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【2020春のオリエンテーリング】準備キャンプinバデス台地

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【2020春のオリエンテーリング】準備キャンプinバデス台地

リアクション

 リッチカレー班が順調に仕上がりを見せる中、現地素材を使ったカレーに挑戦中のグルメカレー班はいまだに並べた材料を前に言い争っていた。
「やっぱりさ、カレーって言えば豚肉でしょ」
そう自慢げに持ち込んだ豚の頭をブラブラさせているのは、蒼空学園のニンジャである久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
「ううん、カレーといえば辛さですわ」
沙幸のパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)はシャンバラで一番辛いと言われるデビル唐辛子を山ほど持ちこんでいた。
「沙幸さんも美海さんもまだまだ甘いな。ゲリラ闇カレー作成部隊としてはもっとパンチの聞いたものがいるだろ」
蒼空学園のセイバーの如月 正悟(きさらぎ・しょうご)はそう言って、巻いていた昆布を外して鯖のきずしを見せた。
正悟のパートナーであるエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)が持ち込んでいたのは猫の缶詰めだ。
「これ、近所の猫ちゃんがとっても喜ぶんです」
予想もしない材料のオンパレードに良識派である愛美と未沙は困り果てて顔を見あわせていた。
「マナ……これって言ってあげた方がいいんだよね?」
「うん……でも、なんて言えばいいのかな?」
そんな二人に代わってツッコミを入れたのは、イルミンスール魔法学校のモンクの日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。
「ちょっと、待たんかい。なんやねん、この材料は?」
外見のバカっぽさとは違った社の堂々としたもの言いに、マリエルは少し見直した。
「社、いいこと言うね」
しかし、褒めたのもつかの間だった。
「野菜があらへんやろ!」
社のボケに、マリエルだけでなく、愛美と未沙もがっくりした。
「そっちじゃないでしょ」
未沙に叱られた社だが、あまり懲りてはいなかった。
「いややなぁ、未沙ッち。ノリツッコミやろ」
社の軽いノリに本当かなぁと未沙は疑いたくなった。
 
 そんな周囲の騒ぎをよそに、シャンバラ教導団のモンクである夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は採集してきた野草を黙々と並べていた。
「うわ、彩蓮てば。これ本当に食べれんの?」
沙幸は並べられた野草から人間の顔が苦痛でゆがんだような形をした花を持ち上げた。
「それは人面花です。花弁の苦みが胃腸にいいとされています」
動じることなく彩蓮は落ち着いて答えた。
「これなんかは生でも食べられます」
彩蓮は一番毒々しい野草を躊躇もせずに口に入れた。
「うわ、かわいい顔してやるね。彩蓮さん、うまいの?」
質問した正吾は、逆に彩蓮から野草を差し出されたがさすがに食べる気はしなかった。
すっかり作業が滞っていたリッチカレー班を動かしたのは、蒼空学園ローグの岬 蓮(みさき・れん)だ。
「カレーなんだしさ、何でも入れたら大丈夫だって」
蓮が鍋を用意したり、蓮のパートナーであるアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)が水を運ぶのを見てようやくメンバーも動き始めた。
「そうよね、みんなお腹すかせてるんだし。なんとか頑張って作りましょう」
愛美もそう言って、蓮の手伝いを始めた。
「サンキュ、愛美さん」
と言った蓮のポケットからポトリと落ちた練りワサビのチューブを、アインは見逃さなかった。
「蓮、このワサビはなんや?」
「え、あ……」
蓮はまずいとしらを切ってとぼけた。
「まったく、アホなことしやがって」
アインはチューブを没収したものの、逆に自身も久々にイタズラしたい願望がわいてしまった。
「いや、やっぱりあかんやろ。けど……」
つぶやくアインに、美海が横からひょいと顔をのぞかせた。
「いま、いけないこと考えたって顔してましたわ」
美海はデビル唐辛子をアイン見せ、意味深に微笑んだ。

 どんどん刻まれた具材が鍋に放り込まれる様子を見ていた正吾は、
「さすが闇カレーだ」
と、妙に感心していた。
一人窮地に立たされていたのは味付けのスパイス担当をする、イルミンスール魔法学校のローグであるクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だった。
「えっと……」
俺のカレーはパラミタで一番と自信たっぷりに色々なスパイスを持ちこんでいたクロセルだが、さすがにこの材料の闇カレーはすでに凶器と化していた。
「闇鍋みたいになってしまいましたが、大丈夫でしょうか?」
エミリアの健気なお願いに、クロセルは調子に乗ってしまった。
「大丈夫です、このお茶の間のヒー……もとい、カレーのヒーローにお任せあれ!」
パートナで―あるマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)はクロセルがまた調子に乗ってると呆れ気味だ。
「軽く安請け合いして、無責任なのだよ」
マナは文句を言いながらも唐辛子ですでに激辛になってしまった味を中和させるべく、大量のすりおろしリンゴをせっせと投入していた。
一度味見をしてみようということになったが、さすがに希望者は出ない。
仕方なく全員でやることにしたが、彩蓮以外は口にした途端に沈黙した。
「どうしました、みなさん。おいしくないんですか?」
舌の鈍い彩蓮だけがケロリとしている。
「こ、これはゲリラ闇カレー史上最強かもな……」
「し、舌がいたひ……」
ゲリラ闇カレー作成部隊メンバーの正吾も沙幸もあまりの味に絶句するしかなった。

 しかし、ここから奇跡は起こった。
「ここまできたらやるしかないって。みんな、一人ずつ好きな味付けをして煮込もうよ」
無茶苦茶な蓮の意見だったが、もはや全員が開き直って同意した。
もしかするとカレーに脳をやられたのか、材料の野草におかしなものが混じっていたのかもしれない。
何を入れたかは見ないという条件で、それぞれが鍋に調味料をブチこんだ。
アインは練りワサビ、沙幸は毒消しにと胃腸薬、美海はさらに辛くしようとタバスコ一本、未沙はヨーグルト、マナは蜂蜜を入れていった。
愛美は辞退したが、マリエルはケチャップ、正吾はお酢、彩蓮は野草のしぼり汁、クロセルは大量のハーブだ。
そして、最後に蓮が牛乳を加えてかき混ぜた。
「社がまだであろう?」
マナは隣で動かずにいた社に声をかけた。
「ええねん、俺は愛情っちゅう最高のスパイスをもう入れてるんや」
良いことを言ったつもりの社だが、その言葉のあまりの寒さにみんながどん引きしたことには気づかなかった。
奇跡の出番を待つべく、カレーはひたすら煮込まれ続けた。



時折カレーの匂いに混じってくる怪しげな異臭に悩まされながらも、キャンプファイヤーはどんどんその高さを増していた。
「これ、カレーの匂いでしょうか?」
「たぶん、そうだとは思います……」
力仕事を避けて作業の安全確認や指示を手伝っていたリースと花音は、顔を見合わせてお互いに思っていたことを確認した。
「ですよね……」
だが、花音たちにゆっくりと話す暇はない。
どんどん運ばれる木材の置き場所を指示しないといけないからだ。、
「あぶないですわ、そこで止まってください」
「リースさん、積み上げはもう少しかかりそうですか?」
「えぇ、やはり人出が足りないみたいです」
工兵のラハエルは二つのキャンプファイヤーの間に立って、図面とにらめっこしながら指示を出すので大忙だ。
「おい、そっちじゃない。こっちだ」
一つでも組み違えたら崩れる危険性もあるので、ラハエルの責任は重かった。
「小次郎、応援はどれくらい集まりそうだ?」
「そうですね、パトロールやガイド班にもたせたトランシーバーに呼び掛けてますから十名くらいは」
テントの設置を終えた涼司や小次郎は応援を呼び集める連絡に追われていた。
「真人様、そちらをお願いできますか?」
「大丈夫です、任せてください」
資材調達係であった翔や真人も汗を流して手伝っていた。
「人出が必要のようだな」
「僕たちも手伝います」
キャンプ内を巡回していたリアトリスとスプリングロンドは、ラハエルに声をかけた。
「すまん、助かるぜ。左のタワーの作業が遅れてるんだ、二人はそっちに入ってくれるか?」
「わかった、あっちだね」
リアトリスはそう言って丸太を掴んだが、さすがに重量がある。
「無理はするなよ」
「僕だってこれくらいはいけるよ」
心配するスプリングロンドに、リアトリスは平気だと微笑んだ。
太陽がバデス台地の地平線にゆっくりと近づき、春先のキャンプは少しずつ気温を下げつつあった。
しかし、キャンプに集まった若者たちの熱気はますます高まっていき、収まることを知らなかった。