゃー! 待ってー」
あわてて、ユノ・フェティダがその後を追いかけて拾い集めに走った。もはや、謎の少女は二の次である。
「また捕り逃がしてしまったのだよ。だが、一つ分かったことがあるのだ」
必死に走り回るユノ・フェティダの姿を手伝おうともせずに見て、リリ・スノーウォーカーが言った。
「この遺跡は違法建築だ。ほら、微妙に床が傾いている」
「待てー」
ユノ・フェティダが追いかけていたローズストーンが、壁にぶつかって止まった。よかったとばかりに拾いあげたユノ・フェティダだったが、その視線の先に朧気な足のような物が映った。
「あー、また変な女の子みっけ……えっ?」
また少女を見つけたのだと思ったユノ・フェティダは、それが青年であるらしいことに気づいて戸惑った。
「魔道書でいいから!」
「宝剣でいいから!」
「それもだめなら、せめて滞納しているお家賃相当の……」
また少女が現れたと思ったリリ・スノーウォーカーたちが、口早に願い事を叫びながら走ってきた。
「君たちは何者ですか?」
朧な姿の青年が訊ねた。
「ええっと、探偵やってるんだもん。ここにゴチメイの人たちが入ったまま行方不明だと聞いて……」
お宝を探しに来たという言葉は、寸前で呑み込むユノ・フェティダであった。
「ココたちを知っているのですか?」
青年の言葉に、リリ・スノーウォーカーたちが首が千切れるほどにブンブンとうなずいた。
「ならば、彼女たちを助けていただきたい。私は、アラザルク・ミトゥナという者です」
青年は、そう名乗った。ミトゥナという姓からはアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)を連想させるのだが。性別は違うが、どことなく顔立ちも似ているような気はする。いや、それ以前に、雰囲気がよく似ているのかもしれない。
「もちろん、それは依頼として受けたまわるのだ」
パチパチとエアそろばんを弾いてリリ・スノーウォーカーが言った。
「ところで、あなたと同じ姿の少女は、何者なのだ?」
「少女? それは知りませんが……」
リリ・スノーウォーカーの質問に、アラザルク・ミトゥナが首をかしげた。
「知り合いではないのか?」
それは予想外だと、リリ・スノーウォーカーが戸惑った。
「この遺跡は、私も初めて見る物です。おおよその構造は、調べ回っていたので把握しましたが、なんのための物かまでは……」
アラザルク・ミトゥナが答えた。同じ警告を繰り返すだけの少女とは違って、ずいぶんと饒舌に思える。この違いは、いったいどこからくるものなのだろうか。
「とにかく、急いでココたちのいる場所に来てもらいたい。私の今の姿では、彼女たちを助ける術がないのだ」
アラザルク・ミトゥナが、リリ・スノーウォーカーたちを急かした。
ぞろぞろといったん道を戻るような形で進んで行く。リリ・スノーウォーカーたちが結構でたらめに遺跡を探索していたので、はっきり言って迷子状態に近かったのだ。
やがて、同じように遺跡内でほぼ迷子となっているような一団と出会うことになる。
★ ★ ★
「いったい、どこまで行けばいいのでしょおかぁ?」
「お宝を見つけるまでよ。それまでは帰らないからね」
またたび 明日風(またたび・あすか)の質問を、日堂 真宵(にちどう・まよい)は素っ気なく突っぱねた。
「はあ。とんでもない人たちについてきてしまったぁ……」
本当についていないと、またたび明日風が溜め息をつく。
「ぜひとーも、魔法のスパイスを探しだすのデース。そして、カレーゴーレムを復活させるのデース。
マイイコンを大破させられたアーサー・レイス(あーさー・れいす)は、何やら訳の分からない願望を満たすべく、謎のスパイスを探して遺跡内の部屋をひっくり返していた。
とはいえ、驚くほど部屋という物のない遺跡であった。行けども行けども、複雑に折れ曲がった通路がくねくねと続くだけである。
「うむ、この図形はいったい何を表現しているのだ」
今まで歩いてきた道を、独特の劇画調タッチマップに書きとめてきた土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、何やら描かれつつある幾何学模様を前にして首をかしげた。
漫画家としての彼の本能が、この通路のならびが、ただの落書きではないことを示してはいるのだが。
「そんな、ローテクの悪戯書きなど、役にたつはずがありませんわ」
入り口から迷子にならないようにと、持っていたメロンパンを千切って道標に撒いてきたベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、何やら小馬鹿にしたような態度で言った。彼女は、最近買ったおニューのスマートフォンにパラミタ地図検索をインストールしたので、自慢したくてたまらないのだった。いつまでも古めかしい魔道書ではないところを自慢したいのである。
「ふっふーん、テスタメントは最新てくのろじーも使いこなせるのです。この程度の迷宮ちょちょいのちょいなのですよ? あれっ、あれっ?」
鼻息も荒く自慢げにスマートフォンを操作したベリート・エロヒム・ザ・テスタメントであったが、当然のごとくこの場所は「NO MAP」である。
「ちょ、ちょっと、それを見せるのです」
困ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、土方歳三が書いたマップをのぞき込んだ。
「あれ? これは……」
それを見たベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがちょっと考え込む。
「何か、分かるのか」
ずいと、土方歳三が身をかがめて小柄なベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの顔をのぞき込んだ。本能的に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがいったん後退る。
「いえ、なんとなく魔法陣に似てるかなあっと。ほら、この遺跡、なんだか丸いみたいですし……」
「ちょっと待て、誰かやってくる」
ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの言葉をいったん遮って、土方歳三が皆に注意をうながした。偵察していたスカイフィッシュが、彼のそばを高速で飛び回っている。
「誰かいる?」
リリ・スノーウォーカーと日堂真宵が同時に訊ねた。
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