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ジャンクヤードの一日

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ジャンクヤードの一日
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■遺跡調査3


 ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)は銃型HCのマッピング機能がエラーを起こすという自体を初めて経験していた。
「とうとうオートマッピングが悲鳴をあげるほどの迷子に」
「違う」
 先導していた仙 桃(しゃん・たお)が静かに言う。
「迷ったんじゃない。ダメだというルートを246通り発見しただけだ」
「それで言い訳が立ったと信じてる性根が素晴らしーぜ」
 ヴェッセルは口をひん曲げながら、銃型HCを仕舞い込んだ。
 これも目の前のパートナーも役には立たない。
「ったく、最深部に一番乗りしてやろうと思ったのによォ。その壊滅的な方向感覚でなぜ先導したがったのか、わっかんねー。まあいい、とにかく代われ! 俺が道を探す」
「お、なんだキミは? 反抗期か? 理由なき反抗か。譲らんぞ、ここまで来れたのは誰のおかげだと……」
「って、邪魔すんなっ、ここで理由を察せない辺りがホンモノだな、お前は! お前のせいでここまで迷い切ったんだよ!」
「キミに先頭を任せるとロクなことにならないのは火を見るよりも明らかだろう。罠という罠をことごとく発動させるという癖が致命的な出来事を引き起こし――」
「そーゆーみみっちい事を言ってるから、どんどんと妙な道に迷ってくんだよ。ってか、面倒くせぇ!! 要は一番『下』に行きゃいいんだろ! 床をぶち抜く!」
「待て、早まるな。キミがそういう行動に出る場合、往々にして床には……」
 という桃の声を横に、ヴェッセルは渾身のドラゴンアーツを床に放った。
 ぼごんっ。
 と、床の一部が崩れるでも吹っ飛ぶでも無く、“沈み込む”。
 そして、ガタン、ギーコン、ばたんっ、ゴロリ……と、やけにピタゴラ的装置ちっくな音が壁や床、天井の向こうで連なったのが聴こえた。
 二人が振り向いた通路の先、光精の指輪の明かりの中に見えたのは、転がり迫ってくる巨大な丸石だった。




「ダダダーーーン!! 衝撃スクープ! 亡霊艇の下には謎の古代遺跡が! 迫り来る怪物! どうなるジェーンさん!!」
 ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)のテンションは最高潮を迎え続けていた。遺跡に入った時から、ずっと。
 ライト付きの軍用ヘルメットの内側を、彼女のアホ毛がゴッゴッと叩いている。
「まったく、ど喧しいのう」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は半面を薄く顰めた。
 その手には、遺物を求めて遺跡内を彷徨った先で見つけた機晶メモリーが握られている。
 先ほど、ジェーンに中身を探らせてみたが、専門用語が多かったことなどもあり、よく分からない、というのが返答だった。
「ネェ、親分。そろそろ地上に出ちまってからでもイイと思うんスけど。どーっすかネ?」
 ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)がイライラと足先を動かしながら、問いかけてくる。
 引火性ガスの危険を考慮して煙草を禁止されているために、こちらはジェーンとは別の意味で、ずっと落ち着きがない。
 頭を乱暴に掻き捨てたり、意味も無く顔や体を揺らしたりしている。
「んふ、堪え性の無い」
 笑み、ファタは機晶メモリーを懐へ仕舞った。
「まだ序の口じゃというのに――のう?」
 手に産み出した魔法の氷を、背後に感じた気配へと振り向きざまに投げ放つ。
 暗闇を走った氷の先で大きな気配の塊が跳んだのが分かった。
「お?」
 振り向いたジェーンのライトの明かりの中をモンスターの端っこが掠めていった。
 既にそちらへ迫っていったヒルデガルドが嬉々とした雄叫びを上げる。

 虚空を蹴ってバーストダッシュでモンスターの懐へと潜り込む。
 迫った爪を硬膚蟲で硬化した腕で弾き飛ばし、ヒルデガルドは勢いのままに、脳天を相手の顔面に叩き込んだ。
 うっすら視界はグラついたが、禁煙のイラつきをふっ飛ばした気分で爽快だった。
「ヒッ――ハァ! 待ってた、待ち望んでたぜェ!」
 笑い捨てたヒルデガルドを掠めて、
「ドッカン!!」
 ジェーンの機晶キャノンが、反撃に転じようとしていたモンスターを撃ち払う。
 砲撃の際に、ジェーンのヘルメットは転げ落ちていた。
 アホ毛を踊らせつつ、ジェーンが、ぺかーっと目から放ったメモリープロジェクターを照明代わりにする。
 壁端へと逃れたモンスターをファタの氷術が狙う。
 音も軽く虚空へ身を返したモンスターを追って、ヒルデガルドは肢体を巡らせた。
 そこらに立ち込める土埃を掻き切った足先で、モンスターの顎を打ち抜く。




 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は数匹の機晶犬を引き連れて遺跡を進んでいた。
「機晶石や人体と融合し、その物自体に強力な再生能力まで付加する“枝”、か」
 自身の考えをまとめるように一人呟く。
「今の機晶技術やイコンの設計に転用できれば、成績アップ間違いなしね。となると、この遺跡が研究施設なんかだと都合が良いのだけど……」
 と――
 彩羽は奇妙な音に気づき、足を止めた。
 足元に感じるかすかな振動。
 地響きのようなものが近づいて来ている。
 顎に手をかけて、ぶつぶつ呟きながら考える。
「大昔の遺跡……近づいてくる地響き……斜め下方への傾きを持つ狭い通路……」
 そこで、彩羽は、ぽむっと手を打ってから、辺りを見回し、適当な通路の窪みを探した。
 そちらの方へ機晶犬たちを誘導し、自分もそこへスッポリと収まる。
 音は既にかなりの大きさとなって迫っており、数秒後――
「TALLYHOOOOOOOOOOOO!!」
「――キミはだから人の話を聞かないのはどうかと思うのだがそれよりも――」
 全力疾走のヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)仙 桃(しゃん・たお)が目の前を駆け抜けた。
 その後を巨大な岩が彼らを追って転がって行く。
 そして、ずむんっ、と重い衝突音。岩は止まったらしい。
 彩羽は壁の端に手を掛けながら、通路へと顔を覗かせた。
「随分とアナログな仕掛けね……――っと」
 岩が砕いた壁の向こう――そこから現れたのは六連ミサイルに撃ち弾かれたイェクの姿。
 それを追って、ジェーンヒルデガルドが壁の穴から飛び出して来る――――


 壁にめり込んだ丸石の隙間からは、ヴェッセルが生えていた。
 それをに撫でこくりまくられているジェーンが、つんつんと突っついて遊んでいる。

 が、それはともかく。
「幾らなの?」
 彩羽は顎に手を掛けながら問いかけた。
「んふ、そうじゃのぅ。これだけ貰おうか」
 ファタが金額を提示する。
 彩羽は軽く片眉を動かして、
「……本当に有用な情報が入っているのかしら」
「さて、な。だが、手がかりはどんなものでも有って損をするということはなかろう」
 ファタが古代の機晶メモリーを手に遊びながら楽しそうに笑う。
 彩羽はしばし間を置いてから、ふ、と息を抜いた。
「買うわ」
「んふ、英断じゃ。良い買い物をしたのう」
 ファタが機晶メモリーを指で弾き、彩羽はそれをパシリと受け取った。

 とりあえず、機晶メモリーの中に入っていたデータを物理的に全部引き出して、テクノコンピューターに取り込む。
 そして、彩羽はユビキタスを用いながらデータの解析を行った。
 結果として分かったのは、大体、次のようなことだった。

『この遺跡の力と技術を組み込むことが出来れば、機晶技術は更なる発展を遂げるだろう。
 遺跡を管理するヨマの一族との交渉は順調。
 彼らは、特殊な信号を受け継ぐ血統の人間を用い、遺跡を通して、イメージを伝達することにより、力を安定させているようだ。
 この人間は、おそらく力との接点を設けるべく、はるか昔に体を加工された血統なのだろう。
 技術は失われていたが、分析を行い、類似の信号を機晶エネルギーで作り出すことに成功する。
 人間では力を安定させるのが限界だが、機晶エネルギーの補助を用いれば、力をコントロールし、活用することが可能ではないかと考えられる』

 彩羽は小さく息をついた。
(なんていうか……危険な匂いしかしないわね。これ。
 まあ、上手く行っていたなら、とっくに今の機晶技術に取り入れられてる、か。
 研究開発を重ねても、正直、この不安定な部分の改善は、とんでもなく難しい。今の技術じゃ、メリット以上のコストが掛かる。
 分かるのよね……強化人間の研究に近いところにいると、人間の中にあるものなんてそう簡単じゃないってことが。
 技術転用は非現実的だわ。
 天御柱に確認を取っても、おそらく答えは変わらない、と。
 となると……ここは優等生として、調査団の人たちに情報を提供しておくに留めますか)
 そして、彩羽は亡霊艇の調査団へと通信を開いた。




 幾つもの通路を抜けると、そこにあったのは、おそらく地下空洞だった。
 明かりを向けてみたり、飛ばしてみたりするも暗闇ばかりで向こう側は見えない。
 ただ、通路の出口から暗がりへと沈んでいく断崖絶壁があり、その側面にはジグザグに下方へ向かって行く階段があった。
 階段の所々は時の侵食によって崩れている。
 そして、壁のあちらこちらからは“枝”や地下水が吹き出していた。
 細々と音を響かせる地下水が壁や階段の間の土を削り流し、崩壊は今も続いているようだった。

 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がカタールで“枝”を裂く。
 と、同時にクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、時間を確認した。
 そして、ピタリと“枝”の傷口が閉じるのを待つ。
「どうでした?」
「変わらないな」
 クレアは時計から顔を上げて言った。
 再生スピードの話だ。
 何処で“枝”を傷つけても、その再生スピードは変わらないようだった。
「この早さのままならば、万が一、“枝”に囲まれることがあったとしても切り抜ける」
 それは、これから根本へ向かおうという彼らにとって重要な情報だった。
 クレアたちの一団は、枝の分布と傾向を元に根本を目指していた。

「うー……んー……」
 という呑気な呻き声を出しているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 彼女は、はるか昔、“枝”と同化したらしいネズミの姿を、じーっと見ていた。
「何か気になることでも?」
 ルカルカの様子に気づいた九条 風天(くじょう・ふうてん)が問いかける。
「これね、例えば、こうするとどうなるのかなっと思ってね?」
 ルカルカがひょいっと愛の宿り木を取り出す。
 そして、その力を使って、ネズミに回復を試みた。
 と――ぽこん、とネズミの横に小さな枝が生えた。
 それを見つめたまま、風天は零した。
「……ええと……」
「うん……可愛いね! これ、ミニ枝!」
「え?」
 ルカルカの発言に風天が驚きを隠せなかった、その時。
 ルカルカが弾かれたように声を上げた。
「ダリル!」
 同時に、頭上に風切り音。
 数匹のイェクが彼らのそばへ着地し、すぐに襲いかかってくる。
「殿!」
 既に駆け出していた風天を援護するように坂崎 今宵(さかざき・こよい)の銃撃が走る。