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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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●仁科耀助、ツァンダをゆく(2)

 秋晴れの空には雲ひとつなく、道行くフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の気分は上々、リードを持つ手も軽い。
 そのリードの先には忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の首輪がつながっており、ポチもまた上機嫌でフンフンと、鼻を鳴らして闊歩するのだった。
 本日フレンディスはツァンダまで、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)ともどもやってきた。先日、ようやく胸の内を明かし合ったフレンディスとベルクだ。心躍るデートといってももうなんの支障もない。ポチの散歩を兼ね二人して、ポヤポヤと街へ買い物に繰り出したというわけだ。
 そろそろカフェでも探して一服……とフレイが思った頃、彼女はある人の存在に気づいた。
「あら……? マスター、ポチ、見て下さい。あちらに耀助さんがいらっしゃいますよ? ……? 何やら雰囲気が異なりますが何かやっていらっしゃるのでしょうか?」
 耀助はいつもヘラヘラ、そう書くとイメージが悪いかもしれないがまあ実際限りなくヘラヘラした感じで、笑っているのが常だった。だが今、手帳を繰る彼は真剣な顔をしている。
 ただしそれも一瞬のことだった。
「おー」
 フレンディスに気づいた耀助は、手を振って近づいて来たのだ。
「奇遇だねぇ、二人して今日はデート?」
「まあな」
 ちと照れくさいが堂々とベルクは答えた。その発言内容が気に入らないらしく、がるる〜、とポチの助が唸っているが、まあそれはそれとして。
 それを聞くと耀助はてらいもなく答えた。
「いやぁいいね〜。まあ、オレもなんだけどさあ」
「デート……って、一人じゃないですか?」
「うん、だから現在、デートの相手を探し中〜。なんならフレイちゃん、どう? 友達のよしみで」
 こいつはこれだから……とベルクは右手でぺたっと自分の頭を押さえた。楽天的というかなんというか。まあベルクには真似できない(したくない)才能があるのは確かだ。
「友達のよしみといっても、今日はマスターとお出かけ中で……」
 と、大真面目にフレイが答えるものだから、そういやフレイもフレイで天然だった……とベルクは左手でも頭を押さえた。
 だがベルクはもうとうに、耀助が言葉通りの理由でウロウロしているわけではないのを見抜いていた。
「で、本当のところはどうなんだよ」
「どう、って?」
「さっき見かけたときは少し顔色が悪かった。いや、なんつーか、悩んでいるようにも見えたな」
「いやあ、それは先日、いとこの母方婆ちゃんの近所に住む人の家で飼っている兎が死んだという噂を聞いた……とネットで見たんで、心を痛めていたのさ」
「ものすごく遠いところの話なのに悲しんでいらっしゃるんですね……耀助さんはお優しいんですね」
 フレイがまごうことなき本気で言うもので、ベルクは、
「どうみても嘘だろうが……っ」
 と、たしなめて耀助に向き直った。
「同じ学校のよしみだ。なんか事件があったんじゃないか? 耀助が絡むっつーのはどうにも嫌な予感しかしねぇんだが、力になれるかもしれん。話してみろよ」
「じゃあ耳寄り情報を明かそう。聞いてよベルク、パソコンのキーボードの配列ってすごく使いづらいじゃん、変な並びになってて……あれは実は、クワーティー配列といってドイツのクワーティー博士という人が……」
お前が出どころか……!(※) じゃなくて、いい加減真面目に話してくれ」
 もはや半分呆れ顔のベルクに、耀助は片手拝みする。
「悪かった悪かった。実は」
 彼は失踪事件について話した。
 するとそれまで黙っていたポチの助が、にわかにやる気を出したのである。
「ご主人様、その件、情報収集はこの僕にお任せ下さい!」
 フレイの周囲を跳ね回らんばかりにして声を上げる。
「素晴らしい犬の頭脳と勘、そして優秀なハイテク忍犬たる僕だからこそ可能な科学の力にてきっと役に立って見せるのです! ……エロ吸血鬼は大人しく留守番でもしているといいのですよ」
 などと鼻で笑い、首輪型HC犬式にて情報収集を始めるのだった。
「誰がエロ吸血鬼だ……! って、聞いてねーな。ていうか往来の真ん中でいきなり情報収集に熱中するなよ」
 ベルクがなにを言っても無駄のようだ。ポチの助の頭はもう、フレイに褒められ撫でてもらい、ドッグフードのご褒美をもらう事で一杯なのだった。
「彼、どう? 役に立つ?」
 耀助が恐る恐る聞いてきたが、ベルクはどっちとも言えなかった。
「えーと、情報が集まればお伝えするのです」
 フレイが言うので、
「頼んだよ〜」と言い残し、耀助は「じゃーねー」と手を振った。
「あ、おい待てそーいやぁ」
 ふと思いついてベルクが、
「今日は那由他が一緒じゃねぇようだが元気なのか?」
 と呼びかけたものの、さすが忍者の俊足、すでに耀助は声の届かない場所に去っており、次の瞬間には見えなくなっていた。

※フレンディス・ティラのキャラクターボイス『プロフB』を参照


 今日はナンパ日和か、と耀助が盛り上がったのも無理はない。
 フレイたちと別れた後に彼は、正統派美少女らしき二人連れの後ろ姿を見つけたのだ。
 一人は栗毛、くせのないロングヘア、そしてもう一人は色素のうすいブロンド、やはりさらさらのロングだ。ブロンドのほうは有翼種のヴァルキリーらしい。しかし耀助は好みのタイプであれば種族は問わない。
「ねえねえ、きみたち蒼空学園の生徒?」
 彼女らの制服から判断して、ひょうひょうとした口ぶりで声をかける。
「あら耀助君、ナンパ?」
 振り向いた栗毛さんはたしかに正統派美少女、耀助の知人だった。布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)だ。
「もしかして耀助、私たちだって後ろ姿ではわからなかったわけ?」
 そしてブロンド少女はエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)である。
「わからなかった? いやそんなことは……うん、ごめん。わからなかった。でも知ってても知らなくても声かけたと思うな。二人とも可愛いから」
「よく言うわ」
 エレノアは半ば呆れたように笑った。耀助のことだ。いまの言葉は嘘ではあるまい。
「ところで耀助君って、メモ取りながらナンパするの?」彼の手帳を見て佳奈子が言った。
「そうそう。これ、ナンパノート。気になる女の子のことはメモって……」
「そうかなあ」
 ところがエレノアが指摘した。
「なんだか、探偵っぽいことしているような気がするわ」
「な、なにを根拠に……」
「勘よ」
 それを聞いて耀助はフッと笑った。考えてみれば、隠す必要はないわけだ。勘とはいえ見透かされたのならなおさら。
「敵わないな」
 実はね、と耀助は一通りのことを話した。女性には甘い彼なのだ。
「ナンパって名の調査だったの? 失礼しました」
 佳奈子の言葉に彼は頷いた。
「好奇心旺盛なんでね、オレ。女性に隠し事するのって、よくないと思うし」
 言うじゃない、というようにミレイユは彼を肘でつついた。
「耀助ってナンパしてるけど、女性には優しいわね。ま、優しくて少し強引なところがないとナンパは成立しないだろうし」
「でも、それなら真っ先に優しくすべき人がいるんじゃない?」
 佳奈子が言った。
「耀助君のパートナーの那由他さんもマホロバ人なんだよね……? それって、那由他さんも最悪の場合、失踪してもおかしくないってことじゃない? 今から、那由他さんに会いに行って、周りでアヤシイ出来事とか起こってないか確かめた方がいいんじゃないかな」
 佳奈子は決して、無茶なことを言ったつもりはない。むしろ耀助が気にかけて当然、と思ったことを告げただけだ。ところが意外なことに、わずかとはいえ耀助の目に暗い色がさしたのである。
「わかってるさ……そんなことは、言われなくても」
 耀助は顔を逸らすようにしてそれだけ口走ると、
「ごめん、二人とも。あとはまた、一人で調査するから」
 またね、と言って背を向けたのだった。
「え?」
 佳奈子は手を伸ばした。しかし、仮にもマスターニンジャの耀助である。
 引き留めようとしたときにはもう、彼の姿は消え失せていた。