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開幕!お菓子づくり大会その1涼司への甘い罠

 蒼空学園の調理師室に入った瞬間、蒼空学園のシスコンメガネこと山葉涼司(やまは・りょうじ)は、口をあんぐりと開けた。
 今日は、パートナーである花音・アームルート(かのん・あーむるーと)へのホワイトデーのお返しのお菓子を作ろうとパティシエになるほどの意気込みで、調理室のドアを開けたのだが既に30人ほどの学生達が各々エプロンをしてお菓子作りの準備をしていた。
「一体どういうことだ……?」
 涼司が入り口で呆然としていると、一人の男子生徒が涼司に近づき話しかける。
「おう!メガネ!花音ちゃんにホワイトデーのお返しのお菓子を作るらしいのお。メガネ、 教室で叫んどったらしいやんか?それで、バレンタインデーにチョコレートをもらった連中が自分も一緒に作ろうと思って、集まったらしいんや。まあ、俺もなんやけどな」
笑顔で説明してくるのは、涼司のことをメガネと言ってはばからない、怪しい関西弁男日下部社(くさかべ・やしろ)だ。
「だからって、何でこんなにいるんだ?」
 涼司の疑問に、社は面白がるような口調で。
「メガネの人徳やないんか?」
「そうか……みんなもう準備してるし俺も、ぐずぐずしてられないな!」
 そう言って、涼司がカバンからエプロンを出して身につける。
「しかし、メガネも花音ちゃんの本当の大切さがわかってきたみたいやな」
「な!何を言っている?」
 社の言葉に動揺する涼司。
「メイド喫茶にばかり行ってた、メガネがなあ……」
「誤解を招く言い方をするな!メイド喫茶には社会勉強でちょっと通っていただけだ!」
 それもどうかと思うが。
「ふーん。まあええわ。で、メガネ、お前何作んねん?」
 社が尋ねると、涼司は眉間にしわを寄せて考え込む。
「昨夜、いろいろ考えたんだが、決まらなかったんだ。だからお菓子の材料一通り買ってきた」
「花音ちゃんも年頃の女の子や。旬の果物を使ったスイーツなんて喜んでくれるんとちゃうかな?今なら苺やオレンジとか良さそうやね♪タルトなんてどうや?」
 社の言葉にまた涼司は考え込む。
「確かに、苺は今が旬だがタルトだと意外性がないような気がする」
「まあ,何作るにしてもな……一番重要なのは…メガネ!お前の花音ちゃんを思う愛情!そこでとっておきの愛注入方法を調べておいたで!」
 社が目をキランと光らせ涼司に言う
「何!?そんなものがあるのかぜひ教えてくれ!」
 必死の形相で社に詰め寄る涼司。
「そこまで言うなら、教えてやろう。何せ、メガネの為やからな。両手でハートの形を作ってみ?そして!『萌え萌えキュン♪』や!」
「『萌え萌えキュン♪』?」
「そうや!愛を伝える不思議な呪文や!」
 はっきり言って、もちろん、社の嘘八百である。
 だが今の涼司は、どんな嘘でも信じてしまうピュアボーイになってしまっている。
 両手でハートの形を作って教えてもらった言葉を唱える。
「萌え萌えキュン!!」
 気合を入れているのかみんなが振り返るほど大きな声で社の言うとおりにやる涼司。
 そんな涼司を見て社は含み笑いが止まらない。
(「ククク……ほんまにやりおった、メガネ。アホちゃうか?まあ、それだけ花音ちゃんへの思いが本物ってことやな」)
「これで、メガネお前のホワイトデーの成功は約束された、がんばれや。俺もお菓子作らんといかんから油売っとられんねん。それじゃな」
 含み笑いを隠しながら調理台に向かう社を不思議に思いながら、涼司は顔をパンパンと叩いて気合を入れる。
「花音の為だ!がんばるぞ!」
 涼司の両眼には気合いがこもっていた。