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イケメン☆サマーパーティ

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イケメン☆サマーパーティ

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イケメンコンテスト・アピールタイムに集う人々

 準備の整ったステージではお互いにメンバー全員のコンディションを確認するように見回している。リアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)も今まで練習してきたアルトリコーダーを握りしめ、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)もリコーダーを持ちながらくるくると踊ってみせている。
「皆さんの調子も良いみたいですね。さ、そろそろスタンバイしましょう!」
 シャンテが呼びかけると、みんなが頷いて持ち場につく。黎明がそれを見届けてステージ上に一礼すると、見守るように袖に下がった。
 呼吸を整えるように静かになったステージで、呼雪がピアノに指を滑らせると、ざわついていた広場も静かになる。
 綺麗な音色に重ねるようにシャンテがリュートを優しく奏で、リアンとファルもリコーダーを鳴らして、柔らかな空気が辺りを包み込んだ。
 ネアとゴザルザは横目で合図を送りあい、互いにコーラスのメインメロディーを譲り合いながらしっとりと歌い上げていく。
 太陽が、少しずつオレンジ色に染まってゆく。その幻想的な時間に合うクラッシックの響きに、特に薔薇学や百合園などの生徒達は身をゆだねて口ずさむ人がいるほどだ。
 どこか懐かしいようなメロディに、自然と身体に染み渡る歌声。
 いつまでも穏やかな時間が続くのだろうと思っていた矢先、トラブルは起きた。
「死ね死ね団パラミタ支部を代表して、お前たちに呪いをかけてやるぅうう!」
「きゃあっ!?」
 突如ステージに特攻してきたぽに夫に驚いてネアが黎明のいる客席側へと走ると、ファルが演奏を止めてぽに夫にかけよった。
「おまえ、人間の顔じゃな……おっとと、人間は顔じゃないんだぞ! そのひん曲がった根性、鍛え直しなよ!」
 余程容姿にコンプレックスを抱いているのか「イケメンめ〜」と恨みがましく呟く声が止まることはない。
「蛙顔になる我が一族代々の呪いをお前にもかけてやろう! 死よりもつらい苦しみを味わうがいい!」
 唸りながらにじり寄ってくるので、ファルは迎え撃とうと魔法の詠唱体勢に入る。
「待てぇえええいっ!」
 ステージに向かって走ってくる、覆面の男。左京はポーズをつけてぽに夫の前に立ちふさがった。
「とうとう本性を現したな! 薔薇学の平和を脅かすこと、お天道様が見逃しても、俺が許さん!」
 言葉の一区切りごとにポーズを変え、まるで何かのショーのような展開だが、こんな話は一切聞いていない。
「今こそキミに、俺の正義を見せてやるぜ! とうっ!」
 大がかりな必殺技でも出すのかとおもいきや、素早く背後に回ってロープで縛り上げると、催しをこれ以上邪魔しないように抱えてステージを降りる。
「ぐっ、僕を倒しても第二第三の非モテ怪人が……」
 最後の悪あがきのように呟いたぽに夫の言葉は引き渡し先の警備隊のみが聞くこととなり、ステージではまた穏やかな空気を1から作り直していたのだった。



 そして、空に1番星が輝く頃、ようやくイケメンコンテストの2次審査であるアピールタイムが始まった。
 激戦をくぐり抜けたのは、白地に藍色の流線が描かれている浴衣を着たもクナイ・アヤシ(くない・あやし)。空色の髪を赤い編み紐で1つに束ねていたりと、クールな印象を活かした姿。
 柊 カナン(ひいらぎ・かなん)は優菜に作ってもらった学ラン+学生帽+インバネスという、大正時代の学生風で登場する。
その顔はどこか緩んでいて、優勝すればモテモテ……! という邪な願望で参加したようだ。
 村上 生(むらかみ・いぶき)は清潔感重視の、地球上で見る事の出来る普通の爽やか外出着で現われた。特技として料理を作ってきたらしく、銀色のトレイに蓋を被せている。
 そして最後は椎名 真(しいな・まこと)。参加理由はなんと罰ゲームだというのに、1次審査を勝ち抜いてしまうのだから、運が良いのか悪いのかわからない。黒のノースリーブハイネックには縦に2本の白ラインが入り、黒のスリムパンツを合わせた。
 髪型は水に濡れた様に押さえつけて不機嫌な感じで行くようパートナーの京子より指示を受けたらしく、指示通りに着こなしてステージに現われた。
 参加者がステージ奥に待機したのを見計らって、司会進行役の雷堂 光司(らいどう・こうじ)が中央に躍り出る。
「待たせたな! パラミタ全校が集まったこのイベントで、イケメンコンテストが始まるぜ。つまりは、選ばれりゃパラミタ1のイケメンと言えるだろう」
 規模の大きなコンテストになっていることへのどよめきが上がる中、1次審査をくぐり抜けてきた参加者に視線が集まる。
 この中からパラミタ1が出るというのだから、投票する側も真剣だ。
「そして、選ばれた4人以外に特別参加を紹介しよう、そいつは――」
 もったい付けていた光司の手から素早くマイクを奪い去り、いつのまにかステージに上がっていた英希が少し赤みがかった顔で叫び始める。
「屋台は俺の物! そしてこの舞台の照明も俺の物ー!! ってことで、一番、城定英希歌います! キラッ☆」
「って、違う! あんたじゃねぇよ!」
 かなり酔っぱらっていたのか、言うことを聞かない英希を他の実行委員と数人係でステージから引きずり下ろし、なんとか平穏を取り戻すことに成功した。
「ったく、これじゃあ俺が特別参加もしてらんねぇか……? とっとと自己アピールに行くぜ!」
 写真と同じく扇子を口元に当て、微笑みながら前に出るクナイ。優雅に一礼をすると、その扇子を手にくるりと回って演舞を行った。
「北都様とともに、このコンテストを成功させるのが私の望みです。どうか皆様、ごゆるりとお楽しみ下さいませ」
 最後にもう1度深々と礼をすると、歓声が沸き上がる。それは、クナイに対するものと次への期待を込めた声だ。
 少し戸惑いながらもカナンが前へ出れば、人員整理をしている優菜が何か指示を送ってきているのが見えた。
「……ん、帽子はもっと深くかぶる? こうかな?」
 ぐっと深く被れば、片目だけでステージ下を見下ろすようになり、鋭い眼差しに黄色い歓声があがる。
 趣味は女性とお茶……とはさすがに言えないので、なんて言おうかと指示を待つように優菜を見ればいかつい男に絡まれている。
こういう事態を避けるために男装させたのに、さすが薔薇学とでも言うべきだろうか。
「おい! そこの娘に手を出すなら、僕を倒してからにしてもらおうか?」
 ステージから飛び降りて、颯爽と優菜のところに向かうと、得意の合気道で軟派男を撃退することに成功した。
 そのつもりがなくとも人前で披露することになった合気道は、パートナーを守ることに使用したということで高ポイントを獲得するも、本人は妹に悪い虫がつかないかばかりが気になって、獲得ポイントなど全く気にならなかった。
 そうして、2人が大歓声に包まれれば包まれるほど、自信のない生は緊張に包まれていく。
「えーと、掌にカボチャって書いて3回飲めば緊張しないんだよね?」
 トレイを上手く腕の上でバランスをとり、おまじないをして深呼吸を1つ。写真をほんの少しいじったのがバレないかとドキドキしながらも、トレイの蓋を開けて中身を見せるように端から端へと歩き審査員席に料理を置く。
「僕の特技はダンボールを食……じゃなくて! 花の料理、色とりどりの花のサラダとゼリー寄せです!」
 綺麗な色に、会場はどんな味だろうかと興味をもった声がちらほら聞こえるが、実際運ばれた審査員席の反応はというと、明らかに食用でない花がいくつか目につき、アクが強かったりしないのだろうかと味見をするのを躊躇われた。確かに、毒草ではないようだが……。
 そして最後の参加者、真を客席から熱い眼差しで見守る双葉 京子(ふたば・きょうこ)の姿があった。
 今回の祭は留守番のつもりだったのに、ひょんなことからイケメンコンテストにでることになったと連絡を受けていてもたってもいられなくなったのだ。
「真君……自信を持って行って来て!!」
 自分なら、真の隠れた格好よさを最大限に引き出すことが出来る。そう信じて密かに着せようと自作していた服や化粧道具一式を持ってきて、普段の真とのギャップ差でひきつけようと頑張った。完全コーディネートを行い、目つきの指示までしたのだ、良い成績を収めるに違いない。
「あと……もう少し、だから…………」
「京子っ!?」
 もともと風邪をひいていたために留守番の予定だった京子にとって、長時間人混みにいることは耐えられなかったらしい。
 ふらふらと足下に崩れ落ちる様子を見て、真はステージから飛び降りた。
「棄権でもなんでもいい、彼女を保健室へ連れて行かせてくれ!」
 救護班の案内の元、ステージを去る2人。だが、心優しい行動に棄権にはしないでくれと会場から声がわき起こり、4人とも審査が開始された。
 会場の反応、審査員たちの評価。それらを総合すべく実行委員長の樹は念入りに話し合う。
「みんなそれぞれに違った魅力があるもんねぇ。これは、消去法でマイナスを持っている人を――」
 誰もがコンテストの行方を見守り楽しそうな表情でいるのに、神無月 勇(かんなづき・いさみ)だけは思い詰めた顔をしていた。
 ここ数日気になる事件がありすぎて、とても夏祭りという気分ではなかったのに流されるように会場に来てしまったが、やはりなにを楽しめば良いのかがわからない。
「あそこにいるのは……ルドルフ?」
 目立たないようにステージがギリギリ見えるだろう場所に立つ彼を見付けて、勇は吸い寄せられるように近づいていった。
「ルドルフ! 私はキミに聞きたいことがあるんだ」
 聞きたいことは山のようにある。けれど、本人を目の前にするとうまく言葉がまとまらない。
「……君には、美しいと感じる心はあるかい?」
「え? はい、皆さんは私と違って輝いているなと……」
「なら、大丈夫だ」
 ゆっくりとマントを翻し、その場を去ろうとするルドルフを追いかけようとするが、やはり言葉がまとまらない樹は立ち止ったままだ。
「生かされているとか生きなければならないのではなく、君に必要なのは自分だけの輝きを信じることだ。誰もが持つ、小さな煌めきを」
「自分、だけの……」
 それ以上ルドルフが語ることなく、言葉の意味を理解しようと勇は反復してみる。
 誰もが持つというのなら、とても小さくて気付きにくいかもしれないが自分にも何かの可能性があるのかもしれない。
 ほんの少しだけ前向きになってみようと思ったとき、胸に挿していた白い薔薇が綻んでささやかに輝き始めるのだった。