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うきうきっ、合同歓迎会!

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うきうきっ、合同歓迎会!

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(4)特設スペース 〜朝の部〜

 イリス・カンター(いりす・かんたー)は新入生にまじりながら、ほっぺをぷうっと膨らませている。パートナーの椿 薫(つばき・かおる)がのぞき部季刊誌N春号(特別付録全学園桜の名所のぞきぽいんと地図)を配っているのをジト目で眺めている。
「椿がまじめに新入生勧誘するというからついてきて見れば
よりにもよってのぞき部の勧誘だなんて……恥を知りなさい恥を」
 彼女はのぞき部のライバルである(むだに)あつい部でも見てやろうかと思い、特設ステージに向かっていった。部活は学校生活とは切っても切り離せないこともあり、たくさんの新入生が食べ物を片手に見学に来ていた。
「なにが楽しいのかしら覗きなんて犯罪者のやることじゃない」
 正義感の強いイリスはあまり薫の部活動に賛同できないらしい。……しかし、(むだに)あつい部の担当者がなかなか来ない。どうしたのかと新入生達と首をかしげているとステージの屋根から高笑いが聞こえてきた。

「あれは何?」
「鳥か?」
「飛行機か?」

「「「違う、あれはケンリュウガーだ!!」」」

 ケンリュウガーはステージの屋根から太陽を背にしてとうっ! と飛び降りると、二回転空中で回りながら着地した。
「俺は(むだに)あつい部部長の正義のヒーロー、ケンリュウガー!!」
 ケンリュウガーは衣装に炎と書かれたマントを風にたなびかせ、超然とした様子でステージに君臨している。彼にはマイクなど必要ない、なぜなら灼熱のごとく燃えたぎる熱い心を持っているから!!!
「ヒーローだろうが、神様だろうが、制限は一切問わない! 目的は(むだに)熱くなることだ!
 悲願は打倒、のぞき部!! 掛け声はファイファー!!」

「「「ファイファー!」」」

「あれ、椿がいない? どこかしら……」
 ノリのいい新入生が拳を突き出しながら応えた。ファイファーコールで盛り上がっていたが、「!」とケンリュウガーは一転をにらみつけた。その視線の先を追うと……、イリスは目をまん丸にして驚いた。
「あああああ!!! 舞台にあがってちゃうわ!!!」
 こ、このままではステージ上が荒れることは確実! そう思ったイリスは「キャアアアア! だれかー!」と大声をあげてスタッフを読んだ。その間にもよっこいせー、どっこいせーとタンバリンを持った薫とエレキギターを持ったのぞき部部長の弥涼 総司(いすず・そうじ)が乱入してきた。
「オレがのぞき部部長、弥涼 総司だーっ!!!」
「のぞき部の椿 薫でござるよー!」
 エレキギターをかき鳴らし人には理解されにくい情熱を胸に歌いまくる。ツインボーカルである。


〜♪
ねえ、今日のパンツ何色?
俺の質問に嫌な顔をした君、至極まっとうな感覚
その瞳、たまらないね→ZOKU☆ZOKU
〜♪


「オマエ等全員フルボッコ!」
 総司は出だしを歌うとケンリュウーガーを指さし宣戦布告する。薫はポケットに入れていた花びらを総司がより目立つように、演説中にパッ、パッとまいていた。
「笑止千万!」
 

「舞台上での喧嘩はやめてください!!」
 イリスの声を聞いて駆けつけたスタッフの神崎 優(かんざき・ゆう)水無月 零(みなずき・れい)は舞台上の珍事に目を白黒させている。
「優、応援を呼びましょう」
 零は手に負えないと判断してスタッフの増援を無線で求めた。優と零は二次災害を減らすために、新入生たちを安全なところに避難させている。入口からクロスが走ってくるのが見え、優が簡単に状態を説明すると口にメガホンを作って警告した。
「周囲の迷惑になるので、自重していただけますか!?」
「例え女子に蔑まれようと、例えぼろ雑巾のような格好にされようと、例え理性が止めようと、例え本能が警告しようと、それでものぞきに行ってしまう者こそのぞき魂の持ち主でござる!!」


 話が、通じない。


「と、とりあえず、使用許可の出ていないのぞき部に落ち着いてもらいましょう!」
 優の提案にクロスはうなずく。優は零を背後に庇いながらぽかりと薫の頭をみねうちして気絶させた。クロスは総司をタックルして捕まえようとするが、間違ってケンリュウガーに当たってしまった。
「な、なにぃ!?」
 うちどころが悪かったようで突然ケンリュウーガーの変身が解除されてしまい、素顔が見えそうになる。慌ててバーストダッシュでステージから姿を消してしまった。
「馬鹿には早々に退場してもらいます……」
 クロスの飛び蹴りが決まり総司も捕まると、スタッフの提案でひもで縛って総司と薫は『反省中』の札を首からかけてステージ横で一日正座をすることになった。


 (むだに)あつい部とのぞき部が暴れた後を片付けるのに時間がかかったが、続いて魔法剣術探究部のウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が演説をすることになった。
「皆さんはじめまして、魔法研究剣術探究部です! この部活では、様々な武術や魔法を実践的に学び、探索などの校外学習での生存率をあげることを第一の目標としています」
 司会のメイベルが部活についておっとりと質問をする。
「ええと、運動系の部活なのでしょうか?」
 ウィングはにっこりと笑うと指でバツ印を作った。
「そうですね……魔法の研究もするので文化系の面も持った部活だと言えます。戦闘未経験者も歓迎していますよ!」
 そう言うとやおら後ろに飛んで、客席から飛んできたゴム弾を殺気看破で軌道を予測し乱撃ソニックブレードですべての弾を叩き落とした。ゴム弾は合同歓迎会スタッフにパフォーマンスのために依頼されていたものであり、パラミタ猟友会 蒼空学園支部の支倉 遥(はせくら・はるか)が演出に協力して狙撃を行った。



「ねーたん、こっちこっちー。ここが、いにゅみんしゅーるぶじつぶなんらって!」
「……なに? コタローは、差し入れしたいのか?」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)林田 樹(はやしだ・いつき)のバックパックから上半身を出してステージのほうに手をパタパタと降っている。樹はうーん? と聞いたことのある名前から関連性を思い出している。
「ああ、『THCひみつきち』で世話になっているヤツの所か。了解、行ってこよう」
「こた、ひみつきにの、おのいにーたんに、さしいれするんらお。にーたん、かっこいいんらー」
 朝の部最後の出し物はイルミンスール武術部である。樹たちがついたころ部長のマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)はイルミンの制服の下にパラ実の制服を着こんでいる。彼の前には重ねた瓦が置いてあり、これからパフォーマンスをやるようだ。マイクを持った音井 博季(おとい・ひろき)が新入生のために部活のアナウンスをしていた。その後ろでは四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)水神 樹(みなかみ・いつき)が準備体操をしている。
「イルミンスール武術部だ! ヒャッハー!!」
「皆さんこんにちは、僕たちイルミンスール武術部はこれから瓦割りと模擬戦を行います。近くのほうがよりよく見えるので、ステージに近寄ってくださいね」

………………!!

 精神を集中させたマイトが一気に瓦を割ると、ぴゅーぴゅー♪ と指笛を鳴らす者や拍手を行うものが出てきた。
「にゃ? ぶじつぶ、もいせん(模擬戦)、やるんらー。こた、たにょしみー」
「魔法学校の部活……楽しみです!」
 先ほど沙幸と美海に連れてきてもらった美空は、これから何をするんだろうとわくわくしながらマイトを見ている。

 本日2回行われる模擬戦は前半が女性、後半が男性同士のペアで行われる。新入生、たくさん来てくれるといいなぁと水神は気合いを入れている。唯乃は今回、魔法で模擬戦に挑むようだ。女性の魔法が見れるとあって美空は大変注目している。唯乃と水神はステージ上で客席と対戦相手に一礼した。主審のマイトが笛を吹くと、「先の先」を使用した水神が一気に距離を詰めてきた。高身長の彼女はリーチの長さを利用して、回し蹴りをはなとうと構えをとる。
「……頑張らないとすぐ終わっちゃいそうね」
 スピードではかなわないと判断した唯乃は光術を使い水神の目をくらますと、威嚇のために破邪の刃で応戦した。唯乃の鉄甲による光輝属性ワンツーパンチは当てるためより、逃げて距離をとるための布石である。
「ぐっ……相手が誰であろうと、容赦はしません!」
 初撃は当たってしまったが、二回目のパンチを繰り出す唯乃の腕をつかむと前に腕をひいてバランスを崩す。態勢を整え踵落としを出そうとして寸止めした。
「そこまで! 勝者、水神!! ヒャッハー!!」
「わぁ〜、格好よかったです〜!」
 美空はぱちぱちと拍手を送った。水神と唯乃はぺこりと頭を下げる。好評を受けて、2人は顔を合わせてにっこり笑った。

 続いてマイトと博季の模擬戦にうつる。マイトは部員2人にたいした怪我がないのを確認すると、少しの時間目を閉じて精神を集中させた。今回、マイトは素手で戦う。博季は重そうな大剣を素振りして、部長との戦いに備えている。礼をした後、唯乃の合図でマイトがバーストダッシュで接近した。
「よし、いざ尋常にッ!」
「さぁ、我が武術を広めてやろうじゃないか!」
 武器を持たない分マイトのほうが身が軽く、すばやい動きで投げ技に持ち込もうとするが博季の剣が邪魔でうまくできない。反対に博季のチェインスマイトで左右の攻撃を受け、揺さぶりをかけられている。
「ぐぐ、あの剣が問題だな……」
 マイトは低く沈むと足払いをかけた。博季は転びそうになったところを剣を杖のように地面に刺してこらえるが、バランスを優先して1度剣を手放すことにしたようだ。
「うわっち……。流石、やりますねッ」
「イルミンスール武術部は魔法が使えなかったり、使えない時を想定して考えられているからな!!」
 とどめ! と思い切りのいい正拳突きを出したマイトを、博季はスウェーを使って受け流し反対に鳩尾を狙い打突を繰り出した。

「そこまで!! 勝者、音井 博季!!」
「今回は……、華を持たせて頂きました。有難う御座いました」
「お、おお!! しゅごーい、しゅごーい」

 唯乃の声が響き、2人に向かって温かい拍手が送られた。ステージから降りた博季にコタローが近づいてゆく。
「にーたん、にーたん、こた、さしいれもってきたおー」
「あ、こたろーさん! 来てくれたんですね!」
 樹は差し入れ用の空京ミスドのドーナツ詰め合わせを渡した。
「コタローが世話になっている。よかったら他の人と食べてくれ」
「おひさしぶりらお、おのいにーたん。こっちは、こたのねーたん。『はやしら いちゅき』れす」
「美味しそうですね、皆でいただきます」
 疲れたところに甘いものはとても嬉しい。他の部員たちも集まってきて、コタローの差し入れはどんどん彼らのお腹におさまっていった。