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リアクション
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「あれは、イーグリットの改造機よね? もしかしたら、博覧会から盗まれた例の機体かしら」
『多分。分析結果は50%の確率でイーグリットだと出ています』
シフ・リンクスクロウの問いに、魔鎧状態の四瑞霊亀が答えた。モニタには、真紅の機体が映し出されている。
「50%って、低くない?」
「それだけ改造されているということだよ」
ミネシア・スィンセラフィが、シフ・リンクスクロウの疑問に答えた。
「あれはもともとうちの学校のイーグリットだったんだよね。だったら、なんとしても取り返さなきゃ」
「もちろんよ」
ミネシア・スィンセラフィにシフ・リンクスクロウが答えた。
「それに、イーグリットのカスタム機相手に、このアイオーンがどれだけやれるか、ううん、ジェファルコンベースのアイオーン相手に、第一世代機がどの程度戦えるのか、データ取りには最適だと思わない?」
余裕を滲ませながらシフ・リンクスクロウが言った。
「こちらもむこうも十二分に性能を発揮できるように、遺跡の範囲外へ誘導するわよ。攻撃開始!」
バスター砲を構えると、シフ・リンクスクロウは長距離から挨拶代わりの一発を見舞った。
ルビーの乗ったスイヴェンが、レイウイングを稼働させて、素早く水平移動する。
「おやおや、このままのんびりと観客に徹していたかったのに。次世代機ですか。さて、いかほどの物か試しておくのも必要かもしれませんね」
あえて誘いに乗って、ルビーが移動していった。すでにシトゥラリはシャンバラ荒野に達している。そろそろイルミンスールの森はその影響範囲内を抜けたはずだ。
「あれね、イーグリットのカスタム機は。うちのイコンを悪事に使うなんて。これ以上はさせないんだもん」
「フェル、気をつけてね。すでにあの機体には第二世代機までもが撃墜されているらしいからね。ほとんど別物と考えた方がよさそうよ」
十七夜 リオ(かなき・りお)が、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)に注意した。
彼女たちが乗るメイクリヒカイト‐Bstもジェファルコンタイプの機体だ。
「僚機がいるね。できたら連携をとろうよ」
アイオーンを確認すると、十七夜リオがシフ・リンクスクロウと連絡をとった。
『了解。挟み撃ちにしましょう。遠距離で敵の力を削いで、一気に接近戦で仕留める形で』
「うん、私もそう思ってた。なんとしても、イーグリットは取り返そう。でなければ破壊よね」
シフ・リンクスクロウと十七夜リオが作戦を相談する。
「それじゃ、対神スナイパーライフルで、敵の武装を落とすよ。見たところ、近接武装しか持ってないみたいだもん」
照準を定めると、フェルクレールト・フリューゲルが狙撃を開始した。アイオーンのバスター砲とタイミングを微妙にずらして、敵をこちらの狙撃ポイントに誘い込むようにして追い込んでいく。
「速い。それに、どういうスラスターをつけたら、あんな機動ができるわけ?」
実体弾とはいえ、かなりの弾速はあるはずなのだが、敵は余裕で回避している。
「中距離へと移動するよ。ビームでの狙撃に切り替えるからね」
ビームマシンガンに武装をチェンジすると、フェルクレールト・フリューゲルは距離をつめていった。アイオーンの方も、ビームアサルトライフルを構えて接近するようだ。
「おお、やってるやってる。敵のカスタムはあらかた撤退したみたいだけど、どうやら親玉が残ってるみたいだな」
低空に侵入しながら、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が遠方にスイヴェンを補足した。
「ようし、きたきたきたー!!」
行きがけの駄賃とばかりに、途中にいたリーフェルハルニッシュを文字通り体当たりで吹っ飛ばす。急いで出撃してきたので固定武装は装備していないが、雑魚相手であればフェイルノートの格闘だけで充分だ。グレイとホワイトのツートンカラーにペイントされたイーグリット・アサルトの機体は、装甲密度を上げてほとんどの関節部をカバーしている。より洗練されたインダストリアルデザインの機体だと言えた。
「もう少し落ち着いてください。闇雲に突っ込んでいっても、勝てる相手と勝てない相手が存在するのですわ」
猪突猛進的に敵にむかって行く猪川勇平を心配して、ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が言った。
「なあに、どんな相手でもこの拳で叩き伏せてみせる」
そう言うと、猪川勇平は一直線にスイヴェンにむかって言った。
「三方向から来ますか。もうこちらもビームが使えるようですし、それでしたら……」
そう言うと、ルビーはレイウイングをキャノン形態に変形させた。
一直線にこちらへむかってくるフェイルノートに照準を合わせる。三角柱の間で大気がプラズマ化し、圧縮されて弾体を形成する。レイウイングのビーム形成フィールドが、それを加速して撃ち出した。
「ちょっと、勇平君、だめー!!」
敵の様子に逸早く気づいたウイシア・レイニアが、とっさに機体のバランスをわざと崩した。低空を高速で移動していたフェイルノートが傾いて転倒する。そのとき、振り上げられた右腕をプラズマ弾が直撃した。跡形もなく右腕が吹き飛び、フェイルノートが大地を転がった。だが、とっさにウイシア・レイニアが機体を転倒させなかったら、腕一本ではすまなかっただろう。
★ ★ ★
「ちょっと、大砲がついてるじゃない。どこから現れたんだもん」
反則だと、フェルクレールト・フリューゲルが叫んだ。
「分かったわ。あの背部にある羽根状のビームバインダーが変形してビーム砲になったんだよ。あの羽根の動きに気をつけてよ」
十七夜リオが、敵のイコンを分析して答えを出した。
「うん分かったんだもん。あれっ? 羽根なんてないよ。ようし、チャンスだよね」
そう言うと、フェルクレールト・フリューゲルはビームマシンガンをメイクリヒカイト−Bstに構えさせた。
ルビーのスイヴェンは、アイオーンの方へとむかっている。こちらからはちょうど背面だ。
「いただき!」
フェルクレールト・フリューゲルがトリガーを引いた。だが、レーザーが発射される前に、マシンガンの銃身がスパッと切り落とされる。
「ど、どうしたんだもん!?」
何が起こったか分からずに、フェルクレールト・フリューゲルが焦る。とりあえず役にたたなくなったビームマシンガンを投げ捨てた。切り口は、まるで焼きとかされたように白熱していた。ビームサーベルに斬られたときに酷似している。
とっさにビームサーベルを抜いて、フェルクレールト・フリューゲルが敵の攻撃に備えた。
「周囲に何か飛んでるよ」
レーダーを監視していた十七夜リオが叫んだ。直後に、真紅のビームが襲いかかってくる。間一髪それをビームサーベルで払ったものの、別の方向から同じビーム製の幅広の剣が襲いかかってきた。
「分かった、あのイコンの背中についていた羽根が、自立攻撃型のビームソードになってる」
「そういうのってありなんだもん!?」
攻撃してくる物の正体が分かったからと言って、とたんに有利になるものでもない。メイクリヒカイト−Bstの周囲には、五枚のレイウイングが飛び回ってオールレンジ攻撃を仕掛けてきていた。
「避けて」
「無理無理無理無理!!」
ジェファルコンの高機動性になんとか助けられて攻撃を回避していくものの、これでは五機のイコンに同時に斬りつけられているのと何ら変わりがない。止まった瞬間にやられてしまう。メイクリヒカイト−Bstでなかったら一撃で大破していただろう。
だが、さすがに全ての攻撃は防ぎきれず、装甲が一枚、また一枚と剥がされていく。
「このままじゃ持たない……」
「いったん離脱して。誘導兵器なら、無限の射程があるわけじゃないはずだよ」
「わ、分かった」
十七夜リオに言われて、フェルクレールト・フリューゲルは全速でスイヴェンから離れていった。
★ ★ ★
「来ます!」
突っ込んでくるスイヴェンに、シフ・リンクスクロウはアイオーンに空裂刀を抜かせて対応した。
フラムベルクと空裂刀が激突する。
「他のみんなは……」
激しくスイヴェンと切り結びながら、シフ・リンクスクロウがミネシア・スィンセラフィに確認した。
「一機大破、戦闘不能。一機中破、戦域離脱。共に支援は望めそうもないよ」
「なくてもやってみせます!」
空中でスイヴェンと互角に斬り合いを繰り広げながら、シフ・リンクスクロウが言った。
レイウイングを全て放出してしまったせいか、スイヴェンの動きが微妙に鈍い気がする。これなら、機動性はアイオーンの方が上だ。やっかいなのは敵が盾を持っているぐらいである。
自信を持つと、シフ・リンクスクロウがじょじょにスイヴェンを押していった。
「いける」
そう確信した瞬間、右のイコンホースが爆発した。赤いビームが閃く。
「どうしたんです?」
「なんか飛んできた。ジェファルコンを壊したのと同じ奴だよ」
「いつの間に……」
ミネシア・スィンセラフィの分析に、シフ・リンクスクロウが悔しがった。全てのレイウイングが別の場所に攻撃に行っていると考えたのは早計だった。一枚残っていたのだ。
バランスを崩したアイオーンのもう一つのイコンホースをスイヴェンが剣で破壊した。一時的に全推力を失ったアイオーンが墜落していく。
「シトゥラリは……」
深追いはせず、ルビーが巨大イコンの方を仰ぎ見た。
墜落していたアイオーンがなんとかフローターを再起動させて軟着陸する。
「まだあの位置ですか。これは間にあいませんね。へたに巻き込まれないうちに撤退しましょう」
戻ってきたレイウイングを再装填すると、ルビーはスイヴェンを退避させていった。
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「追いつけそうかな」
ジャワ・ディンブラの背で、ココ・カンパーニュがアルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「追いつけないほど先に進んでいるのだったら、それはそれでいいのだけれど。あ、見えたよ、お姉ちゃん」
アルディミアク・ミトゥナが、巨大イコンを見つけて指さした。
「まだあんな所なのか。大丈夫なのか?」
「微妙であろうな。急ぐぞ」
ジャワ・ディンブラがスピードを上げた。