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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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    ★    ★    ★
 
「ふう、大ババ様はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。本を読んでいても気が紛れ……、あっ、大ババ様!? いいえ、小ババ様でしたか。こんにちは」
「こばー!」
 児童書コーナーで絵本を読んでいたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が、ふいに顔のすぐ傍に飛んできた小ババ様を見てちょっと驚いたように挨拶をしました。
「こばあ!」
 片手を元気よく上げて、小ババ様が挨拶を返します。
「そうですね、小ババ様を見習ってもっと元気でいないと」
 最近大ババ様が姿を見せないので、ザカコ・グーメルはちょっと落ち込んでいたようです。行方不明という嫌な噂もあります。いずれにしろ、大ババ様はイルミンスール魔法学校のアイドルです。いろんな意味でも、いてもらわないと困るのでした。
「おー、こばあちゃんじゃないか。ちょうどいい、何か読んでやろうか?」
「こばあ!」
 ザカコ・グーメルと挨拶を交わしている小ババ様を見た強盗 ヘル(ごうとう・へる)が、絵本片手に挨拶しました。さっきまで、子供たちに絵本の読み聞かせをしていたのです。児童書コーナーでは、何人かの学生が集まって、子供たちに読み聞かせ会をしている最中なのでした。
「それじゃ、一寸法師なんか読んだらいいと思います」
「じゃあ、それにしよう」
 ザカコ・グーメルに言われた強盗ヘルが、書架に一寸法師の本を取りにいきました。
「わっ、小ババ様だあ。小ババ様も、読み聞かせ会聞きに来たの? ちょうどいいから、ここへおいでよ」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、ポンポンと自分の膝を叩いて小ババ様を誘いました。
 落ち着いて座る所がないので、小ババ様がお言葉に甘えて膝の上に座ります。
「うぅ〜。みーなのおひざはふらんかのしていせきなのに〜」
 それを見たフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)がプーッと頬をふくらませます。
「あとで、ふらんかも、ふらんかもー」
 フランカ・マキャフリーが、後で自分もお膝だっこしてとミーナ・リンドバーグに頼みました。
「あらあら、今日はかわいい子がいっぱいですねえ」
 ミーナ・リンドバーグの膝の上の小ババ様を見た高島 恵美(たかしま・えみ)が、他の子供たちのために絵本を読んでいる手をいったん止めて言いました。
「ねえ、つづきー」
「はいはい」
 子供たちにせがまれて、高島恵美が、絵本の続きを読み始めました。
「絵本見つけてきたぜ」
 強盗ヘルが、一寸法師を見つけて戻ってきました。
「おや、小ババ様が来ているんだ。次は、自分にも何か朗読させてくれよ」
 絵本の読み聞かせ会が盛りあがっているのに気づいて、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が本を読むのをやめてやってきました。どうやら、みんな、小ババ様に絵本を読んであげたいようです。
「じゃ、自分は、次に読む本でも探すかな」
 マクスウェル・ウォーバーグが、書架にある絵本を少し物色します。
 変な目つきの鳥がおかしなことをふりまく『鷽だぎゃ〜』とか、怒ると巨大化するティーカップパンダの世直し旅『世直し巨大パンダ奉行』とか、タイトルからしておかしい『八番目の七不思議』とか、もはや意味の分からない『たっゆん、たゆゆ〜ん、ぺったんこ』とか、意外とまともな『錦鯉の冒険』とか、なんだか怪しい絵本がたくさんあります。
 とりあえず、無事に読み聞かせは進んで行ったのですが、突然図書館にけたたましく走り込んでくる人たちがいました。
「た、助けてくれー!」
 そう叫びながら大図書室に逃げ込んできたのは、神和綺人です。あろうことか、火気厳禁の図書室に人魂のような鬼灯を連れています。
「ど、どこか隠れる場所を。さもないと女装され……」
消えろ……貴様に用はない
 図書室で騒ぐなんて論外です。神和綺人は、マクスウェル・ウォーバーグの奈落の鉄鎖で動きが止まったところを、ラルク・クローディスのドラゴンアーツで図書室の外まで弾き飛ばされてしまいました。
「御協力感謝いたします。さあ、キリキリと女装しなさい!」
 やっと図書室入り口まで追いついたクリス・ローゼンが、中の人たちにお礼を述べると、気絶した神和綺人をズルズルと引きずっていきました。この時以来、男の姿をした神和綺人を小ババ様は見ることがありませんでした。
「やれやれ、騒がしいものですね」
 図書館の隅で、アウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)がつぶやきます。彼は以前問題を起こしたので、監視されているのではないかと周囲を疑っていますが、今のところそれを明確に証明する出来事はありません。かといって、まったく監視されていないとも言いきれないのが、現在のアウナス・ソルディオンの悩みです。
「それにしても、大ババ様がいないのでは、いろいろとうやむやでやりきれませんね」
「大ババ様がいないとはいえ、小ババ様は大ババ様の分身であるからな。分身が集まれば、本体と同等になるかもしれぬ。そうなる前に……」
 隣にいるガイウス・カエサル(がいうす・かえさる)がちらりと絵本を読んでもらっている小ババ様の方を盗み見ました。
 とはいえ、現在小ババ様は一人しかいません。合体は無理な話でした。
 
    ★    ★    ★
 
「こーばーばー、こーばーばー」
 大図書室で絵本を堪能した小ババ様は御機嫌です。とはいえ、ちょっとお腹も空いてきました。
「うーん、小ババ様はどこにいるんだろう……。ぶっ、まさか、こ、小ババ様!?」
 足許をキョロキョロしながら歩いてきたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、小ババ様を見つけて思わず鼻血を噴きました。
「み、巫女コスプレなど。これは、きっと俺に対する御褒美ですね。いや、きっとそうに違いない!」
 なんだか勝手に興奮するトライブ・ロックスターに、小ババ様はちょっと引き気味です。
「いや、それはおいといて、御飯食べませんか?」
「こばー♪」
 ちょっと警戒していた小ババ様ですが、さすがに御飯には逆らえません。そのままトライブ・ロックスターと一緒に、宿り樹に果実に行くことになりました。
「あーん、下宿枝はどこなのだあ」
 すぐ横を、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)がバタバタと通りすぎていきます。どうやら、また迷っているようです。