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フロンティア ヴュー 2/3

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フロンティア ヴュー 2/3

リアクション

 
 
「ふはははははははははげほっ、げほっ!
 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス!」
 声がよく通るのに気をよくして、いつもの三割増しの高笑いで登場したドクター・ハデス(どくたー・はです)は途中でむせた。
 またか! と、彼の出現に頭を抱えた者は少なくなかった。
 二人のパートナーと戦闘員達を従えて、口上を叫ぼうとしたハデスは、そこで、契約者対カサンドロスの構図に気がつく。
 どちらに加担するか、その判断は一瞬で明白だった。
「そこの隻腕の男よ! 契約者共を撃退する為、一時的に我等オリュンポスと共闘しないかね!?」
 ハデスは、カサンドロスに協力を申し出る。
 オメーも契約者だろ、と、そこにいた全員の脳内ツッコミがハモり、誰もがカサンドロスの返答を正確に予想したが、ある意味幸いにも、ハデスはカサンドロスの返答を待とうとはしなかった。
「さあ、我が部下達よ!
 あの男に協力し契約者達を撃退して、聖剣を我等オリュンポスのものとするのだ!
 そしてパラミタの世界樹を我等の支配下に置き、世界征服を成就せさるとしよう!」
 ハデスは二人のパートナーに指示をして、強引に戦闘に割り込む。
「ペルセポネ、ヘスティアよ! 機晶合体を許可する!
 オリュンピアとなって、一気に契約者共を倒すのだっ!」
「わかりました、ハデス先生っ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士!」
 ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が同時に前に飛び出した。
「機晶変身っ!」
 しゃきーん、と、ヘスティアが嵌ったウエポンコンテナが、ペルセポネの背中にドッキングする。
 びしい、とペルセポネはポーズを取った。
「合体機晶姫、オリュンピア!」

「……はっ。つい最後まで眺めてしまったわ」
 はた、と紅 悠(くれない・はるか)が我に返った。
「しっかりしてよ、もう」
 剣を構える悠に、パートナーの紅 牡丹(くれない・ぼたん)が呆れる。
「火器管制システムは任せてください!」
 ヘスティアの言葉に、はあ!? と牡丹が反応した。
 18連ミサイルユニットを見て、げっ、と慄く。
「ちょっと、ヤバいわよ、悠!
 あんなのかまされちゃったら、遺跡が!」
 此処にはドワーフは居ない。
 未だきちんと調査も終わっておらず、何処が重要か解らないこの場所(しかも地下)を、手当たり次第に破壊されては、最悪この先に進めない可能性もある。
「解ってるわ」
 悠は、合体機晶姫オリュンピアを、舞台の集まる場所から手前の回廊に誘導した。
「心配しなくても、このミサイルはホーミングです!」
 ヘスティアは、自動追尾装置のついたミサイルを発射する。
「それ全然心配の解消になってないわよ!」
 悠が躱したミサイルが、床に接着して爆破する。
 床に次々、十八個の穴が空いた。
「――でも、舞台位置から外れたのは、ちょっと残念だけど」
 悠対合体機晶姫オリュンピアは、ややオリュンピアの方が優勢だった。
 そこへ、謎カツラ状態のギフト、シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)が頭に乗っていることに気づかないリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が援護に入る。
 音響効果抜群のところで咆哮を試してみたかったんだけど、と残念ではあるが、そんなことを言ってられない。
「憂さを晴らさせてもらうわよっ」
 やる気満々で呟いたのは、欲求不満中のシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だ。
「姉さん、目が怖いわ」
とリカインは思ったが、意外にもシルフィスティは冷静で、相手の出方を伺って、回避と防御を優先して相手取る。
 それならと、アブソービンググラブとレゾナント・テンションで白兵戦に持ち込み、ガンガンぶちかましているのは、むしろリカインの方だ。
「む。力が吸われるぞ! 遠距離で応戦するのだ、オリュンピア!」
「はいっ!」
 ハデスが指示するも、リカインが突っ込んで来るので、オリュンピアは、ペルセポネの龍覇剣を持った接近戦で応戦する。
「倒されてくださいっ!
 私達が聖剣の力で、世界を平和にしてみせます!」
 ハデスを純粋に信じるペルセポネの叫びに、
「それは一体どういう平和よっ!」
と突っ込まずにはいられない。
「ククク! いいだろう教えてやろう!
 聖剣を手に入れたら、我等オリュンポスはパラミタの世界樹の力を利用して既存の不平等な政治システムを破壊し、格差の無い真の平等社会を実現する!
 真の平等社会の構築こそが我等オリュンポスの使命であり、パラミタに平和をもたらす唯一の方法なのだ!」
 何故か隣にリカインのパートナーのケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)がふよふよと浮いて、一緒に観戦しているのも気にならないまま、ハデスは宣言した。
 まあ何というか、理想は立派という気もするが。
「できるものならやってみろ――!」
 というリカインの絶叫はしっかり「咆哮」だった。
「きゃあああっ!」
「ぐはあああっ!」
 オリュンピアだけではなく、ハデスもダメージを食らって吹き飛ぶ。
 戦闘員達を蹴散らした悠が、そこへすかさず追い討ちに入った。
 転がったハデスは、更に悠の剣撃を受ける。
「ご主人様っ」
「く、くそう、撤退だっ! 戦略的撤退っ!」
 ハデスの指示に、戦闘員達は波が引くように走り去り、
「これで勝ったと思うなよ!」
の捨て台詞と共に、ハデス達も速やかに姿を消した。
「逃げ足は速いったら……」
 何だかまだ近くに隠れていそうな気がしつつも、リカインはほっと息をついて、舞台の方を見る。



「さて、仕切り直しと行こうぜ」
 ハデス達の戦闘が場所を移動して、匿名 某(とくな・なにがし)が改めて、カサンドロスに対峙する。
「説得は、無駄なんだよな?」
 カサンドロスはそれに答えようとしない。
 仕方ない、先ずは相手を何とか無力化させてから、話をさせるしかない。
「行くぜ、おっさん!」
 プロボークを使って、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)がカサンドロスを挑発する。
 そこへ某が、ポイントシフトを使って一気に距離を詰めた。
 が、その攻撃は難なく受け止められる。
(読まれたっ!? それとも見えてんのか!)
 カサンドロスは眉ひとつ動かさない。
 某は激突のタイミングで、反重力アーマーを起動させた。
 周囲が無重力状態になって、初めてカサンドロスが戸惑った様子を見せたが、すぐさま、剣を某に突き出す。
 某も無重力状態だ。剣は刺さらず、某の身体を後方へ押し出した。
 某は飛ばされ、無重力の範囲外になったカサンドロスは、すと、と地面に降りる。
「ちっ……」
 体勢を立て直す隙で攻撃される。
 某は、あらかじめ空中に待機させておいたフェニックスアヴァターラ・ブレイドを、左後方の死角からカサンドロスに突撃させたが、カサンドロスは素早く身を翻すと、それを叩き落した。
「くそっ!」
 それでも、その間に某は立ち上がって剣を構える。


「ちょっとー、何やってんの副団長」
 間の抜けた声が割って入った。
 聞き覚えのある声に、尋人が振り向いて目を見開く。
「……トゥレン?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も、ぽかんと呟いた。
 捜していた人物が、けろりとした様子で現れて、一瞬反応を失う。
「此処にいたんだ……」
 パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も驚く。
 トゥレンはちらりと美羽達を見て首を傾げ、視線をカサンドロスに戻した。
「手を出すな、トゥレン」
「そんなおっそろしいことしないけど、でも今やる意味ないでしょ、てゆーか渡りに船でしょ、人数足りなかったんだから」
「シャンバラ人だぞ」
 憎々しげに言うカサンドロスに、トゥレンは肩を竦める。
「見れば分かるし。
 てゆーか、今時珍しくもないでしょ、エリュシオンにシャンバラ人なんて。
 選帝の儀の時なんてさー、儀式の間はシャンバラの契約者だらけよ?」
 トゥレンの言葉に、カサンドロスはぎろりと都築達を睨みつけた。
「貴様等……エリュシオンを侵略する気か」
「テオフィロスなんて、地球人と契約して、契約者になってんのよ」
 ちらり、と、都築を見つつ、更に追い討ちの言葉に、カサンドロスの剣を持つ手がわなわなと震えた。
「裏切る気か……っ!」
「ちょっと、やめてくんない、おっさん。
 冗談でもそんなこと言われたって知ったら、あいつ舌噛み切って死ぬから」
 ぐっ、と、カサンドロスが怯む。
「てゆーかジール放っといて何やってんの。
 仕事サボってたってマザードラゴンにチクろうかなー」
 煽るだけ煽っておいて、一気に突き落としたトゥレンは、都築達を見渡した。
「まあ気にしないで。
 この人ちょっと死ぬ程シャンバラの契約者を憎んでるだけだから。
 てゆーか、おたくらどうして此処にいんの?」
「……それはこちらの台詞なんだが……。ひょっとして、そっちも目的は同じか。
 巨人族の遺跡に行ったか?」
 今思えば、と都築は思い出す。
 自分達の他にも訪れた者がいたようなことを、アンドヴァリは匂わせていた。
 ここで、テオフィロスのパートナーは自分です、などと言い出さない方がいいのだろう。
 火に油を注ぐような気がするし、トゥレンも知っていて言わないでいるのだ。
「ああ、おたくらもか。
『鍵』の秘宝を手に入れて、その後此処を捜して、やっと見つけたところだったんだけどね」
 どうやらアンドヴァリは、彼等には『門の遺跡』の場所を教えなかったらしい。
 だからここで追いつけた、ということか。
「何で!? 捜したんだからね! イルダーナ達も心配してたよ?」
「え、何で?」
 詰め寄る美羽に、トゥレンはぽかんとする。
「何でって」
「心配するようなことに、なるわけないじゃんよ」
 あっさり言うトゥレンに、美羽は呆れた。
「そういう問題じゃなくって!」
 その様子に、トゥレンは首を傾げて考え込み、えーと、と、美羽を見る。
「……怒ってた?」
「……呆れてた」
 怒ってはいなかった、と、思う。多分。
「どうして、連絡もしなかったの?」
 問うと、トゥレンは、考えもしていなかった、という顔をした。
「しょうがないなあ、もう。とにかく、イルダーナのところに戻ろうよ」
「それはダメ。こっちに付き合わないと」
 トゥレンは困ったように笑う。
「……何で?」
「何でって、副団長とか出てきたらもう、こっち優先に決まってるでしょ」
 言って、トゥレンは首を傾げた。
「……怒られるかな?」
「……怒られると思うよ」
「うーん」
 トゥレンは困ったように腕を組む。でもやっぱこっち優先だしなー。
「……珍しいことだ」
 その様子を見ていたカサンドロスが、意外そうに言う。
「うーん、何つーか、
 ちょっと、ダメダメになってた時に、お人好しの兄弟と知り合って」
 いつ何処でちょっかい出してもいちいち相手してくれるし、何を言ってもやっても柳の枝みたいに平然としてるしで、暫くの間、依存しきってたんだよね、と、そう言ってトゥレンは笑った。
「説明してよ。一体どういう状況なの?
 まるでワケが解んないんだけど」
 尋人が問う。
「え、そう?
 えっと、選帝神様の依頼でシボラ付近をうろうろしてたら、ばったり副団長達に会って、それから一緒にいて今に至るんだけど」
「解んないよ!」
「……私のせいなの」
 進み出たのは、カサンドロスが連れていた娘だ。
 ジール、と、トゥレンは呼んでいた。
「私、とんでもないことをしてしまった。
 お城は、何だか大変な事件が起きていて、頼れなかった。
 どうしたらいいか分からなくて、皇帝が駄目なら、龍騎士の偉い人なら何とかしてくれるかもしれないって、龍神族の谷に行って……」
 ジールは俯く。
「とんでもないこと?」
 美羽が訊き返す。
「ナラカから、皇帝を召喚しちゃったんだって」
 けろり、とトゥレンが答えた。