リアクション
決戦 「出て来ましたか……」 遺跡の格納庫から降下してくるミキストリの巨体を見て、荒人の中の紫月唯斗が、気を引き締めた。 「これが躱せるかあ」 ズンと地表を抉るようにして着地したミキストリにむかって、紫月唯斗は予備動作なしで黒帝を突っ込ませた。 最大加速を使い、ミキストリをアダマント剣で一刀両断にする。 「手応えが……ない!?」 スパークと共に砕け散ったミキストリの機体を唖然として見つめながら紫月唯斗が叫んだ。囮の幻影だ。 『マスター、横です!』 真っ先に的に気づいたプラチナム・アイゼンシルトが叫ぶ。 手綱を引かれた黒帝が馬首をあげた瞬間、キラキラと真横の空間がプリズム状の燦めきを発し、ミキストリが現れた。その手がつかんだバインダーから、幅広の実剣が飛び出している。それをそのまま黒帝の胸へとミキストリが横薙ぎに叩きつけた。 漆黒の馬鎧が砕け飛び、装甲に亀裂を入れられた黒帝が、荒人を乗せたまま吹っ飛ばされる。 『オプシディアンよ、いらぬ手を出すな!』 アラバスターが言うと、近くの空間がゆらめいて黒い結晶が燦めいた。それがマントに変化し、翻るとイツパパロトルが姿を現す。 『ふっ、今どき決闘などと甘いことを。自分が一人であれば敵も一人だなどという考えを持った時点ですでに敗北しているようなものだ』 スッと剣を抜きながら、オプシディアンが言った。 『ひゃっはー、その通りだぜい! オラオラオラオラァ!』 そっくりそのままその言葉を返してやるぜと、陰に隠れていた宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢が、金棒を振り上げてイツパパロトルに襲いかかる。 『面白い。これぐらいでなければ』 ゲブー・オブインの戦いへの貪欲さを楽しみながら、オプシディアンが剣で金棒を受け流した。そのまま、激しく金棒を振り回す宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢と大剣で激しく斬りむすぶ。 「剣を……」 黒帝の下からやっと這い出した荒人が、取り落としたアダマントの剣に手をのばした。そこにマイクロミサイルが飛来して剣を打ち砕く。 『よけいな手出しが入ったとはいえ、まずは一本。証しとして、剣を一本もらおう』 左右のバインダーソードをのばして二刀流にしたアラバスターが、紫月唯斗に言った。 『いいだろう』 紫月唯斗が、残る三本の太刀の中から、氷獣双角刀を抜いて身構えた。全身の装甲を激しく鳴らしながら、斬り込んでいく。 振り下ろされる青白い刃から、氷が迸った。受けとめたミキストリのバインダーソードを薄氷が被い、それが霧のように砕け飛んでミキストリの機体で弾けた。間髪を入れず、もう一刀をミキストリが突き込んできた。氷獣双角刀の柄頭から、隠し剣が伸びる。クイと刀を捻って、荒人がバインダーソードを弾いた。 「今度こそ!」 大きく懐をあけたかに見えたミキストリに、荒人が上から氷獣双角刀を斬り下ろそうとした。だが、後ろにむけられたバインダーのスラスターからの噴射が、荒人を吹き飛ばした。推力を得たミキストリが、地面を浅く削りながら後退する。 「来る!」 とっさに、エクス・シュペルティアが荒人に防御態勢をとらせた。 距離をとったミキストリの両肩に移動したショルダーキャノンが発光する。大口径ビームを受けた荒人の鎧状の追加装甲の一枚と氷獣双角刀が吹き飛んだ。 「遺跡が移動を始めている。ビームには気をつけるのだ」 外周レーダーに素早く目を走らせながら、エクス・シュペルティアが報告した。 「遺跡が転進しただと。奴らめ、何かしたな。まったく、手間をかけさせる」 多少は戦いを楽しもうかともくろんでいたオプシディアンが方針を変えた。 『遊びはまた今度だ』 言うなり、素早く宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢の背後に回り込み、剣の先をそのモヒカンにあてた。V字型の切っ先から、レーザーが発射され、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢のモヒカンを跡形もなく吹き飛ばす。 『しまった、モヒカンがないと力がぁ!』 あたふたと頭に手をやる宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢に、イツパパロトルがさっとマントを被せた。 『うお、何も見え……』 最後まで言わせず、イツパパロトルがレーザーバンカーソードを宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢の胴体のやや下の方に突き入れた。 『まさか、動いたらボン!だと!?』 『その通り』 オプシディアンが、突き入れた剣の先からレーザーを発し、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢の内部を破壊する。内部フレームを切断された宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢が、ぴくりとも動かなくなった。 ひっくり返る宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢から、イツパパロトルがバサリとマントを引き剥がす。 「ピンクモヒカン兄貴、すぐに新しいモヒカンを取りに行きましょう。宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢を復活させるんです」 「あ、ああ、そうだな。いいか、俺様は逃げるんじゃねえからな。そこで待ってろよ!」 捨て台詞を残して、ゲブー・オブインとバーバーモヒカンシャンバラ大荒野店が、あわててイコンから逃げだしていった。 「楽しい奴らだ」 苦笑しながら、オプシディアンがイツパパロトルを飛翔させた。急いで遺跡を追いかけていく。 ★ ★ ★ 「見つけたよ。敵の隊長機だと思うよ、多分」 索敵を担当していた西表 アリカ(いりおもて・ありか)が、荒人と戦うミキストリを見つけて無限 大吾(むげん・だいご)に報告した。 「一対一で戦っているのか。悪いが援護させてもらうぞ。アリカ、遺跡の影響範囲はどうなっている」 「遺跡が移動しているみたいだから、流動的なんだよね。ちょうど、境目あたりにいるって感じかなあ」 無限大吾に聞かれて、西表アリカがグレイゴーストから送られてくる俯瞰データをチェックしながら答えた。 「よし、奴をエリア外に押し出して、ビームキャノンで決めるぞ!」 無限大吾が、アペイリアーをミキストリの方へむかわせた。イーグリット・アサルトでありながらコームラントばりの重装甲を備えたアペイリアーの大型ビームキャノンと一体となったフライトユニットが、ジェットエンジンの咆哮をあげる。ウルトラマリンブルーと白に彩られた機体が加速する。 荒人の鬼刀を破壊したミキストリにむかって、アペイリアーが上空からシールド一体型のガトリングガンを掃射した。 巻き込まれそうになった荒人がいったん下がり、ミキストリも距離をとって体勢を立て直そうとした。 「押し出すぞ!」 残弾を気にせず、ガトリングガンを発射したままアペイリアーが突っ込んでいった。さすがに、ミキストリが後退するように見える。 「いいぞ、そのまま外に出ろ!」 「エリア、外れるよ」 「よし、いけー!!」 衝突する勢いで突っ込むと、アペイリアーが後退するミキストリと接触した。ミキストリのショルダーキャノンがせり上がってきて、アペイリアーの機体に砲口をむけようとする。 「遅い!!」 瞬間早く、アペイリアーが、両肩の大口径ビームキャノンを発射した。本来の威力を取り戻したビーム砲が、発射態勢となっていたミキストリのショルダーキャノンを先に吹き飛ばす。ひしゃげて背後の大木にぶつかったショルダーキャノンの砲身が誘爆し、木々が薙ぎ倒された。 「まだか。だったら、ダブルビームサーベルで……」 腰のダブルビームサーベルを抜こうとしたアペイリアーの両腕が吹き飛んだ。衝撃で、アペイリアーの機体が地面にめり込むように叩きつけられる。フライトユニットのジョイントが半分外れて斜めに折れ曲がった。 『ビームが使えるエリアに追い込んだまではよかったが、この機体もビーム主体なんでな』 くるりとバインダーキャノンを元のポジションに戻しながら、アラバスターが言った。 そこへ、荒人が駆けつけてきた。最後に残った空裂刀を構えている。 ミキストリは素早くアペイリアーから離れると、バインダーソードを出してそれを迎え撃った。 「今のうちだ」 その間に、無限大吾たちが脱出していった。 |
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