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リアクション
★ ★ ★
ちょっと外の空気が吸いたくなって、小ババ様は窓から下に見える枝を見下ろしてみました。
上から見ると、なんだか奇妙な光景がそこにありました。
枝の上になぜか巨大なザルがおいてあり、すぐ傍の葉の茂みの中にクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が隠れているのです。
「こばあ?」
なんだろうと、小ババ様は、しばらく様子を見ることにしました。
「いいかげん、今日は世界樹を思いっきり探検するんだから!」
おつきの自称月久五郎ことアンネ・アンネ 五号(あんねあんね・ごごう)を従えた河原 撫子(かわら・なでしこ)が、ちょっとぷんすかして枝の上に出てきました。
世界樹を探検する気満々のようですが、どうやらアンネ・アンネ五号がそれを許してはくれないようです。
「お嬢、外は危ないって言ったでしょう。早く戻ってくださいよぉ」
追いかけてきたアンネ・アンネ五号が、河原撫子に、世界樹の中に戻るように言います。
「中だって、危ない所が多いからって、自由に見せてくれないじゃない」
河原撫子はおかんむりです。
「だって、開かずの通路とかあ、スライム養殖場とかあ、混浴風呂とかあ、いろいろと危ない所があるんですよお」
アンネ・アンネ五号が、必死に説明します。
「どうして混浴が危ないのよ」
「いろいろとですよお」
「まったくもう。あれっ? あれって何かしら、まあ、かわいい!」
河原撫子が、枝の先の方にあるザルの下に小さな人影を見つけて叫びました。そこにおいてあったのは、クロセル・ラインツァートが夜なべしてアーデルハイトなりきりセットでコスプレさせた鞄の小人さんだったのです。
「ええとお、小ババ様というアーデルハイト様の分身のようですねぇ。それにしても、なんでザルの下にいるのでしょうかあ。あれでは、まるで古典的な雀取りの罠のような気もしますがあ」
さすがに、アンネ・アンネ五号が疑問に思います。
「今どき、そんなバカな罠を仕掛ける人もいないでしょう。いるんだったら、素顔を見てみたいものですわ。それよりも、小ババ様です。ううっ、なでなでしたい」
そう言うと、河原撫子が駆けだしていこうとしました。けれども、その前に立ちはだかった人物がいたのです。
「ストーップ、それ以上はあたしが許さないんだもん。小ババ様は、あたしのものよ!」
大きく両手を広げて河原撫子の行く手を遮りながら、葛葉 明(くずのは・めい)が叫びました。
「なによ、あなたは?」
ちょっと面食らった河原撫子が聞き返しました。
「ふっ、だから言ったでしょう。小ババ様と契約するのはあたしなんだからあ!」
そう叫ぶと、葛葉明はくるりと振り返って走りだしました。もう、小ババ様(クロセル・ラインツァート製パチ物ブランド)に、脇目もふらず突進していきます。欲望が、学習機能を麻痺させてしまったようです。
「な、なんだかよく分からないんだけど、負けないんだから!」
「ああっ、お嬢、待ってたらあ、もの凄く胡散臭いと言ってるでしょお」
つられて駆け出す河原撫子を、アンネ・アンネ五号があわてて追いかけました。
ところが、そんな彼女たちの後ろから、さらなる猛スピードで迫ってくる者たちがいたのです。
「どいてどいてどいてー」
「ふふふ。この先はどうせ行き止まり。もう逃げられないのだよ!」
アヴドーチカ・ハイドランジアに追いかけられたアンネ・アンネ三号が、もの凄いスピードで後ろから河原撫子たちにぶつかりました。そのまま転倒しても勢いは止まらず、葛葉明をも巻き込んで偽の小ババ様に迫ります。
「捕まえたのだ!」
バールを持ったアヴドーチカ・ハイドランジアが追いついたとたん、パカッとザルを支えていた棒が外れ、全員を巨大なザルが覆い隠しました。
「はははははは、稀代の釣り師、クロセル・ラインツァート、ヒット! 大漁です!!」
してやったりと、クロセル・ラインツァートが満を持して姿を現しました。ゆうゆうとザルに近づいていくと、ポンポンとザルを叩きます。
「きゃあ、偽物なんだもん!」
「暗くて、よく見えないよ!」
「お嬢、どこですう。おじょー」
「だ、誰か助けて!」
「ふはははは、もう逃げられないのだよ。食らえ、必殺ヒールバール!」
「食らうかあ!」
「誰だあ、変な物振り回してるのはあ」
なんだか、中は大パニックのようです。それをニマニマと聞いて楽しんでいたクロセル・ラインツァートでしたが、突然、ザルの中から飛び出してきたバールの直撃を仮面に受けてひっくり返りました。上空に弾かれたバールが、小ババ様のすぐ近くにズンと突き刺さります。
「こ、こばばばばば!」
青くなって、小ババ様はその場から逃げだしました。
★ ★ ★
「こばあ、こばあ、こばあ……」
あわてて逃げてきた小ババ様は、大図書室に駆け込んでなんとか息を整えました。
少し落ち着いたので、あらためて箒に乗って図書館内の散策を始めます。
中央の閲覧机では、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が魔法医学の本を積みあげて勉強中でした。
イルミンスール魔法学校の大図書室には、空京大学にある現代医学の解説書とは違った魔法医学の専門書と言える物がたくさんあります。病気や怪我が魔法的なものであれば、魔法医学の方が現代医学よりも有効なのです。
ラルク・クローディスとしては、その両方を習得して、その融合で新たな分野を切り開こうとしているようでした。
真剣に本を読んでいるラルク・クローディスの後ろにふよふよと近づいていくと、小ババ様はそれらの本をのぞき込みました。でも、何が書いてあるのかさっぱり理解できません。
「こばあ、うう……」
ちょっと頭が痛くなったので、小ババ様はラルク・クローディスの邪魔をしないでその場を離れました。
隣では、秋月 葵(あきづき・あおい)が、これまた熱心に本を読んでいます。
「こばあ?」
小ババ様は、そっとその本をのぞき込んでみました。
『藍玉 美海(あいだま・みうみ)著 私がたっゆんを作った』、『ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)著 たっゆんは最初から』、『泉 美緒(いずみ・みお)著 たっゆんがそんなにいいのでしょうか?』
「こば……」
思わず、小ババ様がぺったんこ仲間である秋月葵の肩をポンポンと手で叩きました。
「ん? あら、小ババ様。今読書中だから、後でだよ」
そう答えると、秋月葵は食い入るような目で本の熟読に戻っていきました。
ちょっと怖いので、小ババ様はまた別の人にちょっかいを出しに行きました。
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