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リアクション
7・迷う(食堂)
葦原明倫館の食堂はお座敷で座布団だ。木製の壁や天井の純和風である。メニューはあちこちからやってくる生徒たちのお国柄を反映して様々用意してある。
今回の百物語、肝試しのコースには食堂は入っていない。食べ物を扱う場所なので、という房姫の配慮だ。しかし迷う生徒は、食堂と教室の区別は分からない。共に同じ和風の建物だ。
蒼空学園の遠藤 サトコ(えんどう・さとこ)は、迷いに迷って食堂に辿りついた。ある意味、彼女には不吉な場所かもしれない。
彼女は自分のことを、ピーマンだと思っているのだ。
「困りました」
暗闇の中で、息を潜めている。
それは、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も同じだ。
「葦原明倫館、あそびにきたらなんだかへんなふんいきです。日本風家屋ってどこも同じに見えるです」
あちこちで悲鳴がするので、動けなくなり、結局、この食堂から動けなくなった。
「地図って難しいです、困りました」
お互いの声が.被った。
「誰かいるんですか?」
ヴァーナーの問いかけに、サトコはおそるおそる姿を現した。
「こんばんわです、あの、妖怪さんですか?」
サトコの姿は、どこにでもいる普通の人間だ。ヴァーナーが問いかけたのは突然変身するかもしれないからだ。
しかし、何かの暗示で、自分がピーマンだと思っているサトコは、この問いかけで、頭の中がパニックとなる。
「あの、どこからどう見てもピーマンのわたしですが、妖怪と疑われているようですが、妖怪ではないんです、あの本当にピーマンなんです」
「あの・・・」
サトコは急に自分の指をヴァーナーの口の中に滑り込ませた。
「噛んで下さい。ピーマンの味がしますから」
「な、なんですか、それ・・・キャ〜!」
無理にかませようとするサトコから、ヴァーナーは飛びのける。
「分かりました、めずらしい人だってことがわかりました」
ヴァーナーはニコニコ笑いながら後ずさりしている。
さて、ヴァーナーが後ずさりして向かっている調理台のほうでは、別のグループが準備に追われている。
「ここにいると、オレ、本当に勘違いされるな」
2mの黒光りする体格を揺らすのは、ゆる族のジュゲム・レフタルトシュタイン(じゅげむ・れふたるとしゅたいん)。光らない黒蛍だ。どこからどうみても、あの台所にいる生き物である。
彼は特に変装する必要はない、カサカサ動きまわるだけで、相手に精神に直接訴えかけるダメージを与えることが出来るからだ。
相棒であるブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は地球人だが、ジュゲムと同じように人を不愉快にさせる才能をもっている。屈折したひねくれものであるブルタは頭に一本角を生やして天邪鬼に化けた。暗い夜道でブルタに出会えば大抵の女性は後ずさりするであろう。
「この負のオーラ、マイナスエネルギーを力に変えて世の女性に復讐をする!!」
この二人は何を企んでいるのか。
この食堂には同じ目的の仲間が集まっている。
シャンバラ教導団ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は、3mの巨漢を生かして角をつけて鬼に化けている。
「普段、怖い顔など見せないようなハンナの、恐怖に引きつる顔を見てみたいぜ。それにしてもよぉ」
奇怪な面子がよく集まったものだ。
パートナーのドラゴニュートゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)の別名は顔のない男。普段はフルフェイスのマスクを被っているが今回はマスクを脱ぎ捨てて本物の恐怖を知らしめる為に、やってきた。
キャプテン・ワトソン(きゃぷてん・わとそん)は、超巨大なシロナガスクジラのゆる族だ。今、彼は校内に入ることが出来ずに、校庭で寝転んでいる。夜陰に紛れれば、鯨も朽ち果てた大木のように見えるだろう。
いざ、事が起これば起き上がり、ゲシュタールを背に乗せ、天守閣に攻め入るつもりだ。
「そろそろ時間だろう、まずは葦原見物でも行こうぜ」
ボゴルが皆を促す。
「そうだな。歩いているうちに鬼も増えるだろう」
ジュゲムがかさかさ音を立てる。
「せっかくビデオカメラもって来たからね、ハイナちゃんを驚かす前に女の子に引きつる顔を撮りたいよね」
ブルタはジュゲムの上にポンと飛び乗った。
ヴァーナーはその様子を見てしまった。
「んー、お友達になれないかもです、サトコちゃん、とにかく逃げましょう」
ヴァーナーは、サトコの腕をひっぱって、外に飛び出した。
ブルタ一行はすぐに人数を増やしている。
いつのまにか、四人の後に、ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)がのらりくらししながらついている。
彼は、ブラインドナイブスを応用して死角に入ったり隠れ身で移動したりして、ぬらりくらりとぬらりひょんのように行動する。
8・校庭
春のお花見が行われた校庭は四季の花で彩られている。今は、日本から持ち込んだ夏水仙が盛りだ。水仙と名がつくがヒガンバナ科の植物で、長い茎に幾輪もの花をつける。涼しげな花の形が水仙に似ている。
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、校庭を歩きながら、それぞれの校舎がざわめくのを感じていた。翡翠の後ろには榊 花梨(さかき・かりん)とフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が、お互いを牽制しながら歩いている。
月明かりだけが頼りだが、時折、雲が現れる。暗闇のはずの庭が明るく感じられた。フォルトゥーナと花梨がいるからだろう。
華やかで美しいから…といいたいところだが、実際は女子二人が散らす花火が夜目に見えるといったほうがようだろう。
「やっぱり、こういう時は、くっつかないと駄目よね」
フォルトゥーナが翡翠に胸をくっつけて腕をからませ接近すると、
「翡翠ちゃん、動きづらいと思うんだけど、あっち行こう」
花梨が翡翠の腕を引っ張る。
それぞれに心に中では「あたしの色気と技に、小娘勝てるかしら」「最初に、一目ぼれしたのは、あたしの方が先だもん。」と直接的な言葉が渦巻いているが、それをそのまま口に出すほど野暮ではないようだ。
「さすがに、夜に学校は、不気味ですねえ」
女同士のいざこざに気がつかない翡翠は鷹揚に言う。
はるか頭上に天守閣が見える。
「他の場所で、百物語りやってますからねえ・・そんな事していると、よって来るんですよ。色々と」
翡翠は、何もない、屋根の上を見ている。
「みな、待ちわびているようです」
「どうかしたの?何も無い所見て?」
フォルトゥーナが問う。
「すこしづづ姿を現していようですねえ」
「そうなの?よってくるの?霊感無くて良かったかも・・下手に見えると怖いかも・・」
花梨は余り関心はないようだ。
「それに」
翡翠は、庭の隅に横たわる大木を見た。
「…妖怪以外の悪意もあるようです。しかし変ですねえ、これは二人にも見えているはずですが」
翡翠が微笑む。
「葦原明倫館、一通り回ったようです。天守閣はまた今度にしましょう」
これから起こることを見知った翡翠は、フォルトゥーナと花梨を思って校門へと向かう。
ヴァーナーとサトコが走ってきた。
二人とも息を切らしている。
ヴァーナーが翡翠の腕をとった
「あのです…」
ヴァーナーの言葉を翡翠が遮る。
「外に出てから聞きましょう」
「あの、私は…」
サトコのピーマンは自分がピーマンだということを事細かにフォルトゥーナと花梨に語っている。
御子神 鈴音(みこがみ・すずね)は葦原明倫館陰陽科に所属している。
「百物語、興味はあるけど……話のネタがないどうしよう……」
鈴音は直前まで悩んでいた。
「何を悩む、絶好の機会ではないか」
ケイオス・スペリオール(けいおす・すぺりおーる)は乗り気だ。
「百物語かね?世界の真理に近づけそうではないかっ!さぁ、いざ真理の物語を紡ぎに行こうではないかっ!」
「……じゃぁ」
「話など即興でいいのだっ、多くの真理に触れることで、きっと神託が降りてくるであろうよ」
ケイオスは乗り気だ。
さて、自分の学校ということで校門から天守閣を目指した一行とは別行動した鈴音だが、早速迷っている。自分の学校だから迷わないというのは、葦原明倫館ではありえない。ニンジャが作ったカラクリや陰陽科の授業でのまやかしなどがあちこちに残っていて、常に形をかえているからだ。
「む?迷った……ふむ…ではまず、この校舎の真理を探求しようではないか!」
二人は、既に天守閣を目指していない。
迷路のような校内を突き進む。
食堂まで、来たとき、それは始まっていた。
異形のモノたちが、連なって、歩いてくる。
「ほほぅ」
ケイオスは思わず声をあげる。
「鈴音、私のいく場所はあそこではないか」
「……?」
鈴音はケイオスが何をいっているのか、分からない。
「ここは……どこ?」
鈴音がはっと我にかえると、二人は、百鬼夜行の群れの中で共に行進をしていた。
いつのまにか百物語に参加していた前田慶子までもがふらふらと列に加わっている。
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