天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

星影さやかな夜に 第二回

リアクション公開中!

星影さやかな夜に 第二回
星影さやかな夜に 第二回 星影さやかな夜に 第二回 星影さやかな夜に 第二回

リアクション

 自由都市プレッシオ、最南端の区画。
 最も激しい戦いが繰り広げられている大通り。

「……見つけたぞ」

 特別警備部隊の一人、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は走りながらそう呟いた。
 彼が見つめる先は一点。
 この区画で大通りの先にあり、二番目に戦闘に適した場所――錆びた遊具が並ぶ、大きな広場だ。

「邪魔だ!」

 煉は吼え、進路を塞ぐ構成員に拳を振るった。
 常人離れした怪力に殴り飛ばされ、構成員の頭部がぐにゃりと変形し、弾き飛ぶ。

「…………!」

 煉の存在に気づき、広場の周りに居た構成員達がいっせいに振り向く。

「見つけたぞ!」
「ぶっ殺せ!!」

 数人の構成員が武器を抜き、煉に突撃を開始。
 しかし、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)によって、彼らは止められた。

「煉さん、ここは任せて!」

 エリスは《混沌の盾》で彼らの攻撃を防ぎ、後退する。
 入れ替わるように、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が彼らに近づき、<パイロキネシス>で炎を発現。

「仕方ねぇな。雑魚はあたしらで抑えておくから安心して戦ってきな」

 エヴァは手の内の炎で、目前の構成員達を焼き払う。
 その隙に、煉はパートナーの二人の脇を通り、広場の中央へと突き進む。

「すまん。任せた」
「ああ、任されたぜ」
「煉さん、無理はしないでね」

 走っていく煉の背中にそう声をかけ、二人は背中を合わせて構成員達と相対する。
 構成員達は広場へ行った煉には見向きもせず、その二人を囲み始めた。

「こんだけ引きつけりゃあ大丈夫か。んじゃ、一暴れといこうか」

 エヴァはにししと好戦的な笑みを浮かべ、両手の内に炎を発現。

「あなたと同じ意見なのは心底嫌だけど……まぁ、仕方ないか」

 エリスは憎まれ口を叩き、《薔薇の細剣》を抜き取った。
 返り血により薔薇色に染まった鮮やかな切っ先を、囲む構成員達に向ける。

「さぁ、相手をしてもらうわよ」

 ――――――――――

 煉は広場の中央にたどり着き、目的の人物を見据えた。
 《悲姫ロート》を地面に突き刺し、傍らに佇むのは赤毛の少女。

「おまえが、ルベル・エクスハティオか」

 ルベルは反射的に、炎より一層と赤い瞳を鋭く細める。

「特別警備部隊――ベリタスの仇。やっと、来たわね」

 押し殺した声だが、不思議なほどよく通る声だった。
 煉は《無銘》の柄に手を添えながら、こう言った。

「ベリタスの仇ね。
 どんなヤツでも死ねば悲しむ人くらいはいる、か」

 挑発的な物言い。
 ルベルはぎりっと歯を噛み、眼前の敵を睨んで、言った。

「なによ、それ……」

 ルベルの胸の中が忘れかけていた激情で埋め尽くされる。
 年端のいかない自分が親に売られ、奴隷商人に連れ回されたときに抱いた感情――殺意が、その時にも増してルベルの心を支配していた。

「どんなヤツでも死ねば、ですって?
 ベリタスは敵には容赦なかったけど、ずば抜けて好戦的だったけど、仲間には誰よりも優しい奴だったわ」

 地面に刺さった《悲姫ロート》の刃が、溢れんばかりの炎を噴き出す。
 コンクリートが溶け、次々と亀裂を走らせながら割れていく。瓦礫は炎に呑まれ、ドロドロの液体と化す。

「……殺してやる」

 炎よりも赤い瞳が、煉を睨む。

「アンタだけは絶対、この手で息の根を止めてやるわ!」

 彼は、うっすらと赤く片目を変色させた。

「ああ、決着をつけよう」

 その言葉を皮切りに、二人の戦いは始まった。
 ルベルは真紅の槍を引き抜き、煉に襲いかかった。間合いを詰め、高速の一閃を放つ。
 煉は《無銘》を抜き取り、《流星のアンクレット》で加速させた斬撃を放った。灼熱の炎を纏った槍の刃に、漆黒の刃が真っ向から衝突する。
 だが、ルベルのほうが放った一閃のほうが完全に威力が勝っていた。砕かれたコンクリートと共に、煉が吹き飛ばされる。

「アンタ達が、アタシから仲間を奪ったのよ……」

 ルベルは弾かれた槍を大きく振りかぶる。
 刹那、周囲の温度が一度、二度、上昇した。空気が歪んで、槍の刃に熱が集まり、灼熱の火球を形成する。
 広場に、炎が酸素を吸い込む凶悪な音が響く。

「アンタ達が、アタシから大切なモノを奪ったのよ!」

 ルベルは、煉に火球を叩きつけた。
 大気を震わす轟音。
 彼に接触すると、風船が破裂するように、辺り一面へ炎を撒き散らした。
 熱波と閃光と黒煙が吹き荒れる。古びた遊具が溶け、ガムのように地面へこびり付いた。
 炎と地獄の中、煉は口の中に溜まった血液を、地面に吐き捨てる。

「……君の、ベリタスへの想いは分かった。
 だがな、俺は俺の信念を貫かせてもらう。退く気も加減する気もない」

 ルベルは何も言わず、もう一度灼熱の火球を放った。
 煉は<アブソリュート・ゼロ>を発動。大気中の水分を瞬間的に凍らせ、氷の壁を作った。
 二人の間で大爆発が起こる。
 爆風を浴びながら、煉は問いかけた。

「仲間の為の戦い、似ているのかな俺達は。だからこそ俺が譲れないのも解るだろう?
 俺も仲間を守るためならこの手を血で染めることを厭わない。退かないのなら倒すだけだ」

 ルベルが奥歯を噛み締める音が、煉の耳まで届いた。

「……ふざけるなッ」

 彼を睨む真紅の瞳には憎悪の炎。声には拒絶の意思が含まれていた。

「アンタとアタシが似ているワケなんかない。一緒にしないで……!」

 ルベルが《悲姫ロート》を両手で構えなおす。
 対する煉は腰を深く落とし、示現流蜻蛉の構えをとった。