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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第一章 本之右寺1

 長きに渡って続いたマホロバの戦乱の世は、一人の風雲児によってまとめられようとしていた。
 その名は織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)
 武力によって天下を治める 『天下布武』 を目指して、急速に勢力の拡大し力を伸ばしてきた。
 扶桑の都を目前にし、今もっとも天下に近いといわれる戦国の覇者である。
 誰も信那の勢いをとめられず、やがて織由時代がやってくる、そう思われていた。
 それがわずか一朝にして炎とともに滅びるのである。
 戦国時代最大の事件が起ころうとしていた。



【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月2日 未明】
 本之右寺(ほんのうじ)――



 夜明け前の境内はまだ寝静まっている。
 あたりは暗く、わずかな見張りが交代で立っているだけだった。
「……?」
 何かがよぎった気がする。
 そう思ったときには遅かった。
「て、敵襲……!」
 煙幕とともに衝撃波が襲った。
 荷馬車の上にのった伊達 正宗(だて・まさむね)が突進してくる。
「腑抜けてんじゃねえよ。戦ってのはな、気ィ抜いたほうが負けなんだよ!」
 あれほど勇猛を誇った織由の軍勢はここにはいない。
 正宗は強者はいないかと、いささか物足りなそうに刀を振り回していた。
「織由信那の陣営が、わずかな警備のみであるという情報は正しかったようだな」
 夜月 鴉(やづき・からす)が、侵入経路を確認していた。
 自分たちがこのように侵入してこれたのも、『協力者たち』のおかげである。
「あとは光秀が……」
 彼、いや彼女は、再び同じ歴史を繰り返そうとしている。
 鴉にはそれが正しいのかはわからない。
 歴史を変えてしまう手助けをしてよいものかもわからない。
 しかし事実は必然として繰り返されようといている。
 それを時空を越え『月の輪』をくぐった者たちは目撃するのだ。
 目をそらすことは許されない。
「それにしても」
 鴉は先ほどから何か薄気味悪い視線を感じる。
「まるで俺たちの行動を喜んでいるかのような」
 頭上から反撃の弓矢が降り注ぎ、鴉の思案もそこで振り払った。
「狙いは只ひとつ、織由上総丞信那のみ!」

卍卍卍



「謀反です! お逃げください、信那(のぶなが)様!!」
 手負いの小姓が、信那のもとへ飛び込んできた。
 信那は起きあがり、すでに弓を抱えている。
「誰の謀反か?」
「それが……」
 小姓が言いよどむと、よく通る女性の声がきこえた。
「織由上総丞信那様とお見受けします。ここからお逃げくださいませ」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が襖を開けて入ってきた。
「何ものぞ」
「鬼城様に縁あるものです。正確には、これより一千五百年後の鬼城ですが」
 信那は目を細めて祥子を見た。
「鬼城? 鬼城 貞康(きじょう・さだやす)か、それとも{red鬼子母帝(きしもてい)のことか?」
 そのどちらも、織由とは敵対していないはずだ。
 しかし――戦国乱世において、絶対などどいうものはなかった。
 このようなときに冗談などきいている場合ではない。
「是非もなし」
 信那は弓を片手に小姓とともに応戦に出る。
 祥子も間単に説得できる相手とは思ってはいない。
「誤解されませんよう、私たちはお味方です。どうぞお逃げください。信那様がマホロバの歴史から姿を消すのは動かせない事実。しかし、死ぬことは避けられるはず! 私どもの未来では齢百歳も珍しいことではありません」
「何だと?」
 信那は弓の手を止めた。
「そなた鬼城の縁のものと申したが、鬼の血が入っているのか」
「そうではありません。先の世では……鬼にならずとも智と技、そしてなによりも平和が、人間の寿命を延ばしたのです」
 祥子はさっと襖を開き、信那に外を見るように促した。
 まだ薄暗い月明かりに、イコン南斗星君のシルエットが浮かび上がっていた。
 この鋼鉄の乗り物は未来から持ってきたものだといい、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が小姓ともども逃がすという。
 信那はだんだんと祥子の言葉が冗談ではないと考えだした。
 とすれば、今この状況も夢などではない。
 信那は大きく息を吸い込んだ。
「今、敵はどこまで来ている」
「本之右寺はすでに包囲されております。私どもが逃げ道を確保いたします。さあ、こちらへ」
と、同人誌 静かな秘め事は、まだあどけなさの残る少年たちに向かっていった。
「小姓たちは私とイオテスさんで手分けして連れていきますわ」
瑞穂国に遠征にいかれている羽紫 秀古(はむら・ひでこ)様のもとへお送りいたしましょう」
 イオテスも後に続いた。
 しかし――

「そうは……させませんよ?」
 彼らの道をふさぐように彼女たちは立っていた。
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は両手を前に組み、始終笑顔である。
 しかしその笑みは『ナラカの仮面』で隠されており、頭には『鬼神力』よって生やされた黒い角があった。
 アルコリアはスカートの端をつまみ、うやうやしく挨拶をした。
「ごきげんよう、信那公。冥府から『鬼』が迎えに参りました」
 アルコリアの動きに合わせて、魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)がけたたましい笑い声を上げながら、彼女に纏いつく。
「あと一月あればってさー、残念でした! 天下を治めたその瞬間に死ねば同じだね。それで満足した?」
 他にも信那を狙う殺気がある。
 マントで暗闇の中に潜み、姿を隠しているナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)である。

どこかで鬼の笑い声が聞こえた。

「ああ、ここにいらしたのですね。信那様」
 明智 光秀(あけち・みつひで)がふらふらと歩いてきた。
 英霊となった光秀は、過去の自分と目の前の信那の姿を重ねていた。
「我が主に許してもらおうとは思いません。過去の所業を隠すつもりもありません。私は、謀反者です。昔も、今も」
 光秀の記憶には、あの日の出来事は鮮明に焼きついている。
 主への反逆と避けられぬ自らの死。

 再び鬼の笑い声がした。

「随分と懐かしい。あら、この姿では『はじめまして』かしら。光秀殿、いえ今は光秀嬢でしたわね」
 松永 久秀(まつなが・ひさひで)が笑みを浮かべて寄る。
 この緊迫した空気が彼女には心地いい。
「史実の再現ねえ……安っぽい再現ドラマにならなければよろしいのだけど。そうね、この久秀がお手伝いしてあげるわ」
 夜月 鴉(やづき・からす)伊達 正宗(だて・まさむね)が侵入の際に言っていた『協力者』とは、この久秀たちのことである。
 外では久秀の契約者である、佐野 和輝(さの・かずき)スノー・クライム(すのー・くらいむ)がイコングレイゴーストを使い、引き入れているらしい。
 何者かの導きによるものなのか。
 思いもよらぬものたちの登場に、信那は怒りに我を忘れた。
「ああ、確かにお前たちとよく似た顔立ちがいるな。一人は俺のくそ真面目な家臣で、もう一人は勝ち馬にのって裏切り逃げ続ける男だ。何にせよ、信那にたてつくとは……許さん!」
 信那は弓を構え矢を放つ。
 矢がつきれば、槍を手にする。
 若いころから野山を駆け巡り鍛えた身体と勘の良さは衰えてはいない。
 凄まじい猛攻である。
「助太刀するぞ、信長!」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)とともに加勢に入った。
「お前たちが……謀反人だと!? 謀反人とは、この時代の人間じゃないのか!」
 忍は唇をかんだ。
 何かがおかしい。
 この事件は歴史的事象ではなく『仕組まれて』いる。
 起こるべくして起こったのではなく、それを知る者が『起こした』のだ。
「光秀……わしは」
 信長の視線は光秀に注がれていた。
「またこの光景を見ることになるとはのう」
 かつての家臣は黙ったまま、主にどうぞ首を落としてくださいとばかりに頭を下げている。
「わしは、そのような姿みとうなかったわ!」
 信長は呪文のような言葉を発したかと思うと鋼鉄の軍勢を次々と召還した。
 謀反者へむかってたきつける。
 因縁を許すことは簡単かもしれない。
 素直にはなれなかった。
「信長さん……僕も!」
 忍や信長と一緒にやってきたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)も、一瞬胸が痛んだ。
「僕、考えたんだ。もし、信長が生きていたら日本はどうだっただろう。同じように、信那が生き残ったとしたら?」
 世界は変わっただろうか。
 ……どのように?
 ここにも、過去を悔いている人間がいた。
「このお乱も、信長様をお守りいたしますゆえ!」
 森 乱丸(もり・らんまる)も防御に徹しながら合流した。
「あの時はお護りできませんでした……でももし、また許されのなら、どこまでもついていきます!」
 乱丸は信長たちの盾になろうと踊りでる。
 しかし、信長は乱丸の肩をつかみ下がるように言った。
「その心意気、嬉しく思う。だがわしもおまえが倒れる姿を見たくはないのじゃ」
「信長様……」
 事実、アルコリアたちの攻撃をかわすのが精一杯である。
 この空間を支配する何かが、彼女たちの行動を後押ししているように感じた。
 じりじりと押され続けている。
 どこかで「火事だ!」との声が上がった。