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リアクション
★ ★ ★
「あっ、いたいたー。メアド交換いいですかあ?」
ヘイリー・ウェイクを探していたイコナ・ユア・クックブックが、やっとその姿を見つけて駆け寄ってきた。
「い、いきなりかい?」
ちょっと面食らったヘイリー・ウェイクが、イコナ・ユア・クックブックに聞き返した。そういえば、メイルアドレスの交換はまだしていなかっただろうか、ちょっと記憶にない。
「ああ、いいよ」
「わーい。ありがとうですわ」
困るものでもなし、ヘイリー・ウェイクがイコナ・ユア・クックブックとアドレスを交換した。
「あ、ちょうどいい。俺も混ぜてくれないか?」
その様子を見かけた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が、あわてて駆け寄ってきた。
「俺たちは、この周辺を警戒しようと思うんだ。全体の状況が分からないと、いろいろと困るだろうからな」
「わたくしたちもここに残るので、できたらゲートの様子をメイルしてくれると嬉しいのですわ」
「ああ。何かあれば連絡は入れるよ」
柊恭也とイコナ・ユア・クックブックに言われて、ヘイリー・ウェイクはそう答えた。
目的を果たすと、イコナ・ユア・クックブックが、源鉄心の待つマルコキアスに戻っていった。フィーニクスをベースとしているが、その姿形はキメラに近い動物的なフォルムだ。
「メアド、交換してきたのですわ」
「御苦労様。俺たちは、マスドライバーの修理を手伝うぞ」
イコナ・ユア・クックブックがサブパイロットシートに座るのを確認すると、源鉄心はマルコキアスをマスドライバーの損傷状態を再確認するために飛び立たせた。
柊恭也の方も、宇宙港の滑走路に駐機しておいた大型武装ヘリ【鶺鴒】に戻る。左右にローターを持つ輸送ヘリタイプの大型虚空艇だ。胴体下部の巨大なカーゴには、現在、 虚仮威弑の装甲輸送車が搭載されている。
「パワードスーツの調整はどうだ?」
撃針の調整を行っていた柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)に柊恭也が訊ねた。
「実戦データはないが、問題はない。何かあっても、恭也がなんとかするだろう?」
できるだろうなと、柊唯依が聞き返す。
「まあ、いろいろと使い道はあるからな」
「こいつの出番がないに越したことはないんだがな。なんだ、もしかして、もう装着するのか?」
トラックのコクピットから降りてきた馬 岱(ば・たい)が、早すぎないかと言う顔をした。
「さすがに、まだ早いだろう。だが、いざとなったら、これを着込んだ上で鶺鴒を動かすことになるかもしれないな」
「無茶を言うな。できないことはないだけで、ちゃんと動かせるかは疑問だぞ」
「まあ、そのへんは、マニピュレータじゃなくてデータリンクすればできないこともないけれどもね」
でも、あまり勧めないと柊唯依が馬岱に半ば同意した。
「ええっと、自分もそれを着るのでしょうか……」
ちょっとおずおずと鉄騎 緋蜂(てっき・ひばち)が言った。昆虫型ギフトの鉄騎緋蜂は、人間大の蜂の姿をしている。とてもパワードスーツの中には入れない。むしろ、ガトリングガンに変形してパワードスーツに持たれる方の立場だ。
「考えてはおくわ」
それはすでにパワードスーツではないような気もしながら、柊唯依が一応答えた。
「さあ、鶺鴒で偵察に出るぞ」
「操縦は任せたよ。あたしたちは、こっちの調整してるから」
うながす柊恭也に、馬岱が答えた。
「じゃあ、鉄騎緋蜂、一緒に来い」
「はい」
鉄騎緋蜂を伴って鶺鴒のコックピットに行くと、柊恭也は大型武装ヘリを発進させた。
★ ★ ★
「この辺には、恐竜騎士団の姿はないようです」
イルマタルのサブパイロットシートでセンサーを確認していたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)が、瀬名 千鶴(せな・ちづる)に告げた。
「了解。とりあえず、あそこの大きな残骸をひっくり返してみるね」
瀬名千鶴が、ジェファルコンタイプのイルマタルの手で、敵戦艦の装甲板の残骸らしい物をひっくり返した。
「わーい、敵さんの破片が一杯ですー」
レガートに乗って同行していたティー・ティー(てぃー・てぃー)が、地上に降りてさっそくその破片たちを吟味し始めた。
『どう?』
瀬名千鶴が、巨大なアームを触ってサイコメトリしているティー・ティーに訊ねた。
「ううーん、サングラスしか見えません……。これいらないです」
ティー・ティーがそう言うと、レガートが、落ちていたアガートラームのアームを蹴っ飛ばした。
巨大な腕が、地面の上を転がって飛んでいった。
『いてえ、てめえ、何しやがる!』
アームが落ちた場所の地面が突然盛りあがったかと思うと、中からダイノボーグが現れた。背中に乗った、恐竜騎士団員が叫んでいる。
『どこから出てくるんです!?』
信じられないと、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが叫んだ。
「話は全部聞かせてもらった。ここに落ちている物は、すべて恐竜騎士団が回収することになっている。有り金全部おいてとっとと去れ!」
「お前は、どこぞのパラ実生か……」
思わず、瀬名千鶴が突っ込む。まあ、現在では、かなりのパラ実生が恐竜騎士団に所属しているわけではあるが。
「何も、話なんかしていないです……」
ティー・ティーがちょっと泣きそうな顔になる。レガートが、怖い顔で恐竜騎士団員の方へと迫っていった。
『まあまあ。仕方ない、戻りましょう。どうせ大した物はなかったですし』
テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンがとりなして、なんとかその場を収める。ジャンク一つで、ここで恐竜騎士団と揉め事を起こしてもメリットはない。
『それで、他の破片からは何か分かりましたか?』
アトラスの傷跡の宇宙港へと戻っていきながら、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンがティー・ティーに訊ねた。
「ダメでした。たいていは、あちちか、ちゅどーんです」
ティー・ティーが言うのも無理はない。
誰かの愛用の武器などでもない限り、特定の情報などが都合よく物体にメモリされているわけがない。サイコメトリで分かるのは、それを所持していた者の感情が最も大きな変化を遂げた瞬間だ。それが、こちらのほしい情報である可能性は低い。
今ここに散らばっている破片たちも、そのほとんどがメモリしているのは自分が製造された瞬間か、破壊された瞬間でしかない。生物でもない物が聞き耳を立てているわけもなく、遺物以外からサイコメトリによって情報を引き出すのは至難の業であった。
『仕方ない。私たちは南の方をもう少し調べてみるよ』
「そうですか。私は……、なんだか北の方が気になるので、そちらへ行ってみます」
瀬名千鶴とティー・ティーはそう言い合わせると、北と南へ分かれていった。
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