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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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 参拝客の誘導
 
 
 
 そうして蔦退治をしている間、福神社の境内では参拝客の誘導が行われていた。
 うっかり蔦と戦っているところに一般人が居合わせては大変だ。
「すみません、そちら側を引っ張ってもらえますか」
 神楽坂紫翠はシェイドと協力して境内に紐を張ってゆく。
「子供はヒーロー好きだろうから、少し離れた位置で退治を応援してもらうのはどうだ? 観客とかけ声があれば新入生たちもやる気出るだろう?」
 そう紫翠に提案してから、かなり恥ずかしいと思うが、とシェイドは付け加えた。
「子供って興味を惹かれるとそっちに走っていっちゃったりするから、危ないんじゃないですか?」
 もし自分が子供だったら、普段はなかなか見られない退治の様子が気になって、隙を見て近づいてしまうかも知れないと都筑 優葉(つづき・ゆうは)が危ぶむと、紫翠も同意する。
「それもそうですね……子供を危険にさらすのだけは防がなければなりません」
「あんまり詳しいことは教えない方が良いんじゃないか? 『特別清掃中につき通行制限』とでも書いた立て看板を立てておくとかしておけば、行こうとする人も減るんじゃないかと思うんだ」
 それでも通りそうな人がいたら見つけ次第止めるという方向で、と案を出した後、ふと匿名某は自分の格好を見やる。
「……ところで、なんで俺も巫女の格好してるんだろう」
 人の流れについて行ったら、さあさあこちらへとパートナーと共に社の中に通されて、気づけば着替えさせられていた。結崎 綾耶(ゆうざき・あや)フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)はともかく、どうして自分が巫女姿になっているのだろう。
 けれどその問いかけに答えてくれる者はなく、元の服に着替えるきっかけも与えられなかった某は、なんだかなぁと思いつつも巫女姿で看板に文字を書いた。掃除だったら面白がって見に来る人も滅多にいないだろうと、それを紫翠たちの張ったロープの前に立てて固定する。
「こちら側にも立てておきますねぇ」
 メイベルは『参拝のお客様はこちら』と書いた看板を、社に誘導するロープの所に置いた。境内に張られたロープと看板の誘導で人の流れはある程度制御できそうだ。
「こうすれば良いんですね〜」
 てきぱきとロープが張られていく境内を眺め、感心したように言う布紅に優葉が笑顔を向ける。
「布紅ちゃん1人で対応するのは大変でしたでしょう。皆が蔦退治している間、掃除がてら境内も見回りしますから、安心して下さいね〜」
 いつもはぼさぼさ頭で顔がほとんど前髪で隠れている為、性別の判断がつきにくい優葉だけれど今日はきちんと見だしなみを整えた上で巫女服を着ている為、見間違いようがない。
「ありがとうございます。学校の皆さんにはいつも助けてもらってばかりです」
「そう言えば布紅ちゃんの周りって、いつも何か起きているよね」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に言われ、布紅は恥ずかしそうな顔になった。
「福の神なのに、情けないです……」
「ううん、そういうことじゃないんだよ。皆に福をもたらそうとしてるから布紅ちゃんの周りから福が無くなっちゃうのかもって。僕たちは福をもらえて嬉しいけれど、布紅ちゃん自身にも福が無いとね。だからせめて、出来ることで布紅ちゃんを手伝ってあげたいって思うんだ」
 頑張るからね、とセシリアは参拝客の様子を見ながら落ち葉掻きを始めた。集めた落ち葉は焼き芋をする人に渡せば、境内もきれいになるし焼き芋を焼く燃料にもなるしで一石二鳥だ。落ち葉を掻いた後の地面には水を打って埃をしずめておく。
「本格的に掃除するんですね」
 優葉に言われ、セシリアはうんと元気に答えた。
「参拝に来たお客の服が汚れるといけないからね。服は福に通じるから大切にしないと」
「それなら自分も、掃除も一緒に頑張ります!」
「うん、よろしくねっ」
 きれいにお掃除、とセシリアは笑って箒を使う。
「もし巡回中に迷子がいたり、親御さんがゆっくりお参りをしたい方がいたりするようでしたら、お子さんはどうぞこちらに連れてきて下さいませ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がそう言って、揃えてきた子供の好みそうなお菓子を示してみせた。
 師走の忙しい時期は皆のこころもせわしなくなる。
 けれど神社に来たときだけは、大人も子供も心穏やかに過ごしてもらいたい。この場所を皆が安心してお参りできるようにしようと蔦退治をしてくれている人の為にも、表側は安らかに皆の心に福を届けたい。そうフィリッパは願うのだった。
 
 
「あっ、すいませ〜ん。ここから先は掃除中なので」
 立て看板に気づかずロープの向こう側に来ようとする参拝客に、結崎綾耶が声をかける。巫女姿の綾耶に言われ、そうなのかと納得して参拝客は戻って行く。
 立て看板の横で待機しているはずのフェイはどこにと綾耶が捜すと、北月 智緒(きげつ・ちお)の後ろをついていくのが見えた。
「え、何?」
 不意に頭上から伸びた手に髪を触られて、智緒がきょとんとして振り返る。
「……結った髪は至高」
「?」
「ああ、ごめんなさい〜。フェイちゃん、結った髪が好きですぐ触りたがっちゃうんです」
 綾耶が急いで駆け寄って、フェイの代わりに謝った。
「ううん、ちょっとびっくりしただけ」
 理由が分かると智緒はすぐに笑顔になると、巫女服のどこからかお菓子を取り出した。
「はい、これあげる。お手伝い、一緒に頑張ろうねっ」
 そう言ってフェイと綾耶にお菓子を渡すと、智緒は同じく巫女服姿で手伝いをしている理知の方へと走っていった。
「……ありがとう」
 嬉しそうにもらったお菓子を手に包み持つフェイに、綾耶が立てた人差し指をつきつけて注意する。
「フェイちゃん、勝手にどこかに行っちゃダメだからね」
「……しょんぼり」
「今日はお手伝いに来てるんだからね。何をするのかは覚えてる? もしこっち側に来ようとする人がいたら……」
「……きーぷあうと」
「そうそう。よろしくね」
 綾耶に言われ、フェイはまた看板の横に戻った。
 けれど今度はなかなか誰もやって来ない。
 ただ立っているだけなのに飽きて、フェイは今度は竹箒をサイコキネシスで動かして遊びだした。
「サボったらダメ〜」
 気づいた綾耶がまた注意するが、そこに某がやってくる。
「フェイのサボりサイコキネシスも参拝客の注意を逸らすのに使えるんじゃないか?」
「いいんですか?」
 綾耶はちょっと心配そうにフェイを見やったが、某がそう言うならばと頷いた。
「フェイちゃん。さっきの、皆の目の前でやってみないかな? きっと楽しんでくれると思うから、ね?」
「……綾耶が言うなら頑張る」
 看板の前に立っている時よりは少し楽しそうに箒を動かし始めたフェイを見て、綾耶はこれも手伝いなのかとちょっと首を傾げた。けれど、大道芸を見るように箒を見ている見物客の姿にこれはこれで良いのかと自分を納得させ、見張りに戻るのだった。
 
 
「そちらは今、年末大掃除の最中なんです。お掃除が終わるまで一緒にこちらで遊びませんか?」
 境内に張られたロープを、これは何だろうと眺めている子供たちに、巫女姿の理知が呼びかける。
「うーん……」
 ロープくぐりも面白そうだし、向こう側を覗いてみたい気もする。どうしよう、と子供たちは顔を見合わせた。
 その中のやんちゃそうな男の子の目は、もうロープの向こうにむけられている。ちょっと危なそうなこと、行ってはいけないと言われる場所は、子供たちにとっては興味を惹かれる場所でもあるのだ。
 巫女さんと遊びたい気もするし、向こうにも行ってみたいと子供たちは迷う。けれどその迷いを打ち消すように、子供たちの中からはいと良い返事があがった。
「お掃除より遊ぶ方が良いです」
 返事をしたのは、子供たちの間に交じっていたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)だ。
 きっぱりと言う『運命の書』ノルンにつられて、迷っていた子供たちの気持ちは理知と遊ぶ方に傾いた。
「それもそうだよね。僕も遊ぶー」
「何して遊ぶの?」
 子供たちは次々にロープから離れて理知のところに行く。『運命の書』ノルンはちらっと目を走らせて誰もロープのところに残っていないのを確認すると、その後からついていった。
 今日のノルンは契約者であることも隠して、子供たちの間に紛れている。新しく入った生徒に経験を積ませようという琴子の意向を尊重して、今日は蔦退治にも避難誘導にも直接的には携わらないつもりでいる。何かあった時には助力も惜しまないけれど、まずは新しくパラミタに来た人に経験を積んでもらうのが優先だ。
 そんなことを考えながら子供たちの最後尾をゆっくりとついて行っていたノルンだったけれど。
「お友達において行かれちゃいますよー」
 1人遅れている子供に気づいた優葉がノルンをひょいと抱き上げた。
「私は……」
 見た目は5歳の子供だけれど実際は皆よりもずっと大人だと、いつものように言い返しそうになってノルンは急いで口をつぐむ。今日は普通の子供に紛れているのだから、他の子の手前、そういうのは言うべきではないのだろう。
「良い子で遊んで下さいね」
 ノルンを皆の所に運ぶと、優葉はそう言って頭を撫で、また境内の巡回に戻った。
 くす、と笑う声に気づいて振り返ると、布紅が口元に手を当てている。そちらに不本意を示す視線を送ると、ノルンはまた大人しく子供たちの間に入った。
「さて、何して遊びましょうか」
 子供たちの相手をするにも、どうすれば喜んでもらえるのかと考える理知に、智緒がリクエストする。
「ねぇ理知、地球の歌を歌ってよ」
 理知の声は綺麗だから好き、と言うと絶対に照れて歌ってくれなくなるからそれは言わずにおく。
「そうですね。こちらでは地球の歌は珍しいでしょうから」
「うんっ。さあみんな、手を繋ごうよ」
 智緒は子供たちと輪になって手を繋ぐと、理知の歌声にあわせて手を揺らした。
「フィリアも知ってる歌? だったら一緒に歌ってみたらどう?」
 何か役に立つことがあればと来てみたものの、視力を失っている自分では手伝えることもたいして無い……と隅っこに引っ込んでいるフィリア・グレモリー(ふぃりあ・ぐれもりー)を、アシーネ・パルラス(あしーね・ぱるらす)が促した。
「ええ。でもお邪魔ではないでしょうか……」
「そんなの気にしないで大丈夫よ。ほら、もう少し前に進んでみて」
 フィリアの頭の上、ぎゅっと髪に掴まりながらアシーネが指示をする。この位置でフィリアの目となってサポートするのがアシーネのいつものポジションなのだ。
 アシーネに言われると、フィリアは素直に足を進めた。
「おねーちゃんもまざる?」
「ここに入れてあげるよ」
 気づいた子供たちが輪をあけてフィリアを迎え入れてくれる。
「ありがとうございます。皆様、ヒャッハァー♪」
 にこやかに妙な挨拶をするフィリアに子供が目を見開く。
「へっ?」
「フィリア、だからそれは違うって……」
 アシーネが苦笑するけれど、フィリアは気にしない。波羅蜜多実業高等学校の先輩から、ここでの挨拶はそうだと聞いたのを真に受けて信じているのだ。
「お姉ちゃんも地球の歌、知ってるの?」
「はい、この歌でしたら知っています」
「だったら一緒に歌ってよー」
「はい。ですが、あの……」
 子供たちに言われて戸惑うフィリアを理知も誘う。
「是非一緒に歌いましょう。簡単な歌ですから、みんなも覚えてみて下さいね」
「はーい」
「はいはーい!」
 子供たちと一緒に答える智緒に、2人で手伝いにきたはずなのに、理知は思う。けれどこれも智緒なりの手伝いなのだろうと微笑んで、理知はフィリアと声を揃えて歌を歌うのだった。