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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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●当たるも八卦……いや、三割?

 かくてカフェを出て街をぶらぶらとゆく耀助は、呼びかけられて足を止めた。
「そこの貴方! そう、貴方です。占わせていただきませんか?」
 女性の声だ。女性とあれば足を止めざるを得ないのが彼である。
 見回すと巫女の紛争をした少女が、筮竹を持って街角に座っている。目の前にはテーブル、風よけの覆いもあって、ちょっとした占いコーナーという趣向だ。
「キミみたいな綺麗な子には、占ってもらわずにはいられないな。オレとキミとの将来とか……」
「またまたご冗談を」
 と、謎の占い師こと九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は軽くいなして、ともかく耀助を座らせた。
「さあ、黙って呼吸を整えて下さい。安心してくれていいですよ……私の占いは三割当たる!」
 これは、ジェライザ・ローズが最近購入した某分冊百科な出版社(色々な雑誌を出している。ちなみに創刊号はいつも特別定価)の『週刊よく当たる占い』で実際に確かめた的中率である。どんな占いを試しても、当たる確率はぴったり三割固定だったという。これは逆説的にも凄いことだ。
「いや、三割ってあんまり凄くないのでは……?」
 むしろそれだったら逆に賭けて『七割的中』にしたほうがいいのでは、と耀助は言うのだが、ジェライザ・ローズはとりあわなかった。
「さあ、占うのに必要です。教えて下さい。お名前は?」
「これって逆ナン? えーっと……仁科耀助」
「ほほう! 最近、蒼空学園の失踪事件を調査されている方ですね。どうです当たったでしょう?」
「いやまあ、割と有名みたいなんで……どこでも訊きまくってるし……」
「質問にだけ答えて下さい!」ローズがじゃらりと筮竹を鳴らす。
「あ……はい」落ち着かなさげに耀助は座り直した。
「では質問。私が、外見的に誘拐されそうか判断しなさい」
「それ占い!?」
「占いです」
「じゃあ、そうだな……美少女なのは認めるけど、たぶんキミはマホロバ人じゃないよね」
「ええっ!? な、なぜ……あなた、もしかして占い師ですか?」
「占い師はそちらでは?」
 ちなみに勘だよと耀助は答えた。
「ふぅむ。そうすると、誘拐される少女の特長は『マホロバ人』ということですね?」
「あ、口が滑ったかも……そうだよ」
「それに『美少女』がどうとか?」
「そう、それもオレが調べたところによれば失踪事件被害者の条件みたい。あ、もちろんキミは十分すぎるくらいオーケーだよ。むしろオレを掠ってくれないか?」
「あら口が上手ですね」
「お世辞じゃないよ〜。ねえ、この後ヒマ?」
 このとき、ひょいと囲いをめくって斑目 カンナ(まだらめ・かんな)が入ってきた。
「いやもう茶番はこのへんにしようよ。素直に彼に情報を求めたほうがいいよ」
「でも私の占いは三割……」
「……そんな占い当たってたまるか! だいたい、プロ野球選手じゃないんだから、三割でも四割でも大したことないってば」
 このあたり割と現実主義者のカンナなのだ。ローズと一緒に名乗って自分たちも失踪事件を追っていることを伝え、耀助に情報を求めた。
「やっぱりそうか。なかなか逆ナンなんてないものだなあ」
 などとぼやきつつ、耀助は自分が掴んだ情報を伝えてくれた。なお耀助は、ローズの素性は勿論、クールな容貌のカンナが女子かどうかも知りたがっていたが、
「(あんたには)興味ない」
 とばっさりカンナに切られて、すごすごと立ち去っていった。
 ふーん、と占うようなポーズを取りつつジェライザ・ローズは言う。
「美人はともかく、マホロバ人は見る限り普通の人間と容姿が変わらないはずよね。それに、その……生娘というのも見ただけでは判断できないでしょ」
「なんらかの力で判別しているのかもしれないね」
 するとローズはニコリと笑って、
「さてさて、その疑念を晴らすためにもこの扮装が役立つと思わない?」
 と、立ってくるりと回ってみせた。
「今日のこの着物、実は占い師を演じる以外にも意味があったのよ。マホロバ人っぽく着物を着ているだけで誘拐されるかどうか実験です! もし誘拐されないのなら……相当厄介な相手かもしれないよね?」
「本気?」
「私はいつだって本気だよ」
 その笑顔に偽りは無い。
 カンナは肩をすくめた。
「あたしは反対、危なすぎる。なにかあったらどうするわけ?」
「そんな消極的じゃだめ! 行動する前の後悔は無いんだよ」
「……それ、何かの映画の名台詞?」
「違う。私の台詞。まあいつか、私が監督で映画を撮ることになったら使いたい台詞ね」
 カンナは半ば諦めたように溜息をついて続けた。
「じゃあ付き合うよ。離れたところから観察しているからしばらく街を歩こう」
「行く前に、カンナのことも特別に占ってあげる。えーと……『カンナは近い将来、私のうちの子になる!』 どう? 私の占いは三割当たる!」
「……七割は外れだったよね」
「ちょっとー! 驚くなり喜ぶなりもうちょっと派手な反応してよ〜!」
 このときほんの少し、カンナが微笑したのだが、その笑みをローズが確認したかどうかは作者も知るところではない。