リアクション
第4章
こちらは聞き込み組。
「それじゃあ、お願いします。本当に助かります!」
「ええ。例のお約束お忘れなく……うふふ」
「はい、勿論です」
宿屋の中。
受付では主人がルディと何やら怪しげな会話をしていた。
会話が終わるとルディは2階へと上がり、主人は受付で次のお客さんを待ちながら、帳簿の整理をしているようだ。
「あのぉ、お忙しいところすみません。ちょっとお聞きしたい事がありまして」
そこへ突撃したのはマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)だった。
つぶらな瞳を煌めかせ、腰ほどまである黒髪を幅のある白いリボンで一部を結んでいる。
小首を傾げるとリボンも一緒に動く。
「は、はい! なんでしょう?」
美少女に話しかけられ、どぎまぎしている。
「話があるのは――」
「自分だー!!」
マナ・ファクトリの後ろから突如現れたのはベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)だ。
油断していた宿屋の主人を受付のカウンターの中へと押し込み、後ろ手にしてしまう。
「お母さんも泣いているぞ、さあ吐くんだ!」
「な、何をですか!?」
「とぼけるんじゃない! 主人が眠りホイップの第一発見者なのだろう?」
「それは、そうですが……?」
「お前が犯人だー!」
「何故ですかー!?」
「こういうのは……第一発見者が犯人と相場が決まっているのだ!」
「ボクは関係ありませんよー!」
無理矢理の犯人説に宿屋の主人である青年は泣きそうになっている。
タイミングを見計らって、マナ・ファクトリが手作りのかつ丼を差し出す。
「ほら、食え。そして……吐け!」
「だから! ボクは無関係です! 仕事が溜まっているんです! 解放して下さい! ボクは無実だー!!」
もう泣きが入っている。
「ね、ねぇ。本当に無関係なんじゃない?」
「いや! そんなはずはない! こいつが犯人だ!」
「違いますってばー!」
「これは嘘を言ってる感じじゃないじゃない!」
光条兵器を取り出し、未だに犯人扱いしているベアをボコボコにぶん殴り、急いで謝る。
「すみません! ごめんなさい! 馬鹿ベアには良く言っときますから!」
ベア・ヘルロットを無理矢理土下座させ、頭を床にこすりつけている。
「いや、誤解だと解って下さればそれで良いので……仕事に戻っても良いですか?」
「はい! もう本当にすみませんでしたー!」
「ふごっ!!」
最後にベア・ヘルロットの頭を床に叩き付けたのだった。
ベア・ヘルロットとマナ・ファクトリはホイップの部屋へと入るとケイの元へと行き、宿屋の主人の事を一応報告した。
ケイと刀真は苦笑いしていて、マナ・ファクトリは真っ赤になっていた。
ベア・ヘルロットは気にもしていなかったが。
そこに緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が割って入る。
「皆さんホイップちゃんと少なからず付き合いがあるんですよね? 今までどんな事をしてきたんですか? 借金の経緯とか知ってたら教えてほしいです」
「構わんのですが、何故そんな事を?」
薫が不思議に思った事を口にした。
「ああ、なんだか色々と費用がかかりそうだし、借金があるのならと募金を募ってみようかと。それでホイップちゃんの話とかあればやりやすいと思いまして」
「う〜ん。拙者はホイップ殿がそのお金を受け取るとは思えないでござる」
「俺もそう思うぜ?」
薫とケイが意見を言う。
「そうですか……」
「でも、今までの経緯を話すのは全然良いぜ」
ケイの言葉に周りも頷いたのだった。
ジュレールが後ろを見張っている隙にトメが油性マジックを取り出す。
狙いをつけたのは、割と近くに居た菅野葉月。
「今ならジュレちゃん見てないよね……チャンス!」
「なーにーをーしーてーるーのーかーなー?」
「ひゃあ!」
菅野葉月の側ではミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が見張っていたのだ。
「ワタシがまだ悪戯していないのに、葉月の体に悪戯しようとするだなんて、そんな羨ましい事したらダメ!」
ミーナはエペを取り出し、今にも襲いかかろうとする。
「わー! やめる、やめるから!」
トメは急いでジュレールの後ろへと隠れたのだった。
■□■□■□■□■
「お〜い!」
ドロウさんのお屋敷がもう少しというところで、陽太と
エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには風呂敷包みを持った亮司と
向山 綾乃(むこうやま・あやの)が居た。
一緒に聞き込みに行くメンバーはこうして合流したのだ。
屋敷へと到着すると直ぐに応接間へと通される。
老執事さんに高級緑茶と栗羊羹を出され、主が来るまで待つように言われた。
「大きなお屋敷、ロマンスグレーの執事さん、美味しい緑茶と栗羊羹だなんて最高ですわ〜」
栗羊羹を口に入れ、エリシアは部屋の中をきょろきょろと楽しげに眺めている。
栗羊羹を皆が食べ終わった頃に主であるドロウさんが応接室へと現れた。
「ほむほむ、お待たせして申し訳ありません。で、ご用件はなんですかな?」
「まあ、まずはコレを……」
すっと亮司は風呂敷包みを差し出す。
風呂敷の中には重箱があり、蓋を開けるとそこには珍味ミノタウロスの臓物煮込みが入っていた。
「ほむほむ、これはまた美味しそうな」
直ぐに執事さんが箸を渡し、ドロウさんが料理を口へと運ぶ。
「ほむほむ、まさしく珍味! 実に見事に調理されていますな。これは……そちらの可愛らしいお嬢さんが作ったのですかな?」
「はい。私がつくりました」
綾乃が照れながら返答をする。
「ほむほむ、素晴らしい」
「有難うございます」
二口、三口と箸が進み、あっと言う間に無くなってしまった。
「では、和んだここからが本題。最近ホイップの所を訪ねたか?」
「ほむほむ、行きましたな」
亮司の質問をあっさりと肯定した。
「それはいつですか?」
今度は陽太が質問を繰り出す。
「ほむほむ……いつだったかな?」
「4日前でございます、旦那様」
「おお、そうだったな。確か、この間の報酬を渡しに行ったのだよ。そういえば、タノベさんがあのあと訪ねてきておったようじゃな」
「そうだったんですか」
綾乃が相槌を打つ。
「では、今ホイップが3日間眠り続けているのを知っているか?」
「ほむほむ、なんとそんな事態に? いや、知らなかった」
本当に驚き、目を丸くしている。
「そうか、じゃあ、ホイップが眠り続けている理由も知らないか」
「ほむほむ、そうですな。皆目見当もつきませんな」
「では、自分の好きな夢が見られる『夢見放題』という薬をご存じではないですか?」
陽太は薬へと話題を転換する。
「ほむほむ、ソレも初耳ですな……。何もお手伝い出来そうにありませんな……」
実に残念そうにドロウさんが言う。
「最後に誰もが目覚めてしまうような料理は知らないか?」
「ほむほむ、それでしたら知っております。今メモと材料をお渡ししましょう。そちらのお嬢さんなら作れるでしょう」
綾乃を見てそう言うと、執事さんに材料を持ってこさせ、自分が書いたメモと一緒に渡した。
こうして亮司と綾乃はメモと材料を手に屋敷を後にし、陽太とエリシアはもしかしたらまた聞く事が出てくるかもしれないと屋敷に残らせてもらった。
屋敷を出ると直ぐに、状況をケイへと連絡したのだった。
ホイップの部屋ではケイが連絡を受け、その情報を刀真が紙に書き出している。
「このドロウさんには、ついこの間仕事をもらったんだ。その時は幻覚作用のあるキノコ狩りと料理をすることになった。料理は琥珀亭の厨房を貸してもらったんだよ。俺はソアと一緒に鍋料理を作ったんだ。猪の肉もあったしな。ソアの一言でホイップも料理をしたんだが……その時に使ったワインがどうやらとても高級なものだったらしくてな……俺達の使った調味料もだったんだが……借金が倍以上になったんだ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「だろう? でも本当なんだよ」
ケイの言葉にカナタも頷いた。
「……ボクはその時、知らなくて学校の図書館で授業の課題を片付けていたのさ……1人で」
遠い目をしてエルが呟いた。