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リアクション
●校長室の出来事(2)
一時間もせぬうちに、新たな来客が校長室を訪れていた。
「ケーキ、食べるか?」
樹月 刀真(きづき・とうま)だ。途上で買ってきたのだろう、ケーキ屋の包みを片手にぶら下げ、「秘書さんは?」と問うた。
ローラが不在なことを知ると、余った分は冷蔵庫に保存しておいてくれ、と告げ刀真は応接用のソファに腰を下ろす。
「すまんな。土産などなくてもいいのに」
「まあ、親しき仲にも礼儀あり、さ」
涼司にとって刀真は、ざっくばらんに話し合える貴重な友人である。
「凉司、険しい顔をしているけど大丈夫か?」
「険しい顔は生まれつきだ」
涼司は苦笑いして彼の正面に席を移し、出してもらったケーキにさっくりとフォークを突き刺した。苺のショートケーキ、いい色をしている。
「さっきも言ったようにローラがいない。大して構いだてはできんが許せ」
「それはどうも。ところで……今回の辻斬り調査の依頼の件なんだけど、噂に聞く女子生徒の失踪事件と関係しているのか?」
「わからん。ただ……」
「ただ?」
「グランツ教のことは知っているな? 彼らから情報提供があった」
涼司は、カスパールの来訪と、彼女がもたらした情報についてごく簡単に明かした。
「グランツ教からの情報提供か……あそこは色々ときな臭い噂が多いし、信用できないんだよな」
刀真も彼らには、あまりいい印象は持っていない。彼は続けた。
「まあ、今回の件は向こうにとっても都合が悪いみたいだし、ある程度は信用しても良いか。裏はあるだろうけど……。ともかく、捜査には協力させてもらう」
ところで、と刀真は表情を峻厳にして座り直した。
「忙しいところ済まないが、俺の相談にも乗ってもらっていいか?」
「どうした?」
刀真は少しためらったが、やがて意を決したように一気に言った。
「先日、女性の胸は大きい方が好み、と口を滑らせたら月夜が怒って、以来口をきいてくれなくなったんだ」
「おいお前……」
俺はそういう相談は専門外だ、と涼司はうめくように言った。
その頃、別の場所で。
くしゅ、と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はくしゃみをした。
「……風邪?」
桐生 円(きりゅう・まどか)が問うも、
「いえ、たまたまよ」
月夜は簡単に打ち消した。すると玉藻 前(たまもの・まえ)がくすくすと笑う。
「おや、そうすると誰かが月夜の噂をしておるのかもしれぬぞ。案外、刀真のやつが……」
「なんでそんな話に! 刀真は関係ないでしょ」
月夜は横を向くのである。
正直、月夜がまだ怒っているのは事実だ。
でも刀真はわかってない。プールでのこと、刀真は謝ってくれたけれど、月夜は謝罪がほしかったわけじゃないのだ。
どうしてわからないのかなあ――ああ、と月夜は嘆きたい気持ちである。
いつまでも悩んでいても仕方がない。刀真のことはしばらく置いておくとして、捜査を開始しよう。
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