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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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【2】開運龍脈風水……2


 黒楼館裏口。
 既に乱闘に発展してる正門前とは違い、こちらはなんとも退屈そうな空気が漂っていた。
「なんだか正門のほうがうるせーけんど……。ま、いっか……」
 あくびをする門弟だったが、その前にふと立川 るる(たちかわ・るる)が現れた。
 眉を「むっ?」寄せるが、害の無さそうな彼女の雰囲気に、寄せた眉をそそくさと戻す。
「あの、黒楼館の方ですよね?」
 るるが言うと、彼の胸がドキリと高鳴った。
「み、見りゃわかんだろうがっ。な、なんだお前は。ここは女子どもの来るとかじゃねーぞぉ」
「たくましい方って素敵……。あっちで二人きりでお話しませんか?」
「お、オイラと?」
「るるじゃダメなの……?」
「い、いや、そんなことねぇけど……(ドキドキ」
 手を引いて連れ出すと、ハーメルンの笛吹きに連れてかれる子ども達の如く、ふらふら暗がりまで付いて来た。
「こんな暗がりに連れ込んでオイラに何しようってんだい?(ドキドキ」
「すぐ済みますから」
「ん?」
 はっと暗がりを見回せば、鋭く光る眼が複数。
 くるくる巻いたゴージャスな髪に、けばけばしいメイク。アニマル柄のド派手な服がギラギラと眩しい武闘派集団。
 その名もギャル。
「な、なんだ、おまえら!」
「うるせー! うちらのシマ荒らしやがったの忘れてねーぞ!」
「黒楼館テメーこの野郎! ざっけんな、オラー!!」
センター街、バスケ通りに改名したのもてめーらの仕業だろ! 全然定着してねーぞ、このヤロー!
「ち、ちが……!」
 死肉に群がる禿鷹バリに、デコバットでボコスカ動かなくなるまで叩きのめす。
「流石ですねー。さぁ皆さんこっちこっち。るるに付いて来てください。黒楼館に乗り込みますよー」
 裏口から入ると、門下生達の宿舎のところに出た。
 気づかれないよう、ギャル軍団を先導して、るるはそろそろと中を進む。
「上手く忍び込めましたね。黒楼館とか言って案外ちょろいですね、アゲハさん」
「だね。でもここ敵の本拠地だし、油断してっとマジやばいと思うんだよね」
「?」
「やっぱ油断大敵つーかさ、ノッてる時ほどクールに行かないとマジやばいと思うわけよ、あたしは」
「そ、そうだよね。ごめんなさい」
「うん、まぁわかってくれればいいよ」
 とそこに、怖い顔の門弟が集まって来た。
「げげっ!?」
 るるは思わずアゲハの後ろに隠れた。
「どうして忍び込んだのがバレたの……? 警備システムは死んでるって小次郎さんが言ってたのに……?」
「あのなぁ……」
 敵はポリポリと頬を掻いた。
そんな馬鹿デカイ頭で入ってきて、バレねーわけねーだろ!
 ビシィと指差したのは、勿論全長2メートルの盛り髪だった。
「え、あたしの所為?」
 全然申し訳なさそうである。
「ち、違うんです!」
 るるは言った。
「るる達は黒楼館さんのファンで……、あまりにも気持ちが昂り過ぎて思わず不法侵入しちゃって……」
「行き過ぎたアイドルファンかよ!」
「つか、嘘だよ! だって血の付いたバット持ってるもん、この娘たち!」
「ほんとです。証拠にちゃんとお花を持って来たんです」
「花?」
 差し向けられた花束に油断した瞬間、中から大量の蜂が飛び出して来た。
「うわわわわっ!!」
「今です!」
 蜂の大活躍に乗じてギャル達が一斉に殴り掛かった。デコバットをアゲハから借りて、るるも血祭りに参加する。
「大体、むかつくのよー! 空京の龍脈なのに余所者がひとりじめしちゃってさー!」
「ぎゃあっ!」
「空京に暮らす……アゲハさんとかギャルの皆さんとかるるみたいなJK(女子空大生)のために使うべきでしょ!」
「ほぎゃああああ!!」
「きっちりケジメつけなさいよ! 黒楼館!!」
 しかし向こうは幸運に守られた連中、飛び交う蜂達は敵を刺すことなくどこかへ飛んでいってしまった。
 すぐさま態勢を立て直すと、黒楼館は反撃に転じる。
 そして、一団を率いるちょっと腕に覚えがある感じの男が、アゲハの前に立ちはだかった。
 パンダの刺青を背負う筋骨隆々の無頼漢。彼の登場で、黒楼館の門弟たちはざわめいた。
パオパオさんだ」
劇烈毒手拳のパオパオさんが来たぞ」
「あいつらもう終わったな。パオパオさんは黒楼館の警備班を仕切ってる凄腕中の凄腕なんだぞ」
 パオパオは紫色に変色した左手を、見せびらかすようにアゲハに向けた。
「くくく……コンロン奥地に棲息する毒虫の猛毒に十年間漬け込んだ毒手。ひとかすりで、アフリカゾウも即死する」
「はぁ? 手ぐれー洗えよ、きったねーな!」
「ダメだよ、アゲハ」
 さささっとアゲハの前に、鋼鉄の不快発生装置ことブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が転がり出て来た。
「彼は出来る男だよ。いつものテキトーなテンションで挑んだら痛い目に合うよ」
「じゃあお前やれ」
「え?」
 思わずアゲハを二度見した。
「だったらお前があいつぶっ倒せ」
「ええと……」
 あらためてパオパオを見る。めっちゃ強そうだ。
「うおおお、腹が……」
 ブルタは咄嗟に腹を抱えた。
ごめん、アゲハ急に腹が! 戦いたいのは山々だけど腹が! とてつもなく腹が痛いんだ!
「おめー、情けねーこと言ってんじゃねーよ」
 げしげしとブルタを蹴る。
「ご、ごめん。ちゃんと手伝うから……おい、ちゃんと働けよ!」
 そう言うと連れて来たぐるぐる巻きのカソを蹴飛ばした。
「な、何するアル!」
 無抵抗の奴には滅法強い、それがブルタズジャスティス。
「話は簡単さ、カソ。お得意の仙灸術でちょいと彼女をパワーアップさせてくれればいいんだ」
「はぁ、なんでそんなこと……」
 べしっと蹴飛ばす。
「言葉には気をつけるんだね。ボクにとって弱きをくじくなんて雑作もないことなんだよ?
最低アル……
 しぶしぶカソは指示どおり、アゲハの秘孔を突いた。
「一日しか持たない秘孔アルが効果は覿面アル、その名も『即席長所活性孔』アル」
 その途端に、アゲハの天を突く盛り髪が弾けて、タコの足の如くわらわらと蠢き始めた。
「マジ活力に溢れてるんだけど」
 即席長所活性孔はその名の通り、突いた対象の長所が超絶強化されると言うものなのだ。
「どうだい、凄いだろ、アゲハ。髪を自在に操れるようになれば、手癖の悪いキミの長所も生かせるよ」
「あ?」
「豚のように寝転がってもリモコンからポテチまで身体を動かさずに取れるんだ。ものぐさなキミにピッタリだろう」
 ブルタはビシィと親指をおっ立てた。
「名付けて『空京スカイツリー拳』だよ!」
「誰がものぐさだ、てめー」
 うねる髪がブルタの首根っこを捕らえ、そのまま吊るし上げた。
「ぐ、ぐるじい……」
 しかしこの異常光景を見せられても、歴戦の士たるパオパオは動じなかった。
「ふん、それはお前ではなくカソ大人のお力が凄いのだ。俺の毒手で黙らせてやる」
 毒手を構え「うおおおお!」と駆け出した。
 ところが、うねる髪がひょいと首を絡めとって、パオパオごと宙吊りに。
「ぐるじ……ぶくぶく……」
「空京スカイツリー拳奥義『絞首刑昇天盛り』なんですけど」
 ブルタと仲良く並んで吊るされたパオパオは、アゲハの髪の一部となってグッタリ動かなくなった。
「んじゃ、この調子でどんどんあたしの髪飾ってくから、死にたい奴から前に出な」
「ひええええ!」