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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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 はじめての蔦退治
 
 
 
「蔦の駆除をする人はこちらに集まって下さいませ」
 琴子は神社にいる生徒のうち蔦退治をする者を集め、その人数と顔ぶれを確認した。そのほとんどが琴子が誘った新入生だけれど、たまたま福神社を訪れていた生徒たちの姿もある。
「久々に来たら、また騒ぎが起きてるみてーだな」
 椎堂 紗月(しどう・さつき)はそう言いながら、蔦退治をする新入生たちに御守りを配った。
 蔦の退治を手伝おうかとも思ったのだが、退治に回る新入生の数は十分いるようだし、フォローにつく者もいるようだ。これ以上手を貸してしまうと、新入生たちが経験を積むのの邪魔になる。
 そう判断した紗月は直接手を出すのはやめて、御守りを渡して励ますことにしたのだった。
「大変かもしんないけど頑張れよ」
 パラミタと地球は似通ったところもあるけれど、やはり別の世界だ。ここで暮らしていく為には、契約者としての力が必要となることもある。最初は大変かも知れないけれど、戦う方法は覚えておいた方が良い。
「準備ができた人から、蔦の駆除に取りかかって下さいまし。範囲は広いですけれど、契約者となった皆様ならば落ち着いてあたれば問題ないはずですわ。ただし、くれぐれも無理はしないで下さいましね。わたくしも怪我の治療は出来ますので、何かあれば遠慮無く言って……」
 心配そうに琴子が注意を重ねている間にも蔦は奔放に動き回り、その1本がコンクリート モモ(こんくりーと・もも)に向かって跳ねた。モモは蔦退治に来たわけではなく、福神社に願掛け……『コネで入学した奴が全員死にますように』とのお参りに来ていていて騒ぎを覗きに来ただけなのだが、蔦はそんな見分けはつかない。
 反射的にかわしたけれど、跳ね上がった蔦にスカートの裾を引っかけられ、モモの横縞パンツが丸見えになる。
「…………」
 モモはぎろりと蔦を睨みつけるなり、削岩機をスタートさせた。
 ズガガガガガ……。
 大音響と共に動き出した削岩機で蔦を追いかけるが、動く蔦は狙いにくい。ならばとモモは蔦の絡んだ石灯籠に狙いを定めた。
 削岩機を押しつければ、音と震動と共に灯籠の石が砕けて飛び散る。
「神社のものを壊してはなりません」
 異様な音でそれに気づいた琴子がモモを灯籠から引きはがしたけれど。
 ずるっ……ずるっ……。
 モモは琴子を引きずって、今度は蔦の絡まる鳥居を狙う。
「フンガー! フンガフンガ!」
 その様子に気づいた裟亥矩 炉不酢(さいく・ろぷす)が琴子を手伝って、モモを押さえ込む。
「放しなさい。金ならあるのよ!」
「神社にあるものは、お金さえあれば手に入るというものではありませんのよ」
 抵抗するモモに言い聞かせると、琴子は皆の手を借りてモモを退治の場から隔離した。
「フンガ、フーフー!」
「手伝って下さってありがとうございました。……え、これをわたくしに?」
 炉不酢に花束を差し出されて、琴子は面食らう。
「フーンガー」
 炉不酢の頭には一つ目のかぶり物。発する言葉はフンガーのバリエーションだけ。けれど、恭しく花束を差し出す様子から、好意あってくれるのだろうということは容易に推測できる。
「では遠慮無くいただきますわね」
「フンガ!」
 炉不酢は満足そうに頷くと、手枷がつけられた手で光条兵器を構えた。蔦を見事に退治して、琴子に自分の魅力をアピールしたいものなのだが。
 蔦の絡んだ木ごと光条兵器をぶちかました途端、琴子にいけませんと注意される。
「神社にあるものはできるだけ傷つけないようにして下さいましね」
「フンガー! フンガー! フンガー!」
「ええ、そうですわ。どうぞよろしくお願い致しますわね」
 どこまで伝わっているものやら、琴子はにこりと笑うとまた別の生徒の様子を見に歩いてゆく。
「先生、私で良かったらこちらを見ていましょうか? 何かあったらすぐに知らせますから」
 行ったり来たりの忙しそうな様子を見かねて高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が申し出ると、琴子はほっとしたように頷いた。
「お言葉に甘えてもよろしいかしら。あちらもこちらも気になるのですけれど、わたくしだけではなかなか手が回りませんの。先輩にあたる皆さんの力を貸していただければ心強いですわ。同じ生徒としてだからこそ分かることも、きっとあるでしょうし」
 結和もパラミタに来たばかりの頃は、分からないことばかりだった。その時先輩に色々教えてもらって助かったし、嬉しかった。今度は自分がそんな風に後輩を助けられたら、と思う。
「はい。どのくらい力になれるかは分かりませんけれど、私なりに頑張ってみます」
「よろしくお願い致しますわね」
 琴子は深く頭を下げると、またいそいそと別の場所へ向かっていった。
 
 
「むー。パラミタではこんなものが生えてくるのが普通なのです?」
 青山 こゆき(あおやま・こゆき)は蔦の存在が不思議でならないように、何度も何度も見直した。
 どういう仕組みで動いているのだろう。蔦はしなやかに身をくねらせ、時折先端でびたんびたんと地面を叩いている。
 巻き込まれない位置に陣取って、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)はまず蔦を観察してみた。
「1本が枝分かれしてるのではなさそうじゃな。この辺り一帯の蔦が変異したというのじゃろうか……」
「蔦ねぇ……こんなん放っておけばいいんじゃないか?」
 七篠 類(ななしの・たぐい)は興味を惹かれながらも、素直でなく呟く。
「放っておいたら、参拝客の人に迷惑がかかってしまいます。これ以上広がったら、社のところまで来てしまうかも知れないですし、早く……」
 何とかしないと……と続けようとしたこゆきは、蔦の影に何かを見つけて指さした。
「あそこに何かありませんか……?」
「蔦が邪魔でよく見えないな。ってあれ、足じゃないか?」
 目をこらして見た類はさすがに驚いた。それは着物を着た足に見える……。
「もう誰かが襲われてしまったのか?」
 朝倉千歳はざくざくと綾刀をふるって蔦を切り取りながらそちらに近づいて行った。イルマもそれをフォローする。もしゃもしゃした蔦はいっそ全部燃やしてすっかりさせたい気もするが……さすがにそれは危険だろうと思いとどまって、ライトブレードに冷気をまとわせて蔦を切り払う。
 倒れている人のところまで行くと、有無を言わさず引きずり出した。
「大丈夫? しっかりするんだよ」
 救出された女性に声をかけつつも、手塚 海斗(てづか・かいと)は首を傾げた。
「む……ぐぅ……」
 半ば意識を失いながらも、女性……獅子神 玲(ししがみ・あきら)はもぐもぐと口を動かし続けている。そしてその口からは、引きちぎれた蔦の残骸が覗いている。
「もしかして……食べてる?」
 驚く海斗の前で、もぐもぐごっくんと蔦の残りを飲み込み、ふぅと玲は息を吐いた。
「……お腹空いた……」
 パラミタにやってきたものの、パートナーでもある知り合いから家を追い出され、当て所無くさまよっていた玲は、ここまで来て空腹に力尽きたのだった。神社のお供え物を食べたりして食いつないでいたものの、それがなくなると空腹のあまりに動く蔦にまで手を出したのだ。
 けれど、食べる労力に比して動く蔦から得られるものは少ない。遂に蔦の間に倒れてしまったのだ。
「蔦退治が終われば焼き芋が食べられるはずだけど」
 海斗の言葉に玲はぴくりと反応する。
「焼き……芋っ!」
「うん。だからそれまで少し神社で休んでてね。神社の中になら何か食べ物があるかも知れないし」
「食べ物ぉぉ……!」
 がしっと玲の手が海斗を掴んだ。その力にうっと唸りながらも、海斗は玲に肩を貸して、社の方へと連れて行った。こんなところに転がっていたら、蔦と一緒に退治されかねない。神社に置いておくのが安全だろう。
 玲が運ばれて行くのを何とはなしに見送った後、視線を戻した城ヶ崎瑠璃音は、蔦の中に茶色い棒のようなもの……竹箒を発見した。あれこそがきっと、布紅がとられたという竹箒なのだろう。
「その竹箒をお返しなさい!」
 これはチャンスだと、瑠璃音はその蔦に向かって仕込み竹箒をふるった。切れた蔦はついでにささっと掃除。その手際の良さはさすがはメイドというべきか。
 けれど蔦も大人しく切られてはいない。残った部分がびしりと瑠璃音を打ち据える。叩かれてもひるまず瑠璃音は蔦を切り刻んだが、後ろに向かって文句を言うことは忘れない。
「何をしているのです! わたくしの珠の柔肌に傷が付いたらどうしますの!」
「確かさっきは『わたくしの獲物を取るんじゃありません』とか言ってなかったか?」
 まやは聞こえないように呟いた。やり過ぎれば怒られるし、手を抜いても文句を言われる。瑠璃音相手のさじ加減は難しい。けれど瑠璃音を傷つけさせたくないのはまやの意向でもあるから、口ぶりと違って援護には力が入っている。
 そんな、やる気をみせている2人を横目にノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)はやれやれと思いつつ蔦に向かった。
「蔦退治か……面倒さね」
 それでも引き受けたからには片づけないとと蔦退治に取りかかったのだけれど、ふと見れば、パートナーの伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)はそこらに腰掛けて、煙管で一服している。
「伊礼のじーさん、サボってないで手伝ってもらいたいんだけどねぇ……」
「年寄りに無茶させるでない」
 ノアに言われても、全くやる気のない權兵衛はのんびりと煙管をふかし続けた。うごめく蔦を前にしても全く動じていないのはさすがと言うべきか。けれど戦闘には加わる気がないようで、高みの見物と決め込んでいる。
 自分も出来れば煙管で一服つけたいところだけれど、先に休まれてしまうと却って休み辛い。しぶしぶノアは蔦を氷漬けにしてこつこつと退治してゆく。
 平賀 源内(ひらが・げんない)は權兵衛とは逆に、やる気満々で蔦をランスでなぎ払っていたが、思いついたようにノアに提案する。
「動こうがなんだろうが植物だったら燃えるんじゃないのかのう? ノア、お前の火術で一発燃やしてしまってはどうじゃ?」
 その方が早そうだという源内に、ノアはあのな、と渋面を向けた。
「こんなところで火術使ったら、下手すりゃ神社に燃え移るさね。何も好きこのんで危険な方法をとらなくても良いだろうに」
「むむ。ならばここはわしのチェインスマイトで……!」
 こうなったら自分が頑張るしかないと源内は力を入れたが、そこにノアが冷静に突っ込みを入れる。
「おい源内……お前さん、チェインスマイトを使えるようにしてきたのかい?」
「……あ」
 はた、と源内は動きを止めた。
「覚えただけじゃ使えないって教えておいたはずなんだけどねぇ」
「ついうっかりしてしもうたのう」
 源内は照笑すると、半ばやけくそのようにランスで普通に蔦を攻撃していった。
 そんなパートナーたちのやりとりが耳に入っているのかいないのか。ニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)はひたすらに黙々と蔦退治をしている。
 ひゅんとしなった蔦がノアを叩こうとすればそれを弾き落とし。けれど、
「痛たたた……」
 叩かれているのが源内ならば知らん顔して見ているだけ、という差のつけぶりだ。
「やれやれ」
 ノアはまた呟いて、目の前の蔦に集中するのだった。