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瀕死の人魚を救え!!

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瀕死の人魚を救え!!

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第3章 黒幕を探せ

 薬草の捜索班と、看護メンバーの打ち合わせを横目で見つつ、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が静かに言った。
「私が超感覚を使用すれば、人魚のシルエットのように見せかけることができます。それで海に入れば、囮になって敵をおびき寄せることができるかもしれないわ。私には気絶射撃スキルもあるしね」
長い金髪に指を走らせる。
 警戒に当たるだけではなく、積極的に敵が何者なのか突き止め、対策を講じるべく打って出ようというわけだ。

 ローザマリアの言葉に、白銀 司(しろがね・つかさ)が華やかなピンクのロングヘアを弾ませ、大きくうなずいた。
「フェリアさんを追い掛けてきたヤツが簡単に諦めるとは思えない、また来るかもしれないものね。そのままにしてはおけない。私も一緒に行って、援護するよ」
 白銀のパートナー、セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)が眠そうな表情でこぼした。
「ああ〜〜、もう〜〜……面倒な事になったな〜、やっぱ来るんじゃなかったぜ。あー面倒くせえ」
「今日はビーチで楽しくキャッキャウフフする予定だったのに……許さないんだからっ! 誰だか知らないけど、こてんぱんにのしてやるわっ!」
息巻く白銀にセアトが言う。
「おいおいおい、敵が魔物か人かわからんが、話が聞けるなら捕まえて情報を引き出すべきだろ。すいませんね、ローザマリアさん。司はアホみたいに勢いだけはよくてね」
「えー、一応警告して聞かなければしょうがないでしょ?のしてやるんだから」
「だーかーらー、それで息の根を止めるなって言ってんの。口がきける程度にちゃんと手加減しとけ」
「さすがセアトくん、あったまいい〜」
「……いや、普通に気をつけるとこだろ、そこ」
「そうかな〜?」
「……ローザマリアさんがあきれてっぞ……」
「えーと、あはは。よろしくね」
 ローザマリアの目が、危なそうならこの娘を止めてくれ、とセアトに語りかけていた。セアトはため息混じりに言った。
「……了解っす」

 海水浴のことは知らず、たまたま海岸に散歩に来ていたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が静かに言った。今日の青空に溶け込みそうな青い髪と瞳の持ち主だ。
 人魚が危機に瀕していると聞きつけ、何か手助けができればと申し出たのだった。
「私は念のため人魚さんを傷つけた毒貝を確認してみたいので、同行させていただいても?追われた経路上にあるようですから、捜索場所が同じになるかと思いますので」
ローザマリアが微笑んだ。
「おっけ〜」
「……了解」
白銀とセアトもうなずいた。
「では行きましょう」

 浜から離れ、人魚のシルエットのローザが、フェリアから聞き出したルートを泳ぐ。少し離れて白金とセアトが、目立たないようについてゆく。
 ジーナは少し沖に出た場所の深みに、岩陰に固着している毒貝を見つけた。フェリアが隠れようとして触れたに違いない。
「ああ、これなら海水浴には問題ないわ。念のためにこの岩のことを皆さんに伝えておきましょう。種類もあっているから治療にも影響はない」
 
 ローザマリアは水底に、真新しい防水時計が落ちているのに気づいた。皮製のバンドに、フェリアのものらしき鱗が引っかかったままになっている。
「これは……特別注文の品だわ。かなり高価なものね」
白銀とセアトにも発見したものについて伝え、ジーナらとともにいったん水から上がることにした。
 
 待機していた、ローザのパートナーで、髪型がシニヨンであることを除けばローザと瓜二つのグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が通信を受けた。
「その時計の型番から、調べればよいのだな?番号は……うむ、わかった」
 グロリアーナは早速時計の発注者をコネを目いっぱい使って洗い出しにかかった。
 どう見ても子供だが、実年齢は成人女性の、同じくローザのパートナー、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)がツインテイルの金髪頭をゆっくりと振って、ため息とも賛意とも取れない音声を発した。
「うゅ……行動開始か〜」
 もう一人のローザマリアのパートナーである典韋 オ來(てんい・おらい)がシャギーの銀色の髪を乱暴にかき上げながら、周囲の聞き込みから戻ってきた。乳白金の髪をポニーテールにした元気のよさそうな少女、天心 芹菜(てんしん・せりな)と、天心のパートナー、ショートカットの銀の髪の目つきの悪い少女、ルビー・ジュエル(るびー・じゅえる)も一緒だ。
「あたしが聞き込みしてたら、同じこと聞いてる連中が居たんで、聞いてみたら目的が同じだし、連れてきたぜ」
典韋がそう言って壁に寄りかかった。
「ケルナダっていう大金持ちの老人がこのあたりに住んでて、その人が珍しいものを集める為なら手段を選ばないらしいの。そのために雇ってるチンピラがいる……あたしの知り合いが、そんな事を聞いたことがあるって言っていたもので。それであたしも、その線で調べていたんです」
天心が熱心に言った。対してルビーは落ち着いた口調で、
「ケルナダの雇われ者、ダイダはこのあたりの裏ではちょっと知られたこそ泥のようでして。先だっていい時計を手に入れたと、呑みに行った先で自慢していたようですな」
そう言って目を細めた。元からの目つきの悪さに磨きがかかって強面になる。
「あたしもその話しを聞いた。んで、さっき人魚のことでケルナダの家にダイダが訪ねていくと言っていたそうだ」
典韋もうなずく。彼女はダイダの子分の一人を締め上げて、それを聞き出したのだった。
 グロリアーナが調べ終わって振り返った。
「時計の発注者はダイダよ」
「はゎ……特定できましたね。いくですよ」
エリシュカが言って、幼い顔を引き締めた。

 ケルナダの屋敷は最新の警戒装置がセットされていたが、ローザマリアとグロリアーナのスキルがそれらを次々突破していった。目的はダイダだが、確実に盗品があるとわかればケルナダも併せて締め上げることができる。屋敷内の貴重品を片端から調べていこうというのだ。

 そのころ、霧島 春美(きりしま・はるみ)はパートナーのディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)に、ピンクのポニーテールが千切れんばかりの激しい動作で熱く語っていた。
「ディオ、まず現場の調査よ。足跡や証拠物件を探すの」
 ディオネアは人化していれば、霧島の妹といっていいような年頃のポニーテールの少女なのだが、角のあるウサギのようなジャッカロープの姿を普段いつも取っており、今日も獣化してついてきていた。ディオネアは熱心に霧島の言葉を聴いていた。
「うん、わかったよ。調べに行こう。人魚さんを誘拐しようとするなんてやつ、許せないよ」
「でも、何かわけがあるかもしれないから、ちゃんと調べてからにしようね」
霧島は言った。
 海岸には潮の満ち干というものがあり、足跡はすでに多数の生徒たちによって踏み荒らされていたのだった。
「……とりあえず、虫眼鏡でチェックなのです」
 霧島の言葉に、ディオネアはうなずいた。今日は四葉のクローバーを探す暇はなさそうだ。見上げた青い空には、雲ひとつなかった。