天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

リアクション公開中!

【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

リアクション


5・迷う(士道科)


 士道科も木造だ。しかし、別棟がありそちらは近代的な作りとなっている。鉄筋4階建てで、1階が弓道場、2階が剣道場、3階が柔道場、4階が合気道場に使用できる。また各階に男女の更衣室や、シャワールームまで備えてあるが、今回は道場は鍵が掛かっている。

 葦原明倫館生徒の御影 春華(みかげ・はるか)は百物語の話を聞いて、早速「脅かし役」に立候補した。姉の御影 春菜(みかげ・はるな)も同じだ。
 二人のもとにも大八車を引いた丹羽匡壱があれこれ持ち込んできたが、受け取らなかった。
「私たちより妖怪の生態に詳しい人はいないですよね。だったらそれらの知識をつかって驚かしちゃいます」
「こいつら人気ないんだよなぁ」
 匡壱はビニル製ののっぺらぼうを手にとって嘆く。
「仕方ない、俺が被るかな…で、お前たちは何やるの?」
 御影姉妹に問う。
「私は九尾の妖狐のフリをしようかな。でもそれだけじゃ物足りないから、火術で人魂を作りましょう
 ついでに氷術で、周りの気温を下げながら歩きましょうか」
 うきうきしながら話すのは、姉の春菜だ。
「ふふふ、やっぱり脅かす側のが面白いよね。私もおねーちゃんと同じように妖狐の仮装をしようかな」

 というわけで、御影姉妹は狐に、匡壱はのっぺらぼうに化けることとなった。


 明染 希(あけそめ・のぞみ)は、蒼空学園から一人でやってきた。百物語よりも葦原明倫館の校内に興味があった希は、貰った地図など見ずに好き勝手に歩いている。時折、地図を見て場所を確認しようとするが、この地図自体が迷路のような出来である。自分がどこにいるのかも定かではない。
「困ったなぁ、ここどこなんだろう?」

 希の呟きを聞いていたのは、同じように迷っている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)だ。
 美羽はあまり葦原明倫館に来たことがないので、途中で迷っていた。
「妖怪…じゃないよね?」
 妖怪には人の形をしたものもいるらしい。美羽は恐る恐る希に尋ねる。
「…蒼空学園の明染希だよ」
 希も美羽が妖怪か人かを迷っているようだ。
「大丈夫、二人とも人です」
 コハクが横から穏やかな声でいった。

「じゃぁ、私はなんだい?」
 三人の前に現れたのは、髪を大きくたらしたお化け。つまり匡壱だ。
「女の子が二人に大人しいそうな男の子だ、春菜さんたちじゃ怖すぎるだろ」
 匡壱が脅かす役を買ってでた。
「俺の顔を見てごらん」
 すっと手で顔を覆うと、目鼻立ちのないのっぺらぼうが現れる。
「うぁ」
 声をあげたのは希とコハクだ。
 美羽は、匡壱から目を離さずに仁王立ちしている。
「こっちはパラミタに来てから、数えきれないくらいゴーストやモンスターと出くわしてるのよ! いまさら妖怪くらい!!」
 いきなり、光輝属性の則天去私で匡壱に攻撃を始めた。
 希は、探究心旺盛な性格だが、争いごとというか運動系は苦手だ。そっとそっとずりずりと後ろに下がる。
「駄目ですよ、こっちにもですよ」
 声のほうを振り向くと、そこにも長い髪の女がいて、顔をあげると目も鼻も口もない。
「キャー」
 美羽の攻撃を受けながら、匡壱が驚く。
「あれ、春華さんたちは狐だったよな」
 ついに二刀流で美羽の攻撃を受ける匡壱、ついに仮面を脱ぐ。
「すまない、こんなに脅かすつもりじゃなかった」
 ところが希とコハクは、まだのっぺらぼうに絡まれている。
「あっちは誰なの?」
 美羽が、ゴム製のマスクを手に匡壱に聞く。
「ああ、多分本物」
 匡壱は、目の端で狐の姉妹が他の生徒を襲うのを見た。
 ということはあれは・・・
 美羽が飛んでいって妖怪を羽交い絞めにする。
 そこからは、目を覆う風景だった。
「美羽、そろそろ妖怪さんがかわいそうだから……」
 と言って、暴れている美羽をたしなめるのはコハクだ。
 しばらくすると、のっぺらぼうが正座している。
「これからは人間を怖がらせたりしないで、みんなと仲良くするように」.
 頷くのっぺらぼう。
 匡壱がそっと、のっぺらぼうの横に迷い込む。
 ゴムの輪が見える。
「ゲイル・・・?」
 小声で尋ねる匡壱に、目のないのっぺらぼうはウインクでかえした。
 希はコハクに手を振ると、そっとその場を離れる。
 この分なら、面白い妖怪をたくさん見ることができるかもしれない。また道無き道を突き進む。



 「やりすぎは禁物だぞ」
 用意周到に準備を重ねる春菜と春華に、匡壱は釘をさした。あまりにリアルは狐に恐ろしくなったのだ。
 二人の前に現れたのは、蒼空学園のマリア・クラウディエ(まりあ・くらうでぃえ)だ。
「この世に非現実的・非科学的なモノなど無いわ、今回の催しもイベントだもの」
 しかし本当は暗い校舎に臆しているのか、パートナーの吸血鬼ノイン・クロスフォード(のいん・くろすふぉーど)の洋服の裾をギュッと掴んでいる。
 ノインは、この雰囲気が気に入っているようだ。ことさらに暗い場所を選んで歩いているように見える。
 こんなときでも優雅に歩くマリアは、優等生然としている。

 「大人しそうです、少し手加減しましょうか」
 春菜は、ほんの少し脅かすつもりで、火術で作った人魂を周りに飛ばしながら、九尾の妖狐に化けて、マリアの前に飛び出た。

 「キャー」
 なきながらノインにしがみつくマリアが見えたような気がした。しかしそれは、ノインと春菜が事前に感じた幻想である。
 実際には、恐ろしい形相の狐の胸元掴んで、振り回している。
 驚いたのは春菜だ。
 愛らしいお嬢様はなにやら口汚く罵りながら襲い掛かってくる。
「おねーちゃん!」
 春華が同じ狐の様相で助けにきたのと、ノインがマリアを羽交い絞めしたのは、ほぼ同時だった。
「すまない、このことはですね…」
 ノインはこの狐が本物の妖怪でないことには気がついている。が誰かは分からない。
「忘れてですね…」
 マリアのお嬢様イメージを護るために、ノインはマリアをローブに隠すとそのまま足早に消えていった。

 春菜と春華は取り残され、考える。
「私たちも学校見学しようか」
 二人は狐の格好のまま、学校内をふらふら歩き出した。
 火術の人魂が空を舞い、彼女たちの周りは氷術で空気はひんやりとしている。
 ヒロイックアサルト<蒼炎之剣>を使って、刀身に蒼い炎を撒き散らして不気味さを煽って歩く。
 時折、訪問者に出会うと、双子の特性、超そっくりさんを生かして、さらなる恐怖を演出する。
 同じ顔の、二匹の狐が九つの尾を振り回す姿は壮観で、みな、驚いて逃げてゆく。
「本物の妖怪、出会わないかな」
 妖怪に詳しい二人は、今日の夜を楽しんでいる。


 百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と共に、ゆっくりと校内を回っている。
 いや、本当は迷っていのだが、そんな切迫感はない。
「純和風に見えて、少し違うのですねぇ」
 メイベルは建物の所々に現れる中国風であったりベトナム風であったりする小物や窓の仕様に目を奪われていた。
 すっと黒影が三人の前を横切る。
 とっさに、中世英国の騎士フィリッパが剣を出す。影はするっと1回転して、姿を現した。
 真田佐保だ。
「見つかったでござるな」
 佐保は頭をかいている。
 メイベルとセシリアがすっと、フィリッパの後ろに隠れる。
「心配なされるな、拙者は葦原明倫館のニンジャ」
「人の形をした妖怪もいるってきくよ」
 セシリアが少し震える声で問いかける。
「拙者は妖怪が跋扈したときに備えて護符を学校に置いているのでござるよ」
 佐保は、その一枚をメイベルに渡した。
「総奉行は、百物語は99話でやめ朝を待つといってくださったが、よからぬ企みもあるのでござる。この護符の文句を唱えれば、妖怪は近寄らないでござる」
 佐保は、それだけ語ると頭を下げた。
 すぐにその姿は消える。
「これがあると妖怪は避けるんですね」
「みたいね」
 三人は、はるか上に見える天守閣を見上げる。
「もう天守閣にはいかないで、学校を見学しましょうか」
 庭には美しい花も咲いている。メイベルは護符を胸にしまった。


6・渡り廊下

 「ごめんね」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は地図を片手に一緒にいる三人に謝っている。
「明倫館には一度行った事があるから、案内できるよ〜。まかせてって…それなのに」
 なんだか先ほどから同じところを回っているのだ。
「ミレミレ、気にしないで。ミレミレ誘ったの、もなちゃんだもん。」
 小豆沢 もなか(あずさわ・もなか)が明るい声で答える。
「そういえば!」
 4人で葦原明倫館に来たのは、もなちゃんから電話あったからだ。

「もなちゃんだよ〜
 実はねぇ明倫館で肝試しやってるんだけど
 まつりん行ったことないらしくて…
 案内とかできるかにゃ?」

「肝試しだった…じゃ、迷ってもいいのかな」
「もとろんだよ」
 上機嫌のもなかと違って、おどおどしているのは、春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)だ。
 ロレッタもミレイユと共に葦原明倫館には来たことがある。しかし。
「やっぱり迷子になったか…」
 案内板を探そうとしても、おかしなものばかりでどう動いていいのか分からない、貰った地図も信用ならない。
 とにかく、ミレイユを先頭に歩いていく。
 突然、ロレッタが真都里にぎゅっとしがみつく。
「真都里くん、何かいる。何か・・・」
 妖怪?
 というわけではない。
 隠れたもなかがサイコキネシスを使って物を飛ばして真都里達を驚かしているのだ。
「くしし…定番のフライング蒟蒻だよぉ」
 すぐに、もなかは列に戻る。
「あれ、もういない。気のせいだったのかな」
 真都里がロレッタに抱きつかれてふらふらしている。
 ロレッタもすぐに顔を真っ赤になった。
「こ、怖くて真都里にしがみついたわけじゃないんだぞ!怖がりなんかじゃないんだぞっ」
「分かってる」
 そのまま、よろよろ転んでしまう真都里。
「大丈夫か」
 ロレッタが手を差し伸べる。
 二人とも顔が真っ赤だ。
「まったく…真都里はどじなんだ…」
「くくく、くっつくとちゃんと歩けないんだぜ!」
 真都里が起き上がったとき、すぐ前に教室で、叫び声が聞こえる。
「うわっ」
 ロレッタが握った手に力をこめる。
「うん」
「まつりん、何を頷いているのぉ」
「なんでもない」
「あれ、ミレミレ誰かと話してる」
 相手は小さな可愛い男の子だ。
 真都里が少し震えている。
「あの子…」
 ミレイユが子どもの手を引いて、戻ってくる。
「おんなじ迷子なんだよね、一緒に天守閣まで送る約束したんだ」
「ミレイユ、駄目だ」
 真都里はロレッタを後ろに隠す。
「何で?」
「子どもじゃない」
 皆が真都里を見る。
「なぜ分かったー」
 子どもの声が変わっている。
「なぜ分かったー」
 再び子どもが顔をあげたとき、その目、鼻、口が消えている。
「見たなぁー」
「うわっ!」
 真都里は恐怖に打ち勝って両手を広げた。皆を護るためだ。
「逃げるのでござる」
 突然、地面が揺れて、真田佐保が訪れた。
「こやつは、本物。拙者にまかせて、そなたたちはあちらへ」
 佐保はなにやら呪文を唱える。
 妖怪の姿は闇に紛れた。
「朝が来るまでは油断しないことでござる。なぜか百話が終わる前に妖怪が見え隠れしている」
 佐保は言い残すと、また土に消えた。