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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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【2】開運龍脈風水……4


 黒楼館五重塔。
 闇の秘術を行うための祭事塔なのだが、第三層に館主ジャブラ・ポーのオフィスがある。
 階層はそれほど広くもなく、20人も入ればいっぱいになってしまう。
 赤を基調とした趣味の悪いオフィスには、コンロンの豪華な工芸品、壷やら布やら銅像が並んだりしている。
 カメレオン型ゆる族のジャブラは、味のある葡萄色の長椅子に寝そべり、静寂を破って現れた部下を一瞥した。
「どうした、騒々しい」
「大変です。賊が侵入しました。おそらくは万勇拳一派、しかもその中にバンフー様の姿があったとの報せが」
「バンフーめ、姿を消したと思えば、そう言うことか」
「それがその、カソ様やラフレシアン様とも連絡が……」
「なんだと?」
「カラクルはどうした?」
「か、カラクル様とも二時間前から連絡が取れません」
「……万勇拳め、やってくれるじゃないか」
 ジャブラは長椅子からゆらりと起き上がった。
「連中の狙いはここだろう。しかしこの俺がいる限り、先には進ません」


 そのころ、一階では殴り込んで来た万勇拳一派と黒楼館の小競り合いが始まっていた。
 それほど広くないのは万勇拳にとっては幸いだった。見張りの敵も少数、力で押せば押し切れる数だ。
「ここは私たちが引き受ける。てめぇらは先に進め」
 顔面凶悪メイドのリンダ・リンダ(りんだ・りんだ)は言った。
 追いすがる敵の前に、リンダは堂々と立ちはだかり、階段を駆け上がる仲間の背中を守る。
私が万勇拳一番弟子のリンダ・リンダである!!!
 リンダの一喝が敵を震わせた。
 しかし一番弟子は別の人だった気がするが……、まぁリンダが思うならそうなんだろうな、リンダの中では。
「黒楼館にケンカを売るとはいい度胸だ、女ァ!」
 敵の拳がリンダに迫る……しかし、その拳は割り込んで来た超人猿によって止められた。
「なっ!?」
 よく見れば、一階の梁やら柱の上に、リンダの連れて来た猿たちが陣取っている。
「い、いつの間に……」
「ただの猿だと侮るなよ。万勇拳一番弟子の私が夜な夜な万勇拳の秘伝を聞かせ睡眠学習を施した格闘猿たちだ」
「猿だと?」
「気を付けろ。お前達を全力で叩き潰すために連れて来た最終兵器だ。甘く見てると怪我じゃすまない」
「ふん、随分と怒り心頭のようだな。そんなに師匠をやられたのが悔しいか」
「……それだけじゃない」
「?」
「お前達は愛美を泣かせた……。愛美が泣いている。私の妹弟子が泣いている。それが戦う理由だっ!!」
 リンダは何を思ったか、自らの服を惜しげもなく脱ぎ捨てた。
 敵がギョッとして固まったところに、一斉に猿たちが飛びかかった。
「これが俺ジナル奥義『セクシー目つぶし日光猿群弾』!!」
 お猿の無影脚が、お猿の天空流星脚が、お猿の抜山蓋世が、次々と敵に繰り出される。
 敵も手練の拳士、お猿に遅れをとることはないものの、空間を飛び交う敵を捉えるのに苦労しているようだ。
「……なんだかしょうもない技をリンダが開発したようだが、時間はこれで稼げるな……」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は敵の目を盗んで支柱に忍び寄った。
「五重塔か。まるで昔のカンフーゲームだな……」
 柱に機晶爆弾を設置していく。
「しかしこれはゲームじゃない。敵を順番に倒していく必要もなければ、それ以外のクリア方法がないわけじゃない」
 不敵に笑った。
「要は最上階の祭壇が祭壇として機能しなくなればいいんだ」
 それからレンは天井を見上げた。
 先行する万勇拳一派はバンフーを先頭に、第二階層の敵を蹴散らし、勢いづいて三階まで駆け上がった。
「来たか、バンフー」
「……BOSS」
 ジャブラと門弟たちが、四階へ続く階段の前に立ちはだかっていた。
「殺す前にひとつ聞いておきたい。何故、俺を裏切った」
「簡単な話だぜ、BOSS。黒楼館にいたんじゃ俺は成長出来ねぇんだYO」
「なに……?」
だって、黒楼館にラップ出来る奴がいねーんだYO!
「…………」
「万勇拳にゃいいラッパーがいるんだ、メーン!」
「馬鹿馬鹿しい。貴様が死ぬ理由はそれでいいんだな……」
 ジャブラの身体を凄まじい闘気が覆った。
 ちょうどその時、二階にテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)の姿があった。
 憑依中の奈落人マーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)は部屋を部屋を見回し敵がいないことを確認する。
 先行する万勇拳一派の影に隠れていた彼女は、ちょうど彼らが三階へ上がる寸前で分離したのだ。
「ジャブラの立ち位置はこの辺だったな……」
 天井を見上げて言った。
 それから機晶爆弾を円形に設置していった。
 風水祭壇破壊計画は誰か一人でも上に行きさえすればいい。ジャブラさえやり過ごせれば充分に達成可能な計画だ。
「第二回層を吹き飛ばし、ジャブラをここに落とす」
 マーツェカはそう言うと、スイッチに手をかけた。
 おりしもそのころ、第一階層ではレンが爆弾を設置し終え、彼もまたスイッチに手をかけた。
 そして、2人は同時にスイッチを押した。
「……なんだ?」とマーツェカ。
「……どうして爆発しない?」とレン。
 不発だった。
 それもそのはず、階層を爆破すれば複数の黒楼館関係者を巻き込むことになる。
 龍脈の加護を誘発するには充分な条件だ。
 作戦は失敗。敵にこちらの存在が気取られている以上、もはや己の身ひとつで道を切り開くしかなくなった。


「チェケラ!」
 Hip-Hop Kenpow奥義『チェケラッ掌』が炸裂、バンフーはかつての仲間を次々に床に転がしていった。
「下克上だぜ、HO! このまま黒楼館のてっぺんも頂いちまうか!」
「図に乗るなよ、カスが」
 チェケラッ掌をジャブラの奥義『龍牙掌』が圧倒的な拳圧を持って弾き飛ばす。
「!?」
 態勢を崩された一瞬の隙に、ジャブラは光学迷彩で姿を消した。
「き、きたねぇぞ。正々堂々姿を見せやがれ、オラ、ちゃんとステージに上がれ、Fuck野郎!」
「黙れ」
「がはっ!?」
 バンフーの鳩尾に見えない龍牙掌が突き刺さった。
 龍牙の如く気を鋭く尖らせた掌打が、深く腹部に突き立ったまま、めきめきと素手で肋骨をへし折っていく。
「ぐわああああああああ!!」
 悶絶してバンフーは血反吐を吐き出す。
 ジャブラは光学迷彩を解除して姿を現し、四階へと進もうとする万勇拳一派に目を向けた。
「……待つッス!」
 どっかの霊山の仙人 レヴィ(どっかのれいざんのせんにん・れう゛ぃ)は言った。
「お前の相手はこの師匠ッス!」
「なんだ、貴様もそこのカスと同じになりたいのか?」
 大きな目をぐるりと回し、うずくまったまま動けないバンフーを見下ろす。
「師匠、友達傷付けられるのは嫌いッス。何よりも肉まん食べたいんス。それにカメレオンさんキモイッスから……」
「何が言いたい?」
「だから師匠は、お前を許さないッス……!」
「なんでもいいけど、早く終わらせてメシ食わせてくれよー」
 夜月 鴉(やづき・からす)はぐるるる鳴るお腹を押さえて言った。
 今日はほんと踏んだり蹴ったりである。昼メシを食べ損なってから数時間、まだ何も胃袋に入れられてない。
「すぐに済むッスよ」
「何か秘策はあんのかよ?」
「勿論ッス。もう絶対的幸運が相手じゃどうにもならないッスから、いっそのこと幸運を持ってきてやったッスよ」
「なんだよ、その幸運って?」
「このよくしゅヒルさんッス。カメレオンさんが幸運に思う事、それは……美味しそうなごはん見つけた時ッス!」
「うげぇ」
 レヴィはおもむろにヒルを投げつけた。
「さぁこのご馳走に酔いしれて隙だらけになるッスよぉ!」
「……龍尾返し」
 ジャブラがぺしっとヒルを弾くと、大量のヒルがレヴィの頭に降り注いだ。
「ぎゃあー! キモイッス! クロさん助けるッス!」
「げげっ。自分でなんとかしろよぉ」
「ふざけた奴らだ」
 再びジャブラは姿を消した。
「や、やばいッス!」
「……ったく」鴉は殺気看破で位置を探り「ボケ師匠、正面だ! 気ぃ引き締めろ!」
「ら、らじゃーッス!」
 鴉の指差す方向に、レヴィは回し蹴りを放った。
「!?」
「か、からぶったッスけど?」
「右に逃げた!」
 すかさず裏拳を繰り出す。しかしこれもまたジャブラは紙一重で見切って回避した。
「くそ、こちとら師匠に付き合わされてハラペコなんだ。とっとと倒れやがれ」
「食らうッスーーっ!!」
 放った遠当てが空を裂き、壁に命中すると雷光の鬼気による電撃がほとばしった。
「……なるほど。ただの攻撃ではなかったと言うことか」
 ひとかすりでもすれば電撃でダメージ、上手くすれば麻痺も狙えたが、幸運なことにジャブラは回避に専念していた。
「くくく……、防御するか避けるか迷ったが、避けて正解だった。運がいい」
「くわぁーなんで当たらないッスかー!」
「とか言ってる場合じゃねぇ、来る!」
 必殺の龍尾返しが2人を吹き飛ばし壁に叩き付ける。
「きゃあああああーッス!!」
「ぐわああああっ!!」
「死ねぇ!!」
「させない……!」
 トドメを刺そうとするジャブラの前に、凄まじい速度で白星 切札(しらほし・きりふだ)が割って入った。
 空気を切り裂く蹴打が、ジャブラの胸に突き刺さり、反対側の壁まで吹き飛ばす。
「……ぬぅ!」
 壁に激突したジャブラは光学迷彩が解除された。
 切札の身体からは異常なほどの気が溢れ出していた。気が具現化し、煙のように立ち上っている。
「……ふん、その気の量。何か小細工をしたな、小僧」
「ええ、あなたの部下のカソの力を貸して頂きました」
 先ほどアゲハに突いたのと同じ、『即席長所活性孔』を彼も突いてもらった。
 彼の得意技である足技に気が尋常ではないほど乗ると言う効果だ。
「万勇拳の門下生として、やれることは全てやっておきませんと」
 更に、鋼勇功で全身を覆って、能力を劇的に上昇させる。
「……過ぎた力は身を滅ぼす。自滅する気か、貴様?」
「その前に、あなたを倒せれば本望です」
 切札は間合いを詰め、無影脚を放った。続けざまに三火遅延返脚、舞蹴・河岸潰堤と蹴打を浴びせていく。
「……くっ!」
 龍鱗と同等の防御力を誇る『龍鱗功』でジャブラは身を守る。
「はああああああっ!!」
 そして、渾身の抜山蓋世。
「ぐあああああっ!!」
 全闘気を乗せた必殺蹴りの前に、鉄壁の防御も弾き飛ばされ、ジャブラの身体はガラ空きとなった。
 そこに繰り出すのは、無論、彼が修行を積んだ必殺の蹴り技『死神の鎌』だ。
 鎌を思わせる冷たく鋭い蹴りが首元を刈り取った……かに見えた。
「!?」
 叩き込んだ一撃は蹴り抜けること叶わず、ジャブラの首で止まったまま微動だに出来なくなった。
「くくく……、少し冷やりとしたぞ、小僧」
 切札は全身から力が抜けていくのを感じた。
 闘気全開の状態から必殺技の連続、そして最も気を消費するであろう抜山蓋世。
 それでは死神の鎌に込めるだけの、充分な気を維持出来なくなるのも当然である。
「幻魔無貌拳奥義『龍乱撃』!!」
 両手から繰り出す龍牙掌の連続攻撃が、切札の胸をズタズタに引き裂く。
「ぐあああああっ!!」
 血飛沫を撒き散らし、ごろごろと床を転がった。
「ふん……」
 ジャブラが踵を返したその時、切札は力を振り絞って立ち上がった。
「ま、待て……」
 気が底を尽き、重傷を負っても尚、彼は修練を積んだ構えを崩さなかった。
「何故、倒れない?」
「心が折れない限り、何度でも立ち上がる。それが不屈の万勇魂です……!」
「師匠たちも忘れないでほしいッス……!」
「やられっぱなしじゃ、このあとのメシがまずくなるからな……!」
 レビィと鴉も復活し、やられても尚燃え盛る闘志を、ジャブラに向かって放つ。
「……いいだろう。地獄に送ってやる」