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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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    ★    ★    ★
 
 さてどうしようかと通路を戻っていきますと、またほっそりとドアが開いている部屋があります。
 好奇心にかられて、小ババ様はその部屋をのぞいてみました。今度の部屋には何があるのでしょうか。
 中では、風森 望(かぜもり・のぞみ)がちくちくと何やら縫い物をしていました。彼女の後ろの机には、乱雑に放置されたレポートの山があります。
「うーん、なかなかいいできだわ」
 傍においた等身大小ババ様人形に、できあがったばかりの衣装をあてながら、風森望が一人悦に入りました。どうやら、小ババ様のドール衣装を作っていたようです。
「あれ? ドアが開いて……、ああっ、本物の小ババ様だ。そ、そうだわ!」
 小ババ様に気づいた風森望が、なるべく小ババ様を驚かさないようにと、静かに、けれども最高速でキッチンへと駆けていきました。戻ってくると、その手には、なんとシャンバラ山羊のミルクアイスがあります。
「ほーら、おいでおいで〜。美味しいアイスですよ〜」
 これはたまりません。ふらふらと小ババ様は吸い寄せられていきました。
「さあ、どうぞ、ごゆるりと、小ババ様」
「こばー♪」
 風森望に差し出されたアイスを、小ババ様は遠慮なく食べ始めました。
「うんうん、すっごいぞ私、本物にもぴったりだわ!」
 今まで作った衣装の何点かを、アイスを食べている小ババ様にあてがって、風森望がサイズを確認しました。
「こばばーこば」
 アイスを食べ終わった小ババ様が、ぺこっとお辞儀をします。
「あの、小ババ様、よかったら、どれか着てみませんか?」
「こばあ」
 風森望に言われて、ちょっと小ババ様も乗り気になりました。
「どれがいいかしら……」
 思いっきり迷う風森望に、小ババ様が巫女衣装をさしました。さっそく、風森望が着替えさせます。
「きゃあ、きゃあ、ピッタリ。かわいーよー」
 お祓い串をバタバタさせる小ババ様を見て、風森望が歓声をあげました。
「写真、そうよ、写真だわ」
 バタバタと風森望がカメラを取りにいくと、机の上からレポート用紙が一枚小ババ様の傍に舞い落ちてきました。
「こばあ?」
「ああ、それは、ミスティルティン騎士団に提出するレポートですわ。縫い物に夢中になって、すっかり忘れていました。それよりも、小ババ様、ポーズを、ポーズをお願いいたします!」
 紙を拾いあげて小首をかしげている小ババ様に、カメラを構えた風森望が必死の形相で頼みました。
「こばばば、こばばばー」
 要求に応えてお祓い串を振った後、小ババ様がレポートを拾いあげました。
「こば、こばばばは、こば、こばばばばあ」
「なんでしょう、もしかして、これを校長室へもっていってくれると言うのでしょうか? ありがとうございます、わざわざそんな。そうだ、お礼に今着ている服はさしあげますわ」
 ちょうどいい口実ができたと、風森望が小ババ様にレポートの運搬を頼みました。これで、合法的(?)に、小ババ様にコスプレ衣装をプレゼントすることができます。
「こばあ」
 ドンとぺったんこな胸を叩くと、小ババ様が配達を請け負います。
 こうして、小ババ様は、愛用の箒に今まで着ていた服を入れた風呂敷を下げ、レポートをセロハンテープで箒の軸に貼りつけてもらって校長室へと戻っていきました。
 
    ★    ★    ★
 
 小ババ様にとっては大きなレポート用紙を運ぶにはこの方法しかなかったわけですが、ちょっと風の抵抗が大きすぎます。順調に上へとむかってきたのですが、途中でまたアンネ・アンネ三号たちに出くわしてしまい、すれ違うときの突風を受けてふらふらと職員室に入ってしまいました。
「さあ、ランチを食べに行くぞ。ついてきたまえ、アリシア君」
「はい、教授」
 入れ違うように職員室を出ていったベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教授とアリシア・ルード(ありしあ・るーど)が、職員室の扉を閉めてしまいました。さて困りました、小ババ様は閉じ込められてしまった形です。
「こばっ? こばばばばばば……」
 軽いパニックに陥った小ババ様が、ミニミニ箒で無茶苦茶に職員室の中を飛び回ります。
「そこの、何をしておるのじゃ!」
 教員であるラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)のそばに居たシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、見かねて小ババ様を追いかけ始めました。
 追われたので、小ババ様も当然逃げます。
 奇しくも、おっかけっこが始まってしまいました。その余波を受けて、職員室の机の上にあった書類が数枚舞い上げられて床に落ちました。小ババ様が箒から下げていた風森望の報告書も落ちてしまいます。
「やれやれ、何をやっているんです。二人共、ここは職員室ですよ、おとなしくしなさい」
 床に落ちた書類を拾いあげながら、ラムズ・シュリュズベリィが言いました。
「だから、侵入者を捕食しようとしているのじゃ」
 ビュンビュンと腕を振り回して、シュリュズベリィ著『手記』が答えました。
「捕食してどうするんですか」
 ラムズ・シュリュズベリィが、シュリュズベリィ著『手記』の本体で、彼女の頭をペチッと叩きました。さすがに、シュリュズベリィ著『手記』がうずくまっておとなしくなります。
「小ババ様も、落ち着きなさい」
 飛び回る小ババ様を、ひょっとつまみあげてラムズ・シュリュズベリィが言いました。
「こばばあ……」
 巫女装束の小ババ様が、ラムズ・シュリュズベリィの指先でジタバタします。
「よし、一呑みに……」
 まだ子ババ様を食べようとするシュリュズベリィ著『手記』の頭を、ラムズ・シュリュズベリィが再びペチッと叩いておとなしくさせました。
「はい、落とした書類ですよ。校長室に提出する物のようですね。ちょうどいいので、私の書類も持っていってもらえるでしょうか」
 そう言うと、ラムズ・シュリュズベリィが複数の書類をクリップでまとめて小ババ様の箒に留めました。またシュリュズベリィ著『手記』に襲われては面倒だと、職員室の扉のところまで小ババ様を連れていって、通路へと出してやります。
「頼みましたよ」
 ラムズ・シュリュズベリィに見送られて、小ババ様は今度こそ校長室を目指しました。
 途中で、何かを探しているらしいクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と出会いました。
「あ、小ババ様。アヤを見ませんでしたか?」
「こばあ……」
 ちょっと悩みましたが、小ババ様は知らないと首を振りました。
「そうですか、もし見つけたら教えてくださいね」
 そう言うと、クリス・ローゼンは神和綺人を探しに行ってしまいました。