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リアクション
第八章 キャンプ・コートニー
東野藩内に存在する、アメリカ海兵隊の駐屯地『キャンプ・コートニー』。
そこにほど近い、アメリカ人相手のレストランで、その男は待っていた。
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は彼女が予約しておいたそのテーブルに歩み寄る。
男は、ローザの姿を見ると、意外そうな顔をしながら立ち上がった。
「これはこれは……。まさか女が来るとはな。マリーンじゃないな?」
「ごめんなさい、ご同僚じゃなくて。でも、祖国を愛する心はあなたたちと変わらないわ」
「特殊部隊あがりってことか。……シールズあたりか?」
「昔の話よ。――でも流石の観察力ね。あの暗号を解いてきただけはあるわ」
「最初の『o・o・r・a・h』の五文字。その後のクロスワード。そして得られる『ヨハネ福音書3章16節』という答え。海兵なら、誰でもわかると思うぜ?」
「ごめんなさい、暗号は専門外なの――ローザマリア・クライツァールよ。例の調査団のメンバーよ」
「エリック・グッドールだ」
ローザと男は互いに握手を交わし、席に座る。
「話をする前に、友人を呼んでもいいかしら。是非、あなたに紹介しておきたいの」
「やれやれ。今度はグリーンベレーか?」
「残念。でも歴史上の英雄よ」
エリックのジョークに、ウィンクで返すローザ。
程なくして、2人がやって来た。
「ジョン・ポール・ジョーンズ(じょんぽーる・じょーんず)です」
「ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)だ」
「高名な2大提督とお近づきになれて光栄です、閣下」
やって来た2人を矯(た)めつ眇(すが)めつして見ながら、ともかくも挨拶だけはやってのけるエリック。
「……これだから、パラミタって所は困る」
2人と握手を交わした後で、愚痴をこぼすエリック。やはり、相当に面食らったようだ。
「歴史の授業で習うようなコトは忘れて、普通に接してくれていいですよ」
「そうしていただけると、有難いですね。俺が直接口を聞いたコトがあるのは大佐までだし、知ってる先輩は朝鮮戦争従軍者までだ。こんな人達とどう付き合ったらいいかなんて、習っちゃいない」
「楽にするといい。その方が、俺も話がしやすい」
「さて、自己紹介が終わった所で、早速本題に入りたいんだけど?」
ローザに促され、話が始まる。
ローザは、自分がハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の友人であり、あくまで祖国の立場に立って行動していると強調した上で、東野藩と海兵隊との関係について訊ねた。
「関係って言ってもな……。そりゃ毎週末にホームパーティーに呼ばれる程の仲じゃあないが、良きビジネスパートナーとしての良好な付き合いは保ってるぜ。少なくとも、俺のレベルで聞いてる話じゃあそうだ。しかし、何故そんな事を聞く?殿様が倒れたって聞いてたが、まさか――」
「ごめんなさい、これ以上は言えないの」
「――了解だ。とにかく、今あの殿様がいなくなっても、俺たちが得するコトは何もない。海兵の駐屯を許可したのも、あの殿様なんだ。今更国粋主義者が殿様になって、叩きだされでもしたら適(かな)わねぇ」
「それを聞いて安心しました。実は、今度の件が四州とアメリカの間の、政治的な問題に発展する可能性があります。そうならないために、私たちは活動しているんです。よろしければ、協力して頂けませんか?」
「――俺に何をしろと?」
ジョンの言葉に、エリックの表情が厳しいものに変わる。
「もし、海兵隊の中で不穏な動きがあったり、不審な人物がいたら、教えて欲しい。代わりに我々は、海兵隊に関する不都合になりかねない情報を、逐一そちらに提供しよう。どうだ?」
エリックは、ネルソンの提案をしばし熟考し――了承した。
「ただし、守秘義務に反しない範囲でだ。俺はアンタたちとは違い、未だ軍に所属してる身なんでな」
「もちろん、それで構わないわ。有難う」
「連絡役には、マスターを使ってくれ。俺の名前を出せば、話が通るようになってる。毎回クロスワードパズルを解かされるのもゴメンだ」
「わかったわ。私も、何冊も聖書を買ってくるのも大変だしね」
4人は、改めて握手を交わした。
「やっぱり、一番怪しいのは、この男ね」
ブレインストーミングを終えたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、一枚の紙をセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に示した。
数えきれないほどの矢印、丸印、バツ印、直線、曲線の中に、大量に書かれた人名。
そのほとんどが二重線で消されていたが、その中に一つだけ、残っている名前があった。
エリック・グッドール
「あぁ、やっぱりコイツ?東野藩の廻船問屋『駅渡屋』や、アメリカの商社『チェース・インターナショナル』と頻繁に接触を持ってるってヤツでしょう?」
渡された紙を、ピラピラさせながら言うセレン。
この数日セレンとセレアナは、「四州への進出を検討している外資系企業の担当者」という触れ込みで、東野藩の商人や、既に四州に進出している外国企業の関係者との面会を繰り返していた。
普段滅多に着ないスーツに加え、伊達メガネや名刺、さらには偽造の社員証まで用意するという気合の入れようである。
その中で浮かび上がってきたのが、エリック・グッドールという名である。
海兵隊の少佐というコト以外は、今のところ一切が不明であった。
「ええ。でも、怪しいといっても、単に外部と接触があるってだけよ。他には何もやましい点はないわ」
「だよねぇ……。ねぇやっぱり、今回の一件と海兵隊はカンケーないんじゃないかしら」
「私も、それには同意見ね。もしコトが露見すれば、四州どころか最悪シャンバラからも追い出されかねないのに、暗殺なんていう危ない橋を渡る理由がないわ」
セレンの言葉に、セレアナも同意する。
「東州公が日本の調査団の派遣を了承したのも、単に日本が先に動いただけだしねぇ」
「アメリカには、この方面には葦原島があるし、海軍も海兵隊も既に駐留してる。それに日本からなりふり構わず奪い合わなければならない程、四州に経済価値がある訳じゃない」
「石油も天然ガスも出ないしね。唯一喉から手が出るほど欲しい大型飛空艇は、もう売約済みだし」
「今のところは、『アメリカは白』。という結論でいいわね?」
「意義な〜し!」
「ここまでの情報は、私の方から本部に報告しておくわ」
「おねがいしまーす!さて、お返しに本部の方からどんな情報が来るのか、みんなの活躍ぶりが楽しみだねぇ」
「それじゃ『果報は寝て待て』ってことで、城下の見物にでも行きましょうか。地球から来たビジネスマンらしく、少しは観光もしないとね」
「さんせーい!それじゃ、早速どこ行くか考えなくっちゃ♪」
楽しげに鼻歌を歌いながら、いそいそと広城の観光ガイドをめくるセレン。
「んー、ここがいいかなー。あ!これ美味しそう!んーと、後は――」
(やっぱり、ビジネスマンと言うよりは、観光客かしらね……)
本部へ送るメールを作成しながら、一人苦笑するセレアナであった。
「初めまして。源 鉄心(みなもと・てっしん)と申します」
「マイク・カニンガム大佐だ。よろしく」
如何にも軍人らしい無骨な手を握り返しながら、鉄心はさり気なくマイクを観察した。
年齢は、宅美 浩靖(たくみ・ひろやす)よりは若いだろうか。
短く刈り揃えられた白髪混じりの髪や、高い身長、目に見えて盛り上がった筋肉は、その口調と相俟って、大変豪放な印象を受ける。
南濘公の父親と言っても、しっくり来そうな人物だ。
鉄心は旧知の宅美の紹介で、秩柚(ちちゆ)にある海兵隊基地『キャンプ・コートニー』の司令を訪ねていた。
彼と宅美とは、同期なのだそうだ。
「ティー・ティー(てぃー・てぃー)です」
「イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)です」
鉄心のパートナーの2人も、彼に好印象を抱いたようで、にこやかに自己紹介している。
「さて、自己紹介も済んだことだし。少し、ワシと基地の中を散歩に行こう、イコナちゃん。ここにいても、退屈なだけじゃ」
「ハイッ♪」
すっかり宅美になついているイコナは、そそくさと立ち上がる。
「ティー君も一緒にこないか?色々と楽しい所に案内するぞ」
「え?私は……」
横目でチラリ、と鉄心の方を見るティー。
彼の首がわずかに縦に動いたのを見て、ティーも一緒に行くことに決めた。
そう言って宅美は懐から古ぼけた制帽を取り出すと、頭に被った。彼が、海兵隊に所属していた時のモノだ。
「おじ様、その帽子は?」
「ん、これか?コレをかぶっていると、この基地にいる連中みんなが、このワシの言う事を聞いてくれる魔法の帽子だ」
要するに、「年季の入った制帽を被った日本人がプラプラしてたら、そいつはオレの友人でマリーンだから、丁重に扱え」と、マイクからお達しが出ているという訳だ。
海兵隊には、「一度マリーンになった者は、死ぬまでマリーンだ」という言葉がある。
要するに、「死ぬまで海兵隊員としての誇りを忘れるな」という訳だが、このために除隊した宅美であったも、「元海兵隊員」と呼ばれることはない。
イコナと手をつないで、ニコニコしながら部屋を出ていく宅美がドアの向こうに消えた途端、マイクは天を仰いで嘆息した。
「日本人はロリコンが風土病だと聞いていたが、アイツまで侵されるとは。だからJSDFなんぞに行かずに、マリーンにいればよかったんだ」
「違いますよ。宅美さん、お孫さんがいるんですが、娘さんと仲が悪いらしくって会わせて貰えないらしいんです。それで寂しいらしくて」
「家庭なんか持つからだ、まったく」
「カニンガムさんは、お一人で?」
マイクのことを強いて階級で呼ばず、名前で呼ぶ鉄心。
今日は教導団の任務で来ているわけではないので、そうしていた。
自己紹介の時に、自分の階級は名乗らなかったのも、それが理由である。
「マイクでいいぞ。こんな仕事をしていると、いつ死ぬかわからんからな。一人の方が気楽でいい」
「そうですか……」
マイクの言葉を、自分に重ね合わせる鉄心。
「ま、オレの知らない子供がどっかにいても、全く不思議はないがな!ハッハッハ!」
(こ、この人は……)
「ま、冗談はこれくらいにして――それで、一体何が聞きたい?」
(ホントに冗談なのか……)と思いつつ、鉄心は話を切り出した。
気になっていることを、まとめて質問する。
「なるほど。ではまず基地の規模だが、まぁご覧の通りの田舎所帯だ。何せ、駐屯している兵力自体が標準編成よりもずっと少ない」
「それで、基地司令が大佐なのですね」
「そういう事だ」
基地司令は、少将をもって任用するのが通例である。
「次に東州公の死についてだが……それについては、特に海兵隊として思う所はない。公の容態が回復してまた政務を取るにしても、また誰かが新しい藩主になるにしても、我々としては常に良好な関係を維持するべく努力するだけだ。ただ――」
「ただ?」
「オレ個人としては、このままトヨタケがトップ出あって欲しいと思っている。彼はバランス感覚に優れた、優秀な政治家だ」
「あなたが、そこまで東州公に信頼を寄せるのは、何故なんですか?」
「トヨタケには、随分と便宜を払ってもらったからな」
「というと?」
「オレたちは、単なる飾りなんだ」
「飾り?」
意外な言葉に、おもわず聞き返す鉄心。
「要は、海軍と海兵隊のメンツ争いなんだ。海軍はこの島に眠ってる飛空艇に目をつけ、あらゆる手段を搆じていち早く南濘公に取り入り、この島に拠点を築いた。しかし海兵には『そこがどこであれ、最初に行くのはオレたちだ』という自負がある。それが海兵隊の本分だからな。それで揉めた」
「揉めて、どうなったんですか?」
「すったもんだの挙句、『取り敢えず形だけ』ということで、海兵隊を駐留させることになった。だが、それはあくまで海軍と海兵隊の中での話だ。それじゃ、一体四州のどこに行くんだという話になる」
「南濘藩は?海軍が反対したんですか?」
「それもあるし、ウチとしても同じ所に行くのは嫌だった。年がら年中顔を付きあわせてると、しなくてもいい喧嘩もせねゃあならならん。親戚なんてのはたまに会うから楽しいんであって、年中一緒にいるの鬱陶しいもんだ」
「確かに、そういうところはあります」
「だろ?ちょっと話が逸れたが、そこで名乗りを上げたのが東州公だ。彼も、アメリカの勢力が南濘にばかり集中するのはマズイ、と思ったんだろうな。いち早く藩内を説き伏せ、ウチを迎え入れてくれた。さもなきゃオレたちは今頃、内地で日がな一日腕立てでもしてるはずだ」
「わかりました。では建前はともかく、本音としては東州公が藩主のままが一番いいと、そういう事ですね」
「あくまで、オレの本音だぞ。勘違いするな」
マイクは、そう言って笑う。
「それから出動に関する東野藩との取り決めについてだが――これについては答えられない」
「機密ということですか?」
「そうだ。東野藩との協定内に『協定に関する当事者双方の守秘義務』というのが設定されていてな。正直、守秘義務があるということ自体も、秘密にしておいて欲しいくらいだ」
「了解です。聞かなかったことにしておきます」
「そうしてもらえると有り難い」
「さて、最後の質問についてだが、今までに我々海兵隊が出動しなければならなくなるような事態は、この四州では一度も起こっていない。まだ駐屯してから一年も経っていないしな。それに――」
「それに?」
「飾りは、飾ったままにしておくのが一番だ。子供の頃、家の中の飾り物で遊ぼうとして、ママにこっぴどく怒られたことがあるだろう?」
「はい、ありますね」
「そういう事だ。飾りってのは実用的には作られてないからな」
余程面白いジョークだったのか、マイクは「ハッハッハ!」と声を上げて笑った。
マイクとの話を終え、基地内を見学する許可をもらった鉄心は、宅美たちの姿を探して基地内を歩いていた。
(そんなに遠くには行っていないと思うんだが――お、いたいた。……ナニしてるんだ、アイツは?)
見れば、イコナが一人の海兵隊員と話をしている。
「ぎ、ぎぶみーちょこれーと?……ですの!」
「それじゃチョコ下さいになってしまいますよ、イコナ」
「え……?」
《ミラクルレシピ》と《虹色スイーツ≧∀≦》で作ったお手製のチョコブラウニーを差し出したまま、固まってしまうイコナ。
しかし、目の前の軍人はイコナの差し出したブラウニーを受け取ると、にっこり笑ってこう言った。
「有難うございます、お嬢さん」
「あれ……?通じてる……?」
「はい。英語でなくても大丈夫ですよ」
「え……?そ、そうなのですか!?」
恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして、ワタワタしているイコナ。
「ミスター。お連れのお嬢さんに、贈り物のお礼にお茶をご馳走したくありますが、許可頂けますでしょうか?」
「もちろんだ、上等兵。ただし、失礼の無いようにな」
「ハッ!」
「という訳でイコナちゃん。彼が君にお茶をご馳走したいそうだが、招待を受けて頂けるかな?もちろん、ワシらも一緒に行くぞ?」
「は、ハイ……。えっと、あの、よ、喜んで……」
「光栄であります!」
兵士は直立不動の姿勢で、イコナに敬礼をする。
(何がロリコンは日本の風土病だ、全く……)
鉄心は、マイクの誠実なんだか適当なんだかよくわからない人柄を思い出し、「自分は友人は選ぼう」と固く心に誓った。
「いたぞっ!侵入者だっ!」
「追えっ!逃がすなっ!」
「ひょ、ひょえぇ〜!も、もう来たの!来るのが早い〜!!」
背後から迫ってくる足音に、土雲 葉莉(つちくも・はり)は全速力で廊下を走る。
彼女は今、キャンプ・コートニーの司令部の中を、逃げ回っていた。
主君である樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)から、アメリカ海兵隊基地に潜入し、アメリカ軍による東州公暗殺を裏付ける物的証拠を手に入れてくるよう命令を受けた葉莉は、単身司令部への潜入を試みたのである。
初めの内は、万事上手くいった。
《密偵》の技術を使って街娘を装い、基地の敷地まで近づいた所で《隠形の術》で姿を隠し、更に接近。
《殺気看破》や《超感覚》で周囲を警戒しつつ、フェンスや外壁は《壁抜けの術》で通り抜け、司令部内への潜入を果たしたのである。
しかし、ここからが問題だった。情報部のモノと思しき部屋を探り当て、《ピッキング》では解除不能なカードキー式の電子錠がかけられたドアを避け、壁抜けした所――そこに、人がいたのである。
おそらくあれは同業者だろう――いやむしろ内通者と呼ぶべきか――と葉莉は思う。
何故ならその人物は、部屋の電気も付けずに、懐中電灯一本で室内を探しまわっていたからである。
内通者、と判断したのは、彼が海兵隊員だったからだ。
彼は葉莉の姿を見て、ためらうこと無く緊急通報スイッチを押したのである。
(と、とにかく早く外に出なくっちゃ……。えぇい!)
まずは一刻も早く建物の外に出るのが先決と、葉莉は最も簡単に外に出られる方法――突き当りの壁を、《壁抜けの術》で通り抜ける――を選んだ。
外に出た葉莉は、周りを見回してだいたいの位置を確かめると、一番手近な森へ向けて走りだす。
周囲には、葉莉を探していると思しき探照灯の灯がいくつもきらめき、何人もの人間の声と足音が辺りにこだましている。
葉莉は、その探照灯の間を縫うように走り、基地の敷地を取り囲むフェンスも壁抜けする。
フェンスを抜ける時、一人の兵士に姿を見られたが、振り返ること無く全速力で走り続けた。
突然、首の後ろにぞわわっという強い殺気を感じ、咄嗟に横っ飛びする葉莉。
「タタタタッ!」
という乾いた連続音がして、殺気まで葉莉がいた場所に土埃があがる。
「う、撃って来たぁ〜!」
葉莉は【煙幕ファウンデーション】を取り出すと、それを地面に投げつけた。
白い煙幕が広がり、葉莉の姿を追手から隠す。
葉莉は何とか森まで辿り着いた葉莉は、手近な樹に身を隠して、後ろを確認する。
幾つもの灯がこちらに迫ってきているのが見えた。
(ま、まだ追ってくる!もっと遠くへ逃げなきゃ!)
行き着く暇も無く、さらに駆け出す葉莉。
確かに何も手に入れることは出来なかったが、それなりに収穫はあった。
一つは、今海兵隊で何がしかの陰謀が進行中であると、分かったこと。
そしてもう一つは、オフィスを探しまわっていた男の顔を、はっきりと見たことである。
この記憶を頼りにさらに調査を続ければ、きっと陰謀の尻尾を掴めるに違いない。
(ハッ!もしかしたら、ストーカー気味の海兵隊員が、気になる同僚の行動を把握したくって、盗聴器を仕掛けてたという可能性も無くはないかも……?い、いや。強いて問題を矮小化するのは止めよう。そんなしょーもないコトのために命張ってるのかと思ったら、逃げる気力が急速に失せてきた……)
葉莉は、そう自分に言い聞かせて、必死に逃げ続けた。
結局、葉莉が何とか追っ手を巻いて、無事に帰り着いたのは、太陽がしらみ始めた頃だった。
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