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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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 蔦からの救出劇
 
 
 
 福神社は空京神社の隅の方に建てられている。
 本来ならば参道を通って行くのが筋なのだろうけれど、身重の身体をいたわってコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は小型飛空艇で神社の裏手に降り立った。
 布紅に『戌の日の帯祝い』の予約をしておこうと思って来たのだけれど……歩き出してすぐ、どこからか這い出してきた蔦に行く手を塞がれた。
「何ですか、これーーっ!?」
 驚いた拍子に落としたお賽銭は蔦に奪われる。コトノハは破邪の刃でなぎ払って抵抗したものの、突然めまいに襲われた。
 1人で来るんじゃなかったと後悔してももう遅い。
「誰か助けて下さい……!」
 お腹だけは死守しなければとその場にうずくまったコトノハの頭上から蔦が迫る。
 蔦がコトノハに振り下ろされようとしたその時。
 アサルトカービンの弾丸がコトノハを襲おうとしていた蔦を撃ち抜いた。
 超感覚で黒い狼の耳をはやしていた犬神 狛(いぬがみ・こま)が、必死にあげたコトノハの助けを求める声を聞きつけたのだ。
「やれやれ、わしのような強面にはお姫様の救出なんざ似合わんというに……」
 コトノハを狙う蔦を慎重に狙いつつ、狛は向こう側で戦っている者へと助力を呼びかけた。
「何かあったのか……リナファさん?」
 狛の声にやってきたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、蔦に襲われているコトノハに眉を寄せた。
「身重の身でこんな危険な所に入り込まずとも……胎教にも悪いだろう、これは!」
 母親の恐怖はお腹の子にも通じるという。少しでも早く救出しなければ。
「援護する、エヴァルト殿……!」
「ああ。よろしく頼む」
 狛の言葉に頷くと、エヴァルトはドラゴンの力と身のこなしで、蔦を引きちぎり始めた。
 蔦の中を進んでゆくエヴァルトを誤射することのないようにと、狛は細心の注意を払って蔦を撃つ。その狛の背を狙う蔦は、コルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)がざくざくと切り払う。
「コルデリア殿、かたじけない」
「いえいえ気にしないでください〜」
 パートナーは強いから放っておいても大丈夫、とコルデリアは狛に答えた。
 狛の援護を受けてエヴァルトは蔦の間を進んでゆき、コトノハのところにまでたどり着く。
「しっかりしろ」
 エヴァルトがコトノハを抱えるのを見て安心しかかった狛だったけれど。
「きゃあああ!」
 今度は別のところから西尾 桜子(にしお・さくらこ)の悲鳴があがる。何も知らずに福神社に参拝に来ていたのだけれど、途中でパートナーの西尾 トト(にしお・とと)とはぐれてしまい、うろうろしているうちに蔦のある場所に踏み込んでしまったのだ。
 普段は大声を出さない桜子の悲鳴に、神社の陰にいたトトが気づいてやってくる。
「桜子ー、それ楽しい? 遊ぶならトトもまぜてまぜてー!」
「遊んでないです! 助けて……いえ、私より先にあちらの方を助けてあげて!」
 コトノハも蔦の中にいるのに気づいて、桜子はトトにそう頼む。
「いや、こちらは大丈夫だ。リナファさんを安全なところに置いたらそちらも助けるから、もう少しだけ待っていてくれ」
 エヴァルトは蔦の中からの脱出を急ぐ。
「うーんと……じゃあ桜子の方を助ければいいんだね? えーい! とお!」
 皆の様子に、これは遊びではなさそうだとのみこんだトトは大鎌をふるって桜子の周囲の蔦の排除にかかった。
「今の悲鳴、こちらからか?」
 桜子の叫びを聞きつけてやってきた七篠類は、さすがに表情を引き締めて三節棍を構える。
「うん、桜子が大きな声出したのー。あーんな大きな声、はじめて聞いたよー」
「ちょっとトト……!」
 蔦に絡まれつつも、桜子は恥ずかしそうにトトをたしなめた。
「まあ手伝ってやらんこともないが……」
 類は棍で蔦を叩き払いながらも、つけ加える。
「か、勘違いするなよ? 俺は自分のプライドが許さないから助けるのであって、お前を助けたいんじゃないからな」
「桜子を助けてくれるんじゃないのー?」
「ああ。蔦を切るのは……そう、趣味、趣味なんだ……」
 漸くそれらしい理由を絞り出した類に、トトはふぅんと不思議そうな顔になる。
「おもしろい趣味なんだね。蔦を切るの楽しいー?」
「そうだ。俺は蔦を切れればそれでいいんだ。蔦以外のことはどうでもいい」
 こうなったら言い切ってしまうしかない。類はそう答えると、トトにそっぽを向けて蔦に集中した。
 そこまで面白いのかと、トトも鎌をふるう手にさっきよりちょっと力をこめてみる。
 切られたうちのどれかが、桜子に絡んでいた蔦だったのだろう。締め付ける力がゆるんだ隙に、桜子はするりと蔦から脱出した。
「桜子、良かったね。凹凸がないから蔦を抜けられて」
 トトににっこりと邪気無く言われて、桜子は肩を落とした。褒めてもらっている気がしない。
 けれど落ち込んでいる余裕はないから、すぐに気を取り直して桜子は蔦を引き寄せる囮役となった。切りやすい位置に誘導した蔦を、類とトトが切ってゆく。
 コトノハを安全なところに運び終えるとエヴァルトもまた戻ってきて蔦退治に加わり、狛はその援護を続けた。
 その辺り一帯の蔦を退治すると、皆は寝かされているコトノハの様子を見に行った。
「少し怪我をされていましたから、治療しておきましたわ〜」
 コトノハについていたコルデリアが、やってくる皆に笑顔を向ける。
「他に怪我をしている人はいらっしゃいますか〜?」
 コルデリアが回復しているうちに、コトノハも目を開けた。まだ顔色は良くないけれど、本人もお腹の子も無事なようだ。
「皆さんが助けてくれたんですね。ありがとうございます」
 そっとお腹に手を当てて、コトノハは礼を言った。
「お気になさらず。当然のことをしたまで……」
 狛は軽く頭を下げてそれを受け、エヴァルトはおそれていた事態にならなかったことに胸をなで下ろす。
「大事な身体だ。くれぐれもいたわってくれよ」
「私も助けていただいて……ありがとうございます」
 桜子が礼を言うと、類は違う、とむきになって否定した。
「俺は蔦が気に入らなかっただけだ。まだ他にもあるんだろう。切ってくる」
「あの人ほんとうに蔦を切るのが好きなんだねー」
 逃げるように去って行く類を見送って、トトはしみじみと呟くのだった。