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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #2『書を護る者 後編』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ #2『書を護る者 後編』

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 真実への好奇心や謎の解明への欲求から、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が調査活動をしたがるのを、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は拝み倒して『書』の防衛と奪還に回って貰った。
「まあ、取り戻すべきなのは確かだし、仕方ないな」
 ダリルは嘆息して折れる。

 街に被害が可能な限り少なく、待つ間過ごし易い場所、ということで、『書』は、断崖の上の宮殿で護ることになっていた。
 豪華な宮殿は、神殿の役目も含まれていて、前面にあるのは礼拝堂や広間などの空間である。
 広い上に天井が無駄に高く、専用の入り口があれば、イコンでも入って来れそうだった。

 礼拝堂の一角で、『書』防衛に集まったルカルカ達は意見を交し合っている。
 トゥレンの姿は無い。少し離れたところから、イルヴリーヒが、人間型のゴーレムを護衛につけ、それを見ていた。


▽ ▽


 シヴァは、ヤミーへの想い故にヤマプリーを出奔したが、ヤミーに想いを伝えられたわけではない。
 だが、稀にヤミーが戦場に出る時は、スワルガの民として共に戦った。
 彼女の主となり、剣として使うことはできなかったが、友人として側にいることは出来た。

 その戦場では、シヴァは使命を与えられていた。
 情報の提供をしたのも、戦場を選んだのもシヴァだった。
 戦いの中で、彼は目指すものを発見する。

「……!?」
 タスクは、自分が標的とされていることに気付くが、策を講じるには遅かった。
「何……これはっ……」
 強制的に、その姿が紫水晶に変わって行く。
「くっ……!」
 タスクは咄嗟に、ポケットから指輪を取り出し、それを遠くに投げた。
 大きく弧を描いて、指輪は藪の中へ消え、タスクはそのまま紫水晶に変化する。
 祭器としての器に封じたタスクを、シヴァは拾い上げた。
「……すみません」
「終わりましたの?」
 ヤミーが気だるく歩み寄る。
「はい」
「なら、帰りましょうか。早くお昼寝したいですわ」
 ヤミーは先に立って歩き出し、シヴァは紫水晶を丁寧にしまうと、それに続いた。


 一方、シャウプトもまた、ひとつの祭器の発見、奪取に成功していた。
 最初から黒曜石の鏡の姿のまま、人型をとることがなかったカーラネミは、しかしスワルガ軍の上層ではなく、別のところに預けられた。
 それについて、シャウプトが思うことは特になかった。与えられた任務は果たした。
 それが何なのかを知る必要はない、と考えていたからだ。
 ――カーラネミは、イデアの手に渡ったのだった。


△ △


 木を隠すなら森、本を隠すなら本。
 ならばやはり、人を隠すなら人だろう、と思った風馬 弾(ふうま・だん)は、この城の近衛の制服を貸して貰えないかと願い出た。
「これで皆でここの兵士に変装すれば、あの変なおじさんを騙せると思うんだ。
 きっとおじさんは、シャンバラで交戦した俺達がいることも、普段以上に『書』が警備されてることも知らないんじゃないかと思うから」
 ジュデッカにひどいことをしたイデアを許せない、と弾は思っていた。
(お姉さんはとてもいい人だったのに……)
 弾は、ジュデッカにからかわれていたことに全く気付いていない。

「知らないということは無いだろう」
 ダリルが言う。
「『書』は、一度探知魔法に掛かった。
 そして現在封印を強化して、探知魔法に掛からなくしている。
 警備が強化された、と、判断されて然るべきだ」
「……そっか」
「確かに、兵士装の者が紛れていることで、不意をつけるかもしれないとは思うが」
「う、うん。そうかなっ」
「いい方法だと思います。僕も兵士に変装しておこう」
 周防 春太(すおう・はるた)が、弾の提案に乗る。
「でも、向こうの探知能力って、意外と低かったですよね?」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がそう言って、ルカルカは首を傾げてダリルを見た。
「低い?
 でも、シャンバラからルーナサズの『書』の在処が解っちゃってるんだもん、低くないよね?」
「ザンスカールの時は、アニスが使っていた探知だろう。
 今回はイデアが使っているもの。多分、種類が違う。……精度も」
 ダリルの回答に、ルカルカはふむふむと頷く。


▽ ▽


 平和そうな街。幸せそうな夫婦。幸せそうな生活。
 フラリフラリと立ち寄った街で、ツェアライセンはもう、興奮を抑えられなくなっていた。
 嬉しくて嬉しくて溜まらない。
 今から、それを滅茶苦茶にしてあげられると思うと、考えただけで震える。
 けれどこの興奮を我慢して我慢して我慢した後に解放すると、もっと気持ちいいのを知っているので、限界まで我慢する。
 頂点に達した時、目の前にいた人物は――

「嗚呼アアああぁぁ!? もう、が、我慢なんてできないよぉぉぉ!!
 気ンもち イイィィィィィ!?!?!?」
 脳裏が真っ白になるような快感の後で、ツェアライセンは、足元に転がるネックレスに気が付いた。
「あははは、きれいねぇ。
 お姉さんの肉にはぁ、かなわないけどぉ。
 でももう、コレ必要ないよねぇ。だってぇ、もう首が繋がってないもん!
 あたしが、もらってあ・げ・る♪」
 ツェアライセンは、肉塊の中からネックレスを拾い上げ、首にかけようとしたが、指のブレードがネックレスを切ってしまう。
「あれぇ、切れちゃったぁ。だめじゃん!」
 笑いながら、ツェアライセンはその家を後にする。
 近くにいた住民が、その有様に驚いて騒然となった。
 ツェアライセンは嬉しそうに笑い、叫んだ。
「いいよぉ。来て来てぇ! ううん、イッちゃう!」


△ △


「選帝神殿が、『書』の偽物を用意してくれましたので、今回、僕はこれを持ちます」
 博季・アシュリングが、『書』の偽物を皆に見せた。
 今回は、質より量の前回ではなく、精巧に出来た偽物の書が用意された。
「それは、複数ありますか?」
「あります」
 博季は、和輝にまた別の『書』を渡す。和輝は、その厚みを確かめた。
「ジュデッカの書と殆ど変わらないね。色が違うくらい」
 ルカルカが言って、ダリル達も頷く。
 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、じっとその書を見つめ、ジュデッカのことを思い出した。
「……作られたモンでも心は心、それを一方的に踏みにじったヤツを許しはしねぇ。
 ジュデッカ……あんたの仇はとってやる」


▽ ▽


 何故、彼は自分を捨てたのか。
 はっきりと思い出せない、その記憶。
 けれど、捨てられる前、彼と共にあるその記憶の中で、断片的な彼の言葉を憶えている。
「俺を殺せる奴がいるとすれば、それはお前だけだ。
 だからもし俺が…………したらその時は……お前が――」
 ああ、何故はっきりと思い出せないのか。
 けれどその言葉に対して、自分は誓ったのだ。
 その時は、自分がそれを成す、と。

△ △


 教会の出身者でもあるフランチェスカ・ラグーザは
「いっそ『書』を焚書してしまいたいところですが」
 と、言った。
「それは、不可能でしょう」
 話を聞いていたイルヴリーヒが、苦笑して口を開く。
 彼等の会話には口出ししないようにしていたようだが、おっと、と肩を竦めた。
 フランチェスカはイルヴリーヒを振り返る。
「冗談ですわよ。いえ本気ですが、我慢ですわ」
「あれは通常の火では燃えません」
「そうですの?」
「書の形をしていますが、あれは魔力の結晶です。石の塊にろうそくの火を近づけるようなものです」


 芦原郁乃は、ふむふむと皆の話を聞いているリンネの顔を見つめた。
(今度こそ、今度こそリンネを助けて、『書』を護って、奪われた『書』も取り戻すんだ……。
 そうしなければ、何の為に思い出したのか、思い出そうとしているのか解らない。
 何でリンネを護ろうとしているのか、リンネの為に力を貸そうとしているのか解らないじゃない!)
 郁乃は、鈴の付いた組み紐を握って誓った。
 わたしはわたしの全力を以って、リンネを助ける。
 わたしはわたしの誓いを、約束を守ると。

 リン、と鈴が音を立てて、リンネが郁乃を振り向いた。
「今、呼んだ?」
「え、ううん」
「そっか。今度こそ、二人で大活躍しようねっ」
 郁乃が答えるよりも先に、鈴が揺れて、リンと鳴った。
「あは。やっぱり呼んだでしょ」
 郁乃は鈴を見る。何だか勇気が沸いてきた。体に力が漲ってくる。
 絶対に、リンネを護ろう。
「わたしの力はその為に使うんだ!」