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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「ここに来てはいけません」
 突然行く手を少女に阻まれて、七尾 蒼也(ななお・そうや)は反射的にジーナ・ユキノシタを後ろ手にかばって対峙した。
「君は誰だ」
「ここから帰るのです」
 問い質してみるが、少女は一方的に言葉を投げかけてくるだけだ。
 見た目は、二十歳前後だろうか。あるいは、もう少し若いか。おそらく霧が作りだした幻影なのであろうが、白いドレスは剣の花嫁を連想させる。やや、アルディミアク・ミトゥナに似ている感じもするが、プラチナブロンドのロングヘアーで体型が似ているため、ぱっと見が同じに見えると言うだけのことなのかもしれない。
「外で大きな火事が起こったんですよ。あなたは、それを知らないのですか」
「君は誰なんだ? 何故俺たちを止める? この遺跡には何があるんだ?」
 矢継ぎ早に質問を投げかけてみると、少女の姿は薄れて消えてしまった。
「あれは、本当に人なのかしら。もしかして、この遺跡を管理するシステムのようなものだとか」
「それにしては、なんであんな姿をとる必要があるのかな」
「調べてみますね」
 ジーナ・ユキノシタが、七尾蒼也の背に当てていた手を放して、少女が立っていた床に手を当ててサイコメトリを試してみた。
 朧に数人の姿がイメージされる。どうやら、リリ・スノーウォーカーたちのようだが、特定できるほどにイメージは鮮明ではなかった。どうやら、自分たちと同様に、この遺跡から去るようにメッセージを受け取っている。それ以上の情報を得ようとすると、同じように霧に戻って消えてしまい、そこでイメージは途切れた。
「うーん、これは、最初からこの情報しか持っていないか、それとも、この情報しか伝える術を持たないかだな」
「私もそう思います」
 ジーナ・ユキノシタが七尾蒼也に同意した。
 見た感じ、少女は霧でできていると言っても、その姿は完全ではないようだ。以前、ジーナ・ユキノシタがタシガンの古城で出会った霧の生み出した人々は、もっとはっきりした姿と実体を持っていた。
「つまり、成分というか構成要素というか、身体を作りだしている霧の量が足りないと言うことなのかな」
「とても、意図的に霧が作りだしたとは思えませんから、以前、美術館で起きた騒動のように、偶然ここに霧が流れ込んで作りだされたものなのではないでしょうか」
「だとしたら、このメッセージの大元があるはずだ。今も生きている人なのか、誰かの思いを残した物なのかは分からないが、それを見つけだして直接話しかけてみるしかないな」
「ええ、そうですね」
 七尾蒼也の推論に、ジーナ・ユキノシタが同意した。
「行こう。そこでこそ、君の力が必要だ。真実を聞きだしてくれ」
 七尾蒼也は、ジーナ・ユキノシタの手を取ると、遺跡の奧へと進んで行った。
 
    ★    ★    ★
 
「軟弱者ぉ! 私が、自分でやっつけるですぅ!」
 呼び出した炎の聖霊がへろへろとよろめいて消滅するのを見て、神代 明日香(かみしろ・あすか)が凍てつく炎を最大出力で小型機晶姫たちに放った。
 威力はかなり落ちるものの、神代明日香たちを排除しようと集まってきていた小型機晶姫たちが一掃される。
 ポンと弾けるようにして消滅する小型機晶姫たちの周囲で、壁が怪しい幾何学模様を放った。
「綺麗ですぅ。よおし、多分、こっちが怪しいですぅ!」
 光が流れて言った方を指さして、神代明日香が叫んだ。
「そっちは、もう他の人が調べて、行き止まりだって報告が来ています。それに、魔法は吸収されるから、使っちゃだめだって言われています」
 暴走しないでくださいと、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が困った顔をする。
「吸収される前に、敵をやっつけちゃえばいいんですぅ。魔法は、最強なんですぅ!」
 戦いの興奮からか、神代明日香はイケイケ状態だ。
「ええと、今新しいマップデータが……」
 随時、リーン・リリィーシアから送られてくるデータを更新して、ノルニル『運命の書』が進むべき道を模索していった。
「それだったら、まだ誰もいっていない場所に行ってみるですぅ」
 周囲をディテクトエビルで警戒しながら、神代明日香が行った。どちらかと言えば、ディテクトエビルに引っ掛からないで敵が現れているのだが、一応の気休めだ。
「ええっと、あれっ、あれっ、このマップって……」
 送られてきたマップを見て、ノルニル『運命の書』が首をかしげた。
 今まで誰かが踏破した部分は緑色のラインでワイヤーフレーム表示されている。未踏破部分は、推測データで構築され、青いラインで描かれていた。その中を、エネルギーの流れが赤いラインで走り回っている。その流れは、全体をまばらに走っているが、全体的に西側で多く発生しているようだ。
「どうかしたの、ノルンちゃん?」
「この形って、魔法陣です。でも、エネルギーの流れがおかしいですね。中心に集まったり、逆に分散したり、グルグル回ったり……」
「いいんじゃないんですぅ? もともと謎の遺跡だったんですからぁ。謎の謎の動きをしたって、不思議じゃないですぅ」
「でもでも、矛盾しています。いったん集めたエネルギーを拡散させたり、意味もなく、ぐるぐる巡回させたり」
 サーキュレータとしてエネルギー巡回路ができているのであれば建前としては成り立つが、それにしては凄く無駄が多い。むしろ、無理に無駄を作っているとさえ言えるのではないだろうか。
「うーん、とにかく最低限イルミンスールに報告できるぐらいにはちゃんと調べるですぅ」
「じゃあ、こちらへ行きましょう」
 神代明日香にうながされて、ノルニル『運命の書』がマップを銃型ハンドヘルドコンピュータで表示させながら、進行方向を指で指し示した。ここは世界樹でもデパートの人混みでもないのだから、マップさえあれば絶対に迷うことはない。
「ノルンちゃん、それ、上下逆だよ」
「えっ、えっー!!」