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華麗なる体育祭

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最終競技『障害物競走』

 体育祭の目玉でもあった学校別騎馬戦も終了し、いよいよ最終競技。
 様々な障害を用意するために時間が掛かっているようで、それを見守る生徒達は心配そうな表情を浮かべている。
 何と言っても、ここは薔薇の学舎。男色家な方々がお出迎えしたり、あまつさえその方々が吸血鬼だったりするのではないかと噂になっている。
 しかし、そんな心配もよそに準備されるコースは、まず50mを走り抜け、薔薇で編まれたネットをくぐり、氷で出来ている平均台を渡り、麻袋で10mジャンプしながら進んだ後、3mほどの高さの白い山を登り、ロープを伝って降り、数メートル走るという物。
 至ってシンプルな作りに胸をなで下ろしていると、まだグラウンドに何か運び込まれてきた。
 布が被せられたまま6つ設置され、それを取り去ると……ジェイダスの像が現われた。
 肩幅に開いた足は人がギリギリ通り抜けられるくらいになっており、それが最後の関門らしい。
 それを通るのも気が滅入るが、6体のジェイダスにもそうとう気が滅入ってしまうことだろう。
 そんなコースを整備しているスタッフの中、日下 進士(ひかげ・しんじ)は何やらスコップを持ってウキウキと帰ってきた。
 一仕事を終えたような顔をしているが、この障害物の中でスコップを使う物はあっただろうか?
「最後なんだし、少しくらい盛り上げないとな〜♪」
 謎を残したまま参加者は集められ、総勢12名がスタート地点に集まった。
 同時スタートということで、6コースにはそれぞれ2人ずつ入っており、前後は各自じゃんけんなどで決めたようだ。
 ほとんどが1人で参加する中、パートナーと仲良く参加しているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 スタイルの良いルカルカはビキニのような超軽装体操着。それゆえに見事な肉体美を披露し、視線を集めるのは先程の魅惑の衣装の比ではない。いや、遠目から見れば同じような物に見えることだろう。ダリルは変な目で見られていないかと心配でならなかった。
「だからね、剣の部品じゃなく、人として生きていいのよ」
 はい、と背中を叩かれ自分の長い髪に触れる。
 競技の邪魔にならないようにしてくれるとは言ったが、まさか三つ編みになっているとは思わなかった。
「似合う似合う☆」
(嘘だな。目が笑ってる)
 しかし、解けば確かに邪魔になるだろうし、競技委員もスタート地点へやってきた。もう時間はないだろう。
 少し不服だが、ダリルはこのまま競技に参加することにしたのだった。
「位置について、よーい」
 ――パンッ
 クラッカーが鳴り、一斉に飛び出した。
 真っ先にトップへ躍り出たのは雪催 薺(ゆきもよい・なずな)。見事なスタートダッシュをかけるが、体力の差でレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)に抜かれてしまった。続いて葉月 ショウ(はづき・しょう)宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が僅差で追いかける。
「さぁ、教導団の意地を見せるわよ!」
祥子は余裕の表情だが、障害物競走は足の速さだけで勝負の行方は決まらない。
 50mを難なく走り終えても、次に待ち構えていた薔薇のネットはくせ者だった。
 魔力を込めた生花で作られているこのネットは、通るところの判断を誤れば棘で怪我をしてしまうし、手荒く持てば編み目が締まり自分の手が絡められてしまうこともある。
 そんな手強いネットでも、清泉 北都(いずみ・ほくと) と薺は小柄な体型を活かしてどんどん先へと進んでいく。そして、人一倍遅れを取っているのは金城 一騎(かねしろ・いつき)だ。
「おわっ!? 今度はこっちか、どうなってやがんだ」
 勉強など全く出来ず、むしろやったことがないと豪語する一騎は、体力だけは自信があった。
 ジェイダスが生徒の成績について危惧していることには気付いていても、自分が頑張れるのはこれだけだと意気込んでの参加だったのだが、どうやらネットに手足を絡め取られたらしい。
 たしかに、素早くくぐり抜けた2人とは違い、一騎はしっかりとした体つきをしている。けれども、決定打はそこではない。
 手荒く持てば持つほど不利な状況へ追い込まれるこの障害は、ガサツな上要領が悪い一騎には不利でしかなかった。
「あーくそ、引きちぎれねぇか……うりゃ!」
 そんな苦戦を強いられている状況をひたすら眺めている少年がいた。
 御代にお許しをもらったカミシロはウキウキと競技に参加したものの、格好良い男性に目がない彼は一騎に見とれてしまっていたのだ。
「はぁ、あの苦悩を浮かべる顔もまた……カッコイイ」
 一騎が手を緩めれば自然と解けることに気づくまで、2人は薔薇のネットの中に潜りっぱなしになっていた。
 次にやってきた氷の平均台。いくら涼しくなったとは言え、さすがに常温だと溶け始めてしまっている。
 薄く水の貼った滑りやすそうなそれは、最初の1歩を踏み出すことに勇気がいるだろう。
 エルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)もまた、唾を飲み込み両手を自身の胸へあてていた。
「落ち着いて、わたくしはこの日のためにイメージトレーニングをたくさんしてきました」
 よし、と気合いを入れて最初の1歩を踏み出すと、勢い余ってそのまますべり出してしまった。
「え、え? きゃあああぁっ!」
 予想外のことに驚くも、平均台の端にたどり着いたのでそのままジャンプをして無事着地。
 さすがにスケートのイメージトレーニングはしてこなかったものの、様々なトレーニングが役にたったのだろう。
 そして、着地した足下に問題用紙を見付けた。

 Qエルミル・フィッツジェラルド:体育 バスケットボールのスリーポイントラインは、ゴールより何メートルか

「……わたくしが負けることなんて万に一つもありません! 華麗に、優雅に1位になって見せます!」
 得意分野の出題に自信が付いたエルミルは、急いで次の障害に向かうのだった。
 3つ目の障害物は、麻袋でジャンプ。両足が使えないことが不便だということを痛感するこの障害は、水神 樹(みなかみ・いつき)も苦戦していた。
 基本的に身体を動かすことは得意なのだが、万全に動かせないとなると話は別。1歩1歩を確実に進んで行くしか手段は無い。
「あと、もう少し……なっ!?」
 順調に進んでいたというのに、突如バランスを崩してしまった。いや、落とし穴に落ちてしまったらしい。
「こんな障害もあったなんて、油断したわ」
「……大丈夫か」
 その様子を見ていた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が駆けつけ、樹に手を伸ばす。
「このトラップは聞いてない、怪我はないか?」
「大丈……っつ」
 目立った外傷はないものの、どうやら足を捻ってしまっているようで、呼雪は応急処置に冷却スプレーをかけた。
 あとは、救護班のテントまでどうやって運ぶかなのだが……
「すみません、本当に誰かが落ちるなんて。あの、僕にも何か手伝わせてください」
 確かに、悪戯をして盛り上げようとした。けれど、誰かに怪我をさせる気なんて全くなかった。
 ただ、誰かがびっくりしてくれれば、それで良かったのに。
「……あなた、肩を貸しなさい。歩きにくいから」
「は、はい!」
 丸く収まったから良かった物の、こういったことに対して厳しく取り締まっていかなければいけないなと、呼雪は教員への報告の仕方を考えるのだった。
 そして4つ目の障害、遠目に見れば高さ3mほどの白い山なので、助走をつければ難なくクリア出来るものだと誰もが思っていた。
「参りましたね……」
 アラン・ブラック(あらん・ぶらっく)とレイディスは異変に気付いて障害物の前で足を止める。
 良く見れば、表面がぬるっとしたもので覆われていて、下手に登ろうとすればすぐに滑り落ちるだろう。
「どっちが勝っても、恨みっこなしだからねー!」
 後ろからは、ルカルカたちの声が聞こえる。どうやら追いついてきたらしいが、どうやってこの障害を越えるつもりだろうか。
「お、おい! ルカルカ!?」
 仕掛けに気付いていないのか、走る速度を落とすことなく山を登り始めてしまった。
「あれ、え? や、ちょっと、待って、やだぁああ!」
 順調に2/3までは登れたものの、やはり途中で耐えきれずに足を滑らせた。
 あわあわとバランスを取ろうとしているルカルカを助けるため、アランとレイディスが同時に駆け寄ったためにぶつかってしまい、その間にルカルカがさらに乗っかってきた。
「……何をやっているんだ」
 ダリルが追いついてみれば、2人の男性の脚の上でうずくまるルカルカ。しかも、怪しげな白い液体を体中に浴びながら。
 もちろん、いくら怪しげでもいかがわしい物ではないことは分かっている。けれど、今までついつい目で追っていた彼女のしなやかな身体が脳裏に焼き付いているダリルは、何とも言えない気持ちを抱えていた。
「いったーい、べたべたのぐちゃぐちゃだよ」
 身体を起こしながら文句を言う彼女も実に悩ましい。だがせめて、膝を立てるなら閉じては貰えないだろうか。
「出来れば、上から移動してもらえるとありがたいんですけど……」
 申し訳なさそうなアランに、慌てて立ち上がるルカルカだが、靴底はまだぬるぬるしていてうまく立てず、身体を起こしかけていたレイディスを押し倒す形で倒れこんでしまった。
「もう、やだぁ〜……大丈夫?」
「あ、あぁ大丈夫、大丈夫だ!」
 しかし、ルカルカの豊満な胸が気になってしまい、あまり大丈夫ではない。
 そうして、混乱の場に北都がたどりついた。ゆっくりと障害物を眺め、何かに気付いたのか勢いよく山を駆け上がる。
「凄い、僕たちは登れなかったのに……」
「この液体、乾燥しない上に取れにくいから、1度ついたら洗い流さない限りここは登れないと思うよ」
「マジか!?」
 禁猟区を張って液体がない部分を選んで登りきった北都は、親切心で豊富な知識の一部を教えてあげ、次へと進むのだった。
 さきほどのルカルカの様子を見ても、北都の言ったことは正しいのだろう。3人はがっくりと肩を落とし、対戦を楽しみにしていたルカルカがいないのならと、ダリルも含めた4人は棄権することになってしまった。
 そして、最後の関門にたどりついたのは、北都、薺、ショウ、祥子。エルミルは先の山で脱落してしまい、この4人が残った。
 この時点で試験を解いてないのは祥子だけ。不利な状況を突破しようと全力疾走するが、どこにも問題は見つからない。
 最後のジェイダス像にたどり着いてしまい、女としてあそこをくぐるわけにはいかないと、コースの横から通り抜けられないものかと隙間を狙う。が、そのときやっと自分の問題用紙を発見した。ジェイダス像の内ももに貼ってある、あれに間違いない。
「競技委員! これは、女性に対して失礼じゃないの!?」
「確かに、これは非道でありますな……サイモン、取って差し上げるであります!」
 本来は参加者を手助けすることは出来ないがこのようなイタズラであれば話は別。
 ゴール付近にいた真紀がそれを確認し、サイモンを呼びつけると祥子は無事に問題を手に入れることが出来た。
 先程の雰囲気とは別人のように柔らかな姿勢でお礼を言う姿は大和撫子そのもので、驚かされるのだった。
 結局、回答に時間が掛かってしまってので、結果は散々になってしまったが、リタイヤが多かった競技にしては良い成績だろう。
 同じように、ゴール出来たことを奇跡のように感じている葉月 アクア(はづき・あくあ)が、嬉しそうにショウへ駆け寄った。
「ショウ、お疲れ様! 凄かったですね、あんなに難しそうでしたのに」
 笑顔で出迎えてむれたアクアからタオルを受け取ると、Vサインを返す。
「障害物なんて物、全部乗り越えてやるに決まってるだろ。負けず嫌いなヤツがいて、張り切っちまったぜ」
「……そりゃあいったい、誰のことだ?」
 不機嫌そうにしている薺の様子にアクアはショウを謝らそうとするが、なんだかんだと競技について話し出してしまったようだ。
(男の子って、へんなの)
 クスクスと笑いながら、2人のやりとりを微笑ましく見守るのだった。



閉会式

 あんなに爽やかな青空だったのに、いまはもうオレンジ色。
 端の方はすでに紺色とまじってきて、長かった1日がやっと終わろうとしていた。
「諸君らは、きっと全力で立ち向かってくれたことだろう。失いかけていた輝きが見られて、楽しい1日だったよ」
 教員テントから出てきたジェイダスはご満悦のようだが、知力も体力も使い果たした生徒達はそれを迎える拍手すら出来ない。
 全力で走り、そんな仲間を大声で応援し、苦手な問題に真っ向から立ち向かい……2度とやりたくない抜き打ちテストだ。
「さて、そんな君たちにプレゼントを贈ろうではないか」
 校長自らプレゼント!? 期待を膨らませ、次の言葉を待っていると空からたくさんパラシュートが降りてくる。
 あれは人じゃない、でもどこかで見たような……
「私のささやかな気持ちだ、受けとるといい」
 ――あれは、もしや!?
 一部の生徒を除き、大半の生徒達は顔面蒼白になった。あれは、障害物競走で活躍したジェイダス像だ!!



 みなさん、本日のごみは全て持ち帰り、分別はきちんと行いましょう。
 競技委員会一同

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

初めましての方も以前お付き合い頂いた方も、ご参加ありがとうございます! GMの浅野悠希です。
今回は、抜き打ちテストを秋らしく行おう! と企画したシナリオだったのですが、皆様の個性溢れるアクションの数々に笑いとアイディアを頂き、素直に体育祭にしておけば良かったと後悔しました。


なお、抜き打ちテストの出題傾向とクリアの判定は、

出題
ジェイダス宛に勉強についてのコメントがあった→得意教科出題
勉強に対してはノーコメント→苦手科目(数値の低いもの)出題

クリア条件
苦手科目について、前向きなコメントがあった→クリア
勉強に対して後ろ向きなコメントだった→得意教科であっても、トラブルなどにより不正解
ノーコメント→得意教科(数値の高いもの)との差が10以上だと不正解

という判定で行いました。
団体競技に至っては、リレーは第一走者が出題対象、騎馬戦は馬の先頭が出題対象。
クリア条件は、多数決にて選択されています。
さすがに全員へ問題を配付することは出来ませんでしたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

これからも、出来るだけ自由度の高い、非戦闘系の物語を執筆していくつもりですので、皆様の親睦を深めるのに利用して頂ければと思います。

それでは、また薔薇の季節にお会いしましょう!



10月6日追記
個別メッセージにミスがあり、表示されていない方がいらっしゃいました。
全員に配布させて頂いておりますので、表示されていなかった方はご確認をよろしくお願い致します。