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フロンティア ヴュー 2/3

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第14章 World tree
 
 
 足元の石畳には、六芒星が描かれている。
 空の港のような場所だった。
 海が広がるであろう場所に、空が広がっていた。
 遥か下方、真下は海面だった。パラミタ内海だろうか。

「ジュニア達が来てない〜」
 ルカルカが、転移した一同を確認して嘆いたが、六芒星の舞台に立っていた者達は、全員転移して来れたようだ。

「何だかちょっと、違和感があるわね」
 リネンが、地上を見下ろして、首を傾げた。
 空賊であるリネン達は、空から地上を見ることに慣れている。
 何かが違う、と思う。この高度で見下ろすにしては、地上が大きすぎるような気がする。
「私達、何処にいるのかしら……」
 
 巨大な規模の、空中庭園、というのが第一印象だった。
「というか、どこかの天空の城を彷彿とさせるんだけど」
 北都の呟きに、クナイが首を傾げた。
「美しいけど、寂しげなところだな」
「うん……」
 クリストファーの言葉に、クリスティーも頷く。
 町の端から中央を臨めば、統一された建築方式による町がある。
 その町に絡みつくようにして、一本の巨大な樹が聳え立っていた。
「……イチイの樹だ」
 沢山の細い幹が寄り合わさって一本の太い幹になったような、特徴的な樹木を見て、エースが言った。
「あれが、パラミタの世界樹……」
「人の気配は無いように見えるが……」
 都築が周囲を見渡した。
 とにかく、手分けして調査してみよう、ということになる。
「一応、単独行動は避けておけよ。こっちの通信は、常に回線を開けておく」


 紅牡丹は、常に殺気に注意して、慎重深く周囲の気配を探った。
「すごい静か……」
 紅がぼんやり呟く。
 いや、そうでもないか。
「一番ノリィィィィィ!」
「ゴーゴー! レツゴー!」
と叫びながら、転移直後既に、アキラアリスが世界樹方面に向かって特攻している。
 耳を澄ませば、何処からか、うぉりゃぁぁぁぁぁ、という雄叫びが流れて行くのが聞こえる。
 俄かに賑わしくなった、と言うべきかもしれなかった。

「そういえば、此処からだとテレパシーが使えないみたい」
 小鳥遊美羽は、テレパシーでイルダーナに連絡を取ろうとしたが、繋がらなかった。
「此処は、特別な場所なのかな?」
 それを聞いたコハクは、周囲を見渡す。

 少し歩けば、町の何処かに、世界樹の幹や根が張っているのと出会う。
 エース・ラグランツはそれに手を触れてみた。語りかけてみる。
「……駄目だ……」
「返答が無いのか?」
「うーん、ちょっと違う……意識が読めないっていうか……大き過ぎて解らない」
 蟻が象の意識を読み取ろうとする感じ、と言うと、メシエ・ヒューヴェリアルは納得する。



 町と思っていたものは、全てが繋がっている、巨大な一つの建築物のようだった。
「しょーおさー! 人がいたっ! 人ってゆーかぁ、子供だけどー!」
 幹に密接した建物の屋根の上で、ブンブンとアキラが両手を振っている。
 通信機を使えばいいのに、と周囲に居た者達は思ったが、自分にもその声が届いたので良しとする。

 世界樹の幹にある洞の、小さな隙間にもぐりこむようにして、その子供は居た。
「隠れてるのか?」
「いや、寝てるみたい。声掛けたんだけど、何かもごもご言ってて起きないの」
 アキラはそう言うと、幹の隙間を覗き込んだ。
「おーい、朝だぞー。起きろー」
「うーん、あともうちょっと〜」
 もぞもぞ、と子供は寝返る。
「もうちょっとって、どれくらいだよ」
「うーん、あと五十年くらい……」
 アキラは子供を無理矢理引っ張り出した。

 叩き起こされた子供は、ぱらみいと名乗った。
 パラミタ大陸の地祇だと言う。
「……あれ? なんでウラノスちゃん泣いてるの?」
 目が覚めたぱらみいは、きょと、と虚空を見上げて驚く。
「えっ!? 何でアトラスちゃんいなくなってるの? あの人誰?」
 何処とは解らない場所を見下ろして、ぱらみいは驚いた。

 ぱらみいは、何も事情に気づかないまま眠り続けていたらしい。
「ちょっと寝坊しちゃったよー」
 寝坊?
 何かそれは違うような気がする、と、都築達は顔を見合わせる。



「此処に、ウラノスドラゴン様もいらっしゃるのでしょうか?」
 クナイの問いに、「いるよ」とぱらみいは言った。
「いつもは、見えないけど」
 クナイは頷く。質問は、確認のようなものだ。
「ええ……何となく、解る気がいたします」
「ウラノスドラゴンは、何故嘆いているのかな?」
 北都が訊ねた。
「……アトラスちゃんが、死んじゃったから」
 しょぼん、とぱらみいは答える。
 アトラスの死を、ぱらみいも初めて聞かされた。今はドージェがパラミタを支えているのだとも。
「ドージェって、誰? 知らない。
 アトラスちゃんは、力を貰う前、何度も此処に来て、ウラノスちゃんと友達になったのに。
 エピメテウスはね、自分のことばっかでキライだった。アトラスちゃんがよかったのに」
 ニルヴァーナの計画によって覚醒したアトラスが大陸を支えるようになり、天と地に離れても、二人はきっと、寂しくなんてなかったのに。
「……然様ですか。
 ウラノス様は、悲しくて、寂しいのでございますね……」
 クナイは、何処とは知れない場所を見上げて呟いた。




 都築の義手を手掛けられなかった件は残念だったが、「もう片方落ちたら担当すればいいか」と、ダリルは気持ちを遺跡に切り替えていた。
「ダリルってたまに発想が怖いわ」
 若干引き気味のルカルカに、ジョークだったのだが、と思う。
「ぱらみい、と言ったな」
 ちょっと目を離した隙に隅っこで寝ているぱらみいを起こして、訊きたいことがある、とダリルは訊ねた。
「パラミタの世界樹は、何故此処に在るんだ?」
「だってパラミタは不安定だから。
 ひとつの世界樹では、あの世界を支えられなくなっちゃったの」

 かつてパラミタは、ニルヴァーナのように、ひとつの世界にひとつの世界樹が存在していた。
「不安定で、地球と繋がっちゃったり、いっそ滅びちゃった方が簡単なくらい」
 けれど巨人達は、誰もパラミタの滅亡を選択しなかった。
「アトラスちゃんにパラミタを支えて貰ったり、パラミタをいくつにも分けて、それぞれの場所を世界樹に司って貰ったり、それから龍族の人達に守り神になって貰ったり、皆、色々頑張ったの」
 そうして、今のパラミタが在るのだ、と。
「世界樹には、再び地上に顕現する意思は無いの?」
 ルカルカが訊ねた。
「うん」
 ぱらみいは頷く。
「何故だ?
 再び地上に蘇り、その力を貸して欲しい」
「できないの」
 ダリルの言葉に、ぱらみいは答えた。
「だってもう、パラミタの世界樹は、地上の皆に全部託したから」
 此処に在る世界樹は、抜け殻のようなもの。
 在りし日の、残影のようなものなのだ。


「聖剣は、あるのか? 剣、なのか?」
 樹月刀真が訊ねた。
「うん、あるよ」
 ぱらみいは頷く。
「……何故、それは剣の形をしている?」
 気になっていたことを、刀真は訊く。えっとね、とぱらみいは言った。
「巨人さん達は、剣がいいって言って、ドワーフさん達は、戦斧がいいって言ったの。
 七日七晩ケンカして、結局ドワーフさん達がじゃんけん負けて剣に決まったんだよ」
「…………」
 軽く眩暈を覚える。
 巨人族の遺跡で、アンドヴァリは最もらしいことを言っていたが、実はドワーフがケンカに負けたのが癪で言いたくなかったのではないのか。
「それ、貰ってってもいい?」
 トゥレンが訊くと、「うん」と言った。
「どっかにあるよ。自分で見つけてね」