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令嬢のココロを取り戻せ!

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令嬢のココロを取り戻せ!

リアクション

 影野 陽太(かげの・ようた)は、会場からはるか遠く、冥界にて、潰れた馬車のそばで両足を撃ち抜かれ、苦痛のあまり意識朦朧としていた。
 そんな陽太の状況も知らず、幼い少女の精霊ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は竪琴を取り出した。
「おにーちゃんは環菜おねーちゃんがならかに行っちゃって、すごくすごくすごく悲しんでたよ。わたしもぱーとなーだから、おにーちゃんのツライ気持ち、イタイ気持ち、クルシイ気持ち、ゼツボウする気持ち、……少しずつだけど伝わってきたから、その悲しい気持ちを歌にしてみたの」
「悲しみの歌」。その胸を抉るような悲しい響き、胸を締め付けるような切なさ。エレーナをはじめ、並み居る列席者も涙していた。
 演奏を終え、
「かんどうじゃないかも、だけど……少しはココロに響いたら嬉しいな」
そう言ってクリスタリアは、無邪気に一礼した。会場には嵐のような拍手が沸き起こったのだった。

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、スーツにネクタイというフォーマルな格好に合、大きなアタッシュケースを持っていた。
「それはなんですかな?」
あからさまにアンバランスな持ち物を不審がり、警備員がエヴァルトに声をかける。彼のパートナー、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、にっこりと微笑む。
「感動をお持ちしたのでありますっ!」
 ケースの中には、映像データ記録用メモリーがぎっしりと詰め込まれていた。すさまじい数に警備員が目を丸くする。
「ま、まあ不審物ではないようですね」
ケースを手に、壇上に上がったエヴァルト。
「さて……限定アニメソムリエな俺が、素晴らしいアニメの数々を御紹介しよう。
今回は急な話ゆえ、90年代の勇者シリーズしか集められなかったが、それでも十分」
そこまで壇上で一気に語ると、ロートラウトが、笑顔で
「ボクみたいな重装甲なスーパーロボットが沢山出てくるんだよー」
と言いつつ、メモリプロジェクターを使ってアニメの再生を開始した。。
「次は純真無垢の『太陽の勇者』。小さいが確かにある感動を感じたい貴方にお勧めだ。そして、!」
「……こいつ……全て上映する気だ……」
一本目が終わりかけると、いそいそとケースから次を出してきたのを見た山葉は危険を感じた。
「はいはいはい。そこまでー。お疲れ様〜」
さっと進み出てエヴァルトをさりげなく、しかし万力のような力でつかみ、壇上から引っ張りおろした。
「何をする〜! 俺はただジャパニメーションの素晴らしさをだな……!」
「後は頼む」
ロートラウトはさっとエヴァルトを引き取った。
、「どーどー、仕方ないよ、お気に召さなかったってことで諦めよう? ほら、コレクションを全部あるかチェックしないと。落としてたら大変」
慌ててケースの中身をチェックしだすエヴァルトを見て、エレーナは目を丸くしていた。
「本当にお好きなものがあるのですねえ……」

 「ここでひとつ、気分を落ち着かせませんか?」
御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は漆黒の髪を微風になびかせ、立ち上がった。凛とした美少女とも見まごう青年だ。
「人生はたまには立ち止まってのんびりと休むことも大事です。立ち止まっただけですからまた歩き出せばいいのです。感動することも大事ですが、すべてに感動していては心が疲れてしまいますからね、心を落ち着けリラックスしてみませんか?」
御剣は優雅な手つきで、ゆったりとラベンダーのハーブティーを淹れた。柔らかな芳香がいっぱいに広がり、暖かな午後の空気に溶けてゆく。
 一人、一人、丁寧に入れられたハーブティーを口にする。会場は一気に和んだ空気に包まれた。令嬢は静かに言った。
「このように、一杯のお茶にも気持ちをこめられるのですね……」
「そうですよ。なかなかよいものでしょう?」
御剣は優しく微笑んだ。