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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

リアクション


【1】電子の海でショタコン一本釣り……4


 その様子を向かいの喫茶店から藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は見ていた。
 玉突き事故で皆が慌てている中、平然と紅茶を口に運ぶ彼女の異常な落ち着き様は不気味なレベルである。
 この程度の混乱など、彼女にとっては取り乱すに値しない。
「四人目の五大人も敗北……。この分では、空京の勢力図は黒楼館の台頭を持ってしても変わることはないですわね」
 おそらくこの戦い、制するのは万勇拳。
 高みの見物を決め込む彼女は、黒楼館無きあとのことを早くも考えている。
 空大の図書館で借りてきた、空京の都市計画やコンロン風水術の書物がテーブルにうず高く積まれている。
 彼女の関心は龍脈にあった。
「……まぁ、ユールさんのお力をPーKO以外に勝手に使われるのは不愉快ですし」
 彼女はそう思い込んでいるが、本当にユールの力と言えるのかは謎である。
 都市計画に関する資料にも龍脈の記述はない。何故なら、この龍脈という概念はコンロン独自の概念だからである。
 例えば、世界を認識する者がいなければ、世界は存在していないと同じように。
 龍脈もまたそれを知る存在がいなければ無に等しい。
 自らの一部とは言え、おそらくユール本人ですら、龍脈を認識していないだろう。
「しかし龍脈の情報はあまりありませんわね。コンロン風水術の本は大体目を通しましたけど……」
 コンロン風水術は、地球の風水術同様の物の位置関係で気の流れを操る術と記されている。
 龍脈も地球の風水同様に大地を流れる気の場所とか。パワースポットだとか。胡散臭い書かれ方をしている。
 龍脈を操る方法等はコンロンの一部に伝わる秘伝、それゆえ術に関する資料はまだ空大の図書館にはないのだろう。
「やはり、龍脈に関しては関係者に聞いたほうが早いのかもしれませんわね……」
 不敵に微笑む。
 と、その時、彼女の横を駆け抜ける二つの影があった。
 万勇拳門下生の琳 鳳明(りん・ほうめい)南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)だ。
「ミャオ老師、門下生のみんなと一緒に仇は必ず討ちます! だから、空から見守っていてくださいねっ!」
 注:死んでません。
「このサイン入りの自費出版本は形見として持っていきますから!」
 ヒント:まだ生きてます。
「いい加減、空気とお喋りしてる場合ではないだろ」
「ごめんごめん、真面目にやる」
 カッと目を見開き、精神統一からの集中力向上によって、鳳明の知覚が瞬く間に研ぎすまされる。
 見えないものを見る技術、それによって探すのは龍脈だ。
 幸運を味方に付けた黒楼館に立ち向かうためには、まず龍脈をどうにかしなくてはならない。
 2人は人気のない路地裏で足を止めた。
「なんかここっぽい」
 鳳明は武産合気の構えをとり、大地を流れる気を肌で感じる。
 激しく流れる急流とは違う。一見すると湖にも見えるほど、川幅の広い巨大な大河のイメージだ。
「はあああああっ!!」
 気合いの叫びとともに、彼女の纏う気が大きく膨れ上がった。
 黒楼館が気の流れを操ると言うなら、この気の流れ自体を止めてしまえば、彼らを守る加護は消えるはず。
 手段としてはあまりにも無謀だ。しかし無謀に挑む勇気こそ未来を切り開く力に相応しい。
「万勇の明日を作るため、勝利への筋道になると信じて、力の限り拳を振るう! 行けっ! 豪流旋蓮華!」
 高めた気を足元に叩き付ける。
 丹田に気を集中し、止まることなく循環する気をイメージする。
 自らの気を龍脈と一体化させ、自信の気もろとも龍脈を動かすように、イメージをより強くしていく。
 しかし流れる気の大河はあまりにも大きい。むしろ彼女の気はあっという間に飲まれ、感覚が消えてしまいそうだ。
「今しばらく耐えろ!」
 ヒラニィの拳に気が集束する。
「ひとたび放てば大地が爆ぜる我が渾身の一撃……天地鳴動拳!!」
 大地に突き立てた拳から、気が波紋となってアスファルトを流れた。
 地面を打った衝撃がゆっくり虚空に消えると、そのあとから追いかけるように静寂が訪れた。
「……龍脈が鎮まったか」
 ふぅと一息。
「……違う」
「む?」
 次の瞬間、ガタガタと激しく大地が揺れ動いた。
「な、な、なんなのだ!?」
「なんだか嫌な予感がする……。と言うか、なんか龍脈がグツグツ沸騰してるように見えるんだけど……」
 鳳明の目には足元を流れる大河が、まるで爆発寸前の火山のようなイメージで目に映った。
 龍脈など人間の力でどうこう出来るようなものではない。そこに中途半端に手を出した報いは大きいのだ。
 2人の放った気は龍脈に届くなり、完全に弾き飛ばされ、なんか勢いをましてそのまま跳ね返って来た。
 突然の衝撃波がヒラニィを天高く吹き飛ばす。
「のわあああああああ!!!」
「ひ、ヒラニィ!?」
 残念ながら、彼女に人の心配をしてる余裕はなし。続く衝撃波が、鳳明の真下から火山のように噴き上がった。
「きゃああああああああああああっ!!!」
 スペースシャトルの打ち上げの如く、砂煙を路地裏に残して、二つのシャトルは星となった。