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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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【想う事は幾重にも重なる衣のごとく】




 茜色に染まる海が、複雑に足元に波模様を描く夕暮れ時。
 人々が自らの居場所へと戻っていくその時間に、深い影の中でその二人は向き合っていた。

「……何が言いたい」
 アジエスタは固い声で応じる。
 向かい合っているのはマヤールだ。肌の黒さを化粧で隠し、染料で髪を銀色に染め髪型を変えた上、純白の二枚貝の貝殻で作った眼帯で左目を隠すという念の入りようで、ラウリーチェという巫女見習いの神学生を名乗ったが、仮にも戦士長でるアジエスタを前にしては、その違和感は隠しようがない。だがその警戒を知りながらも、ビディリードからの許可を得てここにやって来たマヤールは慇懃に頭を下げた。
「いいえ、単純に疑問を口にしただけです。本当に、巫女のお命を奪うことが叶うのか、と」
 眉を寄せるアジエスタに、マヤールは続ける。
「そもそも「絶命の剣」とは巫女を殺した剣……龍を殺したわけではございません。それにその邪龍もまた、封じられはしたものの倒されたわけではありませんし、半魚人たちのこのところの騒ぎを見ると、その封印が綻んでいるのではないかと言う疑いすらあります」
 淡々とした言葉に、アジエスタは軽く舌打ちした。彼女の指摘は正しい。半魚人はここ最近妙に活発になってきている、とは実際対峙している騎士団の間では周知の事実だ。数の問題ではなく、統制が取れてきている。それは、巫女との約束の期限によるものなのか、邪流の復活が近付いているからなのかは定かではないが。
 そんなアジエスタの内心の苦さを知らぬまま、マヤールは不思議そうに装ってその首を傾げた。
「巫女を殺して、龍を……とは、オーレリア様のなさろうとしている事こそ、夢物語ではありませんか?」
「では、君にはもっと確実な方法を知っていると言うのか?」
 アジエスタはきつい視線でマヤールを射た。アジエスタが巫女の命を奪うよう命じられているのを知っている人間も、何よりアジエスタの思惑を知っている人間も、限られた一部の人間だけで、見習い程度が知るよしも無い筈の話だ。其れを持ち出した時点で、マヤールが誰かの手足であると見抜いたアジエスタの敵意は強く、威圧することに慣れた目線に、軽く飲まれかかって頭を下げたマヤールは、それでも何とか慇懃さは崩さずに「勿論」と頷いた。
「我が蒼族は、貴方の協力を心待ちにしていますよ」
 その言葉をアジエスタが追求するよりも前に、マヤールはすっと身を引くと、濃さを増した夜陰の中へと溶けるように消えて行ったのだった。



 その翌日のことだ。
「相談してくれて良かったよ」
 メイサー・リデルは、酷く思いつめた顔のアジエスタにそう言って笑いかけた。
 二人がいるのは、紅の塔上階にある書庫だ。官吏を多く輩出する紅族の書庫には、都市の管理に関する書類が多く保管されており、神殿へ移管されいているもの以外は殆どがここで揃うといっても過言ではない。恋人のアジエスタがビディシエから塔のことについて聞かされたと知って、その裏を取るべく二人で調べに来たのだ。
 本来ならまだ若輩のメイサーでは入ることの叶わない場所ではあるが、アジエスタの茜色の騎士団長という肩書きは、通行証代わりとしてこの上ない。薄暗がりの中で書類をめくっていきながら「しかし」とメイサーは得心がいかない、といった様子で息をついた。
「先人達は本当にそんな事を仕込んだのかな……」
 ビディシエによれば、紅の塔も蒼の塔も、その建造の段階から、龍の力を削ぐための機能としても発動できるように作られたものだと言うのだ。龍の恩恵を、戦士や都市に力を与えてくれる塔の役割が、そんな恩を仇で返すような目的で作られたとは、メイサーには信じられないのだ。
「人を疑うより、まず人を信じたいと思う俺は、甘いと思うか?」
「ああ。甘いな」
 素直にもれた想いに、恋人の答えはにべも無い。しゅん、と頭を下げたメイサーだが、対してアジエスタは思わずと言った様子でくすりと笑んだ。
「……だが、あなたらしい」
 その言葉に、照れくさげに頬をかき、メイサーは書類へと意識を再び傾けた。
 残された様々な記録は、建造以後に蓄積したものばかりだが、それでも繋ぎ合わせていけば判る事実も有る。結果的に、ビディシエが語ったことや、リュシエルたちの調べた事実と同じ結論へ辿り着くのに、そう時間はかからなかった。ビディシエが言った通り、どうやら都市は最初から目的を持って作られたのだと悟り、苦い顔をするメイサーの肩を叩きながら、アジエスタは浮上した別の件に眉を寄せた。
「……この辺りから、記録が可笑しいな」
「ああ。どうも……微妙な何かが、食い違っている気がする」
 メイサーも眉を寄せて、書類を再度読み直した。今までの記録は、彼の上官の几帳面で堅苦しさが伝わってくるような精緻な情報が並んでいるのに、そこから先のいくつかが、誰の手で書かれたのか奇妙な情報の歯抜けが感じられる。それぞれは大したことではないが、こうして一気に読み解くと違和感が拭えない。オーレリアの側近達がいれば、その時期が彼女とティーズの関係が崩れた時期だと気付いただろうが、二人にとって其れは預かり知らぬことだ。だがそれでも、この時期からオーレリアが異変を見せ始めたことは想像に難くない。
「……言いたくは無いが、この所は特に、オーレリア様の様子が可笑しくなられているからな」
 昨日、マヤールに言われたことが頭に響き、アジエスタが沈鬱な声でそう漏らしたのに、メイサーも苦い顔で頷いた。
「官吏たちの中でも、口さがない奴等が言ってる。オーレリア様が蛇にとり憑かれていらっしゃるようだ、と」
 背中に蛇が見えた、だとか、笑い方が蛇のようだ、とか、他愛も無い噂話だが悪質でもある。このところの執拗なほどのアジエスタへの苦言は、それを体現しているようにしか見えないのが更にたちが悪い。メイサーは息をついたが、アジエスタはほんの少しその言葉が引っ掛かったようだ。
「蛇か……嫌な感じだな」
 呟くアジエスタは、メイサーと共に書庫を後にしたのだった。



「……どうしたんだい、何か用事が?」
「ちょっとな」
 首を傾げるメイサーに、アジエスタは曖昧に笑った。塔を後にした二人は、そのまま神殿まで足を運んだのだ。 不思議がるメイサーには気分転換の散歩だとだけ告げたが、目的は他にある。ピュウ、と高い口笛を吹いたアジエスタの元に、小さな白い金糸雀が軽い羽音と共に舞い降りた。鳥と言うものを普段目にすることの無いメイサーが目を瞬かせる中、アジエスタはその鳥をそっと指に止まらせる。
 この真っ白な金糸雀は、神殿の最上階に隔離されたカナリアと鏡映しの容姿を持つ双対、紡巫女アトラの鳥だ。出ることを許されず、その容姿から不吉として隔離される少女の唯一の友達であるその金糸雀は、彼女とアジエスタの交わした約束のひとつだ。
 紡巫女アトラ……カナリアの双対である、この都市でも二人しかいない特別な巫女だ。彼女の歌は歴史を紡ぐ年そのものであるカナリアの歌を増幅し、同時に彼女はもうひとつ、縛りの歌も使うことのできる数少ない一人でもある。龍をこの都市に縛るためには欠かせない存在として、アジエスタとアトラは取引を行っている間柄だ。
『自由を与えてくださるのでしたら、ポセイドンの外の世界へ連れて行ってくださいませ』
 あの小さな少女は、その条件を尋ねたとき、そう言った。
『私は……歌の中にある「空」を、見て見たいのでございます』
 本人は、協力する条件だと言ったが、それは幼く、稚い願いだった。
「……約束する。ビディシエの言うとおり、巫女が解放され、都市が人の手に渡るなら……其れも叶う筈だ」
 そう白い金糸雀へと話しかけると、それを最上階にいるアトラのもとへと向かわせた。
 それを見送るアジエスタの横顔に、メイサーは思わず手を伸ばした。まるでその鳥が飛び立っていってしまうように、アジエスタの心がどこか遠くを眺めているように思えたからだ。だがそんな表情も一瞬で、触れてくる掌が肩に落ちるのに、アジエスタは微笑を浮かべるとそっと寄り添ったのだった。



 二人の様子を遠目に、ファルエストは歪みそうになる口元を手のひらで隠した。
(やはり……弱点は、あの男ということね)
 部下に慕われ、その能力の高さも疑い無い、理想的な戦士長アジエスタ。完璧に見える彼女の弱点は、その甘過ぎる程の優しさだ。半魚人達には容赦のない反面で、家族や仲間といったものに酷く弱い。傷付けば我がことのように苦しみ、失うことに極端なほど恐れる。
 そんな彼女が心を削りながらもティユトスを殺し続けていられるのは、支えがあるからだ。都市を背負った役目と責任、ティユトスからの願望、部下達の信頼、自分と言う友人や家族、そしてあの男。
 メイサーに寄り添うアジエスタは、他の誰と過ごしている時より柔らかで、女性らしい恥じらいを見せる。彼女にとって、その存在がどれほどの支えだろう。ならば逆にそれが折られた時の彼女はどうなるか。想像するだに昏い愉悦の湧き上がり、ファルエストの心をぞくぞくと満たす。
(待っていて。あなたへは「とっておき」の時間を用意してあげるから……)
 そう心中で囁いたファルエストは、不意に、背後からの視線を感じてる振り返ると、思わず舌打ちをしかけた。そこにいたのは、先日も警戒の目を向けてきた、蒼族の女戦士アンリリューズだ。
「……言ったはずよね。私は寛容ではないと」
 はっきりと敵意を滲ませるファルエストの言葉に、アンリリューズも負けることなく強い視線でそれを弾きながら、不敵に口元を引き上げた。
「ええ、ご忠告は頂いたわ。でも、奇遇ね? 私もそうなの」
 ぱちり、と火花のはじけるような音が聞こえてきそうな程の両者の強い視線が混じる。
 一歩も引かないその無言の牽制の後で、アンリリューズは目を細めると時間の無駄か、とばかりに踵を返した。
「あなたがどんな立場かは知ったことじゃないけど……あなたが何か、妙な真似をするようなら……容赦はしないわよ」
 特に、蒼族の不利益をもたらすなら、とも付け加えたアンリリューズは、背中からファルエストの強い敵意をぶつけられているのを感じながらも、振り返りもせずにその場から遠ざかったのだった。





さあ、今日こそは返事を聞かせてもらうわよ、ティユトス!」

 びしり、と自称「薄倖のトリアイナの真の転生者」であるトリアイナ・ポセイドン(偽名)にその指を突きつけられて、ティユトスは目を瞬かせた。
「返事……とは、例の秘密結社のことですか?」
「そうよ。我が『秘密結社オリュンポス』に加わる決意は出来たかしら?」
 断るという前提が無いかのように、トリアイナは胸を張った。勿論、秘密結社と言う割に秘密ではなく、結社と言うが実質はポセイダヌスファンクラブ、である。実際何人がその名簿に名を連ねているのかは定かではないが、人型を取った龍の、見目麗しく神秘的な姿は、深い事情を知らない普通の巫女達の間では憧憬の対象ではあるようで、それなりの人数がいるのではないか、と言われている。あくまで言われている、だが。
 兎も角、そんな秘密結社という存在を、ティユトスはと言えばどこか面白がっているようで、トリアイナがあれやこれやと語るのをいつも楽しそうに聞き、トリアイナの妄言とも言えるような「私がポセイダヌス様と結ばれるのよ!」という口癖のようなそれに微笑ましげにしていたのだが、入会となると、ティユトスは「尊敬はしています」と曖昧な物言いで場を濁していたのだ。今日も又同じようにして遠巻きに断ろうとしているのが見えるティユトスに、トリアイナは勝利を確信した笑み浮かべて「今日は、逃さないわよ」と不穏な一言共に差し出したのは、秘密結社の聖典――と言う名の会報誌だ。しかも妙に厚みがある。
「……これは……」
 中々に手の込んだ表紙で作られたその冊子の中身は一言では言い表せないようなものだった。人型を取ったポセイダヌスの絵画があるかと思えば、薄倖のトリアイナと龍のやや盛った印象の有る恋物語、そしてこれはどういう層向けであるのか、現代で言うなれば薄い本などと呼ばれる類のものまで混ざっている。そのいくつかを目の当たりにして思わず頬を赤らめたティユトスの様子に、横から覗き込んだ戦士アルカンドは更に紅い顔をしてばっと会ほ、いや聖典を取り上げた。
「何見せてんだよ!」
 そのまま押し返そうとするアルカンドに、トリアイナはつんっとそっぽを向いた。
「何って、聖典よ。ポセイダヌス様がいかに魅力的であるかを書き綴ったね!」
「……トリアイナ殿は、ティユトス殿のライバルだったのではありませんかな?」
 これを読めば、ティユトスもポセイダヌスのファンとなること請け合いだ、とトリアイナは自信満々だが、そんなトリアイナに首をかしげたのは、とてもではないが巫女には思えない筋肉型男巫女、と異名をとるバルバロッサだ。ライバルであるティユトスがファンになってしまっては、とてもではないが勝ち目は無いのではないか、と言う想いはとりあえず飲み込んだらしい、立派に生えた髭を擦りながらのバルバロッサの問いに、何を言いますか、とばかりトリアイナはそんな彼にびしっと指を突きつける。
「であれば尚のこと、同じステージに立ってもらわなければならないのよ!」
 憤然と言い放ったのに、皆がツッコミが追いつかない顔をしている中、トリアイナは続ける。
「誰かのための自己犠牲だなんて、可笑しいもの。せめて恋であれば、女冥利に尽きるというものじゃない!」
「うーむ、一理あるような、無いような」
「くだらねぇ」
 バルバロッサは唸ったが、アルカンドは一蹴して眉を潜めた。
「そんな犠牲が、そもそも可笑しいだろうが」
「然様ですな」
 アルカンドの言葉にはたと気付いたようで、バルバロッサは頷く。
「ぬうううううん! ティユトス様、御いたわしや! このままでは、ティユトスさまが余りに不憫……どうにか、お助けする手段はないものであろうか」
 なんとも迫力の有る唸り声をあげると、ティユトスたちがびっくりと目を瞬かせているのにも構わず腕を組むと、バルバロッサは「ふむ、かの巫女は龍との契約をしたという……ならばティユトス様ならば新たに契約を結ぶ事も出来るのではないですかな?」と独自の考えを廻らせたようで、カッと目を見開いた。
「そう、新たな契約の歌ですぞ! 龍との契約など、ぽいぽいぽい!」
「名案だわ!」
 若干斜め上な発想に、トリアイナが乗っかってびしりと指先をバルバロッサに向けながらにまりと笑う。
「ティユトスが新たな契約を結んだ所で、真のトリアイナであるこの私が! 今度こそ正式に妻としての契約を結ぶのよ!」
 そのまま、二人で盛り上がり始めてしまう様子に、呆れたようなため息を吐き出すと、アルカンドはティユトスの肩を軽く叩いた。
「こいつらと話してると、疲れるだろ」
「そんなことは……」
 ティユトスは否定したが、強引ではないまでもその場を離れようと促すアルカンドに、結局は躊躇いながらもついて行ったのだった。勿論、その後姿に、トリアイナとバルバロッサの二人がきらりと目を光らせていたのには、気付かなかったようだが。


 そうして、二人から離れて暫く。
 リュシエルのたゆまぬ努力の甲斐もあって、都市の中でも殆ど唯一とも言える、美しく花の咲き誇る、整えられた中庭をゆっくりと歩きながら、アルカンドは小さく息をついた。バルバロッサ達のやり取りは、ツッコミを入れる立場としては疲れるばかりだが、ティユトスにとっては楽しいひと時なのだろう、その横顔は、ふわりと雰囲気が和らいでいる。そんなティユトスの本音が気になって、その問いは思わず口を突いて出た。
「あいつが言うように……ファンになりたいのか?」
「想えたら、素敵だとは思います」
 対して、ティユトスの反応は柔らかく、思いのほか前向きだったことに、少なからずアルカンドは衝撃を受けた。命を差し出せと乞う龍に、想いが沿うことになれば、悲恋と名前はつくだろうが立派に恋愛だ。そうなることを望むのだろうか、けれど想えたら、と言った時点で現在はそうではないはずだ。そんな行ったり帰ったり揺れる自身の、内心の焦りに突き動かされるように、アルカンドは言うまいと思っていた言葉を、解いた。
「俺では、ダメか……?」
「え……」
 何を言われているのか判らない、といった表情のティユトスに、アルカンドは腹を決めて、ぐっとその肩を掴んで正面から――勇気がいったためか、その頬を紅くしながら、その一言を口にする。
「俺は…………ティユトスが、好きだ。恋なら、俺にして欲しい」
 我ながら直球なセリフだと思ったが、それ以上の言葉は持ち合わせていないし、遠まわしに言うのは性質ではないのだ。一秒、二秒と、自身の心臓が早鐘を打つのを聞きながら、待つこと30秒ほどか。零れんばかりに開かれた目から、ぷくりと浮かんだ涙が、頬を伝って落ちた。そのまま次々と雫がしたたり落ちていくのに、先程の態度はどこへか、あわあわと取り乱したアルカンドは、その手のやり場無くあたふたと動かし、結局涙を拭うのもままならないまま、思わず顔を覗きこんだ。
「め、迷惑だったか?」
 その言葉に、ティユトスは淡い金の髪を揺らす。
「いいえ……あの、思ってもみなくて、私……」
 微笑み、はらはらと涙を零すティユトスに、堪らなくなってアルカンドは躊躇いつつもそっと肩へと腕を回して、その細い体を抱き寄せた。そのぬくもりに、感じる心臓の高鳴りに、先ほどトリアイナが見せてくれた御伽噺のようなそれを思い出して、ティユトスは胸の奥でちりちりと疼くものに微笑んだ。
「嬉しいです。もう、これだけで、私は……」
 何の未練も、持たないで済む。このささやかな、愛とも恋とも呼ぶには淡すぎるものを手に入れられたから。
 続かない言葉にそんな思いを察したが、アルカンドは何も言えないまま、ただ抱きしめる力を僅かに強めた。
(ダメだ……何も言えねえ。何もしてやれねえ)
 だがそれは「今は、まだ」だ。必ずこの細い体の想い人を、助けるのだ、と。
 アルカンドは深い決意の元で、自分へ、そして想いを寄せる少女への密かな近いとして、その唇をティユトスの額へと落としたのだった。