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ドラゴンイーター迎撃指令!

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ドラゴンイーター迎撃指令!

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「来た!」
 不意に暗く翳った頭上と、戦場に響いた声のタイミングとが一致した。
 声と影とに、月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)は思わず視線を直角に持ち上げて上を見る。
 発せられた声の主は、ともにドラゴンイーターを食い止めるべく戦っていた、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だった。
 影の正体は──……二機の、小型艇。片方は見覚えがある。たしかあの機種はアルバトロス、だったか。
「できたのねっ!?」
 思わず、声が上ずる。……いや。裏返らずには、おれようか。
『もちろん! 待たせてごめんなさい! リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)、ドラゴンイーターの弱体化成分を運んできました!……キュー!』
『おう!』
 アルバトロスでは、ないほう。一回り小さな飛行艇が、方向を変える。
『ここはあなたたちでお願いするわ! 私は東に! キューは南に!』
『任せとけ!』
『頼んだわよ! 鞆絵! 義仲!』
 そしてハッチを開きつつ、リカインの乗るアルバトロスもまた、もう一方とは違う方角に機首を向ける。
 ──なにかが、飛び降りてくる。その着地と、二機の小型艇の発進はほぼ、同時。
 重々しい音とともに、降り立つ。
 あゆみの、唯斗の。
 唯斗のパートナーたち、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)らの、前に、だ。
『あれは……』
 魔鎧となり、唯斗の身を守るプラチナが、ぼそり呟く。
「……なかなか」
 ワイバーンの背から、エクスが見下ろし言う。
 同じく上空で、ガーゴイルの背にいた睡蓮は口を押さえ、必死に笑いを堪えていた。
 どうも、ツボに入ってしまったらしい。あゆみも、唯斗も。他の皆もその気持ちは、わからないでもなかったが。
「ハァッツハッハッハァッ! 見るがいい、喰らえぇい! 龍喰らいし物の怪どもよっ!」
 なぜならば、そう高らかに叫び岩竜忌草を撒布した女性は、不釣合いを通り越して見事なまでに──それはそれはとても立派な、八の字の髭を生やしていたのだから。
 名を、中原鞆絵(なかはら・ともえ)という。……彼女「は」。
 髭は別に、彼女自身のせいではない。
「笑っては失礼であろう、エクス」
「だ、だって」
『ダメですってば』
 その身体に憑依する者のおかげで、「そうなってしまっている」だけだ。
 鞆絵の身体を、借りている者。野太い、男らしい声の高笑いを発した人物。木曾義仲(きそ・よしなか)
 彼女の身体の中に、彼がいる。そのせいで声は野太く、また顔にはくっきりはっきりと、髭なぞ生えてしまっているのだ。
「悶えよ! 受けよ! 苦しむがいいっ!」
 高笑いとともに、白い靄のような岩竜忌草の成分を撒き散らす義仲。いや、鞆絵? あるいは、両者。
「えーっと。うん、と」
 あゆみでなくたって、そんな光景を見せられれば戸惑っていたに決まっている。
 だが、たしかにドラゴンイーターたちは草の成分を浴びせられ、受けて。悶え苦しんでいる。もがいている。
「と、とにかくっ。ゆ、唯斗さん、みんなっ。今がチャンス!」
 一気に、たたみかけよう。
 あゆみの音頭に、唯斗たちからも異存の声が上がることはなく。
「ああ、行こう!」
 迎撃チームは、駆逐チームへとその役割を変えていく。
 形勢逆転。一気に攻勢に、まわるのだ。脆くなり、弱ったドラゴンイーターたちを彼らは、屠っていく。

 その勢いは、蒼空学園のいたる所へと伝播していく。
「皆、よく保った! 行け! ここから一気に反撃だ!」
 これまで防戦であった者たちが、攻勢へと転じていく。ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)はその仲間たちを鼓舞し、それを受けた生徒たちはドラゴンイーターたちへぶつける力をより一層強めていく。
 岩竜忌草の効果は、物理的にも心理的にもてきめんだった。
 一気呵成に、攻めかかる。これまでの鬱憤を、晴らさんとばかりに皆。
「は、あああぁっ!」
 ヴァルの背後を突く、一匹。だがしかし、それももはやものの数ではない。
 瞬時、アサシンブレードの閃きがその長い身体をばらばらに切り裂いていく。
 舞い降りた忍。甲賀三郎(こうが・さぶろう)の刃が、ドラゴンイーターを切り刻む。
「うむ、ご苦労だな、臣民」
「貴様のためにやったわけではない」
 ぎらりと、怒りに満ちた瞳で、三郎は言い返す。好転した戦況の中にあって、彼は苛立っていた。
「鏖殺寺院などと……! 高坂! メフィス!」
「了解であります!」
「……はい、はい」
 高坂甚九郎(こうさか・じんくろう)メフィス・デーヴィー(めふぃす・でーびー)。自身のパートナー二人に、叫ぶ。
 こいつらを。鏖殺寺院の名を使い混乱を招くこの怪物たちを、殲滅する。だから、力を貸せ。
「参りましたねぇ、これは。三郎、完全にぷっつんしちゃってますよ」
 オールバックの悪魔、メフィスは苦笑しつつ、自身のパートナーの指示に従う。
 災難なのはドラゴンイーターたちのほうだ。改造されたくてされたわけじゃないというのに。苦手な成分たっぷりの噴射液で弱らされた挙句、メフィスや甚九郎に、一箇所に集められて、三郎に黒く燃え上がる煉獄の炎で焼き尽くされて。
「同情したくなっちゃいますね。悪魔らしくありませんが──お?」
 一体、囲みを破って逃げ出す個体がいた。
 逃げられなどしないのに。そう思ったメフィスの感想は正しく。
「ちょーっと待ったぁ! そうは問屋が卸さんぞっ!」
 一筋の矢が、逃げ延びようとしたそのドラゴンイーターに突き刺さる。
 否。貫くだけでは済まず、ドラゴンイーターはその巨体を二つに断たれて、瞬時絶命させられる。
 矢は、地面に降り立つ。その衝撃で、草生い茂る大地に大穴が穿たれる。
「ふうっ」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)。あっという間に一体を屠り去った彼女──と、三郎たちは思った。女装している、彼──はスカートの泥を払い、立ち上がると、三郎のほうへと向き直る。
「む。貴公ら、言いにくいのだが」
「?」
 びしり、と三郎を指差しながら、ダメ出し。
「追い込んで焼き殺すなど、悪役のやることだぞ? ヒーローらしくもない」
「……別に、ヒーローにも正義の味方にもなったつもりははじめからない」
「ふむ、そうか」
 尤も、それ以上は深く追求、しないけれど。
 巽はツァンダースカイウイングを広げ、空に舞い上がる。ふわり、着ているスカートも広がる。
 狙いはやはり、囲みを突破しようと試みている一体。かなりの大型だ。
「やはりこういうのは、ヒーローの仕事だと我は思うがなっ!」
 空中に、静止する。……いや、したように見えた。それほどゆるやかに、空中で彼女、いやさ彼は悠然と体勢を変える。
「ソゥクゥゥッ! イナヅマァッ! キィィィックッ!」
 結果は、先ほどと同じだ。一本の矢と化した己が肉体を以って、ドラゴンイーターの巨体を貫く。
 脆くなった装甲が相手だ。必殺のキックの前には赤子の手をひねるよりやさしい。
 貫いて、着地して。
「さあ、次だっ!」



 そして。

 すぐ目の前に、ドラゴンイーターがいる。
 ……なぁに、怯むことはない。鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は自分に言い聞かせながらしかし冷静に、背負った噴射装置のノズルを真正面のドラゴンイーターへと向け、発射スイッチを押した。
「どうだっ!」
 効かない、わけがない。そして、貴仁だけではない。
 相棒たちとともに取り囲み、急速に力失い弱っていくドラゴンイーターに、弱点の岩竜忌草のエキスをたっぷりと浴びせてやる。
「おや、まぁ。たった一ラウンド出されたくらいで、足腰立たなくなるとはのう」
「無駄口叩かないでください、そこ」
 パートナー、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)と、常闇 夜月(とこやみ・よづき)と。三方向から、集中砲火を浴びせる。
「白羽様も悪戯したいなんて、考えないでくださいねっ!」
 夜月が釘をさすのは、貴仁が身に纏う魔鎧だ。いたずらっ子の、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)。注意を受けて、しょんぼりしているのが装備状態でもなんとなく、雰囲気でわかる。
 今はとてもじゃないけれど、攻め続けるときだ。悪戯にかまけている、注意をして止めている場合ではない。
 一丸となって、殲滅をする。──そのためには、役割分担だって必要なのだ。
 殆ど見ているだけという状態に近くとも、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が援護に徹しているように。
 手持ち無沙汰であれ、今は闇雲な攻撃以上に有効な手立てがこの戦場にはあるのだから。
 余計な手を出さず、モチはモチ屋に任せるのも立派な貢献のひとつに違いない。
 眺めてくれていて、いい。同じ敵を殲滅しようとする、仲間として。

「いやぁ……ここまでくるとむしろ爽快ですねぇ、一方的すぎて。すること、ないですねぇ」
 ラムズ本人も、それは別に嫌ではなくて。
 ドラゴンイーターたちはもはや殆ど、総崩れといっていい状態だった。その害獣たちに向け、アーマード レッド(あーまーど・れっど)が銃撃を浴びせ、装甲ごとドラゴンイーターたちを砕いていく。
 苦し紛れの反撃も、当たらない。緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が、いとも簡単に掠ることすらなく、避けきっていく。
 彼ら二人が、牽制と削り役。
「これでおしまいですっ!」
 一網打尽は、彼らのパートナーの役目だ。エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の大技が、炸裂する。
 大魔弾、コキュートス。それを群れの中心に撃ち込まれ、ドラゴンイーターたちは身動きをとることすら、ままならなくなり。
 斬り裂かれ、殴り砕かれ、撃ち倒されていく。
 エッツェルの奇剣「オールドワン」に。
 パートナーたちの、攻撃に。
 それは先ほどまでの全体的な苦戦がうそのような、ワンサイドゲームそのものだった。そしてまた、その光景はこの場だけのものではないはず。
 相棒同士で、エッツェルたちは分業・チームプレイが見事にかみ合っている。いや、実にすばらしい。
 エッツェルたち三人を、遠目に見ながらラムズはそのように、評していた。
「シュリュズベリィ」
「おや」
 手を出すまでもない。もう安心だな、と思っていると、相棒の魔導書、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)がいつの間にか隣にいた。
 この触手っ子は一体今まで、どこにいたのだろう?
「して、お主。どうする気じゃ?」
「どうするも、なにも」
さしあたってなにもする必要がなさそうだ、というのが正直なところだ。
「どうにかしてアレ、食してみたいんじゃがのう」
「……ドラゴンイーターを、ですか?」
「うむ」
 そういえば、地域によっては野生のドラゴンイーターを食材として用いるところもあると聞くが。
「まあ……他の皆さんが片付けてくれるまで待ちましょうか。それと」
「それと?」
「くれぐれもドン引きさせるような食べ方はしないよう、気をつけておきましょう。食べるのであれば」
 TPOは、大事なのである。