なし

リアクション

　
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「この反応は……、大変です！」
　不知火の中で魔道レーダーを見ていた有栖川美幸が叫んだ。
　異変は、グラキエス・エンドロアの方も確認していた。
『中心部の周囲が崩壊を始めている。もう限界だぞ。急いで退避しろ』
　グラキエス・エンドロアが、未だ遺跡の周囲でリーフェルハルニッシュと戦っているイコンたちにむかって知らせた。
「だからって、はいそうですかとは言えないのよね。シグルドリーヴァ、最大船速。エンジンが焼き切れても構わないわ。リミッターなんか破壊しなさい！」
　シグルドリーヴァの艦橋で、風森望が操舵手に命令した。
　艦底のドリルを巨大イコンに突き入れたまま、シグルドリーヴァは補助推力としてずっとシトゥラリを押し続けている。
「弾幕薄いですわ。敵を近づけさせない……きゃっ」
　ノート・シュヴェルトライテが砲手に命令したとき、シグルドリーヴァの甲板にリーフェルハルニッシュが降り立った。衝撃でブリッジがゆれる。
「近すぎる！」
　艦橋にむかって迫るリーフェルハルニッシュの姿が、モニタ一杯に広がった。
　次の瞬間、大口径ビームが横からリーフェルハルニッシュを貫いた。閃光に風森望たちが目をかばっている間に、甲板に降り立ったパラスアテナが、大破したリーフェルハルニッシュをシグルドリーヴァから蹴り落とした。
　そのまま甲板に位置し、肩のミサイルポッドを全弾発射して、近くのリーフェルハルニッシュを一掃する。爆散したリーフェルハルニッシュが、ばらばらと地上へ降り注いでいった。
「セルファ、残弾は？」
「今ので最後です」
　御凪真人の問いかけに、セルファ・オルドリンが簡潔に答えた。
「よし、全武装排除。ビームシールド展開。近づいてくる敵は殴り潰すぞ」
「了解しました」
　ミサイルポッドをエクスプロージョンボルトで排除したセルファ・オルドリンが、ドラゴハーティオンに迫るリーフェルハルニッシュにビームキャノンを投げつけた。大型ランチャーの直撃を受けたリーフェルハルニッシュが、頭部を潰されて墜落していく。
「すまぬ！」
　コア・ハーティオンが礼を言う。
「まだ、エネルギーは尽きてはいないな……」
　全力噴射を続けて遺跡を押しているコア・ハーティオンではあったが、何度かリーフェルハルニッシュの攻撃を受けてドラゴハーティオンの機体はもうぼろぼろであった。
　
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「まったく、なんでこいつらはまだ攻撃してくるんだ」
　ビームサーベルでリーフェルハルニッシュを切り捨てながら、グラキエス・エンドロアが言った。
「プログラム書き換えがされてないからなんじゃないですか？　どうも、最初に全機出撃してきてしまったようですから」
　サブパイロットシートで優雅に悪魔の妙薬の香りを楽しみながら、エルデネスト・ヴァッサゴーが言った。
　
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「弾が尽きた」
「殴ってください！」
　有栖川美幸に言われて、綺雲菜織がアサルトライフルを棍棒代わりにしてリーフェルハルニッシュに叩きつけた。
「格闘戦しかありませんね」
「望むところであろう」
　ひしゃげたライフルを捨てると、綺雲菜織は動きの鈍くなったリーフェルハルニッシュの腕をつかんで不知火で捻り切った。
　
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『遺跡の内部は、不知火とシュヴァルツ・ツヴァイのデータをリンクして逐一報告する。限界になったら、絶対にに離脱してくれ！』
　レーザーバルカンでリーフェルハルニッシュを攻撃しながら、佐野和輝が全機に伝えた。
　
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「アトラスの傷跡ね。雲海までもう少しよ」
　風森望がそう言ったとき、シグルドリーヴァがゆれた。船体が上へ押し上げられる。
「なぜ！？　遺跡からドリルが外れますわ！」
　突然遺跡に突き刺さっていたシグルドリーヴァのドリルが外れた。船体が傾く。反動で、甲板にいたパラスアテナが放り出されて落ちていった。
「サテライトセル、まだ、残っていたの！」
　ドリルのあけた亀裂のこうに見えた小さな影の集団を見て、ノート・シュヴェルトライテが叫んだ。おそらくは、アストラルミストから再生したものであろう。
「全員、何かにつかまって！」
　風森望が叫んだ。全速で加速していたのがあだとなり、糸の切れた凧のようにシグルドリーヴァが激しく船体を遺跡表面にこすりつけて進んでいった。舷側が削られて、破片が後方へと飛び散る。
「出力低下。浮力を維持できません！」
　オペレーターが告げる。そのままシグルドリーヴァが脱落していった。
「たとえ、私一人になっても……」
　コア・ハーティオンが一人遺跡を押していたが、それも限界だ。
『ハーティオン、持ってきたわよ、受け取って！』
　空の一点が輝いたかと思うと、高天原　鈿女（たかまがはら・うずめ）の乗った龍帝機キングドラグーンが雲を突き破って現れた。黄金に輝く、ドラゴン型のイコンだ。
『ぶっつけ本番だけど、あなたならできるわ』
「分かった。来い、キングドラグーン！」
　肩に刺さったピルムムルスを抜き捨てると、ドラゴハーティオンがいったん遺跡から離れた。
　プラヴァーステルスから作りだされた龍帝機キングドラグーンの胴部が大きく左右に開いて合体モードになる。
　そこにおさまろうとしたドラゴハーティオンであったが、そこへリーフェルハルニッシュが割って入った。
　合体座標軸がずれ、機体が接触して弾かれた龍帝機キングドラグーンが大きくきりもみして離れる。
「無事か、龍帝機キングドラグーン！」
『え、ええ。なんとか』
　かろうじて、高天原鈿女の声が返って来る。
　なんとか機体を立て直した龍帝機キングドラグーンが、大きく弧を描いて旋回し、再び合体しようと接近してきた。だが、再び数機のリーフェルハルニッシュが迫る。
「どけ！」
　横合いから突っ込んできたジャワ・ディンブラが、先頭のリーフェルハルニッシュを蹴り飛ばした。
「今チャンスを作ってやる」
　ジャワ・ディンブラの背で、ココ・カンパーニュが叫ぶ。
「この場所の魔法力なら、イコンだってぶっとばせるさ」
　周囲に放出されている魔法力の結晶を見て、ココ・カンパーニュが言った。
「ええ」
　ココ・カンパーニュはアルディミアク・ミトゥナとうなずきあうと、手を繋いだ。そして、残った手を高々と突きあげて唱える。
「来い、星拳スター・ブレーカー！！」
　ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの手に、星拳スター・ブレーカーが現れる。
「アブソーブ！」
　星拳の手っ甲で輝く光条に、周囲の魔法力結晶が次々に吸い込まれていった。光条の輝きが極大になる。
「いっけー！！」
　二人が突き出した拳から、目映い光が迸った。
　コア・ハーティオンを攻撃しようと近づいてきたリーフェルハルニッシュが、全機光に押し飛ばされ、遺跡の外壁に叩きつけられる。さらに光の圧力に押されて、装甲をひしゃげさせながら壁面にめり込んでいった。
「今だ。龍帝機キングドラグーン、黄龍合体グレート・ドラゴハーティオン！！」
　その間に、黄金に輝く龍帝機キングドラグーンの機体が左右に開き、ドラゴハーティオンの機体をつつみ込む。エネルギー接続の余波で、機体全身が目映く輝いた。ドラゴハーティオンが黄龍合体グレート・ドラゴハーティオンに合体心化する。
　失われていた力が甦った。
「グレート・ドラゴハーティオン、フルパワー！！」
　コア・ハーティオンが全エネルギーを集中して巨大イコンを押し出した。遺跡が加速してスピードをあげる。
「はあ、はあ……」
　ジャワ・ディンブラの背中で、ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが両手をついて荒い息をしていた。
「無茶しすぎだ」
　ジャワ・ディンブラが今さらながらに注意する。
「そんなこと言ったって、何かしたかったのよ。何かを……」
　大の字にひっくり返ると、ココ・カンパーニュが答えた。
「アトラスの傷跡を越える。もう少し持ってくれ……」
　遺跡を押しながらグレート・ドラゴハーティオンが祈った。
『だめだ、限界だ。全機退避しろ！』
　だが、無情にも佐野和輝の声が聞こえてきた。
「まだ……まだ！」
　それでもと、グレート・ドラゴハーティオンが遺跡を押し続けた。
『ありがとう』
　ふいにグレート・ドラゴハーティオンの眼前にけんちゃんが現れて言った。その姿は、離れていたにもかかわらず、その場にいた物みんなの目にも映った。
『もうここまでで結構です』
「だが……」
『でも、最後にお願いがあります。このまま、このイコンを火口に落としてください』
「だが、それでは……」
　グレート・ドラゴハーティオンが渋った。
『もともと、僕に脱出の時間は残されていません。それよりも、この火口なら、イコンの爆発をかなり押し込めてくれるはずです。お願いです、これから示す所を破壊してください。一瞬ですが浮力がなくなります。それで充分火口に飛び込めるでしょう』
「私には……」
　懇願するけんちゃんに、どうしたらいいのかグレート・ドラゴハーティオンは分からなくなってしまった。
「聞いてやれ。頼んでいるだ。頼んでいるんだぞ！」
　ココ・カンパーニュが叫んだ。
「っ……、グレート勇心剣！」
　グレート・ドラゴハーティオンが、大剣を取り出した。
『ありがとう』
　シトゥラリの一点が目映く輝く。
「彗星・一刀両断斬り！！」
　コア・ハーティオンが光を真っ二つに切った。
　一瞬、遺跡をつつむ輝きが消えた。そのままアトラスの傷跡の火口に落下していく。
『みんな、退避しろ！』
　急いで周囲にいた者たちが火口から離れる。
　一瞬の沈黙が訪れた後、爆発と共にアトラスの傷跡が噴火した。いや、噴火と見まごうほどの輝きが火口から天上にむかって迸った。キラキラと、魔法力の結晶が宙に舞う。
　シャンバラ大荒野にいた者たちも、イルミンスールの森にいた者たちも、等しくその輝きが消えるまで静かに見つめ続けていた。