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ドラゴンイーター迎撃指令!

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ドラゴンイーター迎撃指令!

リアクション

 3/

「西側Bブロック、こちらはほぼ想定どおりの量を採取できそうです。自生を維持可能な範囲での採取を終え次第、皆には次に向かうよう伝えました」
『了解』
 今回の作戦実施に当たって、学園内とその裏手に隣接した森とを、予めいくつかのブロックに分けてある。
 各々、厳密にここ、というわけではないが大まかな分担の目安として。
 ひとりひとりが全てをカバーできるわけではないのだから、当然のことだ。
 尤も、その『全域』をこそ見回る役目を請け負った者とて無論、いる。
「それとさっき上空から、北のDブロックの泉に大きめの群落を見つけました。手が空いている人たちにはそちらに行って欲しいです」
 そう、報告する二人。葉月可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)のペアもまたそんな遊撃行動チームのひとり、いや、ふたりだった。
 双方、ガーゴイルの背に跨り。上空から学園や森を俯瞰し、周囲の様子に気を配る。
 ──不思議なものだ。機械化されていることで有名な蒼空学園も、少し外れればこんな森が広がっているなんて。
 オープンチャンネルに開いた、支給の通信機で本部兼救護場が置かれたドラゴニュートの治療テントと協力者たち皆に呼びかけながら、不謹慎とは自覚しつつも微笑し、可憐はそんなことを思う。
『りょーかいでーす。えっと。ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)と』
『ふらんか!』
『じゃなくって、フランカ、こういうときはフルネーム言うんだよ。……えと、ミーナ・リンドバーグとフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)、以上二名で北Dブロック向かいまーす。他にも来てくれるなら、援軍募集中っ』
「お願いしますね。……あ、くれぐれも採りすぎたりしないでくださいね」
『オッケー、任せといて』
 通信を、切る。
「いい子たちだねぇ」
「それを言い出したら、この辺りにいるみんな、大体そうですよ」
 傷ついたドラゴニュートと、蒼空学園内の不特定多数のドラゴニュートたちのために一肌、脱いでくれているのだから。
「私たちも、頑張らないと」
「そうだねぇ」
 手にした地図上には、まだいくつか岩竜忌草の群生地が記されている。行って、確かめて。また、伝えなくては。
 願わくば、この場にいる皆がすべて、いい人たちでありますように。
 祈りながら、二人はガーゴイルを駆る。

「さってと。んじゃ行こっか、フランカ」
「はいなのです!」
 くれぐれも、草を摘みすぎないで。通信を切る直前聴こえてきた、そんな通信機の向こうからの声に、ああ、やさしい子なんだな、とミーナは思う。
「必要なぶんだけ、ちゃっちゃともらってきちゃお!」
「もちろんですぅ!」
 フランカの軽い身体を、手を引いて小型艇にい引っ張り上げる。
 なに、指定されたポイントまでなんて、オイレを飛ばせばあっという間だ。
 愛用の飛行艇のエンジンを、始動させる。
 他の採取チームも順調のはず。自分たちも、頑張らなくては。
「とってとって、とりまくるです!」
「……まあ、ほどほどにね」
 苦笑とともに彼女は艇を、発進させた。

 ミーナの飛行艇が遠ざかっていく。──そこに乗っている人物が誰なのか、向かう方角がどちらであるのかもわからぬままにそれを彼らは、見送っている。
 間近に、ではなく。エンジンの轟音に見上げた空にただ、それを見つけて。
「……アレ、どっちに行ってるんだろうなぁ」
 ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)。なぜならば、彼を含む一行三人は今、迷子なのだから。
 ため息混じりに言いたくも、なろうというものだ。
 さんざ迷った挙句、彼のパートナーたちは、
「うう。ダメだ、聴こえないよー、めぇ」
「大丈夫。ほら、息を吸ってみて。和葉ちゃんならきっと、聴こえるわ。大きく、深呼吸して。……耳を、済ませてみて?」
「──……っ」
 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)も、メープル・シュガー(めーぷる・しゅがー)も、慌てるでも、本来の道を探すでもなくずっとこの調子なのだから。
 スキルを──特技を生かして。悠長に植物たちと話し込んでいる。
「……あ! 聴こえた! 聴こえたよ、めぇ!」
「そう。じゃあ、話しかけてあげて」
 岩竜忌草の方角を訊いたところで、今の自分たちには肝心の方角そのものが見失われている状態であるのに、だ。
「ねえねえ、お嬢さん。ボクたち、岩竜忌草ってコたちを探してるんだけど」
 その小さな花はどうやら、女の子らしかった。花に性別があるのかどうか、ルアークにはわからないけれど。
「え? いる? 近くに?」
 和葉が、振り返る。釣られてパートナー二人、そちらを見る。
 ──たしかに、あった。小さな、白い花。木の根元に一輪だけ、岩竜忌草だ。
「ほんとだ。ありがと」
 和葉はそっと立ち上がる。一輪だけの、目的の花のもとに近付いていく。
「和葉ちゃん」
 そして、膝を曲げた。花へと、手を伸ばした。
「ごめんね。あなたたちの力を、貸して欲しいんだ」
 岩竜忌草が、なんと応えたのかはルアークにはわからない。メープルには、わかったかもしれない。
 たしかなのは、謝ってから和葉が、そこにあった岩竜忌草を摘み上げたということ。
「もっとたくさん、見つかるといいんだがな」
「そうだね。……このコたちには少し、申し訳ないけれど──っ?」
 そして彼女がルアークとメープルに頷いたとき、茂みが揺れてがさがさと鳴った。
「!」
 まさか、ドラゴンイーター。場の警緊張が高まり、三人は警戒に身を硬くする。
 だが。
「──……っと。いたいた」
 現れたのは巨大な異形ではなく。
 男子の、二人組。双方周囲を見回し、しきりに鼻をひくひくさせて辺りの匂いを嗅ぎながら。
 草むらの中から、顔を出す。
「キミたち……採集チーム?」
 現れた彼らに、和葉が問う。訊かれたふたり、ともに頷く。
 清泉北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)のペア。二人はパートナー同士であると言った。
「お前ら、さっきのオープンチャンネル聞いたか? 北に群生地があるって。オレたちもその匂い見つけて、そっちに向かうところだったんだ」
 昶が、周囲を変わらずきょろきょろと見回しながら言う。
「北? ここから近いの?」
「うん。もうだいぶんね。ただ、残念ながらまだこの辺りには殆ど岩竜忌草はないからねぇ。ぐるぐる回ってる匂いがあったもんだから、アレ、おかしいなあって思って」
「う。そ──そう、なんだ」
 言えない。道に迷って、迷子になって方角さえもわからなくなっていたなんて。
 昶と北都が頷きあうのを尻目に、ひきつった苦笑いを三人、お互いの顔に確認しあう。
「よかったら、僕らと一緒に行きませんか? ほら、人手はひとりでも多いほうがいいですし。ねぇ、昶?」
「ああ。オレたちの鼻で幸い、地図で見るよりもずっと場所は絞り込めてるしな」
 北都たちからの提案に、和葉たちは三人、顔を見合わせる。
 無論、戸惑うでも悩むでもなく、安堵に。
 道に迷っていたこちらとしては当然──断る理由など、ない。
「うん。それじゃ、お願いしようかな」
 和葉は胸元に草を抱えたまま、右手を差し出した。
 握手に応じて、北斗がその手をとる。
「それなら。とっとと行こうか」
 昶が先頭に立ち、続く森の向こうを指差した。

 柔らかな光が、辺りをほのかに照らし出す。
 ヒール。それを生み出しているのは、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)の指先だ。
 そしてその光が癒すのは、傷ついた生徒たち。ひとりひとりをこうやって、リリィは治療してまわってきた。
 治療中の無防備な背中は、相棒のカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が警戒し、守ってくれる。
「──さ。ひとまずは、これで大丈夫ですわ」
 これで、戦いに負傷したドラゴニュートの生徒を治療したのは果たして何人目になるだろう。
「あとは、これを。お守りくらいにはなりますから」
 けっして総数は多くはないはずの、ドラゴニュートである学生──すなわち、パートナーを持つ竜族たちのはずなのに。
 同じドラゴニュートが深く傷つけられた、その同族意識からだろうか? あるいはそれとも、逃げるより戦うことを選ぶ勇猛な竜の血によるものか。
 座り込んだ生徒へと、リリィは自らの摘んできた岩竜忌草を差し出す。……受け取ろうとしない。視線を逸らし、躊躇する素振りをそのドラゴニュートは見せた。
 まったく、プライドが高いというか。手当はしたとはいえ、そんな怪我で、まだ戦おうというのだろうか?
 カセイノと顔を見合わせ、リリィは苦笑する。そしてドラゴニュートの手をとって、そこに岩竜忌草を握らせた。
「……その傷では、足手まといですわ。大人しく、避難していてくださいな」
 有無は言わさない。そのまま立ち上がる。
「もともと、この戦いはあなたたちをドラゴンイーターから守るためのものなのですから。岩竜忌草のひとつやふたつ、個人に配布したところで主旨に反してはいませんわよ?」
 人命が、最優先ということだ。
 もう既に、森を抜け学園内にも複数、ドラゴンイーターは入り込んでいるはず。
 気密性の高い地下の理科実験室にドラゴニュートたちは避難指示を受けているから、こうして自ら戦場に出てきている場合でもなければ、人的被害はまだないようだが。
「また舗装、やりなおしね。まったく、土建屋さんは大忙しね」
 それでも、舗装された地面はところどころ隆起し、穴が穿たれている。ドラゴンイーターたちがその下を掘り進み、地表へとその首を擡げた爪痕だ。
 果たしてあと何匹、いることやら。
「ドラゴンイータァァ! 見つけたあァっ!」
「──はい?」
 だが、その大穴を大地へと刻んだのは生憎、ドラゴンイーターではなかった。
「わたくしのパーツ……わたくしの、パーツ……っ!」
 アスファルトの地面が抉れていた。
 突然太陽の下に晒され泡を食ったのだろう、びちびちとそこでドラゴンイーターの巨体がのたくっている。
 機晶姫の拳が、それを成した。尾長 黒羽(おなが・くろは)の一撃が、本能しか持たぬはずのドラゴンイーターを動揺させた。
 そのように見えるくらい、突然に彼女は「降ってきた」。
「尾長。君ねぇ」
「……あら?」
 そして少し遅れて、小型艇が一機、降りてくる。
 そこから現れたのは、痩身の、ツリ目の男。──……黒羽の契約者、七篠 類(ななしの・たぐい)である。黒羽のパートナーは、どこぞの深夜バスにやられるだまされ芸人がぼやくような口調で、呆れ気味に自身の相棒へと苦笑いをしていた。
「すまないな、いきなりで。巻き込まれたり、しなかったか?」
「え──ええ、まぁ。ね? カセイノ」
「ああ」
「ちょっとウチの相棒、独特の感性でな。面食らわないでやってもらえると……まあ、無理だろうけど」
 そりゃあ、そうだ。
 当の本人はそんなことおかまいなしに、あちらでドラゴンイーターとやりあっているけれども。
「とりあえず、適当なところで切り上げさせるから。理科室に手伝いに行こう。ついてきてくれるか?」
「理科室……まさか、負傷者が?」
「うん? ああいやいや、違う違う。それは避難所になってる理科の実験室のほうだろ? 俺が言ってんのはフツーの授業で使う理科室のほう」
「え?」
 類が、歩き出す。ドラゴンイーターと激戦を繰り広げている、パートナーのほうへと。
「もうじき、予定してただけの岩竜忌草が集まるそうだ。そうなりゃあとは抽出するだけ。手伝いに行こうと思ってな」