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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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2:想い、決意、それぞれに




 ルカルカがスカーレッドと激突し、そこへセレンフィリティが混じった形で、両名がダリルの援護の元で交戦を開始して数秒。
 スイッチするように一旦下がった白竜が一瞬、怒りと苦さと両方の混じったような、物言いたげな目線を寄越すのに、氏無は苦笑で応じた。
(………………)
 その表情の中に、自身の意思以外の何か。教導団とそしてもうひとつ譲れない何かを垣間見て、白竜は口を閉ざすことでその判断を委ねると示し、前線へと戻る中、逆に自ら動いたのは水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)だ。
「致し方ありません……あなた方を封印します」
 瞬間、場が冷たくなるのも構わず、ゆかりはディミトリアスへと視線を向けた。
「封印の方法を教えてください。あなたなら、その方法を知っていますね?」
 封印される当人にそれを問うというのも酷な話だが、ゆかりの表情は軍人然として揺るがない。その中に氏無と似たある種の責任感を見て、ディミトリアスは表情を動かすことも無く頷いた。
「知っているし、今の状態でも……俺たち二人を干渉できないように封じる程度は、可能だ」
「ちょっと……待ってください!」
 直ぐにでも封印に動き出しそうな流れに、慌てるように声を挟んだのは遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
「ディミトリアスさんとクローディスさんの封印には断固反対です! ツライッツさんの言う通り、封印をしてしまったら、二人共……」
「そうですね」
 その話に声を滑り込ませたのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。こちらは氏無達に一度視線を向けると「現時点で、確実性だけを言うならば封印が妥当と考えたのも理解は出来ますが」と一応の同意を示して、前線へと歩を進める。鞭がしなって地面を打ち、接近しようとしたスカーレッドを阻んだ。そこへ滑り込んだ、ルカルカの剣が振り下ろされようとする鎌と激突する。
 そんな激しい戦闘の音に混ざりながら、小次郎は続けた。
「ただ、それはあくまで現時点で、ですよね」
「そうだよ。ただ現実に……確実に被害を最も低く出来る手段は、現段階ではこれ以上は思いつけない。封印後離脱、その後はエリュシオン側と協議の上で本格的に対応することになるだろうね」
 両国間の協議の結果、遺跡ごと封じることになる可能性はある。と言うより、龍脈への影響などを考えればそうなる可能性が高いだろう。だからこその、ツライッツの激昂だ。
「そんなの、駄目です……承服できません。お二人には帰りを待っている人が居ます。その中には私も含まれてます!」
「しかし、現時点でこの状況の改善方法がわからない以上、危険を最小限に抑えるべきです」
 封印には絶対に反対だ、と声を大に主張する歌菜の言葉に、ゆかりは「しかし」と首を振った。 
「大尉の言うように「シャンバラの人間の手で帝国に被害が出た」ことになれば、犠牲になるのは二人ではすみません」
「……意見としてはボクも氏無大尉を支持する」
 ゆかりの言葉に、意見を添えたのはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)だ。
「古王国に仕え、護国を託された身として、祖国の安全を何より優先する」
 パートナーの言葉に、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)も息を吐き出す。
「まぁ、そうするよな。国を護ろうとするなら当然つーか、理解できる判断だ」
 何人かが其れに反論しようと口を開きかけた所で、シリウスはちらりとその視線を氏無へと向けた。
「それに決断することで少なからず傷つくだろうってのも、な」
 その言葉に、一同の間で一瞬沈黙が降りた。氏無にとっても、クローディス、ディミトリアスは知らない間柄ではないのだ。結論を出すのに、思うところが無い筈が無い。
 それでも「二人が犠牲になるなんて私は絶対に反対です。ここは脱出に専念するべきです」と枝々咲 色花(ししざき・しきか)は声を上げた。
「……命よりも大切なものなんてないはずです」
 色花の搾り出すような声に応じるように前へ飛び出す影があった。そのまま、離れたスカーレッドから放たれる一直線の真空派を、居合いの一撃で逸らしたのは赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)だ。
「……誰かを犠牲にした結末は、後味が悪すぎます」
 構えを直し、霜月は色花の言葉に応じる。
「我々がスカーレッドさんを抑えている間に、全員で安全な場所に避難するべきです」
 そんな霜月の援護を受ける形で、色花は懸命に言葉を探す。
「ディミトリアスさんは封印を解除するぐらいは出来るかもしれませんし、もしかしたら、今のスカーレッドさんを利用することも出来るかもしれません」
 確かに、色花の言うとおり、脱出するだけであれば、ディミトリアスは自分の封印の解除程度派何とかなりそうだと本人も言っている。スカーレッドには結界を破壊できる力があるのだから、それを利用してクローディスの氷の結界を破ることは出来るだろう。其れが無理でも、クローディスの奥の手というのを使えば、残る全員の援護があれば何とかできる筈だ。クローディス等の壁になるように構えを取りながら霜月は言ったが「それはどうでしょうか」と、懐疑的な声を漏らしたのは風森 望(かぜもり・のぞみ)だ。
「脱出が不可能と言うわけではありませんよ。それに、封印に賛成というわけでもございません」
 と、前置いてから、望は続ける。
「封印といっても、いつそれが綻びるかもまた判りませんし、結局は問題の先送りでしかありません。かといって脱出するだけでは問題放置ですからね、それはそれで問題ですし」
「そうだな」
 頷いたのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。
「ここを訪れる前から、夢……無意識への干渉は始まっていた。今更蓋をしても、一連の流れが止まるとは思えない」
 淡々とした分析に、氏無や調査団からの反応は無い。恐らく、彼等もその危険性は認識しているのだろう。そう判断して、鉄心は追い討ちをかけるように、両名を封印した際のリスクの高さのほうを追求した。
「この場で、いえ、条件を考えれば、ディミトリアス以外でこの状況に対応できる人間は居ないでしょう。彼等の封印によって、状況の経過が観測不能になり、術的な対応能力も失う……では、結局は龍脈もろとも遺跡の破壊しか取り得る手段がなくなるのでは?」
 だが、それに対して氏無はあまり良い表情ではない。というのも、その危険性を考えに入れても、状況が刻々と悪化している今、簡単に言えば全ての危険性を考慮に入れて行動するには「時間が無い」のである。
「……それでしたら、とりあえずの脅威を何とかするべきですわ。そうすれば、他に取れる手が出てくるはず」
 そう応じたのは沙 鈴(しゃ・りん)だ。
「その「何か」との親和性が高まる事が原因で、脅威が上昇していますわ。という事であれば、その親和性の上昇を緩和する鍵はあの少年……ディバイスにあるのではありませんか」
 名指しされて、調査団員フェビンナーレコンナンドに庇われた状態のディバイス・ハートは真っ青な顔を上げた。体調が悪いというのではなく、今の状況を幼いなりに理解しているのだ。それでも真っ直ぐ自分を見るディバイスに、鈴は続ける」
「彼が自分を律することが出来れば、過去からの干渉を遮断することもできるのでは?」
 だが、ディバイスは自分に向けられた言葉に、ふるりと小さく首を振った。
「ぼくは……無理だよ。どうやって抑えていいか、わからない……」
 無力さを噛み締めるような声に、その頭を撫でながらフェビンナーレが考えるように首を傾けた。
「この子の力を抑えるだけなら、私たちで何とかできるわよ。ただ……」
「そこの兄さんの言った通り、ここに来る以前から兆しがあったわけだからな。個人を抑えたところで、一時凌ぎにしかなれねぇ。どっかの段階で、現状かそれ以上まで状況は変わっちまうだろう」
 コンナンドが言い淀んだフェビンナーレのあとを引き継ぐのに、鈴は難しい顔をしたが、彼女自身それで解決できる、と思っていたわけではない。
「ですが……抑えることは出来るのですわね」
 その言葉にフェビンナーレとコンナンドが頷いたのを見て、鈴は「でしたら」とディミトリアスを振り返った。
「それでは、最悪の場合……ディミトリアス殿が彼に憑依する際、抑制を働かせることが出来る、というわけですわね」
「それなら、都市の力を使えば、より確実なのだよ」
 その言葉に、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が言葉を添える。
「都市が起動して龍脈を神殿に流せるようになれば、神殿の魔法陣を使って結界を強化できるのだよ。氷の結界の外側に更に結界を重ねるのだ」
「では、ディミトリアスさんには多少の無理をお願いできるというわけですね」
 その言葉に、悪びれず言ったのは望だ。ディミトリアスからの異論が無い様子に、望は得たりと続ける。
「となると、ここらでひとつ情報源にご登場して頂いて、すっきりかっちり精神的にも根本的にも後腐れなしで、快刀乱麻を断つ様な解決、というのも良いのではないかと思うんですがね?」
「俺もそいつに賛成だな」
 望の意見にそう声を挟んだのは、アルケリウス達と共にこの場に合流した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
「勿論危険もあるんだろうが……今のところ、一番の情報源つったらその「何か」だろ?」
「そうねぇ」
 同意を見せたのは雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。
「なんだったら、この際ディミトリアスを犠牲にしても……」
「……おい」
 思わずと言った様子でディミトリアスが口を挟んだのには「冗談、冗談」とあっけらかんと笑って、リナリエッタは目を細めた。
「あなたは、本来の力さえ出せればある程度抑えられる。でしょ?」
 その問いにディミトリアスが肯定するのを待って、リナリエッタは満足そうに頷いた。
「だったら、可能性に賭けてみるってのも、手じゃないかな」
「そうですよ!」
 その言葉を追い風に、歌菜が勢いづいて身を乗り出すように口を開いた。
「封印してしまったら、「何か」についても永久にわからなくなると、そう思いませんか?」
 一番強い感情は、『悲しみと願い』だとディミトリアスは言った。それが単一の意思かどうかまでは判らないが、「何か」の一部は、悲しんでいて、その悲しみを何とかしたくて……叶えたい願いがあるのだ。その為に、何か自分たちに伝えたいことがある筈だ。
「それを聞かないと、私、後悔する気がするんです!」
「第一」
 と、歌菜の援護射撃をするように口を開いたのは月崎 羽純(つきざき・はすみ)だ。
「封印をして終わると…本当にそう思うか?」
 言いながら、その視線を契約者たちとの戦闘を繰り広げるスカーレッドへと向ける。
「例えば、スカーレッドのように外から封印を破ろうとするものが大挙するのではないか?」
 今はまだ、影響を受けているのはスカーレッドだけだ。だが、何の影響を受けてどうしてそうなったのかはわからない以上、次に他の誰かが同じように暴走し始めないという保証は無い。
 「何か」について、自分達はまだ何も知らなさ過ぎる、と羽純は指摘する。知らないまま封印をする事で解決出来るとは、どうしても思えないのだ。最悪の場合、ディミトリアスとクローディスを封印した後、別の人間に狙いを変更する場合もある。条件の話で言うなれば、アルケリウスやアニューリスもまたこの付近にいるのだ。
「そうなったら、またその人間を封印するのか? そんなリスクを犯すぐらいなら、俺は歌菜の意見に賛成する」
 勿論これが賭けになることは理解している。だが分の悪い賭けではない、という羽純の言葉に賛同を示したのは清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。
「正体が何にせよ「何か」はこの遺跡に関する者であるのは間違いない筈だ」
 『裏切った・差し出せ』という言葉と、不意打ちに近かったとは言え、不完全な状態でありながらディミトリアスを取り込む程強い力を有している者となると龍、ポセイダヌスである可能性が高い。それは数名の契約者も薄々思っていたことだ。もしそうであれば、という前提で北都は続ける。
「この遺跡の二つの塔は起動しているってことは、今でもその機能は使える筈だ。機能が使えるなら能力も使えると思うんだ。例えば、巫女の眠りの歌ならば「龍」を一時的に抑える事が出来るんじゃないかって」
 その言葉に、はっと歌菜が胸を押さえた。それは過去の記憶がもたらした知識だ。
「眠りに落ちなくても、影響力がなくなれば、ディミトリアスさんは本来の能力を使える。それだけでも、状況は大きく変わるはずだよ」
 問題は誰がその歌を使えるかどうかで、またどの程度の効果があるかだ。もし「何か」が龍で無いなら効果が無いという可能性もある。だがその場合は鈴の提案したように、ディバイスの力を抑える方法や、リリが試そうとしていることも効果があるかもしれない。
「少なくとも、その効果次第で、我々が相手にするのが「何者なのか」は知ることが出来る」
 と、鉄心も言葉を添える。
「羽純さんの言うように、僕らは「何か」を知らなさ過ぎる。ちゃんと知った上で、しっかり対抗策を練るべきじゃないかな」
 少なくとも過去の記憶は、契約者達に確実に宿り始めている。その全てが何処まで有効なのかは判らないし、望む知識を得られるような便利なものではないが、過去に生きた人間達が何かを伝えようとしているのなら、それは「現在」に託された何かだ。時間が稼げるのなら、よりその知識と、その知識を活用する方法も見出せる筈だ。そう主張して、北都は堅い顔で「勿論」と続けた。
「……「何か」の正体が掴めず万策尽きたと判断したら封印を選択するよ。氏無さんの言うとおり、被害を出すわけには行かないからね」
 一瞬視線を氏無に向けると、判っていると言うように氏無が頷いたのに、北都は再び契約者達へと決意を込めて向き直った。

「ただ、それまではギリギリやれるべき事をしたい」