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リアクション
第2章
「……やれやれ」
「どうしたんだ?」
宿屋に到着したばかりの緋桜 ケイ(ひおう・けい)が階段を頭を掻きながら降りてきた瑠樹とマティエに声を掛ける。
「ん? ああ、もうほとんどの人が集まったんだね。いや……それが――」
「ホイップちゃんの部屋は男子禁制! 火器厳禁!!」
階段の上では『禁 男性・火気・攻撃魔法』の貼り紙を持ったスターシークス・アルヴィン(すたぁしぃくす・あるう゛ぃん)が仁王立ちしている。
「なっ!!」
ケイの口が開いたまま塞がらない。
「あらあら〜」
おっとりとした口調でフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はゆっくりと階段を上がっていく。
「フィリッパさんは女性だから入っても大丈夫――」
「そうじゃなくてぇ〜」
スターシークスの側まで行くとぎゅっと抱きしめてから、背中をとんとんと軽く叩く。
まるで子供をあやすお母さんの様だ。
「い、一体何を!?」
やられた方は急に起こった訳のわからない行動にビックリしている。
「うふふ、少しは落ち着いたかしら? ちょっと動転しちゃっただけなのよね? 借金の事もあるみたいですし、これ以上増やさない為にと思ったのでしょう? でも、これはちょっと乱暴ですわ。それに皆で頑張っていかなきゃいけないことですわ。1人で気を張らずに、皆で協力してホイップ様を目覚めさせてあげましょう? ね?」
もう一度軽く背を叩く。
「う……うん」
「さ、皆で頑張りましょう〜」
振り返ったフィリッパが笑顔で皆を見遣る。
それに皆も笑顔で応える。
「……」
宿屋の主人が居るカウンターまで足を運んでいた椿 薫(つばき・かおる)はこれを見て、入口で武器や危険物の取り締まりをやろうとしていた自分も同じだと感じやめたようだ。
少ししょんぼりして階段を上っていく皆に付いていくと、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が心配して話しかける。
「大丈夫。日本では3年間眠り続けた男が突然起き出し、多くの民を救ったという昔話もある。きっとホイップも起き出して、皆と楽しく過ごせるに決まっておる」
薫がしょんぼりしている理由を勘違いしてはいたが、励まそうとしてくれる気持ちが嬉しくて、そうでござるな、と返事をするのだった。
ホイップの部屋へと到着する。
かなりの広さがある為、こんな大人数でもなんとか……ぎゅうぎゅうだが、入れた。
顔色の悪いホイップをみんな一目見て決意を固める。
そこで、瑠樹とマティエが今の状況を伝える。
一応、電話では簡単に説明をしているのだが、念のため。
状況はやはり芳しくないと誰もが思い、もう一度ホイップへと視線を向ける。
「それでは早速、この現場の検証に入りますわ。関係の無い人は一度出て行って下さいませ」
皆が無言になったところで佐倉 留美(さくら・るみ)が声を掛けると、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を残し廊下へと出る。
「これが話にあった『夢見放題』ですか」
机の上に出してあったパッケージを留美が手に取るとラムールも覗きこむ。
パッケージの裏には小さな文字で使用方法が書かれている。
使用方法
・1回の使用で1錠。
・夜眠る前に飲んで下さい。
・空腹時は避けて下さい。
・内容量1錠
「中身は1回分だけだったのじゃな。そうすると用量を間違える事はなさそうじゃな」
「そうですわね。用法も間違えるような内容じゃないですし。製造元は何処にも書かれてませんね」
2人は首を捻る。
「……こっちはお香」
一緒に出してあったお香は月夜がまじまじと眺めている。
お香は薄紫色の円錐で親指程の大きさ。
透明のビニール袋に入っており、中には使用方法を書いた紙も入っている。
使用方法
・無くなるまで何度でもご使用頂けます。
・約5〜10分ほどで夢の中へと入る事が出来ます。
(個人により差があります)
・夢に入りたい人と同じ部屋でご使用下さい。更に、その人の事を強く念じて下さい。
・煙が無くなっても起きる事はありません。夢の中に入る人は現実で起こされるか、夢の持ち主が目覚めると起きます。
「これも製造元がない」
月夜が調べた事を伝えると、3人は他にも何かないか調べだす。
大きな革の鞄を月夜が調べると中には色々な薬草の乾燥したものや、良く解らない材料、それから魔法薬の調合を記した分厚い革の本が出てきたが、どれも関係がなさそうだ。
留美がクローゼットを開けるとそこには4着の仕立ての良さそうな服しか入っていない。
「あら、少ないんですのね。でも可愛らしい服ですわ。もう少しスカートの丈を短くすればよろしいのに」
そうスカートの裾をつまみながら呟く。
ラムールは机の引き出しを調べるがハサミや鉛筆等の筆記用具しか入っていない。
「何もないようじゃな」
机の上も確認するが、木と銀で出来た置時計しかない。
3人の収穫は『夢見放題』とお香の使用法のみとなった。
「こっちはこっちで役割を分担しましょう」
廊下に出て直ぐ、樹月 刀真(きづき・とうま)が部屋から出た皆に提案をする。
ケイも同意し、更に提案をする。
「そうだな。必要になるのはまず、聞き込みか。ホイップを訪ねている人物が居るみたいだしな。聞きにいけば、何か解るかもしれない」
皆も頷き、それぞれ向かう先を言っていく。
「ああ、そうだ。亮司はドロウさんの屋敷へと向かうと言っていた」
亮司の動きをケイが伝え、聞き込みをする人達は行き場所が皆決まった。
「俺はホイップの部屋で皆の情報をまとめていく事にするよ」
「仕方ないですね、俺もここでまとめ役を名乗り出ますよ」
ケイと刀真がまとめ役を買って出る。
「そうだ、薫もこっちを手伝ってくれ」
「解り申した」
ケイは薫にも声を掛け、それを承諾する。
「芳樹はイルミンスールの図書館で頑張ってね。私はこっちでサポートするから」
「解った。頼む」
アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、聞き込みに向かう高月 芳樹(たかつき・よしき)に言う。
「俺の電話番号とかケイ達に伝えておいた方が良いですよね」
影野 陽太(かげの・ようた)が携帯を取り出し、まとめ役に教えていると他の聞き込みメンバーも携帯を取り出し、伝える準備をしておく。
それほど、時間もかからず必要な人の番号が集まった。
聞き込み以外にもおおまかに役割が決まると部屋を調査していた3人が部屋から出てきた。
そこで、お香等の使用法だけが判明した事を伝える。
得られた情報を胸に聞き込み組はそれぞれ担当の場所へと向かった。
「琥珀亭のマスターが来ていたとの情報がないからな、もう少し待機しておいてくれ。もしかしたら他にも動いてもらうかもしれないしな」
琥珀亭への聞き込みはケイの言葉で待機となった。
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